2-8 面接
なんだかんだとギルド本部での面接日がやって来た。パーティメンバー採用の面接なので、アスタ達と共にギルドへと向かい、個室へ案内される。どうやらここで1人1人面接出来るらしい。3対1だとなんか圧迫面接になりそうだな……。
まずはランクEのソロ冒険者から面接を始めることにした。簡単な自己紹介の後に、公にしたくないスキルなんかもあるだろうし、差し支えのない範囲でギルドカードの提示をしてもらう。まだ面接の段階だしな。
「初めまして、アーロンです。辺境の村から最近王都へと出てきました。ランクはEで長剣を使う剣士です。よろしくお願いします。」
最初のソロ冒険者は、少し田舎くさい格好をした剣士だった。腰に下げている剣は少し古ぼけていて中古品であることが分かるが、良く手入れされているようだ。身につけている防具も革製で中古品の割には良く手入れされている。提示されたギルドカードにも剣術のスキルが比較的高いランクであること以外は特に特徴的なものはない。至って普通の冒険者のようだ。
王都までどんな依頼を受けたのか、ダンジョンに潜ったことがあるかなどの質問をして面接は終了とした。初めての面接だが、まぁ、こんなものだろう。
「貴様ら、王都では視ない顔だな? 俺はサン=ブラッドフォードだ。所謂没落貴族の出というやつだが……ふん、まぁ貴様らには関係のない話か。現在のランクはEで長剣と盾を使う騎士をやっている。この俺が加入してやるんだぞ、喜べ!」
次のソロ冒険者は装飾のある装備に身を包み、装飾過多の剣をさげ、派手な盾を持っている…まぁ、所謂お貴族様だった。自信家で尊大な態度を隠し切れていない。それなのに提示されたギルドカードのランクはたいしたことはない……むしろ前のアーロンの方が剣術のランクは高いくらいだ。それでよくこんな態度が取れるもんだな……。
多少呆れつつ、アーロンにした質問と同じような事をいくつか質問し、面接を終了した。何故か無駄に疲れた気がする……。
「こちらで追加のメンバーを募集していると聞きました。ポックルと言います。こんな成りをしていますが、もう成人はとうに過ぎているのです! それなのに……前に所属していたパーティの皆さんは僕を外見で判断して言う事を聞かず、罠に突進し半壊……もれなく解散してしまいました……。色々と出来ますが、指先を使う事が得意です! あ。ランクはDで一応職業はスカウトになっています。」
経験者の1人目はミルキィよりも背が低く、まるで子供のような背格好をした人物だった。これで成人しているとは驚きだが、提示されたギルドカードを見て納得した。どうやらホビット族らしい。色々できるとの言葉通り、ランクは低いが様々なスキルが並んでいる。
以前組んでいたパーティは外見でポックルを判断し、侮ったために半壊したとのことで特にポックルに非はないようだ。アーロンにした質問に加えて、潜ったダンジョンの種類なども聞いておいた。受け答えもはきはきしていて、印象はいい方だな。
「やぁ! メンバー募集をしていると聞いてやって来たよ。僕は罠を作るのも解除するのも設置するのも大好きでね? 罠師なんていうちょっと変わった職業に就いているんだよ。もちろんどんな罠の設置も解除もお手の物だよ!! えっ? ……前のパーティ?? いやぁ、結構ランクの高いパーティでいろんな素材が手に入ってさぁ~。それで作った罠を試したくて試したくて……好奇心に負けていろんなところに罠を仕掛けてたらリーダーが怒っちゃってね?? そんでぽいっと追い出されちゃってさぁ……。別に死にはしない罠なんだけど、なんでだろうね??」
2人目の経験者は、なんというか少し危ない気配がした。色々なとこに罠を仕掛けるとか、前のパーティを追い出されたのも納得だ。でも罠の解除に関しては本物だろう。なんせギルドカードの罠解除のランクがBと抜きんでている。……が、性格というか価値観が合わなさそうだ。一応ポックルと一緒の質問をしたが、いちいち罠の魅力を挟んでくるのが非常にうざかった。
前衛職が2人、斥候職が1人と罠師というちょっと見慣れない職業の人が1人の全部で4人の面接が終わった。とりあえず4人には後でギルドから結果が通知されると説明して帰ってもらい、色々と話し合ってみた。
「……一応全部の面接が終わったが、率直な感想を聞かせてほしい。」
