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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
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2-14 ダンジョン攻略①

 


 アスタ達はポックルの交渉術のおかげか、予算を余らせて買い物を終えていた。あまり金銭的に余裕がある方ではないので、ポックルの交渉術にはこれからも活躍してもらう事になるんだろうな。

 全員揃ったところでギルドで得て来た情報を共有する。ダンジョン攻略には少なく見積もっても1週間はかかるとみた方がいいだろう。これほど長期にわたってダンジョンに潜り続けるのは初めての試みなので、準備も入念に行いたいところだが、すでにこのダンジョンに潜っているパーティもいるため、さほど時間はかけられない。明日は各自装備の新調と、足りなくなりそうな物品の購入に充ててダンジョンのある街への出発は明後日にすることにした。

 俺は特に装備の新調はしなくてもよさそうだが、教会で新たな魔術を手に入れておくとするか。上級魔術が扱えるようになれば、ボス戦での切り札になるからな。あとはこの街の図書館へ行って出現する魔獣の傾向でも探っておくとするか。



「あ、ミズキさーん! アーロンさんの盾を買ったお店を紹介してほしいんですけど、いいですかぁ?? この杖、もうボロボロになってきちゃって新調したいんですぅ。」


「あ、俺も! ちょっと欲しい装備があってさ。ミズキの行ってる武器屋なら間違いなさそうだもんな!」


「あぁ、いいぞ。明日案内してやる。」


「あ、私は少し別のお店を回ってきます。なにか欲しいものがあれば代わりに買っておきますよ?」


「僕も少し罠解除用の品を揃えなきゃ駄目っぽいから行って来る―。攻略なら準備は入念にしないとねぇ~。」


「……なら明日は皆別行動でいいな? 各自しっかりと準備を整えてくれよ。」



 ■■■



 翌日、アスタとミルキィを伴って昨日アーロンの盾を買った武器屋へと案内する。



「……ここ、なのか?? あっちの大通りの店じゃなく??」



 連れて来ての第一声がこれだ。昨日も同じようなセリフを聞いたな…。なんでみんなあの大通りの店の方がよく見えるんだろうか。品揃えのせいか?? 接客は最低の店なんだがな……。

 首をかしげているアスタには職人の腕は確かだと説明して中に入る。飾り気の少ない無骨な武器屋防具が並んでいるのを見ると少し納得したようだ。



「ぁ? 客かぁ?? 冷やかしなら帰れよ。」



 全く、こちらもいつものど得顔も見ずに無愛想な対応だな。少しは愛想よくしたらどうかとも思うが、ここの親父が愛想がいいのは想像できないのでこれでいいのだろう。だが、客の顔くらいは確認するべきだと思うぞ。

 急に奥から声がかかったため、ミルキィがビクッと小さく飛び上がりきょろきょろとあたりを見回している。



「はぁ、少しは顔くらい見たらどうだ? 客だよ。今日は俺の仲間に武器を見繕ってもらいたいんだ。」


「ぁ? なんだお前さんまた来たのか? 次は武器だって??」


「あぁ、詳しい事はこいつらに聞いてくれ。…後は大丈夫だな??」


「あ、はいー。大丈夫ですぅ。ミズキさん、ありがとうございましたぁ~。」


「また後でな!」



 武器屋の親父に2人を託し、俺はそのまま教会へと向かう。アーロンとポックルも朝から別行動だ。ふらふらと市場の露店を物色しながらのんびりと教会への道を進む。途中、おいしそうな匂いに釣られて串焼きを買い食いする。王都にはいろんなものが集まるのか香辛料のきいたタレが絶妙だった。帰りにまとめ買いして後で皆で食べるのもいいかもな。

 そんなことを考えながら歩いていると教会へ到着した。前回同様、中へ進んで行くとシスターの1人が声をかけて来た。



「あら? お久しぶりでございます。本日はどの様なご用件でしょうか??」


「今回も魔術書の閲覧をお願いしたい。」


「畏まりました。ではこちらへどうぞ。」



 シスターの案内で魔術書が保管されている部屋へと移動する。今回は上位魔術書を1冊だけ閲覧しようと思っているが、体力が持つか心配だな。上級魔術の適性は風術と水術両方に出ていたはずだけど、今回はどちらの魔術書を閲覧するべきか悩むな。そういう相談とかをシスターにしてもいいものなのか……。

 魔術書が収められている棚の前で難しい顔をしていたのに気が付いたのか、シスターが声をかけて来た。



「……どうかなさいましたか? なにか悩みごとでしたら相談にお乗りすることも出来ますよ?」


「……そんな大げさなことじゃなんだが、風術と水術どちらの上級魔術書を閲覧しようか迷っていてな……。」


「なるほど。どちらも上級魔術書では攻撃よりも防御や補助に使用する魔術の記載が多かったように記憶しております。」


「防御に補助……か。」


「どちらかお出かけになられるのですか?」


「初めてのダンジョン攻略に行くから切り札に、と思っている。……が、どちらも防御と補助なのか……。」


「それでしたら風術の上級魔術書がおススメですね。少ないですが攻撃用の魔術の記載もありますし、広範囲の防御術の記載もありますから切り札としても機能するはずです。」



 シスターのお勧めは風術か……俺自身の適性も水術より風術の方が上だしな。今回は上級魔術を何度も使って練習するなんてことをしている時間もなさそうだし、より相性のいい風術の上級魔術書を閲覧する事にしよう。

