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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
31/37

2-17 ダンジョン攻略④

ブックマーク10件を記念してもう一つ閑話UPしています。

 


「あのっ! お願いいたします、助けていただけませんか!? 不躾なお願いだとは重々承知しておりますが! どうかっ!!」



 予想外の出来事に警戒態勢を解かないまま硬直してしまっている俺たちに対して通路からやってきたヒトは更に言い募る。基本ダンジョン内で起こる出来事は全て自己責任だ。冒険者をやっているなら当たり前の事……だが、だからこそ他人に助けを求めると言う事はかなり切羽詰まっているか、冒険者以外つまり貴族の護衛か付き人か……。全く、厄介事の予感しかしない……。このまま見なかったことにすることもできるけど……。



「何があったんでしょうか?」



 あぁ、やっぱりな。あの真面目なアーロンが見なかったことになんてできないよな。仕方ない、とりあえず話を聞くだけでも聞いてみるか。そのうえで判断しても遅くはないだろう。一応話を聞く礼儀として警戒態勢を解く。その様子を見てホッとした表情を見せたが、すぐに切羽詰まった表情をしてこちらへと説明を始めた。

 曰く、通路からやってきたヒト…彼女は貴族の付き人的立場の人らしい。ある子爵家の次男(18)が冒険者を雇い、お付きと少人数の護衛とでダンジョン攻略の実績づくりのためにこのダンジョンに潜ったそうな。途中まで順調に来ていたが、4階層の中盤に差し掛かったあたりで雇い入れた冒険者が魔獣を前にして造反し、護衛数人を切りつけて離脱。残された付き人と護衛でなんとか子爵家次男を守りながら階段を探していたが魔獣と遭遇するたびに負傷し動けるものが少なくなってきた。今も魔獣と遭遇し戦っているが護衛の数が少なく厳しいという。そんななか彼女の索敵魔法に俺達の反応があり、一か八か助けを求めた……という事だった。

 聞いていて気持ちのいい話ではないな。造反した冒険者もそうだが、子爵家次男の態度が……彼女の話しぶりからすると本当に守られているだけのようだ。護衛が、付き人が自分の為に傷ついているというのに……。正直助ける意味を見いだせないが、そんな子爵家次男を見捨てずに必死に助けを求める彼女の忠義心に対しては助力してもいいんじゃないかと思った。その忠義心が本当に子爵家次男に向けられているかはともかくとして。

 彼女の話を聞き、仲間は沈黙を保っている……というか子爵家次男の態度が酷くて呆れていると言った方がいいのか。さて、どうしたものかと考えているとアスタが口を開いた。



「そいつ助ける必要はあるのか……?」


「そんなっ! 坊っちゃまは冒険者たちに騙されてこんなことになったのです! 本来ならもっと安全にっ……!」


「悪いが、ダンジョン内で起こったことは自己責任だ。そもそも冒険者に裏切られると言うのも、そいつの見る目が無かっただけの事だろう? それに、ダンジョンの中に安全な場所なんてほとんどない。」


「っく……。で……ですがっ! わたくしたちは坊っちゃまを連れて帰らねばならないのです!! あの方は子爵家の次男、本来こんなところにいるお人ではないのですよ! どうか!!」


「ふふん……。なるほどねぇ~。じゃぁ、いくら出せるの?? もしや、ただで助けてもらおうなんて思ってないよね?? ダンジョンの中で? お荷物になるってわかりきってる人がたくさんいるのに??」



 なんか言葉の端に冒険者を馬鹿にしているような雰囲気が漂ってきたな……。そんな空気を感じ折ったのか、ポックルが交渉を買って出てくれた。あまり気乗りしない話だからここはポックルの交渉術にお任せしようかな。ふと隣を見るとアーロンが苦い顔でその様子を見ていた。これで貴族相手に不用意に話を聞くなんてことをしなくなってくれればいいんだが。根が真面目だから良いように使われそうで怖いよ、本当。

 ポックルとの交渉の最中も、こちらを…冒険者を見下したような表現がちょくちょく挟まれる。これが無意識でやっているならこの人も相当な選民主義だな。やっぱり貴族にはなるべく関わらないようにしよう。



「なんか、やな感じだな。助けを求められているっつーより、助けて当然って思ってるみたいだ。」


「すみません、私の配慮が足りませんでした……。」


「仕方ない。俺達とは人種が違うとして諦めるしかない。アーロンも反省しているようだし、次回からは同じ失敗はしないだろう?」


「気をつけます……。」



 すっかり意気消沈してしまっているアーロンを慰めつつ、アスタに諭す。もうアレは別の人種と話していると思って諦めるほかない。選民主義っていうのは本当厄介だよ、全く。ポックルと交渉する傍らでそんなことを話していたらようやく交渉が終わったようだ。



「ミズキ、とりあえずピンチな今の状況を助けたら今持っている魔石全部くれるって。安全地帯まで連れて行ってくれたらプラス金貨3枚、ダンジョンの外まで連れて行ったらプラス金貨10枚だって。僕頑張ったでしょ!」



 嬉しそうにポックルが報告してくる。かなり破格な値段にも思えるが、足手まといを連れてダンジョン内を進むと考えると妥当な金額にも思える。まぁ、貴族なんだし払えない金額ではないんだろうな。交渉を頑張ってくれたポックルに礼を言う。付き人の方は苦い顔をしているが、仕方ない。貴族の元へ案内するように声をかける。



