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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
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2-12 クラン所属①


新しいメンバーの歓迎会から数日後、俺たちは『黄金の夜明け』のクラン本部へと来ていた。王都南部にある『塔』よりすこし西寄りに位置するそれは、少し大きめの商館のような構えをしていた。中に入ると奥にカウンターのようなものがあり、手前は数人が充分に休憩できるスペースが確保されていた。

とりあえず奥のカウンターへ向かおうとすると、休憩スペースで休んでいた男に声をかけられた。



「お前ら、ここに何の用だ? 見ない顔だしここのメンバーじゃないよな?」


「クラン所属の手続きだ。奥のカウンターだろう??」


「フッ……。お前らがか?? どこかほかのクランと間違ってるんじゃないか? ここは『黄金の夜明け』のクラン本部だぞ?」


「…あぁ、ならあってるな。行こうか。」



男の馬鹿にしたような物言いに少しカチンときたが、ここでいざこざを起こすとここのクランに迷惑がかかる。半分無視をしたような形になるが、むっとした雰囲気のパーティメンバーに声をかけてカウンターへと進もうとした。



「おい、待てよ! 人が親切に声をかけてやってるのに、大体鈍色のガキごときがこのクランに入れるわけがないだろ!!」



俺たちの進行方向に割って入り、男は更に声を荒げる。仕方なく足を止めて周囲を見渡すと男の仲間だろう集団もこちらへと近づいて来ていた。口元には男同様、馬鹿にしたような笑みを浮かべている。他にはカウンターに座る女性しか居ないか…。……こんな奴らを所属させておくなんてこのクランの底が知れるな……少し考え直さないと駄目か?



「おいっ!! 聞いてんのかっ!?」



こちらが沈黙を通していると、焦れた男たちが俺の肩をどついてきた。仲間に緊張が走る。アスタなんかは短剣の柄に手をかけて臨戦態勢だ。まぁ、穏便になんて済みそうにないし、先に手を出してもらわないとこちらも困るんだがな。



「……先に、手を出したな?」


「なっ……だからなんだっていうんだよ! お前らじゃここにふさわしくないって親切に注意してやってるのに無視してるからだろうが! 聞いてんのか!?」


「親切に注意……ねぇ?? あぁ、受付も見ていたよな? 先に手を出したのはその男だって事。」


「えっ?? えぇ、そうですね。先に手を出したのはそちらの……。」


「おい! 関係ない奴まで巻き込むんじゃねぇよッ!」



受付の女性にかぶせるように再度男が吠える。関係ない?? いや、彼女はしっかりした目撃者になってもらわないと困るからな。立派な関係者だよ。

今のやり取りの間に男の仲間たちは俺たちを囲むように陣取っている。俺たちの年齢やランクが低いからって舐めすぎだ。今にも短剣を抜こうとするアスタを抑えつつ男へと対応する。



「はぁ……。親切にご忠告どうも。……なんて言うと思うか? 大体、俺たちがどんな返事をしようとお前らは気に入らないんだろうが。ギルドランクでしか物事を見れないような奴に用はないんだよ。」


「なっっ!!! ……なら身体に直接教えてやるよ!!」



俺に言い返されて言葉が出ないのか、顔を真っ赤にしながら激昂している。馬鹿にされたという事はわかったようだ。男の言葉に合わせて、奴らの仲間も一斉に抜刀してこちらへ刃先を向ける。

ここまですれば正当防衛が成り立つよな……? 少なくとも事を荒だてたのは向こうの方だ。こちらも応戦の構えを取る。



「やっちまえ!!」



男の一声にあわせて、剣が走る。アスタとポックルは短剣で、俺とアーロンは体術で男たちの剣をいなす。こちらの方の数が多い分、接近戦の苦手なミルキィを中心にして庇うような動きとなる。

2度3度と剣が振るわれるが、そう苦もなく捌いていく。仲間たちも同じ様だ。少し前まで接近戦が出来なかったアスタも危なげながらなんとか捌くことが出来ているようだな。あ、途中アーロンに何度か助けられているのか。それにしても、アスタが捌けるほどの剣の腕前で本当にランクが俺達より上なんだろうか。他に優秀な仲間がいたとか? この程度の実力でもランクCというだけで『塔』に挑めるのならさっさとギルドランクを上げておくんだったな、失敗した。

こちらからは反撃せず防御に徹していると、男たちは最初はにやにやと嫌な笑みを浮かべていたが、数度同じように防御され、更にこちらに余裕があることが分かると次第にいら立ち、顔は赤く額には汗が光ってくるようになった。それでも剣を繰り出してくるところをみるに、引くに引けなくなっているようだ。

いつまでこの状態が続くのかと思った矢先。



「ガンガンとうるさいにゃぁー!!! 誰にゃっ!! うちのクランで騒いでいるやつはっ!!」



突然2階へと続く階段の方から大声が聞こえた。その声が聞こえるや否や、ピタリと男達の持っている長剣は動きを止めた。うちのメンバーは突然の状況に少々困惑しているようだ。いったい誰だ?? この状況を収めてくれるならありがたいんだが……。