 金貨を支払い、風の上級魔術書の閲覧をする。魔術書に手をかざすと、中級魔術書の時よりも強い薄緑の光が全身を包む。と同時にかなりの量の文字の羅列が流れ込んできた。中級魔術書の比じゃないほどの文字の奔流に、頭がずきずきと痛み意識が遠のいていく感覚に陥る。なんとか意識を繋ぎ留め、そばにあるベンチへと倒れこむように座った。これはかなりしんどいな……。

 ずきずきと痛む頭を抱えてベンチで息を整えていると、目の前に水の入ったコップが差し出された。



「お疲れ様でございました。上級魔術書を閲覧して失神なさらない方は久しぶりでございます。こちらをどうぞ、少し楽になりますよ?」


「あ……あぁ、すまないな……。」



 未だまとまらない思考のなか、シスターに礼を言ってコップを受け取る。程良く冷やされたそれを口にすると爽やかな香りが口に広がり、いくらか頭痛も和らいだようだ。なにかのハーブで入れたお茶なんだろうか?? 飲み終わる頃には頭痛も収まりいつもの調子に戻っていた。

 コップをもてあそびながら、ベンチで一息つく。予想以上に魔術書の閲覧で体力を消耗してしまったな……。この後は王都の図書館へ向かう予定だったのだが……少し早いけれど休憩も兼ねて昼食にするか。

 シスターへコップを返却するついでにもう一度礼を言い、教会を後にする。



 ■■■



 昼食を取りつつ軽く休憩を取って体調を整えつつ、王都の図書館へと向かう。王都にはいくつか図書館と呼ばれるものがあるが、俺たち冒険者がよく利用するのはギルド本部の裏に併設されている図書館だろう。各地から寄せられる魔獣の情報やダンジョンの情報がまとめられたものが集まるその図書館は、冒険者御用達だ。入口でギルドカードを提示すると無料で利用できるのもポイントだろうな。割と魔獣の情報以外の本も置いているようで、冒険者以外も利用しているのも見かける。

 たくさんの本棚の間を縫って目当ての本棚へと向かって目的のダンジョンに関する情報と、出現する魔獣の詳しい生態等が載っている本を探す。幾つかの本をピックアップして机へと運ぶ。ダンジョンの特性やコアの特徴、魔獣の弱点等を中心に読み進めていく。

 こういう魔獣の弱点やダンジョンコアの情報はよく売れる。皆自分の命は惜しいから、備えられるなら備えたいからな。また、お金になる魔獣の情報などは得てして秘匿されがちだ。だが、ギルドが率先して情報を買い取り、正しい情報を精査し、公開することでガセ情報に踊らされることが少なくなり、特定のパーティだけが狩っていた魔獣は多くの冒険者たちに狩られるようになった。俺たちもその恩恵にあずかることが出来ている。

 暫く読み進めていると、隣に人の気配がした。



「にゃにゃー、熱心だにゃぁ~。」


「……一応パーティを預かる身としては備えられるものは備えておきたいからな。」


「にゃぁ? 驚かないのにゃ??」


「まぁ、人の気配がしたからな。……で? 何の用だ? カノン。」



 俺の隣の席に付き、頬杖をついてこちらを眺めるカノンに声をかける。昨日は用事があるって早々に居なくなったはずだが、何の用だろうか。



「んにゃぁ、特に用事というのは無いのにゃ。しいて言うにゃら激励かにゃ?? 受けることになったんにゃろ? 入団試験。」


「あぁ、おかげ様でな。」


「にゃぁ~。怒ってるにゃ?? 本当は入団試験なんていらないと思ってるんにゃけど、これも規則だってベアがぁ~……。」


「ふ……。いや怒ってはいないさ。特別扱いは後々の禍根を生むからな、丁度いい。」



 いつもピンと立っている尻尾と耳をペタンとしおれさせてシュンとした表情をするカノンがおかしくて笑い声が漏れる。怒っていないのは本当だ。勧誘してくれたのは感謝しているくらいだ。



「本当かにゃぁ?? じゃぁ、このカノンさんがアドバイスをひとつしてやるにゃ! 『ダンジョン攻略は余裕を持って!』にゃ。コアを潰しても魔獣が居なくなるわけじゃないからにゃ。帰りの分の体力も必ず残しておくにゃ!」


「ん……。それはどうも。」


「……なんか扱いが軽くないかにゃ?? こう見えても一応クランの幹部なんにゃけどにゃぁ……。」



 ズビシッ! っとポーズ付きで受けた助言だが、ちょっと当たり前すぎて返答に困る。適当に聞き流していると再び落ち込まれた。アドバイスを貰ったことには変わりないので礼を言っておいたが、それが余計に落ち込ませたようだ。クランの幹部というからにはかなりの手練れなんだろうけれど、こんな姿を見ていると本当かどうか怪しく感じてしまうな。

 ひとしきり落ち込んだ後は、ダンジョンに持ち込む品物などのアドバイスをして去って行った。去り際に『頑張るのにゃ!!』と背中を叩いていった。思いのほか強い衝撃にびっくりした。あの小さな体の何処にあんな力があるのだろうか。


 途中カノンの乱入があったが、調べておくべき情報はそれなりに集まった。窓辺に寄り外を見ると空が茜色に染まり始めている。結構な時間図書館にこもっていたようだ。そろそろ宿に帰るとするかな。

 明日はいよいよ目的のダンジョンへ潜る日だ。ゆっくりと休んで万全の状態で臨まなくてはな。


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