出会い
人外小説を読みふけっていたおり、自分も書きたくなって勢いで書いてみました。お見苦しいところもあると思いますが、何卒宜しくお願いします。
1人の少女が、仄暗い洞窟のような場所を走っていた。着ている服はお世辞にも動きやすいとは言い難いドレスだが、その仕立てを見る限り彼女が市井の者で無いことを物語っている。
しかしそれは、彼女をよく観察してみないと分からない事である。普段であれば豪奢と言って差し障りないそのドレスだが、今は所々が解れ、場所によってた破けている。
金糸を思わせる髪も、艶を無くし、埃を被り、走り続けたことによりボサボサになっている。少し止まれば髪くらいは整えられるであろうが、そんな暇はないとばかりに脚を動かす。
何が彼女をそこまで突き動かすのかという疑問は、彼女の後方から迫るモノを見れば愚問だと思う事だろう。
彼女の後方1馬身ほどの距離に、優に3mを超える牛と人を併せたような化け物、俗にミノタウロスと呼ばれる怪物が、身の丈程もありそうな斧を片手に追いかけてきているからだ。
死への恐怖。今はそれだけが彼女の脚を前へ前へと動かしている。止まれば確実に殺されるのだから、髪が乱れたなどという下らない理由で脚を止めることは許されない。
しかし悲しきかな。人と3m越えの化物とでは歩幅が余りにも違い過ぎた。1馬身ほどあった距離は、徐々に縮まっていく。
ーBMoooooooo!!ー
程なくして、射程距離に入った彼女に、その身の丈ほどもある巨大な斧が振り下ろされる。当たれば彼女は間違いなく死ぬだろう。
すぐ後ろから迫る死の気配に、彼女は一瞬の戸惑いも見せずに前へと身を投げ出す。間一髪その身は斧の射程距離から脱した。
だがしかし、それで喜んでなどいられない。彼女を捉えることのなかった斧は、そのまま地面を砕き軽い衝撃波を発生させる。
発生した衝撃波は、地面に倒れていた彼女を煽り飛ばす。その勢い凄まじく、T字路に差し掛かり、壁に当たっても止まることはなく壁を砕き、その先にあった硬い何かに当たって漸く止まった。
「つぅ…うっ…くっ…」
節々の痛みを堪え、立ち上がろうとする彼女だったが、体はとうに限界を迎えていた。思うように力が入らず、立ち上がることが出来ない。
「こんな所で…死ねない……お願い、動いて」
それでも彼女は懸命に立ち上がろうとする。だが、体は言う事を聞かない。何度も立ち上がろうとしては、倒れ伏す。
そんな事を繰り返している間に、彼女を追っていたミノタウロスが、再び彼女の目の前に迫ってきていた。鼻息を荒くし、手に持つ斧を高々と振り上げる。
(こんな所で死にたくない!お願い、誰か助けて!!)
彼女の願いは誰に届くこともなく、無情にも斧が振り下ろされる。彼女は固く目を瞑った。直に訪れる死を覚悟して。
しかし、訪れたのは彼女に死を告げる死神の鎌ではなく、金属同士がぶつかり合う甲高い音であった。彼女は恐る恐る目を開くと、信じられない光景を目の当たりにする。
それは、彼女目掛けて振り下ろされた斧と、その斧を掴む金属製の篭手であった。いくら金属製とはいえ、ミノタウロスの筋力によって振り下ろされた斧を、受け止めるなど人間の力では不可能に近い。
それでも、ミノタウロスの斧を受け止めている手は、まごう事なく本物で、ピクリともせずに受け止めている。
「大事無いかね?お嬢さん」
驚く彼女の元に、突如渋い声が降ってくる。
「えっ…あっ、はい」
混乱する中でそう応えると、声のした方へと首を動かす。そこには全身を鎧で覆った何者かが、台座の様な物に腰掛けていた。
「ふむ、それは結構。しかし、初めてここに人が訪れたというのに、随分と騒がしいものだ。どれ、マナーのなっていない輩に、少し灸を据えるとするか」
その者はミノタウロスの斧を受け止めたまま立ち上がると、斧を横へとずらし、そのまま砕いて見せた。おのが受け止められた事により、それを引こうともがいていたミノタウロスは、急に抵抗が無くなったことにより、仰向けに倒れる。
「レディを殺そうとしただけに飽き足らず、人の眠りを妨げたマナーのなっていない輩は、排除するしかあるまいな」
その者はゆっくりとミノタウロスへと近づくと、その顔へと拳を振り下ろした。その拳はミノタウロスの頭部を粉砕し、血と脳漿、肉片と目を周囲にばら撒いただけでなく、その下にあった地面へとめり込んだ。
その者は何事も無かったかのように手を引き抜くと、少女に向き直った。
「さてお嬢さん、こんな危険地帯に一体何用かな?」
これが、この世界で最強と謳われる者と少女の出会いであった。