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鎧が喋って何が悪い!!

「さてお嬢さん、こんな危険地帯に一体何用かな?」


鎧の男は彼女へと歩み寄りながら先程と同じ言葉を口にする。それというのも、状況に付いていけてない彼女が黙りこくっているからだ。


死にそうな目にあっていながら、突如として顕れた2mはある全身鎧を纏った大男が、ミノタウロスを易々と倒したのだ。無理からぬことだろう。


「黙りこくって、一体どうしたと云うのかね?何処か怪我をしているのかね?」


鎧の男が目の前に来て、彼女は漸く我に返り、鎧の男を見上げる。そこで初めて鎧の男の顔を見た。銀色に近い白いフルフェイスに牙のような彫り込みがあり、本来スリットから覗くはずの目はモノアイになっており、青色に光っている。


それは、本来魔物(クリーチャー)であるリビングアーマーの特徴である。彼女は絶望した。ミノタウロスを一撃で倒すような存在が魔物であった。それも今は自分の目の前にいるのだ。


「どうしたのだ?言葉は通じているか?」


鎧の男はしゃがみ込んで腕を伸ばしてきた。


(もうダメ)


そこで彼女は意識を手放した・・・。






鎧の男改めリビングアーマーは戸惑っていた。顔の前で手を振ろうと少女に手を伸ばした時、少女が気絶してしまったからだ。


少しの間両腕を組んで考え、思い至ったのかポンッと手を打つ。


(そういえば今の私はリビングアーマーなる魔物であったな。そうなると何かお詫びをしなくてはならないが・・・今は毛布でも掛けておくか)


リビングアーマーは頭のヘルムを取り外すと、中に腕を突っ込み薄い毛布を取り出す。


(製作者の遊び心がこんな所で役に立つとは、世の中分からぬものだな)


ヘルムを元の位置に戻すと、少女に毛布を掛ける。そこで一瞬動きを止めると、再びヘルムを外して中を漁り始める。


今度は三脚とアルコールランプを取り出すと、指の先に火を灯しアルコールランプに火を着ける。


(錬金術師でもない私が、何故このような者を持ち歩かされていたのか。製作者の意図は分からぬが、今は感謝しておこう)


ビーカーとガラス棒も取り出し、ビーカーを三脚の上に乗せ、掌から水を出しビーカーの7分目辺りまで注ぐ。沸騰するまでアルコールランプで温め、乾燥させた葉っぱを取り出すと小さくちぎってビーカーへと入れる。


少しの間火に当てながらガラス棒でかき混ぜ、鶯色になった所で火を離す。ヘルムから乳鉢と乳棒、結晶状の何かを取り出すと、細かく砕き始める。


砕いた結晶をビーカーに入れ完全に溶けるまで混ぜ、再び火にかける。シャーレを取り出して蓋替わりにビーカーに被せると、使わなくなった道具をヘルムへと入れ、定位置へとヘルムを戻す。


(見よう見まねでやったわいいが、果たして上手くいくだろうか)


リビングアーマーは腕を組んでじっとビーカーを見つめる。ゆらゆらと揺れる火の明かりが、モノアイが光るリビングアーマーの顔を照らす様は、控えめに言って不気味でしかない。


程なくして、ビーカー内の液体は再び沸騰を始める。そのまま沸騰した液体を見つめていると、鶯色だった液体は徐々に水色へと変わっていく。


少し青になりかかったタイミングで火を離すと、液体は仄かに光を発する。


(どうやら上手くいったようだな。後はこれを冷ませば完成だったな)


リビングアーマーがビーカーの底を持つと、掌が一瞬光りビーカーの周りが氷つく。それを三脚に乗せると僅かに水が滴り落ちる。


それを確認すると、アルコールランプに蓋を被せ、ヘルムを外して中へと入れる。ヘルムを頭へと戻したところで伸びをする。固まる筋肉があるとは思えないが、気分の問題なのだろう。


腕を回したあと、少女に視線を向けるが、そんなに早く目覚めるわけもなく、未だに気絶したままである。


(彼女が起きてから作り始めても良かったかもしれぬな)


ヘルムの頬にあたる部分をポリポリと掻くと、何を思ったのか少女へと歩み寄る。そしてマジマジと顔を見つめ始める。


(はて、何処かで見たような顔だが・・・思い出せんな。私ももう年だということだろうか・・・)


顎のあたりに手を添えると唸るように首を傾げる。そもそも無機物に年齢などあるのだろうか。いささか疑問である。


(まあ良いか。思い出せんのならそこまで関わりのない者であろう)


首を一度振ると、少女の顔にかかった髪を優しく払うと、再びビーカーの前に座り込む。





ビーカーの氷が全て溶けた頃、少女は目を覚ました。僅かに靄のかかる意識を首を振って覚醒させる。


(ここは…私は確か………助かったのだろうか?)


