表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

120万文字

作者: 俊卜

「拙い文章にこそ愛があると僕は信じているんだよ」

 先生はそう言って私の左手を握った。今すぐ大きな声で泣き出したかったけどそれをぐっと我慢して、そうですねと頷きながら先生の弱々しい手を握り返した。

  先生ほど美しい文章を綴る人を私は知らない。しかし、その美しすぎる文章に最も魅了されたのは、私のような読者ではなく先生自身だったのだと今ならわかる。そして、それ故に先生は自分の作品に、自分が綴る言葉に喰われたのだと、そう思った。

「君が書く文章には愛があるんだ。」

「それは私の書く文章が拙いという意味ですか?」

 微笑を浮かべる先生に対して私は意地悪っぽくそう返すと、先生もまた意地悪そうに小さく笑いながら、

「バレたか...」

 そう言いながら先生は深い眠りについた。


 葬式は小規模なものだった。元々家族とは疎遠になっていると聞いていたし、先生に友人と呼べる人は私くらいだった。だが、きっと先生は気にしないだろう。何故なら、誰よりも言葉に愛された先生の顔は、先生が世に送り出してきた8冊の小説に綴ってきた約120万文字に愛された人間がする幸せそうな顔そのものだったのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