2-16 ダンジョン攻略③
翌朝、軽めの朝食を済ませ3階層への階段を降りる。この階層も古ぼけたレンガ調の通路に繋がっているが、ところどころに草が生えていたり、ひび割れがみられたりと全体的に荒れ果てた印象を受ける。2階層が古城のような雰囲気なら、3階層は廃墟の城という雰囲気だ。ダンジョンの壁が崩れたという話は聞いたことがないが、強い衝撃があれば崩れてしまいそうだな。
ポックルとアーロンを先頭にしてそんな通路を進んで行く。通路にはレンガの欠片や水たまりなどが点在していて、それらを踏んで足を取られないように気をつけながら進んで行く。降りて来た階段が見えなくなるまでまっすぐな道をひたすら進んで行くと、前方の壁面に石造りの扉のようなものが見えた。近づくにつれ、周囲の壁との違いがよくわかるようになってきた。扉のようなものはひび割れ一つなく、植物の文様が全面に彫刻されており、取っ手がなければレリーフと見間違うほどだ。扉の前まで来るとぽっくりがあちこちと見て回り、罠の有無を確認している。
「ミズキ! この扉はどうする?? ざっと見たところ罠のようなものはなさそうだよ。一応鍵はかかってるみたいだけど、開けられそうだよ! どうする? 開けちゃう? 開けちゃう~??」
「ミルキィ、中の様子はわかるか?」
「んー……。魔獣っぽい反応は無いみたいですぅ~。」
「なら開けてみるか。」
「よっし! 僕に任せてよ!!」
そう言うとポックルは腰のバックから解錠に使うであろう道具を取り出した。細長い金属棒やら、何か所か屈曲した金属棒やら、ルーペらしきものまで見受けられる。それらを床に並べ、鍵穴をルーペらしきものを使って覗きこむ。俺たちは周囲の警戒をしつつポックルの解錠を待つだけだな。
カチャカチャとポックルが鍵穴を弄る音だけが響く。やや暫くしてガチャンという音と共に『開いたよー。』というポックルに声が聞こえた。割と重たい石造りの扉をアーロンと共に押し開ける。ギギギギギと重たいものを引きずるような音をたてて内側に開いた扉の向こう側は小部屋のようだった。中央にはやや小さめの木製の箱が2つ、ポツンと置かれているだけだった。
「宝箱?」
「とりあえず調べてみるね?」
アスタの呟きにポックルが答え、箱へ近づいて調べ始める。俺も宝箱が気になったので、鑑定を使って調べてみることにした。ポックルが見ていない方の箱に近づき鑑定をかける。
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低級宝箱
ダンジョンに放置された武具が入っている。一度ダンジョンに取り込まれたため、僅かだが魔力が宿っている。
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……まごうことなき宝箱だった。ダンジョンに放置された武具って冒険者の遺品のような気もするんだが……。まぁ、細かいことは気にしたら負けだ。それよりも、僅かながら魔力が宿っているという事は魔剣の類になっているのか?? 割と小さい箱だから、入っているのはナイフや短剣辺りだろうな。良いものが出てきたらアスタかポックルに使ってもらおう。
そんな事を考えているうちにポックルが調べ終わったようなので、もう一つの方も鑑定してみる。
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低級宝箱
ダンジョンに放置されたアクセサリが入っている。一度ダンジョンに取り込まれたため、僅かだが魔力が宿っている。
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こっちもちゃんとした宝箱のようだ。2つとも宝箱なんてこの部屋は当たりの部類に入るんじゃないだろうか。罠が出てくる階層になると、見つけた宝箱全部がミミックとかも平気であり得るらしいからな。……しかし、鑑定ではこの中身まである程度わかるならミミックと宝箱の区別もつくかもしれないな……。これは試してみる価値はありそうだぞ。
そんなことをしている間にポックルも箱を調べ終わったようだ。特に罠は見当たらず、簡単な鍵がかかっているだけとのことだった。早速ポックルが1本の金属棒で解錠を始めている。俺からも宝箱を鑑定して得た情報を話すと驚かれた。
「宝箱を鑑定するって僕初めて聞いたよ! 普通、宝箱から出て来たものに対して鑑定するけど、箱そのものにって発想が……。でもでも、それである程度中身がわかるなら便利だねっ! ミミックと見分けられるならすごいことだよ!!」
「鑑定のスキルってそんなに便利に使えるんですね。植物鑑定とか武器鑑定とかの上位スキルなんでしょうか……?」
「そう言えば、俺の鑑定スキルは何鑑定か書かれてないな……。最初からいろんなものに使えるから気にしてなかったけど。」
「私は植物鑑定のスキルを持ってますけどぉ……本当に植物の事しかわからないんですよぉ~?? いろんなものに使えるのはなんかずるいですねぇ……。」
「あ、開いたよぉ~!!」
ずるいと言われても困る。鑑定のスキルはあのイラッとする話し方のガキ…コピシュから貰ったスキルだからな……。答えに困っていると丁度いいタイミングでポックルが宝箱を解錠したようだ。宝箱を開いて取り出したのは少し錆び付いた鞘付きの短剣が2振りだった。見た目は完全に古びた中古品だが、研ぎ直せばまだしばらくは使えそうな代物だな。詳しく性能を調べるために鑑定をかける。
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戻りの双剣