「えっ……。え~っと……あの罠師の人とはちょっと関わり合いになりたくないかなぁって思うの~。個性が強すぎるって言うかぁ……。」
「俺もあの人はちょっと……。っていうか罠に対する執着が怖えぇよぉ!」
「ま、当然の判断だな。アレはなしとして他はどうだった?」
「あ~……俺は貴族と関わると碌な事がないって聞いたぞ? あのブラッドフォードとかいうやつは大丈夫なのか?? 無駄に偉そうだったけど……。」
「没落貴族とか言ってましたねぇ……。騎士らしい受け答えみたいでしたけど、なんか見下されている感じがしましたぁ~! 盾を使える人がいると戦闘は楽かも知れないですけど、私はちょっと嫌かなぁ……??」
『ブラッドフォード家といえば名門貴族だった記憶があるのですが、没落されていたとは……。ですが、代々野心家が多い家でございましたので、今後復興されるつもりではないでしょうか。』
「俺も面倒な貴族と積極的に関わる気は今のところないな。……という事は、今のところ妥当なのはアーロンとポックルか??」
『剣士とスカウトでございましたね。丁度必要としている職種ですし、一度相性を確かめてみてはいかがでしょう?』
色々と話し合った結果、アーロンとポックルを加えて相性を見るためにダンジョンへ潜ってみようと言う事になった。ギルドの職員へ伝えて、一緒にダンジョンに潜る日程を調整してもらう。罠に対する処置なんかも見たいので少し王都からは遠いが、罠が多いと有名なギルド管理のダンジョンへ行ってみようと思う。
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思いのほか面接が早く終わったので、メンバーで酒場へとやって来ていた。少し遅いが昼食を兼ねて食事を摂る。王都でも有名な酒場だが、まだ正午を過ぎたばかりとあって割と空いており、運よく個室を取ることが出来た。
「あぁ~、面接なんて慣れない事をしたせいか疲れましたぁ~!」
「王都っていろんな人がいるんだなぁ。罠師なんて犯罪スレスレじゃんか。いいのか、アレ。」
「まぁ、衛兵に見つからない限りは大丈夫なんだろうな。」
午前中に行った面接に対する愚痴をかわしつつ食事を摂る。そう言えば、こうやってのんびり食卓を囲むのも久しぶりな気がするな。しばらく食事を楽しんだ後、ふと思い出した事をメンバーと相談する事にした。
「それで……だ。まだ少し先の話になると思うんだが、クランへの所属をどうしようかと考えているんだ。一応クランからの勧誘も受けてはいるんだが……。」
「『塔』の攻略をするのには所属必須なんでしたっけぇ?? どこのクランから声がかかっているんですかぁ??」
「あぁ、『黄金の夜明け』というクランだ。知っているか?」
「ちょっ!! マジかよミズキ!! 『黄金の夜明け』っていったら貢献ランキングの常連で結構な歴史のあるクランだぞ!」
「……そうなのか?『塔』の見学に行ったときにサクッと勧誘されたからな……。全然そんな感じはしなかったな。」
「はぁ~、ミズキさんは鈍感なのか動じなくてすごいのか……判断に困りますぅ。」
『今は新しくメンバーを募集している最中ですし、新しく入る方の意見も聞かれてはどうでしょうか。』
「それは俺も考えたんだがな。今のメンバーで意見の統一を図った方がいい気がするんだ。もちろん新しいメンバーにも意見は聞くぞ?」
「俺は『黄金の夜明け』に加入できるならしておいた方がいいと思うぞ! なんてったって歴史があるからな! その文『塔』に関する情報も持ってるだろ。」
「ランキングの常連ですから、加入するだけでも色々と恩恵がありそうですしねぇ~。」
「自由に攻略させてもらえるなら俺はどこでもいいんだがな。下手なところに加入すると魔石の納品ノルマとかがあるらしいし、そんな所はごめんだ。」
『「黄金の夜明け」は納品ノルマなどを課さないようですね。それでランキング常連とは、よほど優秀な冒険者が集まっているのですねぇ……。』
食後の休憩を兼ねて個室でゆっくりしている間、クラン所属について色々と意見を交わす。概ね皆の意見は『黄金の夜明け』に対して好意的だ。まぁ、他に勧誘も受けていないし特に所属したいクランも無いので、『黄金の夜明け』に所属してもいいのかも知れない。後は新メンバーの意見も聞いて所属するかを決めるとするか。




