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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
2章 クラン時代
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2-3 初ダンジョン②

 


 休憩を終えた俺たちは5階層への階段を下り、大きな扉の前へと来ていた。扉までの道は、今までの洞窟のような通路とは違って石畳が引かれており、壁には等間隔でランプのようなものが下がっていた。試しに壁のランプを取り外してみたが、取り外すと同時に光へと還っていった。このランプもダンジョンが生み出したものらしい。



「さて……次はいよいよボス戦だ。相手はマンイーターだからそんなに苦戦はしないと思うが、油断はしないように。……準備はいいか?」


「バッチリですぅ!」


『問題ありません。』



 準備の是非を問うと頼もしい返事が返って来た。アスタなんかはフンスという擬音が似合いそうな位気合いが入っている。メンバーには目線で合図をし、扉をあける。

 全員で中に入ると、扉は自動的にしまった。中はかなり広めのホールになっていて、大きな柱が広間を囲むように何本も立っている。その広間の中央部分に例のマンイーターが陣取っていた。……どうやら2体いるようだ。



「2体か……。アスタとミルキィで1体を倒しきらなくてもいいから相手出来るか? 俺の方が終わったらすぐに加勢に行く。」


「おまかせですぅ!」


「ここは広いし火術が使えるから余裕だよ!」


「なら頼む。タクトは俺の援護だ。」


『了解いたしました。』



 ミルキィが短弓で先制する。うまく1匹のみを釣りあげてくれたようだ。ミルキィ達の方へ向かうマンイーターとは距離を取りながら、もう1匹のマンイーターへと接近する。

 マンイーターは食虫植物が魔獣化したものだ。強力な溶解液と2本の蔓が特徴で、普段は土に埋まり普通の植物に擬態している。しかし、一度近づけば根っこを使ってどこまでも追いかけてくる少し厄介な魔獣だ。注意しなければならないのは、こいつの溶解液は鉄をも溶かしてしまうという事。こいつに対して接近戦を挑むためには特殊加工した剣を使わなくてはいけない。もちろん俺の剣はそんな特殊加工はしていないため、魔術で対応する事にする。



「まずは小手調べだ。……『トライ=ウインドアロー』」



 遠距離から風の矢を3つ打ち込む。マンイーターとはいえ植物の魔獣のため、本当なら火術か水術の上級魔術である氷術が有効なんだろうが、無いものは仕方ない。水術よりは風術の方が効いてくれそうだ。

 うまく3本とも命中したようで、マンイーターにダメージが入る。……うん、この感じだと行けそうだ。こちらを敵だと認識した奴は蔓を伸ばし、根っこを引き上げてこちらへと移動してきている。

 意外と根っこによる移動が素早く距離を測りかねていると、鞭のようにしなる蔓を伸ばして攻撃してきた。余裕を持ってかわすが、蔓が打ちつけられた石畳が抉れている。予想以上に強力な一撃らしい。



『ツイン=ファイアボール!!』


 シュルルルル!



 蔓の攻撃の合間を縫ってタクトが本体へと牽制の火球を放つ。やはり火は苦手なのか伸ばしていた蔓を戻し、慌てて身体に当たった火球から延焼した火を消している。立て続けにダメージを負った事で怒ったのか、蔓を溶解液に浸してそれを投げつけて来た。



「おわっ! 危ねぇっ!!」



 蔓の動きに合わせて飛散する溶解液はかなり強力なようで、ジュッという音と共に何か所も石畳が溶けている。慌てて距離を取り攻撃をやり過ごす。少し左腕に掠ったのか、ジクジクとした痛みが襲う。少しでも中和されるようにと水球を生み出し、掠った部分を洗い流した。掠った部分はやけどの痕のように爛れている。

 ……少し甘く見ていたか? タクトが数個づつ火球を放ち、牽制しつつダメージを与えているが、決定打には程遠いようだ。5階層のボスというだけあって、生命力も強いらしい。……なら、いっそ改良版の風術を試してみるか。



「タクト! デカイの行くぞ!! ……『ツイン=ブラストアロー』!!」



 タクトが風術に巻き込まれないように声をかけ、2本の風の矢を放つ。『ウインドアロー』の改良版だ。蔓の合間を縫って本体へと到達した矢は、胴体へ刺さった瞬間爆発したように圧縮されていた風を四散させた。……やっぱり下級魔術としてはオーバースペックなような気がする。

 この1撃が決定打となったようで、マンイーターは胴体をズタズタに裂かれて光へと還って行った。あとにはピンポン玉よりやや小さめの魔石と2本の蔓が残されていた。急いで素材を回収し、アスタ達の加勢へと向かった。



