2-10 パーティの相性②
「ハァッ!! ……『ツインブレイク』!!」
ギャウン!!
アーロンの剣がありえない軌道を描きブラックウルフに襲いかかった。ほぼ同時に2撃って物理的に上段切りから切り上げのコンボだと思っていたけど、全然違った。あんな風に人って動けるんだな……。
ブラックウルフはダメージを負ったがその闘争心は微塵も衰えず、むしろ怪我を負わされた事によってより苛烈に攻撃を繰り出す様になってきた。グレイウルフと比べると倍近い体躯を持っているにもかかわらず、奴らより数段素早く繰り出される攻撃をアーロンはうまく剣で捌いているが、その気迫によって徐々に押されてきているようだ。ちょっと1人で任せるには荷が重かったかもしれないな……。
アスタ達の牽制をすり抜けてきたグレイウルフを切り倒しながら、アーロンの援護をするべく水術を唱える。
「『ツイン=ウォーターアロー』!!」
2本の水の矢がブラックウルフの死角から迫るが当たる直前で身体を捻って避けられ、掠る程度のダメージしか与えられなかった。……少し攻撃が単調すぎたか??
グルルルアァァァ!!
攻撃を邪魔されたせいか殺気立ったブラックウルフがこちらへと顔を向け威嚇してきた。その隙になんとかアーロンは体制を立て直せたようだ。グレイウルフ達が邪魔をしようと集まってくるが、アスタ達と連携しアーロンには近づけないようにしながら確実に戦闘不能へと追いやっていく。
アーロンを水の矢で援護しつつグレイウルフの相手を優先する。ほぼ全てのグレイウルフを戦闘不能とすると、後はミルキィ達に任せてアスタをこっちに呼びよせた。
「アスタ! こっちでアーロンの援護を頼む!! ミルキィ達はグレイウルフ達の監視と不測の事態に備えて待機!」
「了解っ!! っと! 『ファイアアロー』!」
「了解ですぅ!」
「……っくぅ……助かります!!」
丁度体制を崩したアーロンへと迫っていたブラックウルフの前脚にアスタの放った火矢が命中して軌道が逸れ、その爪は革鎧を掠めるに留まった。……危ない所だったな。直撃していたら重症じゃ済まないぞ、あれは……。アスタ、ナイスフォロー!!
アーロンはすぐさま体制を立て直し、アスタと俺の魔術による援護を受けつつブラックウルフと切り結ぶ。亜種のせいかグレイウルフよりも知能的に立ち回るグラックウルフに中々隙はなく、アーロンも攻めあぐねているようだ。どこかで一瞬でも隙が出来れば何とかなりそうな予感がするんだが……。
「ちっ! 中々隙が出来ないな……。これでもくらえ! 『マッド=ピットホール』!!」
両者攻めきれない展開に焦れていたアスタが、ブラックウルフの足元へと泥沼を展開した。アーロンへ攻撃しようと一歩踏み出した丁度その場所が泥沼と化したことで、ブラックウルフが盛大に足を滑らせた。
キャイン!!!
「これで……終わりだ!! 『三段突き』!!」
やっと生まれた隙を見逃すはずもなく、アーロンが放った三段突きがブラックウルフの眉間、首、胸元へと吸い込まれるようにヒットしていく。急所への連撃にブラックウルフは声を上げることもなく血の海へと力無く伏した。その後、手分けをして戦闘不能のグレイウルフに止めを刺して回った。
「はふぅ~……これで終了ですぅ??」
「……みたいだな。お疲れ。」
「つっかれたぁ~!! 不意打ちからの数の暴力ってきっついー!!」
「すみません、私がもっと早くブラックウルフを倒せていれば……。」
「アーロンさんのせいじゃないですよぉ?? ダンジョンでは良くあることですぅ。」
アーロンはまじめな性格らしいな。ミルキィの言うとおりダンジョンでは良くあることだし、むしろ良く動けていたと思うんだがな。ポックルもアーロンも俺はパーティに迎えてもいいと思うんだが、皆はどう思うか……帰ってから相談しないと。
ボス部屋でしばらく休憩したのち、先へは進まずに来た道を入口へと戻って行った。ボス戦を経験したためか、帰り道の方が話も弾みいい雰囲気になったような気がする。入り口まで戻って解散とし、素材の売却金は後日ギルドで分配する事、結果もその時伝えることとしてアーロン達とは別れた。
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『それで……どうなさいますか?』
宿に戻って一息ついた後、少し早いが夕食に食堂で集まった時にタクトから話題を振ってきた。パーティメンバー追加の件だろう。丁度食事が運ばれてくるまで時間がありそうなので、そのまま続けることにした。
「うーん……あたしは2人ともいい人だったしぃ、ポックルさんの罠解除はとっても頼りになるしぃ……。仲間になってもいいかなぁって思うんですぅ!」
「うーん、そうだなぁ……面接のときに来た奴らや、俺たちを勧誘に来た奴らよりはましなんじゃねーか?? ポックルは俺たちに出来ないことを簡単にやってるから、本当にすごいと思うぜ。」
『あの方たちは本当に執拗に迫って来られましたからねぇ……。』
王都に来た当初、しつこく勧誘され続けたときを思い出しているのか、タクトが遠い目をして呟く。あの勧誘のしつこさには俺も参った記憶がある。
なんにせよ、アーロン達をパーティに入れることに対して悪いイメージは抱いていないようだ。あの二人をパーティに加えると、タクトを含め6人となる。回復役や斥候もいる割とバランスのいいパーティになりそうだ。欲を言えばアーロンに盾を持ってもらってタンクの役割をやってもらえるとより安定するだろうな……。