元々普通の双短剣だったがダンジョンに1度取り込まれたことで鞘との結びつきが強くなり、どんなに鞘との距離が離れていても使い手が念じれば一瞬で戻ってくる魔剣へと変化している。
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……割と使えそうな魔剣が出て来たもんだな。刀身は普通の鉄っぽいし、プラス値も付いていないがポックルの戦い方にはもってこいの武器のような気がする。皆と相談してからだがポックルに使ってもらうのがよさそうだ。
もう一つの宝箱の方も解錠出来たようだ。中から出て来たのは少し大きめの腕輪のようだ。二の腕に嵌めるタイプか……? こちらも少し錆び付いているが、磨けば十分使えるだろうな。表面には繊細な彫金がなされているのが見て取れる。ポックルやミルキィは綺麗な彫金に見とれているようだ。そう言えばあんまりアクセサリの類は身につけていなかったような……。きっと綺麗な彫金や宝石の嵌まっているアクセサリは高いんだろう。装備にもお金をかけなきゃいけない冒険者にはあまり縁がないのかもしれないな。こちらも詳しく性能を調べるために鑑定をかける。
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魔力の腕輪
魔力が微増する彫金が施された青銅の腕輪。一度ダンジョンに取り込まれたことで魔力の上昇具合が増加している。
魔力+2
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これもまた悪くない性能だな。付けるとしたらアスタかミルキィだけど……、きらきらとした目で腕輪を見つめるミルキィを見ているとアスタに渡すとひと悶着ありそうだ。今回は女性陣の装備ってことでアスタには諦めてもらうとするか。
一応皆と相談したが、俺の予想通り短剣はポックルが、腕輪はミルキィが装備する事となった。ポックルがさび落としを持ちこんでいたので、次の休憩時間に磨いてくれることになった。あの腕輪は磨くとより綺麗になりそうだな。
宝箱の置いてあった小部屋をでて先に進む。この階層も分岐点には印があり迷うことなく進むことが出来た。途中何度か魔獣と遭遇したが、すぐにアスタとアーロンで片づけてしまう。俺がすることといえば魔石や素材の回収くらいだ。順調に進んでいて体力を温存できるのはいいが、こうも先行パーティと遭遇しないとだいぶ遅れているのだと言う事がよくわかる。焦ると良くないという事は十分わかっているが、やはり気は急いてしまうものだな……。
昼の3ッ刻前には4階層へと降りる階段を見つけることが出来た。丁度良いのでそこで昼休憩にすることにした。堅パンスライスしたものに、魔道具のコンロの火で軽くあぶったベーコンとチーズを挟んだサンドウィッチもどきを作って皆に配る。あまりダンジョンに籠っていると野菜不足に陥りそうだ。
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食後に半刻ほど長めの休憩を取り、4階層への階段を降りる。心持ち今までとは長い階段を降り切り、小部屋を抜けるとそこには閑散とした町が広がっていた。今までとの変化に呆気に取られていたが、良く観察してみると整備されているはずの石畳からは草が生え、民家だろう家々は壁が崩れたり屋根がなかったりと廃墟然とした姿を晒していた。
今しがた降りて来たであろう階段のある小部屋の方を振り返ってみると、石造りの塔のようなものが建っていた。先を仰ぎ見ると塔を中心としたドーム状になっており、この階層はさほど広くないことが見て取れた。どうやらこの階層は遺跡をモチーフとしているらしいな。
いつも通り隊列を組んで先を急ぐ。左右にある廃墟やくねくねと曲がる道のせいで見通しが悪く死角が多いのが難点だ。また、この階層からマッピング用の印もあまり見かけなくなった。あってもこの先行き止まりという簡単な印くらいらしい。とりあえずその印が付いている道は避けて先へと進む。何度かビックバットやスケルトンソルジャーといった魔獣と遭遇したが、まだアスタとアーロンで処理可能だ。ミルキィやタクトの索敵能力が高いおかげか、こちらが奇襲を受けない分余裕をもって対処出来ているんだろうな。
暫く進み入り組んだ死角の多い場所での戦闘に慣れて来たころ、少し遠くから剣戟の音が聞こえて来た。先行していた他のパーティだろうか……? 先に潜っているパーティには貴族もいると言う情報があるし、なるべくなら遭遇しないで済ませたいが、周囲に迂回出来るような道はなさそうだ。
「剣戟の音……? 先行しているパーティの人かなぁ??」
「ミズキ、どうする?? 進む?」
ミルキィも音に気が付いたようだ。先に進むかポックルが確認してくるが、どうするか悩むな……。先を急ぎたい気持ちはあるが、他のパーティともめ事を起こしたいわけじゃない。迂回する道も見当たらないし、ここでも来た道を戻るっていうのもなぁ……。幸いまだ先の通路での戦闘らしいし、ここは戦闘が終わるまで待機の方針で……。
「あぁっ!! 何かが近付いて来るです~! ……あれぇ?? これは魔獣の反応じゃないようなぁ~??」
突如ミルキィが声を上げる。遠くでの剣戟の音は止んでいないが……魔獣の反応じゃないってどういう事だ?? 良くわからないが各々戦闘準備をして身構えていると少し先の曲がり角からヒトが飛び出してきた。魔術師が着るようなローブ姿のヒトは時々後ろを振り返りながら走っていたが、こちらの姿を認めると一目散にこちらへと走り寄って来た。
「!! あのっ!! 助けて下さいっ!!!」
そのヒトの叫びは厄介事の匂いしかしなかった。




