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3-2:世界に異常あり

「漸く一息ついたところで。もう一つの目的の前に文月見世の感謝の続きを」


 大沢先生が促すと文月見世は大きなリュックサックの中から大きなドキュメントファイルを取り出して、さらに用紙を2枚出して見せる。


「……む、難しい漢字が読めないです」


「これはデスね! ミィが属している与神(よがみ)協会からミィを助けてくれた感謝の言葉と品とかが書いてあるデス。


 それでこっちは……与神協会から送られたって部分は変わらないんデスけど、朽無君にだけ向けられたものじゃなくて村上病院に実験されてた人全員に送られてますデス。


 ……言ってしまうと実験された人は事件やら病気とかで死んでしまっていることにされているので、今回喜ばしくも生還したのに戸籍が実質なくなってしまった状態であるため戸籍に手を加え、住居や生活のためのお金がなくなってしまっていた場合には支援するよっていうペーパーデスね」

「し、えん?」


 朽無博人は首をだんだんかしげ、ついには悲しそうな顔になっていく。


「お、おぉどうした博人君?」


 心配そうに寄ってくる絹纏童子荒泣神だが、どうして悲しそうな顔をしているのかわからず慌てふためいてしまう。


「今の話が理解できなくて悲しくなったんだよ。


 村上病院を絞って出てきた資料を信じるのなら。


 朽無博人くんは小学五年生の意識を繰り返していたせいで小学五年生から進歩していない。


 精神も、知識も」


「そ、それで、どうして悲しくなるものなのか?」


「神様は人間と精神構造が違うだろうからわからないかもしれないが、おおよその人間はわからないことをぶつけられると悲しくなる……というかマイナス感情が発生する。


 その事情を知っている文月見世があからさまに内容を噛み砕いていたのにそれでもわからないと来たらなおさらな」


 そう言った後、大沢先生は額を指でかいて言葉を続ける。


「まあ、コレで悲しむ心があるなら教材さえあれば知識面は十分追いつける。


 なら教材ならいくらでも都合してやるさ。


 たかだか6年だ。行ける行ける」


 朽無博人のポケット内から『ニコの存在知られてる……」と。くぐもりつつも荷個が反応し、木下芳奈が「そりゃあ調べたからね」としたり顔で答えた。


「んでもっと噛み砕いて言えば。


 朽無博人くん。


 君はもう何処でだろうと胸を張って前を向き過ごしていい。


 言ってくれればこの神社に住んでもいいし」

「本当か!?」


 喜びを秘めた絹纏童子荒泣神の声が、大沢先生の言葉を押し込んだ。



「そっちが博人君より先に反応するんかい……本当ですとも。


 また、望むなら朽無家に戻ってもいい」



 朽無博人は顔に影を落とす。


 朽無家は朽無博人にとってあまりにも帰り難い場所となっており、その現状が耐え難い心の痛みになっているのだから無理もない。



「うつむく理由は知ってる。 というより推察できる。 チャバネも含めた君に救われた人たちに君の話を聞いたからだ。


 チャバネみたく、そもそも居合わせなかったのか話せない人がほとんど。


 監視カメラから見るに明らかな接点があるのに、貴方に関する真新しい事しか話せない人も幾人。


 そして貴方を完全に覚えていたのが2人と。


 これらの情報を確認して思うに、朽無博人くんは一部を除いた大勢の他人から自分に関する記憶を消すことができるか、もしくは消してしまう。


 そうなんだろ?」


 大沢先生の問いに朽無博人は頷く。


「それに気を落としているのならば、なんとかならんでもない」


 多くのものを無くした朽無博人にとってその発言がどれだけ嬉しいものだったのだろう。


 精神年齢小学高学年程度の人間がこの言葉に食いつくな、静止しろという方が酷な話である。


 「喜んでくれたところ水を差すようで申し訳ないが、手放しで喜べるやり方じゃない。


 一度決まった過去は、何処かの宗教家が語ってそうな運命で決まっている未来よりも変え難いものだからな。


 だから提案するのは君にとってはわからないが、私の感性から見れば手放しに喜べるものじゃないんだ。


 だからまず内容を聞いてから一喜一憂してほしい」


 大沢先生は申し訳なさそうに額を指で掻いて眉を八の字にして申し訳無さそうな表情になる。


「それでその方法がだな。


 記憶の改変だ。 ……記憶は分かるかな? もっと簡単に言えば思い出だ。 思い出を人の手で変えるんだ。


 君と居たという記憶を頭の中に入れて、君が突然帰っても問題なく日常、普段通りのはずの毎日を過ごすことができる。


 何かある度に植え付けた過去と差異、違いが出るだろうが与神協会が助けてくれる。


 ……さて朽無博人くん。君は元の家に帰りたいか?」


 朽無博人は静止する。


 先程見た言葉がわからない表情というよりも、堪えている子供のような表情で。


 いざ「帰りたい」と言った際には今にも泣きそうな表情であった。


 だけれど朽無博人は答える。


「帰りたいけどそれは嫌だ」


 答えは単純明快、嫌だと思ったから。


「いいねえ、私好みの回答だ。


 記憶とはその人を作る大事な部分だ。


 記憶の改変はそいつが積み重ねて今の自分に至るまでを一部とはいえ否定することになる。

 

 そもそもだ」

「大沢先生、それ長くなります?」


「おっと」 


 大沢先生は気恥ずかしそうに咳払いをしてから「まあイチ考え方でしかないし、今の段階の気持ちでしかない。心変わりがあれば何時でも言ってくれればいい。


 とりあえずは住所、つまりは住む場所はどうとでもなるってことを知っていればいい。ここに住みたいって場所があれば連絡してくれ」と一旦締めくくった。

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