「俺もあの二人はパーティに必要だと思う。欲を言えばアーロンには盾職に就いてもらいたいと思っているが……。それは本人に確認してみない事には何とも言えないだろうし、盾職じゃなくてもいてくれるとありがたいと思う。」
『盾職……で、ございますか。確かに1人敵の攻撃を引きつける方がいらっしゃると安定したパーティ構成となりそうでございますね。』
「でもアーロンさんは両手剣でしたよぉ? 盾職へ変更してくれますかねぇ??」
「急に戦い方を変えるのはキツイんじゃないか?? 王都までソロで出てきた人だろうし、こだわりとかあるんじゃねぇの??」
「……そこは流石に本人に聞いてみないとな……。まぁ、とりあえず2人とも採用という事でいいか? 後の事は2人を交えて話し合いをした方が早そうだし。」
「「『異議なし!』」」
話がまとまったところで丁度料理が運ばれてきたため、そこからは雑談へと切り替わった。パーティが増えることによって、そろそろクランへの所属も現実味を帯びてきたな。新しく加わるメンバーの意見も聞いてからだが、一応勧誘を受けている『黄金の夜明け』への所属を前向きに考えていくか……。
■■■
翌日、ギルドの個室でアーロン達と会い、素材の売却金を分割した後にパーティへの所属をお願いした。正直あまり活躍の場もなかったし、断られるとばかり思っていたらしいアーロンには驚かれたが、2人とも快く了承してくれた。
下でパーティ登録を済ませ、改めて加入のお祝いをしようという事で王都でも評判の店へと向かった。
「『廻る旅人』へようこそですぅ~!!」
ミルキィの音頭で各々手にした杯を合わせる。今後の話もしたいので、と個室を取ってアーロン達の歓迎会だ。まだ昼間だからか、不快な酔っ払いどもも少なく、いい雰囲気で食事を進めていく。そんな中、意を決したようにポックルが俺たちに訪ねてきた。
「僕はパーティに入れてもらえて嬉しいんだけど、本当に良かったのかな?? 君たちは僕の見た目には何も言ってこないけど……正直自分でも子供にしか見えないってわかってるし、……その、頼りなくないの??」
「そんなことないですよぉ?? 特にダンジョンのなかではとーっても頼りがいがあると思いますぅ!!」
「そうそう! あっという間にマッピングしちゃうし、罠を見つけるのも、解除するのもうまいよなぁ~。」
「私には出来ない事なので、尊敬します。……それより、前回何の活躍も出来なかった私が入れてもらえるとは思ってもいませんでした。……正直、足手纏いだったのではないですか??」
ポックルの疑問を一蹴するなかで、アーロンが不安そうな顔をして呟く。ボス戦ではかなりいい戦い方をしていたような気がするが、自分の腕にあまり自信が無いのだろうか?? 俺としては剣一本でいくよりかは、盾を使ってくれた方が戦術も広がるので嬉しいのだが。
そんなことを考えていると、アスタがアーロンを励ましていた。
「いやいやいや、長剣でブラックウルフと正面から渡り合えるってすごいと思うぞ?? うちはミズキ以外近距離が苦手だから、いてくれるとすごく助かると思うんだ。」
「そうなんですぅ。遠くからの援護が精一杯なので、ミズキさんと肩を並べてくれる方がいると心強いですよぉ!!」
「……そういうことだ。2人とも俺たちのパーティに必要だと思うから加入をお願いしたんだぞ?」
「っ……ありがとうございますっ! 村から出てきて右も左もわからない私ですがっ! よろしくお願いします!!」
「僕も! 皆の期待にこたえられるように頑張るね!」
2人が決意を新たにしたところで、本題に入る。アーロンは今剣士をしているが、パーティのバランスを考えると、盾を持って防御にも力を割いてもらいたいと言う事を話した。特にうちは接近戦が苦手なのが2人もいるから、あまり後衛へ魔獣を行かせたくない。今の戦い方を少し変える必要があるため、出来ればそうしてもらいたいと話すと、アーロンは快く了承してくれた。本当にいい人だな……。
次に、クランへの所属についてだ。パーティメンバーも増えたことだし、そろそろ本格的にランクを上げて『塔』の攻略を目指したいところだ。そのためにもクランへの加入が必須となる。一応勧誘を受けているクランがいくつかある事、俺たちはその中でも『黄金の夜明け』に加入した方がいいんじゃないかと考えていることなどを2人に説明した。
「ほえぇ~。『黄金の夜明け』なんてメジャーなクランから勧誘を受けるなんて、実はすごいパーティなの?? え? とんでもないところに所属しちゃった??」
「私はクラン?がよくわからないので、皆さんの意見に従います。……なんか、すごいところなんですか???」
思ったよりもポックルの反応がすごいな。アーロンは最初の頃の俺達と同じ反応で安心した。ポックルは王都でも活動していた冒険者だから、有名なクランだと言う事は知っているようだ。少し混乱しているようだし、もう少し詳しく話す必要があるな。
「自分で言うのもアレだが、そんなにすごいパーティじゃないからな? たまたま『塔』の見学行ったときにクランについて教えてくれた冒険者が『黄金の夜明け』所属だったってだけだぞ。たまたまだ、たまたま。」
「いや~、たまたま勧誘なんかしないでしょ?? ……しないよね??」
自信がないのか周囲に確認している。本当にたまたまだよ、たぶん。ポックルもクランの所属に対しては反対の意思はないようで、『黄金の夜明け』の本部に一度行ってみると言う事で話はまとまった。
難しい話はここで終わり。誰が注文したのかアルコールの入った杯が配られ、歓迎会はまだまだ続くのだった。




