2-9 パーティの相性
面接日から数日後、アーロン、ポックルと共に王都から少し離れた街にあるトラップが多いと噂のダンジョンへとやって来ていた。このダンジョンは階層が深くなるにつれトラップの難易度が上がっていくという魔獣よりはトラップに重きを置いたダンジョンという事で有名だ。
「今日はよろしくお願いします。」
「これは僕が活躍するダンジョンだね! よろしく!」
アーロンは初めて潜るダンジョンの為少し緊張気味に、ポックルは自身の得意なダンジョンのため張りきって挨拶を交わした。とりあえずポックルを先頭にアーロン、アスタとミルキィ、殿に俺という陣形で進むことにした。
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ポックルを先頭にダンジョン内を進むこと2時間。スカウトがいるといないとでは雲泥の差があると認識した。まず、移動がすごく楽だ。進む先のトラップがある場所を的確に示してマーキングしてくれるし、移動に邪魔になるものは安全に解除してくれる。更にマッピングも同時進行で進めるし、魔獣に遭遇した際は投げナイフでトラップが解除された戦い易い場所へと誘導してくれる。そしてどの動作にも無駄が少ない。……さすがは経験者というところか。
「うーんっと……よしっ、この通路も大丈夫だよっ! そろそろ次の階段が見えてきてもいい頃だと思うんだけどなぁ~??」
「さすがポックルさんですね。私はまだ全く役に立てなくて……。」
「スカウトっていろんなことが出来るんですねぇ~? わたしは索敵に集中できて嬉しいですぅ。」
「殆ど魔獣もいねぇし、俺は楽させてもらってるなぁ。あ、でも次の階層はボス部屋だから、アーロンさんの活躍に期待かな?」
「あっ、はいっ! 頑張りますっ!!」
元々トラップが多いこのダンジョンは魔獣の数も少なく、強さもさほどない。ましてミルキィの索敵魔法でだいぶ先に発見できてしまうため、大抵はミルキィの弓やポックルの投擲で方が付いてしまう。ここまでアーロンの出番は殆どなく、少し自信をなくしてしまったのかも知れない。ボス戦では積極的に戦ってもらうかな。
4階層もポックルのおかげで時に危険なこともなく、5階層へと続く階段を発見する事が出来た。次はボス部屋のため、少し昼には早いが階段を降りたところにある小部屋で食事を兼ねて休憩をとることにした。宿屋に併設されている食堂で準備してもらった人数分のお弁当を取り出し、配っていく。もちろんポックルやアーロンの分も用意してある。
「私たちの分まで……すみません。ありがたく頂きます。」
「お弁当付きなんて嬉しいね! 頑張って働いた甲斐があったなぁ~。前のパーティではいつもダンジョンでのお昼は携帯食だったから、味気なくてさぁ~……。」
「食事がおいしいと、とぉってもやる気がでますよねぇ~? モチベーションが違ってくるというかぁ~。」
「そうそう! 携帯食はテンション下がるよぉ~。」
「その点うちのリーダーは料理上手なんだぜ! ミズキと一緒ならダンジョンでもうまいご飯が食べられるぞ!」
「……お前らは少し自重しろ。言っておくがパーティ資金に余裕があるうちだけだからな? 余裕がなくならないようにしっかり稼げよ?」
「もちろんですぅ!」
「このパーティはパーティ資金を作っているのですか?」
「ん?あぁ、そう言えば説明して無かったな。基本クエストの達成報酬と素材を売却した金はパーティ人数+1で均等割りにしてパーティ資金を作っている。まぁ、休日にソロで達成したクエストなんかは各自好きにしてもいいことになっているがな。パーティ資金からは、宿代や食費、薬代なんかを支払っている。装備の更新は各自の資金から賄ってもらっているが、足りなければパーティ資金から借りることもできるぞ?」
「なるほど……。メンバーは平等という事ですね?」
「まぁ、そうなるな。どうしても魔獣を倒した数は前衛に偏るが、魔獣を倒してない奴がパーティに何も貢献していないかというとそんなことはないからなぁ……。たくさん魔獣を倒す前衛職は不満に思うかもしれないけど、俺はこれが一番いいと思っている。」
「いえっ! 私もいいと思います。」
そんな話をしながらゆっくりと食事をして、充分に休憩を取った俺たちはボス部屋の扉前で作戦の最終確認をした。
「今回はアーロンの実力を見る事を目標としている。もちろんポックルの戦闘スタイルの確認も一緒にするが、メインはアーロンだ。このダンジョンの5階層のボスはグレイウルフの群れだ。群れのリーダーはグレイウルフの亜種、ブラックウルフ。リーダーを中心に厄介な連携をしてくるらしいから、まずは真っ先にリーダーを倒すこと。」
「はい。私はミズキさんと前衛ですね! 後衛はミルキィさんとアスタ君とポックルさんで、私はミズキさんとブラックウルフの相手をする。」
「俺はまず魔法でかく乱、次にグレイウルフを狙い撃ちで倒す!」
「あたしはぁ、弓でグレイウルフ達の連携の邪魔をすることぉ~。出来ればポックルさんと一緒にぃ。」
「僕はミルキィちゃんを護衛しつつ一緒にかく乱、出来たら止めを刺す。……であってるかな?」
「ん、大丈夫そうだな。まぁ、初めての連携になるから多少のズレはあるものだと思ってくれ。その場合は俺の指示に従う事……いいな?」
「「「「了解!(なのぉ~)」」」」
5階のボス部屋の扉を開ける。部屋の奥に黄色い光が二つ見えた気がしたが、中は薄暗くて奥までよく見通せないな……。『ライト』の魔法を唱えて視界を確保しつつ中にはいると、徐々にその全貌が見えてきた。
グルルルル……
部屋のなかほどには、黒い毛並みの大きな狼が寝そべっていた。退屈そうにあくびをしながら、こちらを値踏みするかのような視線を投げかけてくる。見たところ魔獣は寝そべっているブラックウルフのみで、他には見当たらない。この階のボスはブラックウルフが統率するグレイウルフの群れだったと記憶していたが、間違いだったのか……?
