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とある悪役令嬢の言い訳

作者: 祷幸崇

息抜きで書きました〜。

ちょっと、短いです。ただひたすら喋りまくります。


 ちょっと、そこの人、どうかこのわたくしの話を聞いて頂けないかしら。


 まずはわたくしの自己紹介ですわね。わたくしはアマリス・フェルテシーア。フェルテシーア公爵の唯一の娘、まあ、自分で言うのもなんですが公爵の愛娘ですわ。だから、と言うべきでしょうか。わたくしは生まれたその時から三歳年上の第一王子、キーン・ベクユリプス様の婚約者なのですわ。ああ、最あ――ゴホン。いいえ、何でもありませんわ。いえいえいえ、まさか、そんな。第一王子様を蔑ろにするなんて。おほほほほ…………いや。だって、あいつ浮気するんだよ? いや、浮気するのよ。そんな奴を好きになるわけないって――ゴホン。するわけないわ。


 ……………………ああ、もう! 面倒くさい!


 はいはーい、どうも、アマリス・フェルテシーア公爵令嬢です。こんな私的なところまで公爵令嬢やってられっかってことで、素で話すことにしまーす。そもそも、私、この世界に合ってないんだよね。ああ、分かった? 私、実は前世の記憶を持ってる。キラーン。ふん。デンパちゃんと言うなら言いなさい。

 ちなみに、ここは物語の世界に酷似した国なの。あの、最低最悪の物語の世界ね。ああ、でも一応まあまあ人気だったっけ……? どうでもいいけど。私は嫌い。大っ嫌い。だからね、私、前世を思い出してから毎日ナーバス。ここは地獄かってくらい。え。何が嫌なのか? アッハハハハハハハハハハハ! 何が? 全てが。仕方ない。その小説の内容を教えてあげる。ま。私は嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで仕方なかったから、あまり知らないし思い出したくもないんだけど。


 この国が酷似する物語は小説として私は読んだ。どうも人気だったらしく、漫画も発売されたらしいけど、私からしたら理解不能でしかない。どこがいいんだ、ていうくらい私にとっては最低最悪な小説だった。冒頭は結構面白そうだった気がする。貴族にはよくあるような不倫から始まる。ヒロインの名前は……忘れた。キレイさっぱり忘れちゃった。これからはヒロインと呼ぼう。ああ、それでね、そのヒロインは下級貴族なんだけど、伯爵と不倫しているの。伯爵には妻がいて、その妻も不倫。ああ、嫌だ。不倫だらけじゃんか。ペッ。そんな不倫生活をしていたんだけど、ある時、それが第一王子に知られてしまうの。そう、あの私の婚約者ね。第一王子はヒロインに不倫を辞めるように言うのだけど、それで恋が終わるはずもない。ヒロインも一応、一途に伯爵を想っているから。そうそう、純情純情。はいはい。それで放って置けばいいけど、このバカやろ――ん゛ん。第一王子は幼少期に出会い、惹かれていたという過去を持っていて、ヒロインをどうにか止めようとするの。酷くヒロインを罵って。え? どうして罵るのか? そんなの、あの野郎の性根が腐っているからとしか…………いや、第一王子はドSツンデレと言うのか、何と言うのか。最悪ね。そんな第一王子にヒロイン――この場合はチョロインと言おうか――はいつしか……っていうか、割とすぐに恋しちゃうの。はい、そこで登場、第一王子の婚約者、アマリス・フェルテシーア。つまり、私ね。ここでは私とは違うから敢えてアマリスと呼ばせてもらう。アマリスはヒロインに牽制。わざと第一王子の婚約者だと名乗って、ヒロインを嘲笑う。何せ、第一王子がヒロインに惹かれているっていう過去をアマリスは知らないし、第一王子はヒロインに会う前、アマリスを過去の想い人だと勘違いしてた。だから、アマリスには結構特別扱い。甘やか――――してはないけど。相変わらずドSですけど?! ……まあ、そんなわけで、あのクズ――第一王子はヒロインと出会った後もずっと、ヒロインとアマリス二人に良い顔をしているのだ。大っ嫌いだ。結局、私は結末がどうなったのかは知らない。無理して読むはずがないでしょ。

