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久々の一人



(なんて切り出そう…家出てくとか言われるかな…)


そんなことを悶々と考えながら帰り支度をしていると、ブブッ……教卓の上に置いていたスマホが震える。


『今日、会社の奴と飲みに行ってくる。飯は適当になんか買ってくれ。』


メッセージを見ると、司からだった。


(これは…)


避けられている。確実では無いが、避けられている可能性が高い。紘の家で同居をし始めてから、司は毎日夕飯を紘と一緒に食べていた。最初の頃は司にも予定があるだろうと思い、「飯食う予定とかあれば全然行っていいんだぞ」と言ったこともあったが「あぁ…まぁ飲み会とかそんなねぇし」と返された。その為司に甘えていたが、このメッセージを見て少し驚く。


「あいつ、会社で一緒に飲みに行ける人いたのか」


本人も自覚している事だが、司は本当に友人が少ない。愛想は良く誰とでも会話は出来るが、別にそれ以上親密になろうとはしない。その分司は、すれ違う時に挨拶をするくらいの知り合いがとても多かった。大学時代も、司が進んで飲みに行くような人は紘を含めても片手で足りる程度。数回話しただけで馴れ馴れしく肩を組み始めるような紘とは真逆だった。


(あいつ酔うと素が出るからなぁ…仲良くしてる人がいて良かった)


愛想が良いのは他人や知り合い向けで、友人に見せる本来の司は口が悪い。それは酒が入ればさらに酷くなる。司はペース配分が上手い為、ベロベロに酔う事はほぼ無いが。

親目線になってうんうん頷いていた所で、あっ、と今日司と話し合おうと決めていた事を思いだす。


(早くケリつけたかったんだけど…まぁ急ぐことでもねぇよな)


『了解。楽しんできな』


そう返信をして、惣菜を買いにスーパーへ向かった。







「っっっあ〜〜!」


バラエティー番組を見ながら缶ビールを一口飲んで、豪快な声を出す。一人晩酌だ。スーパーでは唐揚げ、餃子、コロッケ、ポテチを買ってきた。司が見たら「全部重いし…胃もたれするだろこれ」と引き気味の顔で言われるだろう。こんなに紘の好みに偏った夕飯は久しぶりだった。最近は夕飯のメニューは100%司が決めていて、


「お前もう若くねえんだから、ちゃんと考えて飯食えよ」


と栄養バランスの整ったものを用意してくれていた。


「こんな太りそうなモンばっか食うの久々だなぁ!」


一人でテンションを上げるが、なかなか箸は進まない。ずっと手料理を食べているとやはり惣菜は味気なく、自分の舌が肥えていたことに気づく。


「……んー」


食もあまり進まないので、ソファに寝っ転がりながらスマホを弄る。スマホの時計を見ると20時過ぎ。楽しんでる時に水を差すのも悪いと思いつつも、


『帰り何時頃?』


とメッセージを送り、ガバッと起き上がってビールをグビグビと身体に流し込んだ。


「帰りの時間聞くのってキモかったかな…」







「…んぁあ……いって…」


腰が痛くなって目が覚めた。いつの間にか変な体勢のままソファで寝てしまっていたようだった。


「あーやべ冷蔵庫入れなきゃ…」


当然惣菜もテーブルに出しっぱなし。急いで冷蔵庫に入れ、ついでに水を取ってきて一口飲む。ソファに座りスマホを確認すると、今の時間は21時20分、新着メッセージは無かった。定時で上がって飲みに行ったなら結構遅い時間だ。それに司はルーズな紘とは違い、「連絡はすぐ返すのが普通だろ」と言っているので、返事が1時間以上来ないなんてなかなか無い。


(相当盛り上がってんのか…?)


しつこいかなと思いつつ、1回だけ電話を掛けてみることにした。


『プルルルル…プルルルル…』

「…出ねえな…」


頬杖をつきながら呼出音をひたすら聞く。


『プルルルル…』


久々の飲み会でハメを外しているのかもしれない、しつこく連絡するのも嫌がられるよな。そう思って電話を切ろうとした。


『プルル………あっもしもし一条の携帯です〜』

「アッエッ…もしもし」


(誰?!)


切ろうとした時に急に電話に出られた驚きと、どう聞いても司では無い電話相手への驚きで声が上ずってしまう。


「えっと…どちら様で…?」

『俺一条の同僚の藤川って言います!』

「あっどうも…黒田です」

『どうも!えっと今まで一緒に飲んでたんですけど一条寝ちゃいまして!起きないしどうしよっかな〜って思ってたら黒田さんから電話が来たんで出ちゃいました!』

「あぁなるほど……ってえっ司が寝てるんですか?」

『そりゃもうグッスリ』

「マジか…」


司が外で飲んでそんな状態になるなんて、紘が知る限りでは初めてだ。


「どこの店で飲んでました?俺迎えに行きます」

『ほんとですか!ありがとうございます!えっと〜…』


(あっ俺酒飲んじゃったから車出せねえ)


飲まなきゃよかったと後悔しながら藤川から店の住所を聞くと、紘の家から歩いて行ける場所にある大衆居酒屋だった。タクシーで帰らせる距離でもない。


「わかりました。今から向かうのでちょっとだけ時間かかっちゃいますけど…」

『全然大丈夫です!外の風に当たってるんで』

「じゃあまた後で!」


電話を切って急いで上着を着て外に出る。涼しい風が酒のせいで赤くなった頬に当たり心地良かった。



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