気を失う前の事を思い出し、当たりに視線を彷徨わせ息を呑む。自分から少し離れた場所に、一体の魔物の存在を確認したからだ。


銀に近い白い全身甲冑の魔物、自分が最後に見た魔物であるリビングアーマーが鎮座していた。


(何故私を生かしておくんだ?)


彼の魔物が何故自分を生かしておくのか、考えても答えは出ない。魔物とは12始祖獣(ビースト)と呼ばれる12体の大型の魔物を中心とし、それらの遺伝子をもって繁殖したと言われている。


12始祖獣の遺伝子は、人を殲滅するように出来ていると言われており、その遺伝子を受け継ぐ魔物は、無差別に人間を殺す存在だと言われている。


(何にしても、逃げ出すなら気づかれていない今がチャンスか)


音を立てないようにゆっくりと身を起こす。しかし、彼女は自身に毛布が掛けられていることを気づいていなかった。


体を起こしたことで毛布が滑り落ち、地面に落ちる。落ちた時に僅かに音を立てたが、その僅かな音を聴きリビングアーマーが振り返る。


「起きたか。気分はどうだ?」


開口一番(口はないが)彼女を案じているかのような問いかけに、彼女は困惑した。魔物が人の身を按じるというのもそうだが、魔物が人語を解するということに驚きを隠せない。


彼女が気絶する前にも話しかけていたが、その時は切羽詰まっていたため、気にすることもなかった。だが一度落ち着きを取り戻すと、疑問が湧いて出てくる。


(この魔物は今、私の身を案ずる発言をしたのか?いやそれより人語を解するのか!?そんな話は聞いたことがない)


「人の言葉を話すのが不思議かね?」


まるで心の内を見透かされたかのようで、彼女の鼓動が早くなる。それでも、驚きを顔に出すのだけは堪えた。


「何故、私を殺そうとしない?魔物は人を殺す存在のはずだ」


リビングアーマーの問に答えることなく、彼女はそう切り出した。世間一般で同じことをすれば、質問に質問で返すなと怒られる事だろう。


「質問に質問で答えるのは関心せんが、まあいいだろう。私は普通の魔物とは違うのだよ。私は、元は人間の使う鎧であった」


リビングアーマーの一言で、彼女は驚愕に目を見開く。


(魔物の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、奴が言っていることが事実なら、剣や鎧が魔物に成りうる危険性があるという事か?それにしても)


顎に手を当てて思案顔になっていた彼女は、チラリとリビングアーマーを見る。


(人の言葉を解する理由にはならない気がするのだが)


「何か聞きたいことがあるなら言ってみるといい。私に答えられる範囲の事で良ければお答えしよう」


またも心の内を読んだかの物言いに、少女の心臓が跳ねる。少女は暫し悩む素振りを見せたが、好奇心に負けたのか、口を開いた。


「もし本当に元が普通の鎧だったとして、それが人語を解する理由になるとは思えないのだが」


「なるほど、確かに普通の鎧が魔物に変じたとしても喋る事は不可能であろう。私が喋れるのは、元から私が喋る事のできる鎧だからだ」



彼女は開いた口が塞がらなかった。名剣や魔剣の類は耳にした事はあったが、喋る鎧などという物は見たことも聞いたこともなかったからだ。喋る鎧などという突拍子のない物が存在していれば、少なくとも噂くらいは耳にしていても不思議ではない。


「そんな突拍子もない話しを信じろと言うのか!?第一鎧が喋るなど……」


「鎧が喋って何が悪い!」


リビングアーマーがやや語気を強めて彼女の言葉を遮る。


「おっと、すまない。突拍子もないのは事実だが、世の中には伝聞だけで悟ることの出来ないものが数多く存在するものだ。君にとっては、このダンジョンがそうでは無いのかね?お嬢さん」


リビングアーマーの言葉に、彼女は思い当たる節があった。海の底を通り、隣の大陸まで続いているという巨大なダンジョン『アクウラン』は、6階まで下りることで隣大陸まで徒歩で移動できると聞いていた。


出現する魔物はそこまで強くなく、6階程度なら護衛を数人雇えば事足りると言われていた。しかし、実際に足を踏み入れてみればミノタウロスに襲われる始末である。


「見たところ、戦いに向いた格好では無いようだが、護衛はどうしたのかね?」


「・・・・・全員、死んだ」


「ほう、何があったのか聞いてもよろしいかな」


彼女はゆっくりと頷き、口を開いた。

次回更新は未定です。

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