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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
1章 新人時代
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1-4 新しいスキル

 


 翌朝早く朝食を摂ってからギルドへと向かった。受付にまだ人がいないため、先にクエストボードを確認する。……ハニービーの蜜球採取の依頼がある。蜜球の数で報酬が変わるのもいいな。今日はこれをうけるか。



『ハニービーの依頼でございますね? うまく森の辺縁部で巣が見つかるとよいのですが……。念のため虫よけの香草を購入していきましょう。』


「そうだな。でも蜜球一つでも依頼達成にしてくれるらしいし、まだ期間にも余裕がある。最悪はぐれたハニービーを狩ってもいいさ。」



 タクトと依頼の段取りを相談しながら受付へと向かう。今日は獣人の受付嬢はお休みらしい。依頼の受注を頼み、そのあとに昨日頼んでおいたギルド所属の解体屋に会いたいと告げる。



「伺っています。ご案内しますので、こちらへどうぞ?」



 ギルドカードを返却してもらい、受付嬢に連れられてカウンター脇の通路を奥へと進んでいく。しばらく進むとギルドの裏手、裏庭のような場所についた。隅の方に、小さな小屋が見える。その小屋の方へ進むと、中に声をかけた。



「シェイドさん、お仕事ですよー! お客さんを連れてきました!!」


「はいはーい。やあ、アメリちゃんじゃないか。今日も笑顔が素敵だね。さて、お仕事って言っていたけど、依頼主はどこかな?」


「もう、シェイドさんは! 昨日話してあった解体を覚えたいという依頼のミズキさんですよ。ミズキさん、こちらシェイドさん。解体屋の職人です。私は仕事があるのでこれで失礼しますね?」



 受付嬢は互いに紹介すると受付業務へと戻って行った。

 小屋の中から出てきた人物は、思っていた以上に背が低く子供のようにみえた。よくよく見てみると、身長は低いものの顔は人のよさそうな男性で、おそらくこれで成人なのだろう。ホビット族だろうか。血糊のついた前掛けがなければ解体屋には見えない。



「さてっと。改めて自己紹介するね? 解体屋のシェイドと言います。君がミズキ君でいいのかな?? いまどき解体を覚えたいなんて珍しいね? マジックアイテムの鞄が普及するようになってからは本当に解体できる人が減っちゃってね。まぁ、その分職人は引っ張りだこなんだけどさ。」



 シェイドさんはそう言って嫌な顔一つせず、むしろ大歓迎というような笑顔で小屋へと迎え入れてくれた。小屋の中は意外に汚れがなくよく片付いていて、大小さまざまな箱と、作業台のような大きなテーブルが置かれていた。すべてシェイドさんサイズで出来ているため、俺には少し低く感じられる。

 依頼を受けてくれたことに対してお礼を言い、改めて解体を教えてほしいとお願いする。



「いや、いいんだよ。少しでも手間を減らしてくれるなら大助かりさ。あまりヒトを招くことがないからね。狭いだろう? あいにくと君たちのサイズの椅子もないんだ。問題なければ床にでも座ってくれ。あぁ、作業台の見える位置で頼むよ? すぐに解体依頼がやってくるから、そこで見学しているといい。」



 作業の邪魔にならないような位置を探し、床に直接座る。その間にシェイドさんは解体用なのか鋸や大振りのナイフなどを作業台へと並べていった。使いやすいように箱の配置も調整している。



「外での解体はスピードが命。細かい分類は後回しで使える素材を剥いでいくのが基本となるから、こんなに道具は揃えなくてもいいよ? 大振りのナイフが1本あれば大抵は事足りる。大事なのは使える素材を覚えることと、不要な素材の処理だね。一番は燃やすことなんだけど、外だと難しいから穴に埋めるのをお勧めするよ。さぁ、仕事の時間だ!」



 シェイドさんから解体のイロハを教わっていると、小屋へと解体の依頼がやってきた。シェイドさんが次々と解体していく様を見ながら、どこが使える素材でどこが不要かを覚えていく。時折シェイドさんが、食肉用の魔獣は必ず血抜きをすること、毒袋の取り扱い方、素材の剥ぎ方のコツなどをレクチャーしてくれる。

 2時間ほど見学していたが、解体依頼もひと段落つき、終了となった。



「これでひと段落かな。大体の事は教えたつもりだから後は実践あるのみだね。あぁ、少し血が飛んじゃったね、ごめんごめん。こっちに寄って来て? 道具とまとめて綺麗にしちゃうからさ。……『クリーナップ』『ディスィンフェクション』」



 シェイドさんがそう唱えると、俺の服に飛んだ血糊や作業台の上の血の跡、細かな破片などがきれいさっぱりと無くなっていた。驚いて服と作業台を何度も見比べていると、苦笑しながら生活魔法だと教えてくれた。解体をするなら覚えておいた方がいい、とも。たしかにこれは便利だ。



「色々とありがとうございました。勉強になりました。」


「また何かあったら依頼してね?」



 笑顔で手を振るシェイドさんに見送られながら小屋を後にする。お昼までまだ時間があるから、教会で生活魔法の魔術書を見せてもらおう。外で解体するならさっきシェイドさんが使っていたものは必要だ。血塗れのままというのはごめんだからな。



 ■■■



 教会へ向かいシスターを探す。礼拝堂には姿が見えず、留守のようだ。仕方ないので先に雑貨屋へ行って革の手袋と小さめのスコップ、虫よけの香草を購入してきた。昨日あったらいいなと思ったものと、今日の依頼に必要そうなものだ。こういった細々とした出費があるから、地味に懐が痛い。

