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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
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2-18 ダンジョン攻略⑤

 


「なにか勘違いしているようだから言っておくが……。お前に命令する権利は一切ない。……というか、ダンジョンで助けを求めた時点でお前達の生殺与奪権は俺たちにあると知れ。」


「なんっ!! ……っ貴様ぁっ!!」


「坊ちゃま!!」


「だがっ!!」



 付き人に諌められてはいるが、子爵家次男は腹の虫がおさまらないようだ。こちらをすごい形相でにらんできているが、軽く無視をする。馬鹿にかまっている暇はない。そういう意味では付き人の方がこの状況を正確に把握しているらしいな。頼りの護衛達もこれまでの強行軍で満身創痍……俺たちの助力なしでは満足に移動もできないだろう。



「はぁっ……。近くの階段部屋までだ。そこから先は自分たちで何とかするんだな。出口までそこの……世間知らずの坊ちゃんのお守はゴメンだ。」


「っ!! 貴様言わせておけばっ!!」


「坊ちゃま!! 今は抑えて下さいませっ!! ここはまだダンジョンの中、魔獣たちの生息圏内でございます。いまはこの冒険者たちに縋るしか助かる道はございません!!」


「ちっ……。」



 憤懣やるかたないといった感じで踵を返す。もう少し状況を把握してくれると良いんだが、どうやら高望みだったようだ。護衛の中の数人がこちらに頭を下げる。きっと普段から色々と迷惑をかけられているんだろうな。

 その姿を困ったような顔をして見送った後、付き人はこちらに頭を下げて来た。選民主義が見え隠れする人だが、一応礼義はわきまえているらしい。こちらも手を振って気にしていないと示す。



「坊ちゃまが失礼をいたしました。付近の階段部屋までで結構でございます。こちらが今まで貯めておいた魔石でございます。大半は冒険者に持ち逃げされてしまい少ないですがお納めくださいませ。それと……護衛達への治療にご助力願えませんか??」



 とりあえずの窮地は脱したと判断したのであろう、今まで貯めていた魔石をこちらへと渡して来た。小さな袋の中身を確認するとそこそこの量の魔石が入っていた。腰のバックに仕舞いつつ付き人の言葉を吟味する。今の護衛の状況だと階段部屋で1日休んでも回復する範囲はたかが知れている。見たところ治療魔法の使える魔術師は同行していないようだ。付き人が魔術師なんじゃないかと思えるのだが……その彼女が助力を要求しているという事は手に負えない状況であるという事か。まぁ、報酬の魔石も大半が奪われたと言っていたし、物資の関係上満身創痍の護衛達が回復しきるまで待つような余裕がないんだろうな。こちらとしては知った事ではないけれど。

 色々と交渉する余地がありそうなので、ポックルに一任する事にした。



「ポックル!」


「あいあいさー! 僕にお任せあれ! じゃぁ付き人さん、楽しい交渉の時間だよー?」



 俺の言葉にポックルは生き生きとした表情で付き人の方へと向かっていく。あ、これは子爵家次男によってたまった鬱憤を思いっきりぶつける気だな……。前回の交渉でもだいぶ譲歩させられていた付き人は顔が引きつっている。だが、うちの交渉担当はポックルなので頑張ってもらいたい。



「……では、そういう事でお願いします……。」


「ミズキー! ミルキィの範囲回復1回につき銀貨5枚の条件で引き受けたよ! かなり譲歩させたったぜ!」



 ポックルとの交渉を終えた付き人は幾分老けこんでいるようだった。かなりやり合ったようだがポックルの方が上だったか。この短期間で交渉のスキルのレベルが上がっているような気もしなくはない。

 いくら周囲の警戒をさせているとはいえ、この袋小路にいつまでもいると魔獣を呼びよせかねない。なるべく早く階段部屋に移動を始める必要があるな。へたり込んでいる護衛達はせめて戦闘の邪魔にならないように回復させてからの移動になるだろう。



「ミルキィ、悪いが護衛達に回復魔法をかけてやってくれ。とりあえず移動が出来る程度に回復してくれればいい。」


「了解ですぅ。……大地に眠る精霊神よ…我の祈りを聞き届け、彼らに癒しの奇跡を与えたまえ……『ヒーリング=シャワー』!」



 ミルキィが俺の要請に従って精霊神に祈りを捧げると、その手から光のシャワーがあふれ出し護衛達に降り注ぐ。光が収まると骨が折れていたものは打撲程度になり、刀傷も跡が残るものの出血は止まっているようだった。細かい擦り傷切り傷に至ってはほぼなくなっている。流石は中級魔術といったところか。

 動けるようになった護衛達に子爵家次男と付き人を守らせて中央に置き、前後を俺たちのパーティで挟むような陣形をとって先へと進む。時折廃墟と化した家屋から魔獣が飛び出してくるが、ミルキィとタクトの索敵のおかげで事前に察知できているため危なげなく撃退していく。

 護衛達を回復したために順調に進むかと思っていたが、それは楽観的だったと言うしかない。どうやらまだ俺は貴族というものを甘く見ていたようだ。子爵家次男はまぁ、我が儘放題で度々歩みが止まる。やれ喉が渇いた、やれ足が痛い、やれ疲れた……その都度付き人が水を与えたり『リフレッシュ』をかけたりしているが、口から出るのは不平不満ばかりだ。こんなのに付き添って、あまつさえ満身創痍になるまで守っていた護衛達には心底同情するね。



 ■■■



 そんな調子で暫くダンジョン内を探索していたが、階段部屋は見つかることは無かった。この階層というかダンジョン内ではほとんど日が暮れるという事が無いため時間の感覚が狂うが、時刻は夕の3ッ刻…午後6時頃か。このまま階段部屋の探索を続けることもできるが、お荷物を抱えての移動に皆だいぶ神経をすり減らしている。そろそろしっかりと休みたい……が、しかし。正直子爵家次男と一緒になって休んでもしっかりと休める気がしない。早く階段室に着くことを優先してここは仮眠だけで摂って先に進むか……。



