1-8 パーティ募集
ブラッディウルフの件以降、身体を慣らすために軽い依頼をソロでこなす日々を送っていた。その中で、やはり森の中層への依頼はソロでは安全面に無理が出ると判断した俺は、パーティ募集の依頼をかけることにした。
意外にもパーティ募集の依頼は多いらしく、ギルドの斡旋で、新人は他の新人数人と熟練の冒険者1~2人と仮パーティを組み、パーティでの活動のイロハを教わる。という事をやっているらしい。今回はそれに参加する事にしたのだ。
『今回は野営込の依頼を仮パーティで受けるのでしたね。良い人たちが集まってくれているといいのですが。』
前回の件から、多少過保護となったタクトが心配そうにつぶやく。そんなに心配しなくても……と思うが、自業自得なので黙っている。それに今回参加したメンバー同士で気が合えばパーティとしてやっていくことも可能だ。俺は前衛から中衛のタイプなので、後衛か補助の役目が出来る人と組みたい。
パーティの編成についてタクトと話しているとギルドに到着した。まっすぐ受付へと向かい、要件を告げるとそのまま2階個室へと案内される。部屋に入るとすでに何人か待っていた。その中に見知った顔が2人…。
「ロンドさん? それに…ローラだったか? 何故ここに?」
「やぁ、ミズキ君じゃないか。例の奉仕活動の一環だよ。今日はよろしくね!」
「ちょ! なんであたしは呼び捨てなのよ! 先輩なんだから敬いなさいよね!」
ロンドさんはさわやかな笑顔で答えてくれた。ローラは…うん、なぜか尊敬できないんだ。たぶん高位の冒険者何だろうけど。俺の他にも2人、新人が参加するようだ。後衛職がいればいいんだが。
「さてと。ミズキ君で最後かな? 改めて自己紹介するね。僕は時駆ける風のリーダーをやっているロンドだよ。隣にいるのは僕のパーティメンバーのローラだ。一応2人ともBランクだよ。今回は僕たちを含めて5人で仮パーティを組んでちょっと長めの依頼をこなしてもらうから。そこで色々と教えていくことになると思う。」
「じゃぁ、あんた達の事を教えてちょうだい。ギルドランクに得意な事、苦手な事、戦闘スタイルなんかも含めてね。連携に必要なことよ?」
2人はBランクだったんだな。思ったよりも高いランクに驚きつつ、他のメンバーの自己紹介に耳を傾ける。端から順に話すようだ。
「えと……。アスタ、15歳です。ランクはEで、火術と土術が得意です。接近戦は苦手なので、遠くから魔術で仕留めてました。よろしくお願いします。」
「ミルキィ、16歳です。ランクはF、神聖術が得意です。戦闘全般が苦手で、採取や採掘を中心にやってました。あ、探知魔法も使えます。よろしくお願いします。」
「ミズキ、17。ランクはEで剣術、格闘術、風術、水術で前衛~中衛的な事が出来る。」
『私はミズキ様の従者のタクトと申します。ミズキ様を補助するべく、魔力探知や初級魔術などをたしなんでおります。』
俺以外のメンバーは、後衛職や回復職っぽいな。年齢も割と近いし、相性が良かったらこのままパーティを組んでもよさそうだ。
「一通り自己紹介も終わったかな? 今回は隣村までの行商の護衛をするよ。往復の護衛だから、途中野営を挟むからね。野営の準備はしてきているよね?」
「今回は寝ず番もしてもらうわよ。不足している物があれば準備して、1時間後に門の前に集合する事。以上よ、解散!」
■■■
1時間後門の前に集合した俺たちは、今回の護衛依頼を出した行商人と顔合わせを行った。簡易な幌馬車が1台と規模も小さく、俺たちは徒歩で随伴するらしい。荷物が満載の幌馬車を引く馬はそんなにスピードは出ないので徒歩で十分なんだそうだ。
街道沿いに隣村へと進む。幌馬車を囲むように人員の配置を行って警戒に当たっているが、拍子抜けするほど何もない。いや、何もないのはいいことなんだろうが、緊張が続かないな…。
「……なんか、護衛はもっと殺伐としているのかと思っていたけど、そうでもないんだね。なんか、なんにもない。」
