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異変

もっとほのぼのとした作品書こうとしてたのに、何故こうなった。

荒廃した大地が広がる惑星『ロストガイア』大凡人が住める環境とは言い難いこの惑星に、僅かに残された緑の残る地の一つ『レンフィール王国』。

この国は他の人が住む国との戦争の只中にあった。いや、正確には『戦争をしていた』である。


レンフォール皇国は今、荒野の先にある隣国『聖オルキスオル神国』に滅ぼされる直前であった。国力を示すと同時に、王族が住まう家でもある王城は、聖オルキスオル神国の兵士によって包囲されていた。


普段であれば王が市井の者や他国の使者などと謁見するための部屋、俗に言う謁見の間では、王とその血縁者、近衛兵が詰めている。


「そこまで言えば何があったか大凡は理解できる。このダンジョンに入った所辺りまで飛ばしてくれたまえ」


アッハイ




レンフィール皇国と海の向こうにある国『ウシルク王国』とを繋ぐダンジョン、それがここ『アクウラン』である。俗に貿易路とも言われるこのダンジョンは、階層数が少なく出現する魔物もあまり強く無いことから、先導者(ヴァンガード)と呼ばれる未開の地を探索、開拓する者達の中で、初心者から中級者辺りが頻繁に訪れる事で有名であった。


ダンジョン内は明かりが無いにもかかわらず、進むのに苦労しない程度には明るかった。何故このようになっているのかは、未だ解明されていない。


そんなダンジョン内を急ぎ足で進む一団がいた。人数は7人で、少女が1人、その護衛とおもわしき騎士が5人、執事の出で立ちをした初老の男が1人。


「姫様、急いでください!」


ダンジョン内に男の声が響く。声を発したのはリーダー格の男の騎士だ。男は先頭を走りつつ、後ろにいる少女に目をやり、ペースが落ちてきていた彼女に声を掛けたようだ。


「そうは言うが、流石にこの格好は動きにくいのだが、甲冑ではダメだったのか?」


声を掛けられた少女は、自分の服の裾を摘むと不服そうに呟く。誰がどう見ても動き辛いと言うであろうドレスを纏っているのだから無理もない。


「我が国の魔導技師たちが粋を集めて開発した服だそうです。鋼の鎧並の頑丈さがあると言っていたので、このダンジョンの魔物程度なら怪我を負う事もないでしょう」


(普通に鋼の鎧で良かったと思うのだが、それに頭や露出しているところを狙われたら死ぬだろう)


自信満々な騎士の物言いに、彼女は逆に不安になった。声に出さなかったのは良心が咎めたからか、今はそんな事を話している場合では無いと判断したからか。尤も、甲冑は重い上に動きづらいので、彼女が動けるかは甚だ疑問である。


そんなやり取りもありつつ、少女と数人の護衛は、時折現れる魔物を手早く処理しながらダンジョンを進んでいく。





異変を感じたのは6回に降りてからだ。今まで初心者が相手をするのに丁度いい、ゴブリンやコボルトといった弱い魔物しか出てこなかったが、6階に降りてから普段この階層では見かけない魔物が現れ始めたからだ。


今は数体のマッドワームという蚕を2m程に巨大化したような魔物を倒し、小休止しているところだ。


「何故、この階にマッドワームが…そもそもアレはこのダンジョンでは出現しない魔物のはずじゃなかったのか?」


騎士の一人がぼやく。マッドワームは海を越えた大陸の南側にあるダンジョンに出現し、このダンジョンには出ないとされていたからである。


「ここはダンジョンですからな。稀にそういう事もありましょう。我々は運悪くその時に出くわしてしまったのでしょう」


騎士を宥めるように、初老の執事がゆっくりと声をかける。確かにダンジョンでは稀に確認されたことのない魔物や、強力な魔物が深層に出たりする。しかし、それはあくまでも1匹や2匹程度で、今回のように複数体となると前例が無いに等しい。


「何にしても、この先の大部屋を越えれば集落がある。今日はそこで休むとしよう」


リーダー格の騎士の言葉に全員が頷く。ここまで来るのにかなり消耗していることもあり、とくに反対する者はいなかった。


余談だが、ダンジョン内にある集落だが、基本的には何処も町といって遜色無い規模を持っている。何故こんな所にあるかと言うと、関所が無かったからである。


国を跨ぐことが出来ると知れ渡れば、何処かで関所を設ける必要がある。そこを中心に商人たちが集まり、人が集まり、集落となったのだ。


「よし、それじゃあもうひと頑張りと行きますか」


リーダー格の騎士が立ち上がると、他の面子も次々と立ち上がる。騎士というだけあって、体力は一般人よりも高い。初老の執事もまだ大丈夫そうだ。


ただ、少女は少し辛そうだ。訓練されているわけではなく、体力的に劣る女性である事が原因である。それでもここまで着いてこれたのは、リーダーのペース配分が良かったからなのか、はたまた少女が体力お化けなだけかは不明である。


