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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
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2-4 王都の神殿

 


 前回ダンジョンに潜った報酬が思っていたよりも多かったため、今日は自身の強化に充てることにした。アスタとミルキィを連れて、王都の東にある神殿へと来ていた。ブロンセ村の神殿も大きく立派だったが、流石は王都にある神殿だけあってその比ではないくらい荘厳な佇まいである。

 どうやら孤児院も併設されているようで、先ほどからちらちらと子供の影が見えている。入口近くにいたシスターに声をかけ、中級魔術書の置いてある部屋へと案内を頼む。王都の神殿だけあって、上級魔術書も置いてあるようだ。余裕があれば上級魔術書も閲覧したいところだな。

 案内された部屋で魔術書を眺めていると、少し年配のシスターに声をかけられた。



「お待たせして申し訳ありません。魔術書の閲覧の前にもう一度適性試験を受けていただきたいのですが……。」


「適性試験を……?」


「不思議に思われるかもしれませんが、中級魔術の適性がないのに閲覧して、使用できないと抗議される方が多くてですね……。なので中級魔術書以上の魔術書閲覧の前に適性試験を受けてもらう事にしているんです。」



 どこにでもクレーマーみたいなことをする奴はいるんだな。そういうことならばとアスタ達も快く了承し、適性試験の部屋へと移動する。

 ブロンセ村で受けて依頼の適性試験に、僅かな緊張が走る。そう言えば、他人の適性試験を見るのは初めてだな。アスタは2属性に適性があると言っていたし、少し結果が楽しみだな。



「では、始めたいと思います。どちらの方から行いましょうか?」


「じゃぁ、俺から!」



 シスターに促されてアスタが水晶球の前に立つ。右手を水晶球に乗せて少しすると、水晶球の中に赤と茶色の光球が回りだした。どちらも強く輝いているが、あえて言うなら赤い光の方が強いだろうか。1分ほど回る光球を見て終了となった。



「なんか、前にやった時より光が強いような気がする………?」


「そうなのですか? あまりそう言った事は聞きませんが……。アスタさんは2属性に適性があるのですね。土属性は中級、火属性は上級まで扱えそうですよ! うまくいけば火の上位属性も覚えられるかもしれませんね。」


「上位属性!! 俺の時代が来たぁっ!!」



 意外な結果に飛び上がって喜ぶアスタ。上属性が扱えるのは1万人に1人いるかいないかというからその喜びようもわかる気がする。これは魔術の訓練に熱が入るな……。



「アスタばっかりずるいですぅ……。次はわたしがっ!」



 魔術に関して最近アスタに差を付けられているミルキィが、対抗心を燃やして水晶球の前に立つ。アスタと同じように右手を水晶球に乗せると、水晶球に白い光球が回りだした。少し眩しいくらいに強く輝いている。



「これは……光属性の上位属性の聖属性の光球……。ミルキィさんは神聖魔法の使い手でいらっしゃるのですね。神の御加護があらんことを……。」


「はわわわ! シスターにそんなことされても困っちゃいますうぅ!! ただの冒険者ですからぁ~。」



 これまた意外なことにミルキィも上位属性を持っているらしい。教会のシスターに祈りを捧げられてとても慌てている。ん? ……あれ。この流れで俺だけ普通だったらちょっとどころかだいぶ恥ずかしいな……。大丈夫か?



「最後は俺だな。」



 2人と同じように水晶球へと右手を乗せる。すると強く輝く緑と青の光球がいくつもくるくると回りだした。……ブロンセ村でやった時よりも明らかに光りが強くなっている。成長したのか?? さっきシスターはそんな事例は聞いたことがないと言っていたが……。もしかしなくても魔術の訓練のせいだろうな。あんな訓練をしているのは俺たちくらいだろうし。



「これは、ミズキさんも2属性に適性があるのですね。風属性、水属性共に上級魔術まで扱えそうです。特に風属性は上位属性まで使いこなすことが出来るでしょう。滅多にいない逸材ですね。」



 にこやかな顔でシスターが告げる。これで3人とも上位属性を扱えることが分かったわけだが……アスタが見るからに落ち込んでいる。まぁ、1万人に1人が3人もいたんだから気持ちはわからないでもない。これで一人だけ上位属性が無いというのも気まずいので、アスタにはもうしばらく落ち込んでもらう事にしよう。

「俺なんて…」やら「時代なんて来なかった…」やら小声でブツブツ呟いて放心状態のアスタを引きずりつつ、魔術書を保管している部屋へと戻ってきた。



「ご協力ありがとうございました。これで適性試験も終わりましたので、魔術書の閲覧が可能になります。アスタさんは土属性の中級魔術と、火属性の上級魔術と上位属性の炎属性の魔術書の閲覧が可能です。ミルキィさんは光属性の中級魔術と上位属性の聖属性の魔術書の閲覧が可能です。ミズキさんは水属性の上級魔術書、風属性の上級魔術書と上位属性の雷属性の魔術書の閲覧が可能です。どの魔術書の閲覧をなさいますか?」



 下級魔術書の閲覧でさえ銀貨10枚以上は必要となるのだ。中級、ましてや上級魔術書の閲覧料となるとどれほどになる事やら……。一応自身の強化に使う分は各々分けてある報酬から支払う事になっているが、俺はどうしようか……。



「えっと、中級魔術書の閲覧料はおいくらですかぁ??」


「あぁ、失礼いたしました。そちらの説明がまだでしたね。中級魔術書は一律金貨1枚。上級魔術書が金貨3枚。上位属性の魔術書は金貨5枚となっています。最も、上位属性の魔術書は基本的な魔術しか載っていないんですけれど。これ以上となるとギルドランクをA以上に上げていただいて、教会の総本山に出向いていただかないといけません。」


