少し気まずい
「おぉ…なんかもちもちしてる…」
司は一番おすすめと言われたタピオカミルクティーを飲んで、初めてのタピオカに感動する。
「美味い?」
「割と。でもあれだな、タピオカ結構多いな」
「そうか?普通そんなもんだと思うけど」
「こんなにあると噛むの疲れるわ」
「えぇ…」
そんな司と紘の会話を、神田と渡辺はまじまじと見つめていた。
「黒田先生って…そんな話し方でしたっけ…」
思わず神田がボソッと呟き、渡辺もそれに同意するように頷く。
「エッ?…あ〜、誰だって仕事とプライベートは違うものでしょう」
一瞬焦ったような顔をしたが、すぐに冷静な物言いに戻した。そして、神田と渡辺は残念そうな表情を浮べる。
「えー!普通の方が絶対良いのに!普段だと堅苦しいですよー」
「いいじゃないですか堅苦しくても」
「生徒ともっと交流しましょうよ!」
「必要最低限できていればそれでいいです」
「えーーーー!!!」
「ち、ちょっと麻里…」
頑なな紘と渡辺が言い合いをし始め、たまらず神田が仲裁に入る。
(お前もなんか会話入ってこいよ!)
紘が司にそう目で訴えかけるが、
「モチモチモチ……」
司はずっとタピオカに夢中になっており、ひたすら手にあるミルクティーを見つめながら、口の中のタピオカを噛み続けていた。
(かわ…ンンッ…子供か!!!)
思わず言いそうになるが、ぐっと堪えて声には出さずにツッコミを入れる。
「司、そろそろ違うとこも見てみるか?」
神田が渡辺を宥めている隙に司に声を掛けると、ようやくタピオカに向けていた視線が上に上がった。
「ん、もう話さなくて良いの?」
「まぁ、一区切りついたかな?」
「そ。じゃあ適当に飯のとこ見ようぜ」
「「じゃあ…」」
と渡辺と神田に声を掛け立ち去ろうとするが、渡辺がそれを遮った。
「あっあっ黒田先生と一条さん!私と栞、もうすぐ休憩なんです!」
「…?そうなんですか」
だから何だ、と言いたげな紘の表情を見て、神田が頬を赤らめながら口を開く。
「…一緒に文化祭、まわりませんか?」
「え?」
思わず紘が驚きの声を出す。司も声は出さずとも同じ反応のようで、目が見開かれている。
「いや、僕は今日友人と来ているので…」
「全然一条さんが一緒にいて下さって大丈夫です!」
「えぇ…」
「友達と来てるから遠慮してくれ」という意味だったのだが、珍しく神田は引き下がらない。
(こんな事言う子だったっけか…?うーん…わかんねえ)
まさか食い下がられるとは思わなかった。次の断り方がすぐには頭に浮かばず、「好きな奴と二人でまわりたいから」なんて馬鹿正直に言う訳にもいかない。そんな時、
『お願いします…!』
渡辺が口パクでそう言いながら、手を合わせて司にメッセージを送っていた。
(えー何何すげえ頼んでくる…ここでずっと断んのもなんか変じゃね…?)
「…紘、いいんじゃないの?」
「……え?!」
神田の頼みをどう断ろうか考えていた紘は、司の言った事に驚き、勢い良く司の方へ顔を向ける。
「そんな頼んでるんだしさ、今日くらい愛想良くしてやれよ」
その言葉に、神田と渡辺の表情が一気に明るくなる。だが、それと比例するように、紘の表情は曇っていった。
「…まぁ、司が良いなら…」
紘からも了承を得て、二人は心底嬉しそうな顔をして今にも飛び跳ねそうだ。
「ありがとうございます…!すぐ準備してきます!」
パタパタと神田と渡辺が支度をしに店の裏へ行く。残された司と紘は、微妙な空気になっていた。
(俺、結構最低な事したな…)
「…いや、悪い。あの状況でなかなか断れなくて…」
黙っている空間に耐えられず、司が口を開く。告白の返事もしていない、全部曖昧なままだ。そんな状態で他の人を入れるなんて、告白した側からすれば怒ってもいい案件だろう。
「…えっと…紘」
「確かにあれは断れねえよ。いや〜困るな!モテ男は!」
「…ウザ、モテ自慢やめろ」
てっきり拗ねている思って覚悟していたが、いつもの調子で話し始めた為、ほっと胸を撫で下ろす。
「「お待たせしました!」」
神田と渡辺がエプロンを外し、荷物を持って小走りでやってきた。
「お、じゃあどこから行こうか〜」
司がそう言い、紘より少し前を三人が歩く。
「紘、お前はどこ行きたい?」
「ん、どこでもいい」
笑顔で司への問いに答えるが、その紘の表情は少し引きつっていた。
読んで頂きありがとうございますm(__)m
紘も司も、割とノーと言えない人種です。
司は仲が良い人なら「は?無理」と言えちゃいますが、そうでもない人だと断りにくいようです。
紘は友達でも他人でもイエスマンです。自分にできる範囲なら…って感じで受けちゃいます。