 まあ、それでも、ここが私の嫌いな物語であることには間違いない。だから、私、記憶が戻ると真っ先に婚約破棄を申し出た。第一王子の恋の相手なんて知らない。どうせ、ヒロインだろう。とは言え、それを馬鹿正直に言えるはずもなく、恋の相手を私と勘違いした第一王子が私の婚約破棄を許すはずもなく。ただ、申し出る時には、『貴方が待ち続ける御方は後数年したら出会うでしょう』的なことをわざわざ教えた。


 なのに、どうして婚約破棄が認められない……!!


 いやいや。待て待て、私よ。落ち着くんだ。そう、婚約破棄をあのクソ野郎が認めないのは私が恋の相手だと思っているからに他ならない。だったら。そう、私はあの時、試行錯誤を重ね、遂に突き止めた。あの馬鹿野郎は人をたった一面しか見ることはなく、自分が正しいと思ったことしか認めない。第一王子として、それらは矯正すべき点であるものの、それが何だ。私には関係のないことだ。そもそも、大っ嫌いなのだから、苦しむ様を見てみたい、と思うのは必然。だったら、私はそれを利用してやる。

 私はそれからというもの、第一王子がいる場所では令嬢らしからぬ行いをするように心がけた。勿論、これにはこんな令嬢が将来国母になってもいいのかしら、という意図もある。また、あいつの正義とやらを尽く否定し、嫌味たらしくあいつの正義を覆し、成功させた。例えば勉強、ダンス、戦術、弾糾。さすがに体力や筋力では敵わなかったが、その他の特に頭脳では負けなかった。しかも、それのどれもが悪どく、勝利だけを考えたものだ。これでクソ王子も私とだけは結婚したくない、と思うだろう。


 そう、思った。

 いや、そうなる……はずだった。


 結果は悲惨なものだった。どういうわけか、あの野郎、私の思考パターンに似てきやがった。特にそれが露わになったのは、戦術だ。これには元来のドSという性質があったためか、私よりも悪どく、更により残酷な手段をよく使うようになった。ただ、どんな戦術でも、味方の被害は最小限に留めたものだ。まあ、そこは仕方ない。また、あいつは進化し出した。人を一面でしか判断していなかったし、自分の正義以外を否定していた第一王子はそれまでが嘘だったかのように、豹変。王の器というものを感じさせるほどにまで成長した。

 ん、まあ? これくらいのことは別にいい。国をよりよくしてくれるのであれば、悪いことなどないし、婚約破棄した後もこの国に留まろう、と思うくらいには改善した。うん、これはいいことだ。


 はい、ここからが重要。私としては国よりも大切な婚約破棄の件。結論から言おう。惨敗した。ただの失敗じゃない。惨敗だ。もう、これ以上はないと言うほどの。いや、聞いてくれ。私は精一杯、あいつの嫌味以外にも令嬢らしからぬことをした。時には噴水に飛び込んでみた。時には馬車を操った。時には誰かのズボンをずり下げた。時には二階の部屋から飛び降りた。時には男風呂に飛び込んだ。時には第一王子の部屋に飛び込んだ。時には陛下の執務室にも飛び込んだ。時には騎士の訓練場に飛び込んだ。時には女の子に飛び込んだ。何? 飛び込んでばかりだって? ま。そこはご愛嬌。あとは、第一王子の差し入れにとんでもなく不味いお菓子ばかりを渡した。まあ、ほんの時々、不味いばかりでは食材が可哀想だと思ってちゃんと美味しいものも提供した。ただ、その際は外見を悲惨にした。目玉だったり、誰かの腕だったり、虫だったり、誰かの顔だったり。とにかく、嫌われるようにと一生懸命頑張った。その結果? ハッ。聞かないでください。

 いやいやいやいや! 待って?! ここまで来たら、おかしいのは第一王子でしょ! どうしてあそこまでやられて平気なの?! てか、むしろ、ウェルカムだった。何故か、好感度が上がっていたような気がしなくもない。しかし、私はそれでも、何かの勘違いだと信じ、やり続けた。やって、やって、やって、やって、やりまくった。とことん、続けた。それらと並行して、婚約破棄を訴えることもした。第一王子のみならず、父親、そして陛下や王妃にも。結果? 聞かないで。