「き……金貨1枚ですかぁ!?どうしよう、装備の新調もしたいのにぃ……。」



 高いだろうと思っていたが金貨が必要になるとはな……。手持ちだと中級魔術書を2つ閲覧するのが限界か。アスタとミルキィは装備の新調もしたかったようで、うんうん唸りながら悩んでいる。キチンと報酬を貯めていれば金貨で2~3枚程度は貯まっているはずなんだが、どうやら散財していたようだ。



「俺は水と風の中級魔術書の閲覧を頼む。」


「賜りました。えーっと……こちらが魔術書になります。準備はよろしいですか?」


「ん、問題ない。」



 まずは水の中級魔術書の閲覧から行うようだ。魔術書を開いて待機しているシスターの前に行き、魔術書に手をかざす。薄い青色の光りが全身をつつんだと同時に、頭の中に文字の羅列が流れ込んできた。中級魔術書だけあってかなりの量だ。何度か行っているので慣れたつもりでいたが、情報量の多さに眩暈がしてくる。

 多少ふらつきながらも水の中級魔術書の閲覧は終了した。息を整え、くらくらする頭が少し落ち着いたあたりで、次は風の中級魔術書の閲覧を行う。先ほどと同様に魔術書に手をかざすと、今度は淡い緑色の光りに全身がつつまれる。短期間で大量の情報を処理したためか頭がずきずきと痛み、視界が歪む。……もう少し情報量が多かったら倒れていたな。

 痛む頭を抱えながら、そばにあったベンチへと座りこむ。これで風の中級魔術書の閲覧も終わりだ。少し目を閉じて深呼吸をし、息を整えているとどうやらアスタが悩んだ末に閲覧する魔術書を決めたようだ。



「火の中級魔術書の閲覧をお願いしますっ!」



 他人の閲覧状況を見るのは初めてなので、薄く眼を開けてアスタを観察する。俺の時と同じように魔術書に手をかざすと、薄い赤色の光が魔術書から発生し全身を包みこんでいた。……外から見るとこんな風になっているのか。赤色の光りが頭部へ向かって動き、眉間から吸収されているように見える。同時にアスタの顔に苦悶が走り、身体にふらつきがみられる。全ての光が吸収されると、汗だくになりながら眩暈に耐えていたであろうアスタと目があった。



「っづあぁ~!! きっつい!! これ上級魔術書の時は、俺ぶっ倒れるんじゃないかなぁ??」



 ふらふらになりながら俺の隣に腰掛け、目をつぶって全身を弛緩させている。確かに上級魔術書の時の事を考えると憂鬱だな。そんな俺とアスタの様子を見ていたミルキィは、顔を青くさせながらしばし悩んでいたが、意を決したように光の中級魔術書の閲覧を希望していた。ミルキィに耐えきれるか心配だな……。

 同じようにミルキィも中級魔術書の閲覧を開始した。白色の光が吸収され始めると、ミルキィの顔にも苦悶が走る。なんとか耐えているようだが、どんどん顔色が悪くなり膝もがくがくと震えだした。最後の光が吸収されると同時に、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

 慌てて駆け寄ると青白い顔をしながら、もう無理ですぅ。とか細い声で呟き、そのまま意識を手放した。担当していたシスターの好意で仮眠室を借りられる事になったため、ミルキィを抱き上げて仮眠室まで運ぶ事になった。

 シスター曰く、閲覧後に気を失ってしまう人が多いため、仮眠室が用意されているのだとか。中級魔術書を2冊も閲覧したのに平気で動き回れる方はそういないですよ? と笑顔で言われた。未だに軽い眩暈が残っているのだが、それでも珍しいんだそうだ。まだ具合の悪そうなアスタもついでに休ませてもらう事になった。



 ■■■



 結局、ミルキィが目を覚ましたのは夕方近くになってからだった。アスタもミルキィも本調子ではないのか若干ふらつきが残っているため、装備の新調は後日行う事にして宿へと戻って来ていた。



「うぅ……。気絶するなんて面目ないですぅ……。でも中級魔術書の閲覧でアレはきつ過ぎますぅ。なんでミズキさんは平気なんですかぁ!!」


「別に平気なわけじゃないぞ? アレは結構きつかった。」


「あぁ~! 新しい装備! 上級魔術書! お金がいくらあっても足りないぃ!!」


「まぁ、クエストを頑張るしかないな。『塔』に挑もうにもギルドランクが足りてないし。しばらくは野良ダンジョンに通う事になりそうだ。」



 宿屋に併設されている酒場で食事を取りながら今後の予定について話す。しばらくは資金を稼ぎつつ自身の強化とランクアップが目標になりそうだ。あとはクラン加入をどうするかだが、まだ『塔』に挑む下地も出来ていないため、もうしばらく先送りにしても良いだろう。

 そう言えば、最近タクトが腕輪から出てくることが少なくなった。もちろん依頼中となるとちゃんと傍にいるんだが、休日や空き時間になるとどこかへ出かけているようだ。王都に来たため、俺の「仲間」でもある他の代理プレイヤーでも探しているんだろうか。そうなると所属できるクランも限られてくるのかもしれないな………。

 なんにせよ、「仲間」に関してはタクトからの報告待ちというところか。明日からはまたダンジョンに潜る生活が始まる。今日のうちに体調を整えておかなくては。


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