「ポックル、そろそろ夕の3ッ刻になる。休めそうな部屋を探してくれ。」


「了解! あの人たちもいるし割と広めの部屋がいいよねぇ?? この先にあるといいなぁ……。」



 程なくして大人数で休めそうな部屋を発見した。中の安全を確認した後、先に子爵家次男一行に入ってもらう。俺たちは入り口付近で周囲を警戒しつつ休むことにする。子爵家次男は『やっと貴族を敬う事を覚えたのか』とかなんとか偉そうにほざいていたが……実際は逃走防止と監視、あとは行動のしやすさゆえだ。俺たちは子爵家一行を完全に信用していないからな。

 無駄にこちらに物資があると見せると何かと言いがかりを付けてきかねないから、夕食は携帯食で済ませる。ミルキィやポックルがうらみがましい目で子爵家一行の方を見つめていたが、それは無視する。あえて言うなら食べ物の恨みは恐ろしいという事だ。道中索敵やマッピング等をしていた女性組は見張りには組み込まず、男性陣3人で見張りの順番をアスタ→俺→アーロンの順に決める。タクトには夜通し見張ってもらう事になるが、ここは頑張ってもらう事にした。日中に少し休んでもらう事にしよう。

 子爵家次男一行も休みに入ったようだ。本当に物資が心もとないようで護衛達は携帯食を分け合って食べている。その中で子爵家次男は1人テントに入りすでに休んでいるようだ。付き人も坊ちゃんの面倒を見なくて良くなったためか、護衛達に『リフレッシュ』をかけて回っている。これなら明日もちゃんと動いてくれそうだな……。


 警戒していた子爵家次男一行…と言っても本当に警戒していたのは次男だけ…もおとなしくしてくれていたおかげで特にトラブルもなく過ごすことが出来た。朝食も例によって携帯食で済ませ、早々に出発することとする。うちの女性陣から子爵家次男へ殺気混じりの視線が飛んでいるのは気のせいじゃないんだろうな。まぁ、食事って大事ですよね。子爵家次男は存分に怯えると良いと思うよ。

 ポックルを先頭にして階段部屋を目指す。度々立ち止ってはマッピング用の印を残していくポックルにむかって子爵家次男が早く進めなどと喚いているが、概ね順調に進んでいる。付き人は坊ちゃんをもう少し大人しくさせるように全力を尽くしてもらいたいな…たいして役にも立たないのに煩くてかなわない。魔獣と遭遇するたびに喚き散らしガタガタ震えるのは本当にどうかと思う。ダンジョン攻略向いてないよ、お前。



「嫌だ、もう嫌だ!! 早く外に出せよ! 父上が箔付けの為に必要だっていうからわざわざこんなところまでやってきたのに! こんなことになるなんて聞いてないぞ!! そもそもあいつらが裏切るから……。いや、裏切るような奴を連れて来た奴が悪い! それに護衛達もあっさりやられるなんて不甲斐ないじゃないか!! なんで……なんでっ!」


「ぼっ……坊ちゃま! お気を確かに!!」


「っあぁっー!!! もううるせぇぞお前!! さっきから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!! ミズキ! もうこいついらなくねぇ!? 置いてこうぜ!」



 昨日一緒に行動するようになってから途切れることなく続いていた子爵家次男の暴言をずっと聞き流していたが、とうとうアスタがキレた。いや、あれは良く持った方だと思うよ俺は。アスタだけではなく、おそらくパーティ全体がそう思っていることだろう。…貴族全てがああだとは思わないし思いたくもないが、責任は全て他人に押し付け自分の快楽だけを追求しようという姿勢は本当に嫌気がさす。本音を言えば俺もアレは置いていきたい……。



「貴様っ! やはり田舎者は口の利き方もなっていないようだな! 全くこんな冒険者風情に頼らなければならないなんて……大体護衛がもっとしっかりとしていればこんなことには……」


「っ…!! おっ前えぇぇ!!!!」



 自身のことだけではなく、今まで自分の身を…それこを本当に身体を張って守ってくれていたであろう護衛達の事まで貶す言動にアスタが激昂する。危うく手が出そうになったところ所で止めにはいる。なんでとめたとばかりにこちらを睨んでくるアスタを軽くなだめてから、いさかいの元凶である子爵家次男へ向き直る。



「ふ……ふんっ! 俺への暴行を止めたのは評価してやろう。だが、所詮は冒険者というところか。粗野な自分の部下の教育がなっていな……」


「黙れ屑。」


「なっ…なっ…!!」


「そのスカスカの脳みそにしっかり記憶しておけ。この場でのリーダーは俺だ、異論は認めない。このパーティを抜けても生きていられるほどの技量があるならその限りではないが……無理ならその無駄口しか叩けない口を閉じて大人しくしているんだな。……次は無いぞ?」


「ッ……!!」


「っ……申し訳ございませんでしたっ!」



 怒りで顔を真っ赤にし、口をきけないでいる子爵家次男にかわり、こちらは顔を真っ青にしている付き人が謝罪してきた。そういう問題じゃなんだが……まぁ、大人しくしてくれるならどうでもいいか。こちらもイライラしていたせいが思っていた以上に脅すような口調になったしな。

 そんないざこざが道中にあったが、それからの子爵家次男は比較的おとなしくなった。小声でブツブツと文句は言っているようだが以前のように誰彼かまわず喚き散らすと言った事が無くなっただけでも幾分気分がいい。それからほどなくして、ポックルから階段部屋を見つけたとの報告を受けた。


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