 いや、もう、おかしいでしょ。公爵令嬢失格のことばかりやってたのに、第一王子を成長させた功労者として担がれた。第一王子を王太子にした婚約者として広まった。どうしてこうなった。どこで選択を間違えてしまったのか、私には到底分からない。

 そうこうしている内に、第一王子とヒロインが出会った。はい、運命運命。はいはーい。運命感じちゃってます。でも、疑問が一つある。あの小説では、第一王子とヒロインの出会いにはまだアマリスはいなかった。これが物語と現実の違いなのだろうか。まあいいや。

 しかし、そのまあいいや現象は続いた。

 第一王子はヒロインと私の二人に対して良い顔をするはずなのに、どういうわけか、私にしか特別扱いをしなかったり。ヒロインが第一王子に媚びて、物語よりも尻軽になっていたり。伯爵とその妻が離婚間際だったり。その他いろいろ……とにかくいろいろが変わっていた。

 あるぇえ?? と思うだろう。私も思った。ここはどう考えてもあの小説の世界だ。当然、現実とフィクションという違いはあるものの、基本は変わらないはずだ。第一王子の性格がドSだったこともある。


 おかしいぞ、おかしいぞ、と考えていた私にふと、あることが浮かんだ。私が婚約者として第一王子を好かず、逆に第一王子の性格を歪ませたことが未来を、あの物語を変えてしまったのではないか、と。大いに考えられることだった。

 だから私は思い至ってからというもの、第一王子に媚び始めた。本当は死ぬほど嫌だったけど。今後のことを考えたら、まだ我慢できた。最悪な時間だった。しかし、ここでも問題が起こった。媚びる、という行為はどういうものなのか、私には分からなかった。公爵令嬢なのだから、社交として相手の顔を立てることはあれど、あれは媚びているわけではない。私はまず、媚びるって何、から始まった。とにかく、上目遣いで、高い声を出して、もじもじと身体をくねらせて、アヒル口にして。あの頃は私はキモかった。最っ高にキモかった。鳥肌ものだ。

 恥を忍んでここまでやったのに、第一王子は余計にニコニコ、と上機嫌だった。イミガワカラナイ。それから徐々にヒロインもおかしくなり始めた。たかが下級貴族令嬢のヒロインが私に嫌がらせをしてきたのだ。髪を引っ張ったり、私の私物を壊したり、何がしたいんだ、とこっちが心配になるくらい、荒れていた。

 それからあまり時間が経たない内にその蛮行が公になり、ヒロインは強制退場。いやいやいや。ドユコトー? ヒロインがいなくちゃ物語が進まないじゃないか。そう思ってしまった私はさすがにヤバかった。現実でヒロインもモブもいない。そう、ここは現実。ヒロインがいなくても時間は進んでいく。


 だから、私は何も悪くない!!


 悪いのはヒロインに決まってる!!


 え? 私の今? そんなの、王のたった一人の妃にして、王妃よ! 寵妃よ!

 我慢できなくて失踪して無理矢理婚約破棄してやる、って息巻いていたのに、キーンの野郎、いつからか私の計画を知っていたらしく、先回りしていた。そこでニッコリと提示されたのは、私とキーンの婚姻届。記入が終わり、陛下のサインも書かれた婚姻届。しかも、王命で私の呼び出しも。

 そう、私はキーンの手の上で無様に転がされ、踊らされていただけだった。


 ムキーーーーーーーーーッッ!!!!



こうして、アマリスはキーンに溺愛され、国王夫婦は国一番のおしどり夫婦として、キーンは一番の愛妻家として王国民に語り継がれることになったのでした。ちゃんちゃん。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒドインちゃんも転生者っぽいですね。 息抜き作品とのですが、長編で読みたいストーリーでした。特に飛び込んだり飛び込んだり飛び込んだりするところ(笑)
[一言] ドSがドMになったのかぁ やっべぇなこの国
2019/02/26 08:10 退会済み
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