「一体何の騒ぎにゃ! うちのメンバーのいざこざかにゃ? ……にしては見かけない顔にゃし……?? アニャ、状況説明!」


「あぁ、カノン様! いいところにいらっしゃいました。実は……」



受付の女性が上から下りてきた猫獣人の女性に状況説明を始めた。ん? …カノン?? そう言えばどこかで聞いたような名前だな……。

俺が猫獣人の名前に引っ掛かりを覚えて少し悩んでいる間、男たちは真っ赤だった顔を蒼白く変え、何処か錆び付いているんじゃないかというほどぎこちない動作で武器をしまい、非常にゆっくりとクラン本部の出口の方へと移動を始めていた。



「なるほどにゃ。っとお前達どこへ行くにゃ?? ちょーっと話があるからそこで待ってるにゃ。……逃げようなんで思うんじゃにゃいよ……??」



カノンが声をかけると男たちは一様にビクッと肩をすくめ、同じく肩を落としてその場へと座り込んだ。カノンは受付の女性に何かを言付ると俺達の方へとやってきた。ゆらゆらと尻尾を揺らしながらやってくるその様は心なしか喜んでいるようにも見える。

急に現れたカノンに対して警戒をしていた仲間たちもその様子に戸惑っているようだ。



「せっかく訪ねて来てくれたのに、不快な思いをさせてしまって申し訳にゃいにゃ~。あいつらは前の面接で落とされたパーティにゃ。変なのに絡まれたにゃ。うちのクランで抜刀騒ぎを起こしたからにはそれ相応の処分を受けさせるのにゃ。それで勘弁してほしいのにゃ~。」


「いや、こちらも騒ぎを大きくしてしまって済まなかった。」



カノンが礼儀正しくこちらへと謝罪してきた。受付の女性はこちらが絡まれただけだと正確に説明してくれたようだ。仲間もカノンの礼儀正しさに警戒を解いたようだ。こちらも奴らに先に手を出させるべく動いていたから謝罪する。カノンは手をヒラヒラさせて謝罪は必要ないとアピールした。



「それにしても、ミズキが来てくれるとは思わなかったにゃ~。一応声はかけたけど、正直来てくれるかは半々だったにゃ。ミズキのパーティなら歓迎するにゃ!」


「やっぱりあのときのカノンだったか。パーティで相談してみたが、ここに世話になることにした。」


「カノン様!? お知り合いだったのですか? というか、入団テストはどうなさるおつもりです!?」



カノンは歓迎してくれているようだが、普通なら入団テストがあるようだ。まぁ、一応勧誘を受けた身ではあるが、入団テストもなしに加入すると後々面倒そうだ。内容にもよるが、なるべくなら受けた方がいいだろうな。

そんなことを考えていると、ポックルが俺に話しかけてきた。



「ねぇねぇ、ミズキくん。もしかし……なくても『黄金の夜明け』に勧誘してきたのってそこにいるカノン…様…? なのかな??」


「ん? あぁ、そうだぞ。王都に付いたその日に塔で会ったんだ。」


「『黄金の夜明け』幹部からの勧誘だったとか……。やっぱりミズキくんってすごい人なのかな? なのかな??」


「にゃっ? ミズキのパーティは賑やかだにゃ。私は少し出かける用事があるから、詳しい話はアニャに聞くにゃ!」



ポックルが軽く混乱している間に、カノンは用事があると出かけて行った。思わぬ再会だったが、受付の女性に説明する手間が省けて良かったと思う事にしよう。

改めて受付女性にむかい、名乗ることにした。



「さて、改めて自己紹介を。『廻る旅人』リーダーを任されているミズキだ。今日はここのクラン『黄金の夜明け』へ加入するつもりで来た。よろしく頼む。」


「あ!? ……っと、コホン。ようこそ『黄金の夜明け』クラン本部へ。受付のアナと申します。カノン様のご紹介と伺いました。応接室へどうぞ。」



改めて受付の女性…アナと挨拶を交わし、奥の応接室へと案内された。応接室への道すがら、アナはこのクラン本部に付いて軽く説明をしてくれた。1階は先ほどの受付と休憩兼待ち合わせスペース、この後行く応接室が2つ、会議室用の個室が2つあるという。2階以上はクラン幹部のパーティルームや個室、3階はクランマスターの部屋があるようだ。あとこの建物の裏にはクランの共有倉庫があるらしい。

案内された応接室は、落ち着いた色合いの家具でまとめられたセンスのいい部屋だった。広めのテーブルにソファがいくつか配置されている。アナは俺たちに座って休むように告げ、クランマスターを呼びに行くと部屋を出て行った。



「ふぅ~。受付前に絡まれた時はどうしようかと思いましたぁ~。何のお咎めもなくて良かったですねぇ~??」


「まぁ、そのために相手に先に手を出してもらったのでしょう? ミズキさんもすごい方とお知合いなのですね? 勧誘をうけたのはこのクランの幹部の方なのでしょう?」


「そうそう! 俺びっくりしちゃったよ!! 言ってくれればよかったのに。」


「いや、俺も今知ったところだ。……それにしてもアスタはだいぶ接近戦の腕を上げたみたいだな??」


「へへっ! でもだいぶアーロンさんに助けてもらったけど……。毎日の鍛練は欠かさないようにしてるし、最近はポックルさんにも教わってるからな!!」



ソファで軽くくつろぎつつ仲間内で雑談をしていると、応接室のドアがノックされた。


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