「とりあえず、今の状況を変えようか。案内してくれ。」



 ■■■



 魔獣からの奇襲を警戒しながら、付き人の案内で進むこと5分。剣戟の音がだいぶ大きくなってきた。分岐点を左に曲がると袋小路になっていて、奥の壁を背に満身創痍の護衛たちがスケルトンソルジャーとビックバット、それにリビングデッドと呼ばれるゾンビもどきと剣を交えていた。隅の方には膝を抱えて魔獣に背を向け、ガタガタと震えている人物が1人……まぁ、間違いなくあれが子爵家次男だな……。

 魔獣たちはこちらの接近に気が付くこともなく護衛たちへと群がっている。丁度いい、今のうちに出来るだけ仕留めてしまおう。一応巻き込まないように護衛たちに助太刀に入ることを告げて魔術を発動する。



「助太刀するぞ! …『トライ=ウィンドアロー』!」


「了解! …『ツイン=ロックアロー』!」


「はいですぅ! …『ホーリーアロー』!」


「任せてよ!」



 俺の合図に合わせて一斉に魔術を唱える。アーロンは万が一反撃にあった場合に備えて皆より1歩前に出て盾を構える。ポックルは魔術が使えないため、宝箱から出て来た短剣を早速使用したようだ。

 俺のウィンドアローがビックバット3羽の羽根を貫いて墜落させ、アスタのロックアローがスケルトンソルジャー2体の頭蓋骨を砕く。ミルキィのホーリーアローはリビングデッドを浄化し、ポックルの短剣がビッグバットの胴体へと吸い込まれるように突き刺さる。

 俺たちの初撃で魔獣たちはほぼ半壊状態に陥った。未だ動いているのはスケルトンソルジャー2体とリビングデッド1体、落とされたビックバット3体だ。護衛たちは突然の出来事にしばし呆然としていたが、すぐに我に帰り地に落ちたビックバットに止めを刺していた。残る魔獣も前に出ていたアーロンの長剣と俺の剣に貫かれて魔石と化した。

 とりあえずの窮地を脱した護衛たちは糸が切れたようにその場に座り込んでしまった。満身創痍の状態で人を守りながらここまで頑張ったのだ、無理もない。俺たちを案内してきた付き人はそんな護衛たちには目もくれず、真っ先に子爵家次男の元へと駆けよった。



「坊ちゃま! 坊ちゃま!! ご無事でございますか!! 近くにいた冒険者を連れてまいりました! これで安全でございますよ!!」



 今まで身体を張って守っていた護衛たちに声をかけるより先に駆け寄るのか。頑張った護衛たちが報われないなぁ……。まぁ、妙齢の女性だったし、子爵家次男の乳母か何かをやっていたのかもしれないが……それでもなぁ。礼の1つでもあれば印象が変わったかもしれないが、それは無理な話なんだろうな。

 付き人の女性に声をかけられ周囲に魔獣の脅威が無いとわかると、先ほどまで隅の方でがたがたと震えていた男がこちらを一瞥した。付き人と二言三言言葉を交わすとこちらへと向かってきた。



「ふんっ。お前達が冒険者か?? なんか頼りなさそうだが……まぁいい。早く俺をこんな殺風景な場所から連れ出せ。いいな!」


「……はぁ?」


「ミっ……ミズキさぁん!! こんな人放っておきましょう! そうしましょぉ~!!」



 その口から発せられた言葉はあまりにも高圧的でアスタが思わず聞き返していたほどだ。普段はのんびりとしていて滅多に起こらないミルキィも、表情こそ笑顔であるが、そのこめかみには青筋が浮いていた。ポックルとアーロンはあきれ返った顔を隠そうともしない。



「なっ……なんなんだその態度は!! 子爵家に盾付いたらどうなるか分かっているんだろうなっ!!?」



 こんな状況にも関わらず、なおも高圧的な態度を崩そうとしない子爵家次男にため息がこぼれる。付き人の女性も後ろで苦い顔をしている……それがどちらに対するものかはわかったものではないが。子爵家次男の醜態に護衛たちはバツが悪そうに俯いている。己の立場というか身分が違うから意見も言えないようだ。あぁ……貴族社会って言うのは面倒臭いな……。



「……お前の命は俺たちが握っているって言っても過言じゃねーのに。これだから世の中を知らないお貴族様は……。」


「っ!! 貴様ぁっ! 無礼だぞっ!!!」


「坊ちゃま! 落ち着いてくださいませ!! まずはこの場所から外へ出ることが先決でございますよ!!」



 思わず、といったようにアスタの口からこぼれた言葉に、子爵家次男は過剰に反応する。付き人がなだめているようだが、効果はしれたものだ。こんなのをひきつれて入口まで戻ってやる義理はないな。まぁ、こうして出会った以上見捨てると言うのもこちらの精神衛生上よろしくない。とりあえず階段のある小部屋まで送ればすぐに死ぬようなこともないだろう。身体を張って守っていた護衛達には申し訳ないが、こちらが負担を負う事もない。もうしばらく護衛達には頑張ってもらいたい。

 そんなことを考えていたら、身分が下の冒険者に侮られて怒りが収まらないのか子爵家次男が鼻息も荒く言い放った。



「おいっ! そこの男! 早く俺を外に連れて行け!!」



 全く、何の反省もしていないようだな……。


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