2-6 ボス戦と野営
翌日、朝早くに昼食用の軽食を受け取った俺たちは宿をあとにして昨日のダンジョンへと来ていた。今日もミルキィはマッピング、アスタが道案内、タクトが索敵という振り分けで行くことにした。俺は一番先頭でトラップ発動、対処の係だ。
1階層、2階層は昨日とほぼ変わりなく魔獣との戦闘も難なくこなしてサクサク進んで行く。たくさん肉素材が回収できてミルキィの顔が締りないのはまぁ仕方ないだろう。すぐの昨日撤退した3階層へとたどり着く。
「ミズキ、その……大丈夫なのか??」
「無理しないでくださいねぇ??」
「大丈夫だ。準備もしっかりしたし、昨日のような心配はもう掛けない。」
鞄から昨日購入した木の棒を取り出して進行方向の床を探りながら進んで行く。途中の通路で昨日遭遇した毒霧や、落とし穴、飛び矢等のトラップを発見したが、充分距離を取った上で発動させたため、特に被害を受けることはなかった。毒霧はウインドウォールでこちらに影響が出ないようにし、飛び矢は木の盾で十分対処できた。落とし穴は発動さえしてしまえば後は避けて通るだけだしな。
『前方に反応1、これはモノホーンピッグでございますね。』
「了解。」
トラップの多いこの階層でも魔獣は普通に出てくるようだ。ここから先はまだ未発動のトラップがある場所のため、安全に迎え討つために少し後退して発動済みのトラップしかない場所で待ち伏せる。
プギュッ? プギャー!!
カチッ……ガコン!
モノホーンピッグがこちらに気が付き襲いかかろうと突進を始めた直後、何かを踏み込む音が聞こえたと思ったらモノホーンピッグは視界から消えた。……ここのトラップは魔獣に対しても発動するらしい。落とし穴にかかったモノホーンピッグは、自力での脱出は出来ないようで穴の底をうろうろと行き来していた。
「……先に進もう。」
『……そうでございますね……。』
「こいつらってやっぱ馬鹿なのな……。」
そう呟いたアスタは悪くないと思う。
■■■
そんな感じで4階層も大きな被害なく通過し、ボス部屋前の小部屋で小休止をとっている所だ。丁度お昼時だったため、宿屋で作ってもらった軽食とドライフルーツで英気を養う。この後は5階層のボス戦だ。相手は2体いるため、連携など取られないように2組に分かれてそれぞれが対応する事にする。
扉を開いて中へと進む。大広間の手前と奥に分れてユニコーンとデュアルホーンピッグが1体ずつこちらの様子をうかがっていた。手前のユニコーンにはアスタ、ミルキィ組が、奥のデュアルホーンピッグは俺とタクトが相手をする。広間の広さはかなりあるので、問題なく対処できるだろう。
先制としてミルキィがユニコーンへと矢を放つ。短い嘶きと共にユニコーンがこちらへと駆けてくる。ユニコーンはアスタ達へ任せて、戦闘に巻き込まれないように迂回しながら奥のデュアルホーンピッグへと向かう。
デュアルホーンピッグは3階層にいたモノホーンピッグと違い、気性が荒く体躯も2倍近い魔獣だ。分厚い脂肪に包まれた身体で斬撃は殆ど利かず、頭部の角はかなりの強度と鋭さがあり、低級冒険者泣かせの魔獣としても知られている。こんなのがユニコーンと連携して襲ってこられたらと思うと背筋がひんやりしてくる。
「……まずは小手調べだな。……『エアロアーマー』……『ピアッシング=ウインドアロー』!」
風の中級魔術で防御力を上げてから、貫通性を上げた風の矢でどの程度のダメージを与えられるのかを見てみる。狙いは少し反れたが左肩へと突き刺さり、血が噴き出してきた。どうやら分厚い脂肪を抜けてダメージを与えられたようだ。
プギュゥ……
予想外の攻撃だったのか、デュアルホーンピッグはこちらの様子を伺いながら距離を詰め始めた。距離があると魔術の餌食になるとわかっているのだろうか……。魔獣の本能か、俺の思っていた以上に知能が高い魔獣なのかもしれない。次の手をどうするか考えを巡らせていると、こちらへ向かって突進してきた。
頭部の角を警戒し、なんとか突進をかわしたと思ったら、デュアルホーンピッグが急停止し、その勢いのまま後ろ足を蹴りあげてこちらへと攻撃してきた。
「っつ!? マジかっ!!」
とっさに左腕で庇うが、勢いに乗った攻撃のため左腕から嫌な音が響いた。
「っがぁっっ!! 痛ってぇ!!」
『ミズキ様! 「ブラスト=ウインドボール」!!』
タクトのフォローでデュアルホーンピッグが吹き飛び、少し距離が空いた。早速下級ポーションのお世話になるとはな……。腰のベルトから下級ポーションを取り出し一気に呷る。それで左腕の痛みは少し和らいだが、1本では完治できなかったようだ。動けないほどの痛みではないので、とりあえず無視してカットラスを握りデュアルホーンピッグへと向き直る。
『ミズキ様、目を閉じてください! 「ライトボール=フラッシュ」!』
タクトの指示が飛び目を閉じると、一瞬瞼越しにもわかるほどの強烈な光が放たれた。目をあけると強い光によって目が眩み、ふらふらになっているデュアルホーンピッグが見えた。一気に接近し、剣術のアーツを放つ。
「抜けてくれよ? 『刺突』!」
ピギャァ~!!
