夏の終わり
もう、夏も終わろうとしている。
私は、この中学校生活3年間の夏を振り返った。
夏祭りで、彼女に告白したり、彼女と初めてのデートをしたり、彼女と花火大会へ行ったり、彼女と喧嘩をしたり、そして仲直りしたり...
思えば、この3年間彼女とは毎日のように過ごしていたと思う。
「なのに...なのに...」
彼女は、中学校生活3回目の夏を一緒に過ごすことなく、天国へ旅立ってしまった。
私は、胸の内からこみ上げてくるものを必死に抑えようとしたが、抑えきれなかった。
この後、私は何かにとりつかれたかのように大泣きをした。
後日、お盆は過ぎてしまったが彼女のお墓にお参りに行った。
まだ、都心は肌に突き刺さるような暑さだが、ここはふんわりとした日差しが差し込んで涼しい。
ふと、彼女の墓を見てみると、そこには、私の名前が書かれた封筒が置かれていた。
「なんだこれは?」
私は、その場で丁寧に封筒の口を開き、中を確認した。
そこには、一枚の手紙が入っていた。
私は、手紙を手に取り読み始めた。
私の大切な彼氏 ー君へ
お盆にあなたがこれそうになかったので、話したかったことをここに残します。
私が、この世からいなくなって、はや3か月もたったんだね。
天国から、あなたのことを見てたけど、相変わらずおっちょこちょいで泣き虫だねぇ。
でも、私はあなたのそういうところが好きだったんだよ。
小さな子供みたいで、かわいくって...
ところで、新しい彼女はできた?
天国から見てても、見えないところは見えないからわからないけど。
新しい彼女ができたらぜっったいに紹介してよね!
その時は、私も挨拶したいから。
そういえば、昔死後の世界ってあると思うっていう話したことあったよね。
あのとき、先に死んだほうが死後の世界があるかを鈴を鳴らして知らせてねっていう約束したの覚えてる?
死後の世界は本当に存在したよ。
それに、死後の世界はあなたのいる世界と一緒になっていて、あなたからは見えないかもしれないけど、私からあなたは見えるの。
鈴鳴らそうと思ったんだけど、これで怖がられても嫌だと思ってね。
やっぱり、好きだった相手に嫌われるのは心にぽっかり大きな穴が開くように苦しいんだよ。
あ、そろそろ手紙の最後のほうになってきたね。
手紙は一枚しか書けないの短くてごめんね。
私は、いつでもあなたのことを見ています。
そして、私のようなことで死なないようにしっかりと守ります。
本当にごめんね...私が早く先に行ってしまって。
本当はもっとあなたと一緒に過ごしたかった!そして、いろんな事して思い出を作りたかった!
なのに......
ごめんね、こんな気持ちなのは私だけじゃないよね。話が一方通行の手紙でこんなこと書いちゃってごめんね。
最後にもう一つ謝りたいこととお礼を言いたいことがあるの。
頼りなくて、役に立たない彼女でごめんなさい。そして、こんな彼女を最後までしっかりと守ってくれてありがとう。
ーより
手紙の字は確かに彼女の字だった。
私は、手紙をそっと閉じた。
そして、つぶやいた。
「俺は、君を守れてなんかいない...最後に死なせてしまったんだ。俺こそ、頼りなくて、役に立たない彼氏だった。」
「ごめんな」
また胸のうちからこみ上げてくるものを感じた。今度は熱い思いと共にこみあげてきた。
また、泣いてしまった。
「さっき彼女の手紙で、泣き虫だって言われたばかりなのに...」
数分後、手紙を封筒にかたずけようとすると、一枚の写真が封筒の中から出てきた。
そこには、彼女が行きたいといって一緒に行った、とある遊園地でのツーショットが写っていた。
彼女は、今までに無いような笑みを浮かべていた。
そして裏には、日記のようなものが書かれていた。
XX月XX日
彼氏と行きたかった遊園地に行ってきた。
彼氏は、ジェットコースターに乗るとき足が震えていたが、「絶対に君を守る!」って言いながら乗ってくれた。
彼氏は意識して言ったわけではないようだが、私はとてもうれしかった。
だって、私をそんなに大切に思ってくれているんだと思ったら...
しかし、この日に限ってジェットコースターが壊れて私は死んでしまった。
彼氏が助かっただけでとてもよかった。
けど、人生のうちでとてもうれしかった日でもあった。
「ぷっ」
この写真を見て私も微笑んだ。
彼女が私と付き合って楽しんでくれていたからだ。
私はてっきり不満にしか思ってないと思っていた。
私が無理やり、告白して相手もいやいや付き合ってくれていると思っていた。
私は、封筒に写真を入れてその封筒を大切に持ち帰った。
家に帰ると、早速机に向かって返事を書き始めた。
「なんてかこうかな」
しばらく考えた結果、ペンが進み始めた。
私の大切な彼女ーさんへ
手紙ありがとう!
まさか、亡くなった彼女から手紙が届くなんて思ってなかったからびっくりしちゃった。
本当に時の流れって早いね。
亡くなったのがつい先日に思えてしまう。
本当に早くて残.....
返事の手紙を書いている途中、私は涙がこぼれて来てしまった。
手紙に落ちた涙が紙ににじんでいく。
「時間って残酷だなぁ...」
この日は机の電気をつけたまま寝てしまった。
1年後...
お盆に彼女の墓へ訪ねた。
そして、花立てに水を注ぎ、ひまわりを入れてあげた。
ひまわりは、彼女が好きだった花の一つだ。
そして、墓石に水をかけて丁寧に磨いた。
最後に、返事の手紙を添えて彼女に話しかけた。
「今年も暑いね。去年は手紙ありがとう。しっかりとした返事になってないかもしれないけど読んでみてね。」
その時、鈴の音が空の彼方から聞こえてきた気がした。
それ以降彼女から手紙が届くことはなかったが、私は毎年しっかりとお参りに行った。
そして、いつも話しかけてあげた。
数年後、とうとう新しい彼女ができた。そして、一緒に亡くなった彼女のもとを訪れた。
そして、墓に目をやると手紙が置かれていた。
今度は、私と新しい彼女の名前が書かれていた。
私は、数年前と同様にそっと封筒を開けた。
そして、手紙を新しい彼女と二人で読んだ。
私の大切な彼氏 ー君と新しい彼女 -さんへ
交際おめでとう!
とうとう、-君にも新しい彼女ができたんだね。
ーさん、このおっちょこちょいで泣き虫のー君と最後まで付き合ってあげてください。
決して、悪いやつではないし、彼女のために自分の身を削ってまで守ってくれます。
どうかよろしくお願いします。
これが最後の手紙になることをとても悲しく思っています。
短い手紙で本当にごめんなさい。
私も、最後まで二人のことを見守ります。
ーより
私は、持ってきた紙にその場で返事を書いた。
肌からにじみ出てくる汗が紙にぽたぽたと滴り落ちながらも返事を書き続けた。
そして、彼女の墓へ返事の手紙を置き、新しい彼女と一緒にそっと手を合わせてお参りをした。
「手紙ありがとう。これが最後の返事になることを私も悲しく思っています。私も、君を悲しませないように新しい彼女とうまくやっていきます。そして、毎年ここへ来ます。本当に手紙ありがとう。」
夏の終わりの日差しが肌に突き刺さる。
私と新しい彼女はゆっくりと立ち上がり、墓を後にし、階段を下りていく。
ふと、後ろを振り返ると彼女の墓の上に彼女が見えた気がした。