リーダーを先頭に、警戒しながら大部屋へと進行する。大部屋と云うのは、通路と違い視界が確保しやすいというメリットがある反面、魔物に発見されやすいというデメリットが存在する。


また、通路では多くても5匹ほどしか群れていない魔物でも、大部屋なら30を超えることもざらである。そうした危険を考慮し、大部屋に入るのに警戒を怠る事はない。


「!?」


そして、彼らは最悪の事態に直面する。通路からそっと顔を覗かせたリーダーが見たものは、部屋の中でひしめき合うミノタウロスの群れだった。声を出さなかったのは彼の経験による所が大きいだろう。


ただし、それは彼が相当な場数を踏んできたからに他ならない。そして、この場にいるのはそんな者たちばかりではない。


「何だこれは!?」


リーダーの反応が気になったのか、少女が大部屋の中を覗き込み思わず声をあげた。この状況下で声を上げるなというのは酷だろう。だが、その行動が悪手には変わりない。付近にいたミノタウロスが声に反応して一斉に視線を向ける。


ーBMoooooooooo!!ー


少女達を発見したミノタウロスたちが一斉に咆哮する。その咆哮を聞いたミノタウロスが敵の存在を感知し、後続に知らせる為に再び咆哮する。


「逃げるぞ!!爺さん姫様の護衛頼んだぞ!」


「お任せあれ。姫様失礼します」


護衛の騎士たちは各々の得物を構え、執事は少女を抱えて一目散にその場を離れる。


「なっ!?お前達!」


「この数じゃあ全員逃げ切るのは無理ですぜ、俺達が出来る限り食い止めますので、姫様はその間に安全な所に行ってくだせえ!幸い通路はそこまで広くねえんで、俺たちでも少しは時間稼ぎができます!」


執事に抱えられ遠ざかる少女に、リーダーは声を大にして振り返らずに言いきる。この状況下では最適解と言える選択だろう。しかし、そこに自分たちの生命の計算はされていないだろう。


「下ろせ!このままではアイツらが!!」


「なりません」


「だが!」


「あの者達の心意気を無駄にしないためにも、今は堪えて下さい」


執事の腕の中で暴れていた少女だったが、執事の一言で大人しくなる。


「はっきり言え、アイツらが生き残れると思うか?」


「・・・無理でしょうな」


少女の質問に、執事は苦々しげに答える。


「そうか」


少女はそれだけ言うと黙り込む。それからは大人しく執事に抱えられて行く。執事は闇雲に走るのではなく、大部屋を迂回する様に通路を選んでひた走る。




どれほど走っただろうか。大部屋を真っ直ぐ突っ切っていれば、今頃は集落に着いていてもおかしくないだろう。しかし、行けども行けども見える景色は変わらない。いつミノタウロスが後ろから迫ってくるとも分からない状況で、執事は次第に焦りを募らせる。


(地図ではそろそろ集落へと続く道がある頃だが、一度引き返した方がいいだろうか)


執事は自分の頭の中にある地図と、自分たちが今いるであろう場所を照らし合わせたうえで、引き返すべきか悩んでいた。


今の状況下で引き返すというのは悪手でしかない様に思えるが、もしかしたら見落としがあったかもしれないと思わずにはいられない。今のような状況で下手に動くのは危険だが、動かなくてもどの道危険なのだ。それなら思い切った行動に出てみるのも悪くない手であろう。


(やはり、一度引き返そう)


そう決意し、後ろを振り返った執事の目に、1匹のミノタウロスが映った。あれだけの数がいたのだ。1体や2体の取りこぼしがあってもおかしくない。


だが、現状それは起こって欲しくない最悪の結果と言って差し障りないだろう。


「追いつかれたようですね」


執事は少女を下ろすと、数歩前へと歩み出て拳を握る。


「姫様、ここは私が食い止めましょう。姫様はその間にお逃げください!」


自分背を向ける執事に、何か言おうかと口を開くも少女の口からは何も出てこなかった。ただただ悔しそうに唇をギュッと噛むと、少女は走り出す。


「すまない」


走り出す瞬間、小さな声で呟くが、それが執事に聴こえたかは定かではない。だが、少女を送り出した執事の顔は、不思議とヤル気満々であった。

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