「そうだね、何もないのはいいことさ。街道近くで何かが頻繁にあったら物流が途絶えてしまうだろう??」
「そう…なんですけど、拍子抜けするというか、緊張が続かないというか。」
どうやら他のメンバーも同じようなことを考えていたらしい。タクトと交代で探知魔法をかけているミルキィはともかく、俺達は本当に何もしていない。護衛って必要か? とか考え始めていた位だ。
そんな新人たちの様子をみて、行商人も苦笑を浮かべていた。
「まぁ、仕事していない感じがして気になるって言うのはわかるよ。でも護衛の最中、ずーっと緊張を持続するって言うのは、高位の冒険者…それこそSランク級の冒険者でも無理な話だよ? ……じゃぁここで講義その1!」
そう言ってロンドさんは護衛時の心構えを話しだした。曰く、連れ立っている人数が多いだけで大抵の魔獣は襲うのを諦める。そのためにも護衛は必要ということ。奴らも馬鹿じゃないからな。次に、探知や警戒のローテーション以外の時はリラックスする事。いざって時に柔軟な対応をすることが出来なくなるし、疲労も溜まりやすいらしい。まぁ、これはメンバーを信用するってことにもつながるのか。
たかが護衛だと思っていたけど、色々と学ぶことが多そうだ。ロンドさんの講義を聞き終えて余分な緊張が取れた俺たちは、行商人や他のメンバーと多少の雑談を交えながら進んで行き、初日の野営位置に到着した。
「君たち、野営は初めてだったよね? じゃぁまず、僕とローラで班分けをして片方は野営場所の護衛を。もう片方は近くの森へ薪を集めに行こうか。」
俺は薪集めの班になった。両手に抱えきれないほどの薪を何度か運ぶ。一晩中焚火を絶やさないようにしなければならないから、多ければ多いだけいいんだそうだ。残った薪は少量なら持って行くか、次回以降に使用する人のために置いていくのが暗黙の了解だと言っていた。助け合いってやつか。
薪集めの終盤、少し離れた場所にホーンラビットの反応があったので、晩御飯のために狩っておいた。食材の現地調達、これ大事。保存のきく携帯食料はあまりおいしくないんだよ。他にも鑑定スキルを使って食べられる野草やハーブ等も摘んで野営地へと戻る。
「あんた、それ何よ?」
「なにって…今日の晩御飯??」
戻ってそうそう、ローラに絡まれた。ホーンラビットの肉だと告げると訝しげに見られる。解体は野営地から離れた場所で済ませてあるし、廃棄物もちゃんと埋めてきた。汚れもないはずだが?
ローラの事は無視して、焚火へと向かう。少し大きめの鍋と三脚を取り出し、水の初級魔術で水をためる。適当な大きさに切った干し肉と、野草を煮込んで行く。ハーブと少量の塩で味付けをして完成だ。ホーンラビットの肉は塩とハーブを刷り込んで一口大に切ってから串に刺し、直火で炙る。
もそもそと携帯食料を食べていた他の仲間からの視線が痛い。全員に渡るだけはないような気がするが……。
「あー…。少し喰うか?」
俺の問いかけに全員が頷く。いや、ローラやロンドさんまでってどういうことだよ。何度も野営してんじゃないのか!? 結局全員に少しずつ分ける事になった。もちろん俺の分は先にしっかりと確保してからだ。
「はぁ~。野営でお肉が食べられるとは思いませんでした。おいしかったです。ミズキさんお肉なんてどこからもってきたんですか?」
「さっき持ってたのはこれだったのね。まさかあんたが解体スキル持ちだったとは…。」
「だから晩御飯だって言っただろうが。さっきの薪集めの時にたまたま見かけたから狩っておいたんだよ。携帯食料だけじゃ味気ないからな。」
「そう! そうなんですよ!! 干し肉は塩辛くて堅いし、パンはもそもそだしっ!!ん……? ミズキさんとパーティを組めばおいしいご飯になるんじゃ……?」
どうやらミルキィは餌付に弱いようだ。他のメンバーにも晩御飯は好評だったようだ。あまり野営で料理なんてしないのか? 肉を素焼きするだけでも違うと思うんだが、やらないのか?