首元へ向けて思いっきり突き刺したが、長さが足りなくて絶命には至らなかったようだが、刃を引きぬくとかなりの量の血液が流れ出してきた。どうやらうまく大きな血管を傷つけられたようだ。
ふらつきながらも頭を振り回して角を引っ掛けようと攻撃してくるのをかわしつつ剣で切りつけるが、普通の斬撃では厚い脂肪層に阻まれてしまい決定打を入れることが出来ない。しかし、デュアルホーンピッグが動く度に刺突で付けた傷から血が噴き出してくる。ため、徐々にではあるが弱って来ているのがわかる。
「この厚い脂肪が厄介だな……。まともに攻撃が入るのは刺突とピアッシング位か。タクト! 奴の足元に落とし穴を出せるか? 浅くても足が取られて姿勢が崩れれば何でもいい!!」
『了解いたしました! ……「ツイン=ピットホール」』
タクトの魔術でデュアルホーンピッグの足元に20センチ位の穴が二つ開いた。それほど深い穴ではないが、失血にてふらついていたデュアルホーンピッグは穴に足を取られ、狙い通りに転倒した。その隙をついて接近し、再度首筋に刺突を放つ。
ピギュァアアアッ!!
一際大きな断末魔をあげてデュアルホーンピッグは動かなくなり光へと還っていった。今回は結構危なかったな……。倒しきったことに安堵したためか、途端に左腕に痛みが戻って来た。もうひとつ下級ポーションを呷り、アスタ達への応援へと向かう。
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ユニコーンは矢が何本も刺さり、いたるところから血を流してはいたが、まだまだ元気な様子だ。接近戦が苦手の2人では少し荷が重かったか……? 近づいていくとアスタもミルキィもところどころ小さな傷を負っているようだ。
「大丈夫か?」
「あぁ、ミズキさん! そっちは終わったんですかぁ?? あいつ、魔術をことごとく避けるんですよぅ!!」
「ミズキ! 早かったな?? あいつなかなかしぶといんだよ……。」
2人とも決定打に欠けていたようで、こちらにヘルプを送ってくる。流石にそろそろ前衛職が1人というのはきつくなってきたか? 相手は満身創痍ではあるため、若干鈍くなってきている。
「とりあえずミルキィは回復を頼む。その時間は俺が稼ぐ。タクトは回復が終わり次第目くらましを、アスタはそのあとに奴の足元に落とし穴だ。深くなくていいから数を作って転倒を狙え! いいな?」
「「了解っ!」」
『ミズキ様も頼もしくなられましたね。』
タクトからのお世辞は聞き流し、回復の時間を稼ぐべく前へと出る。鼻息荒くこちらへと突っ込んでくるユニコーンをかわし、すれ違いざまに切りつける。……こちらは斬撃でもダメージは通るようだ。ミルキィ達の方に意識が向かないようにちまちまとダメージを与えていると、タクトからの合図があった。
『皆さま! 目を閉じていて下さい! ……「ライトボール=フラッシュ」』
「……『トライ=ピットホール』」
強い光が出現すると間髪をいれずアスタの土魔術が飛ぶ。閃光によって目を回しているユニコーンの足元に正確に作られた落とし穴は、予定通りユニコーンを転倒させることに成功した。後は仕上げだな。
「これで終わりだ! 『刺突』」
倒れるユニコーンの首元へ向かってアーツを放つ。根元まで首筋に埋まり一際大きく身体を跳ねさせた後動かなくなった。刃を引きぬくとそのまま光へと還っていく。残されたのはピンポン玉の半分くらいの大きさの魔石と、角が1本だった。
各々が緊張を解き、安堵の息が漏れる。今回4人で対処するのは結構ギリギリだったな。トラップの件もあるし、もう1人か2人ほどパーティメンバーが欲しいところだ。またギルドで募集をかけてみるのもいいかもしれないな。
「はふぅ~。なんとか終わりましたぁ……。」
「ん。今回は多少無理をしたようだな? 少し早いがこの先の階段部屋で今日は野営にしよう。ボス部屋の階の方が安全だしな。」
『この人数ですと出来ることも限られますし、そろそろ限界が近いのではないかと。』
「なんにせよ、早く休もうぜ? 今回はちょっと疲れた……。」
全員で階段部屋へと移動し、野営の準備をする。特に夜通し火を焚いている必要性もないため、調理に使う分の薪だけ持参している。ポーチから必要魔品物を取り出し、テントを広げ、焚火を作り、火を起こす。
少し時間が早いので、上の階でとれた肉素材を取り出し調理する。スープと串焼きでいいか。隣で涎を垂らす勢いで焼ける肉を見つめているハーフエルフはいなかったと思いたい。自分の仕事をしろ……。
ある程度食事をして落ち着いたところで休憩の順番を決め、ゆっくりとしているところで今後の話を切り出した。
「今回の探索で思った事なんだが、ダンジョン探索はこのメンバーだと結構厳しいと思う。斥候職と前衛職が少なくともあと1人は欲しいところだ。」
「確かに今回のボス戦はきつかったですぅ……。道中もトラップがきになって神経を使いますし……。」
「マッピングや道案内も専門の奴がやった方が良いよなぁ?」
『何事も経験と申しますが、ここ最近の探索で十分経験したのではないかと思います。そのままクランに所属して人員を融通してもらうという手もございますが……。』
「クランか……。『塔』の攻略には所属が必須って言われたな、そう言えば。」
「あんまり大きいところだと気後れしちゃいますよぅ。」
「変な人間が来ても困るからメンバーくらいは自分で見つけようぜ?? クランはそのあとに決めてもいいんじゃないか??」
「んー……。アスタのいう事も一理あるな。とりあえず先にメンバーを募集しよう。所属クランを決めるのはそのあと、という事で。」
今後の方針が決定し、順次休憩に入る。明日は依頼品を充分狩って、報告に行くか。