 雑貨屋から戻ってくると、礼拝堂でシスターを見つけることが出来た。挨拶をして、生活魔法の魔術書を見せてほしいと依頼する。



「生活魔法とひとくくりにしていますけど、たくさん種類があるんですよねぇ。いくつ覚えるおつもりですか? 代金は3つで銅貨1枚です。」



 礼拝堂から移動し、図書室のような場所へと案内され、シスターから質問を受ける。生活に密着した魔法という事だから、種類も豊富なんだろう。今必要なのはシェイドさんが使っていた2つ。あとひとつはシスターのおススメを選ぶことにした。



「掃除、消毒、あとは明かりの魔法の3つですね。ではこの魔術書の上に利き手を乗せて下さい。」



 指示どおりに右手を置く。初級魔術の時よりは軽いが、それでも眩暈が襲った。無事に生活魔法を習得できたようだ。シスターへ銅貨1枚を支払い、教会を後にする。これから何度かお世話になるんだろうな。



 ■■■



 酒場で昼食を摂り、依頼のため森へ向かう。移動時間はタクトの講義だ。今日はゲームについて。神の代理プレイヤーに選ばれた俺は、この世界で行われているゲームに参加することとなる。俺に課せられた課題は、この世界にある7つの塔から魔力結晶をできるだけ多く集めること。7つの塔はダンジョンになっていて、魔力結晶を守る番人がいるらしい。つまり、今は初心者同然の俺が、ダンジョンの奥の番人を倒せるレベルまで強くならなくてはいけないという事。……あえて言おう。これなんてRPG?

 まぁ、それはまだまだ先の話。他の代理人もいることだし協力してやっていこう。今は安定して資金を稼いで強くなることが目標だ。

 森に着いた俺は、タクトにも指示を出し、周囲の警戒を始める。今回のターゲットであるハニービーの蜜球は、ハニービーの巣の中に溜めこまれている。もちろんハニービー本体も蜜球は持っているのだが、蜜球の数に応じて報酬額が変わるため出来れば巣ごといただいてしまいたい。小さめの巣があるといいんだが…。



『ミズキ様、11時の方向に魔力反応がございました。ホーンラビットよりも小さい反応ですのでおそらくはハニービーの単体です。』


「まだこっちには気が付いてないな? ならしばらく様子をみて、巣に戻るようなら後をつけよう。」



 木陰から様子を伺うと、体長20センチほどの蜂が一匹ふらふらと木々の間を飛んでいるのが見えた。木々に咲く花の蜜を集めているのだろう。このまま巣に帰ってくれればいいんだが……。そう思っていると、ハニービーが移動を始めた。

 気付かれないようにゆっくりと後を追う。しばらく進むと巨木の少し高い位置に出来た洞へと入っていた。洞の入り口には別のハニービーが見張りのように飛んでいる。



「あれがハニービーの巣……か?」


『それほどたくさんの魔力反応は感じませんが…。念のため虫よけの香草を焚いて様子をみてはいかがでしょうか。』



 タクトの提案もあり、鞄から虫よけの香草を取り出す。洞に対して風上へと移動し、香草を焚き始める。結構な量の煙が発生し、洞の方へと流れていく。俺の方に煙が来ないよう、適宜風の魔法で調整した。初級の風魔法は本当にただ風を生み出すだけなのだが、意外と便利に使える。

 香草を焚き始めて少しすると、煙を嫌ってなのか洞から数匹のハニービーが飛び出してきた。まだ気が付かれてはいないと思うが、こちらに襲いかかってこないとも限らない。ショートソードの準備をして様子を伺う。

 しばらくは洞の周りをブンブン飛び回っていたが、香草を焚き続けているとやがて諦めたのか森の奥へと飛び去って行った。タクトに確認するが魔力反応も見られないというためショートソードは仕舞い、木を登って洞の中を確認する。

 なかには蜜球が5つと、それを守るかのようにハニービーが2匹いたが、香草の効果かほぼ虫の息だった。グルカナイフでとどめをさして蜜球と一緒に袋にいれ、木を降りる。



「香草のおかげでそんなに苦労せずに依頼品が手に入ったな。ハニービーの巣じゃなくて一時的な貯蔵庫みたいなところだったのか……?」


『ミズキ様、先ほど飛び去ったハニービーが戻ってこないとも限りませんので、少し移動致しましょう。少し森の奥に入りすぎているようです。』



 周囲を警戒するように飛びながらタクトが促す。確かに少し森の奥に分け入りすぎているか。あの大きさのハニービーに集団で囲まれたら対処のしようがないし、忠告通り移動を開始する。

 森を抜け、街道が見える位置まで戻ってきた俺たちはそこでハニービーの解体にチャレンジすることにした。袋からまず1匹を取り出し、シェイドさんの所でみた解体を思い出しながら素材を剥いでいく。ハニービーは蜜球と毒針、毒袋が買い取り対象だったな…。

 毒針のわきから刃をいれて針と本体を切り離し、針をゆっくりと引くと毒袋が付いて出てくる。これは破れやすいので要注意…っと。針と毒袋は別の袋へいれて、次に比較的やわらかい腹部の内側に刃を当て、外殻の継ぎ目にそって切り離し、中から白っぽい蜜蝋で固められた蜜球を取り出す。他の部分は使えないので破棄して……。

 なんとか2匹分の解体をこなし、不要な部分は穴を掘って埋める。最後に蜜球とナイフ、汚れた衣服に向けて『クリーンナップ』を唱えて終了だ。



 “解体のスキルを習得しました”



 突然頭の中に声が響いた。スキルを習得したと…。新しいスキルを覚えるとこんな案内があるのか。まるでゲームだな…。



『ミズキ様、新たなスキルの習得おめでとうございます!』



 タクトに祝福されながら、俺は帰路についたのだった。


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