「あれ……? ブラックウルフ1匹だけ……??」
「他の魔獣はどうしちゃったんでしょうぅ??」
「さぁな。でももうボス部屋の中だ、油断するなよ?」
思っていたより少ない魔獣の数に動揺する声が聞かれたが、緩んだ気を引き締めるように声をかける。どの道戦闘する事に変わりはないしな。各々の武器を構えて戦闘態勢に入った俺たちに反応してか、今まで寝そべっていたブラックウルフが立ち上がり、こちらをにらんで咆哮をあげた。
グルル……グォアァァァァ!!!
びりびりと空気が震える。威圧の効果もあるんじゃないか? これ。ブラックウルフの方向に呼応するように床に多数の魔法陣が浮かび上がり、そこからグレイウルフが次々と飛び出してきた。くっ……思っていたよりも数が多いな!!
「わっ!! 倦族召喚ですかっ!?」
「なんか数が多くないかぃ!?」
「油断させたところにこれって……卑怯ですぅ!!」
「ちっ! とりあえずグレイウルフを減らしてミズキとアーロンさんをブラックウルフの所へ送り込むぞ!! 『ツイン=ファイアウォール』、『トライ=ファイアアロー!』」
いち早くアスタが立ち直り、次々召喚されるグレイウルフを分断するように炎の壁を出現させ、ブラックウルフまでの道を作るように火の矢で敵を屠っていく。アーロンと俺もブラックウルフへと近づくべく、手近なグレイウルフへと切りかかる。ポックルとミルキィは炎の壁を越えてこようとするグレイウルフを狙っているようだ。どうにか事前に話し合っていたように対応出来ているようだな。
アスタの作った炎の壁によって多くのグレイウルフは行動を阻害されているようで、一気に囲まれると言う事は無くなったが、グレイウルフが倒されると同時に次々と召喚されていくため、なかなか数が減らずにじりじりと追いつめられているように感じる。実際ブラックウルフは最初の場所を動かずに、短く吠えてはグレイウルフ達に指示を飛ばしている。この数を召喚しているはずなのに随分と余裕そうだな……何か仕掛けがあるのか??
「あぁっ! 1匹グレイウルフを倒したと思ったらまた新しいのが召喚されている気がしますぅ~!!」
「ミズキ! これじゃキリがないぞっ!!」
「流石にこう次々と来られると困っちゃうねぇ……。」
「これは……ブラックウルフが召喚してるんじゃなくて、卷族の自動召喚か何かか?? ……どうやら一定数以上の召喚は出来ないようだな……。よし皆、止めは刺さずに行動不能にして対応しろ!!」
「わわっ! 了解ですっ!!」
「よし、そういうことなら……『ラウンド=ファイアウォール』!」
アスタが円形の炎の壁を作り、数匹のグレイウルフをその中に閉じ込め、ミルキィ達は目や足の関節等に狙いを定めている。俺たちも目をつぶし、足を切り飛ばすなどして少しずつ行動不能にしていく。予想通り、一定数以上のグレイウルフは召喚されず、徐々に行動不能になり蹲るグレイウルフの数が増えてきた。
群れが分断され、さらに再召喚を阻止されて思うように戦況が進まないためか、少しいらだった様子のブラックウルフは、俺たちが徐々に近づいていることに気がつかぬまま、時折吠えてグレイウルフ達に指示を飛ばしている。
「そろそろ場を整えるか……『ウインドサークル』!」
ブラックウルフを中心として暴風が吹き荒れて、常にブラックウルフのそばに付いていたグレイウルフ達を吹き飛ばす。するとブラックウルフを中心とした空白地帯が生まれ、アーロンと俺はそこに駆け込んでリーダーであるブラックウルフと対峙する。吹き飛ばされたグレイウルフは、アスタ達がうまくこちらへ近づかないように牽制してくれているため、ボスに集中出来そうだ。
ガルルルアァァァッ!!!
群れから孤立させられたブラックウルフは、こちらに対して敵意をむき出しにして唸っている。まずは牽制を、と風術を唱えようとした時、アーロンが武技を使用してブラックウルフへ切りかかっていった。