俺の疑問を察知したのか、ロンドさんが説明してくれた。
「確かに野営で簡単でも調理が出来るのは強みだね。そもそも解体スキル持ちが少ないし、水術で水を補給できる人もそういないよ。」
「そうね、パーティにいると便利かも。ま、それは置いて置いて。夜間の見張りの事よね。2人ずつ組んでやるわよ! あたしとアスタ、ロンドとミルキィ、ミズキとタクトのペアで交代予定。各自でテントなりなんなり準備してね!」
俺はタクトとペアか。いつも通りだな。順番は最後だから今夜はゆっくりと眠れそうだ。
■■■
夜間は特に問題なく過ぎ、再び街道を隣村へ向けて歩く。野営地を出てしばらくすると警戒に当たっていたミルキィから声がかかる。
「みなさん、森の方角から魔獣の反応です。5~6匹の集団なので…おそらくハウンドドックだと思います。」
「さて、このパーティの初仕事だよ。気負わずに行こう。アスタ君はハウンドドックの姿が見えたら魔術で先手を取って。ローラとミズキ君はその後の対処を。ミルキィちゃんは僕と馬車の護衛だ。」
「はっ、はいっ!」
緊張した返答はアスタのものか。幌馬車の歩みは遅く、かといって捨ててはいけないため、幌馬車を止めて迎撃態勢をとる。俺とローラが前衛。アスタは後衛、ミルキィとロンドさんが行商人の護衛につく。
森からハウンドドックの姿が見えてきた。グレイウルフと比べるとその体躯は小さいが、群れによる連携は侮れない。今回は6匹程度で、大きな群れから追い出された個体が街道付近に出てきたものだろう。血走った眼でこちらの様子をうかがっている。
ガルルルグァア!!
リーダーらしき個体の遠吠えによって、ハウンドドックの集団はこちらに走り出した。すかさず先頭を走る個体目掛けアスタが魔術を放つ。
「ダブル=ファイアアロー!」
うまく先頭の2匹に命中し、頭が炎に包まれる。怯んだところをローラと俺で駆け寄り1匹ずつ首を刎ねる。あと4匹。続けて後続にも火矢が放たれるが、警戒されているのか当たらない。走ってきた勢いそのままに飛びかかってきた1匹と切り結ぶ。
グレイウルフよりは軽いその攻撃をうまくいなしつつ周囲に目を配る。ローラは2匹を相手にしていた。残る1匹はアスタがうまく魔術で翻弄しているらしく、馬車に被害はない。タクトをアスタのフォローへと回し、目の前の1匹に向き直る。
まっすぐ急所へ向かって繰り出される噛みつきを半身になってかわし、すれ違いざまに首元を狙ってシミターを振り下ろす。ガツッと鈍い音がしてハウンドドックが足元に転がる。俺の剣術スキルじゃ動く的の首を落とすのは無理か……。すぐに止めをさして周囲を見渡すとローラもアスタも戦闘を終えていた。
「ふぅ。特に問題はないようだな。」
「んなわけあるかー! ミズキ! なんでアスタの方に通したの? そこはあんたが2匹担当しないと駄目でしょう!」
「別にアスタでも対応出来てただろう? タクトもフォローに付けたし、何が問題なんだ?」
「はぁ……。あんた何にもわかってないわね! いい? アスタは後衛よ? 不意の襲撃にも対処しなきゃいけないわけ。だから基本フリーにさせとくの! 魔獣を割り当てるのなんて論外よ、論外! あんた2匹位余裕でしょ? タクトを付けるんじゃなくて、タクトをつかって自分の方に引きつけないと!」
そういうものなのか。アスタも普通に対処していたから大丈夫かと思っていたが、確かに追撃や他の魔獣の襲撃があれば対応が難しくなるな。今回は俺に非があるようなので素直に謝罪する。パーティでの戦闘は考える事がたくさんあるんだな…。
ハウンドドックの素材を回収し、隣村への移動を再開する。それから特に魔獣による襲撃などもなく無事に隣村へと到着した。