「これで終わりだっ! ……『トライ=ファイアアロー』!!」



 俺が加勢に駆け付けた丁度その時、アスタの火矢が3本放たれて胴体に勢いよく突き刺さる。ゴゥッという音と共にマンイーターが炎に包まれ、光りへと還って行った。やはり火術が弱点だったようだな。

 やりきった表情をしているアスタとミルキィに近づき声をかける。



「お疲れ、アスタ。俺の加勢は要らなかったようだな。」


『素晴らしいご活躍でしたね。』


「あ、ミズキ! どうだ。やったぞっ!」


「あ、ミズキさんもお疲れ様ですぅ。私も頑張ったんですよぉ! ……って! ミズキさん怪我してるぅっ!?」


「ん? あぁ、少し溶解液が掠ってな……。」


「すぐに治療しますっ!」



 左腕の怪我を目ざとく見つけたミルキィは、杖を掲げて回復魔法の詠唱を始めた。他の魔術と違い、神聖魔法と呼ばれる系統は長めの詠唱が必要となる。もちろん回復魔法もその範疇だ。



「大地に眠る精霊神よ、我の祈りを聞き届け、彼の者に癒しの奇跡を! 『ヒーリング』」



 ミルキィの詠唱に合わせて怪我をしている部位が淡く輝きだす。輝きが納まる頃には酷く爛れていたものが痕も残らずに綺麗に治っている。まさしく奇跡の御業だよ、本当に。

 ミルキィに礼を言い、2人で倒したマンイーターの素材も回収し、6階層へと続く階段へ向かう。階段を降り切ると、そこは今までと異なり草原と森の広がる空間となっていた。



「「ほへぇ~……」」


『書物に記載はありましたが、実際に見るとなるとやはりダンジョンの中というのが信じ難いですね……。』


「そう……だな。でも壁は石造りのようだし、たぶん7階層へ降りる階段もあるんだろうな。」



 こんなだだっ広い空間に出ると、マッピングするのも一苦労だ。ひとしきり皆で呆けたあとは、プチトレントの群れを探して森へと入って行った。この階層にはプチトレントの他に、ミニドライアドという木の精霊や、ロッドスタンプという切り株のお化けが出現するらしい。

 ミルキィに索敵を頼み、森の中をしばらくうろうろとしていると小さな泉のある少しひらけた場所へと出た。



「前方に反応多数あり! これは……プチトレント??」



 丁度泉と反対側の森の中にプチトレントの反応があるようだ。ここからでは良く見えないため、泉を回り込む形で少しずつ近づいていく。その間に、プチトレントとの交渉に必要なあるものを鞄から取り出しておく。

 泉を回り込み、反対側の森に近づいた時に頭の中に響くような子供の声が聞こえた。



 “あなた達、だぁれ??”


 “怖い人? 怖い人が来たの??”


 “痛いのは嫌! あっちへいって!”


 “あれあれ? なんかヘンナノも一緒にいるよ??”



 ……変なのというのはタクトのことか? それとも俺の事か?? 他の魔獣の襲撃に備えて抜刀していたせいか、少し警戒されてしまっているようだ。危害を加えるつもりがないことをアピールするためにカットラスは納刀する。

 もう少し近づくと、森の中からプチトレントが4体顔をのぞかせているのが見えた。丸太位の太さはあるものの、人間の膝位までの背丈しかなく、まだ若いだろう葉を茂らせており、幹には顔のような洞があった。

 両手をあげ、手に何も持っていないことを示しながらプチトレントに声をかける。



「危害を加えるつもりはない。交渉に来たんだ。」


 “交渉? 交渉?”


 “怖い人じゃない? 痛いのはないんだね?”


 “僕たちに何の用?”


 “ヘンナノ……可愛い!”


「可愛いって……。いやいや。ここに花の蜜がひと瓶ある。これで君たちの果実を少し分けてくれないか?」



 若干危機感の薄いプチトレントもいるようで少し毒気が抜かれてしまったが、木を取り直して交渉を再開する。プチトレントの実を手に入れるにはこの方法が一番効率がいい。倒して素材を取るのもいいが、実を落とすのは稀なのだ。

 アスタやミルキィも固唾をのんで見守っている。プチトレント達は仲間内でキュイキュイ相談しているようだったが、しばらくするとそれも止み、代表として1体のプチトレントが森から出てきた。その手(枝か?)には数個の実が乗っている。



 “交渉、成立! 蜜よこせ。”


「よかった、ありがとう。」



 プチトレントの反対側の手に花の蜜の瓶を乗せる。すると手の中に4つ実を落としてくれた。そのまま大事そうに瓶を抱えてプチトレントは仲間の元へと帰っていく。一度に4つも実をくれるとは、なかなかに大盤振る舞いをしてくれたものだ。これで依頼は達成できるな。



「ふぁ~……。緊張しましたぁ~。なんとか実を貰えてよかったですねぇ~。」


「プチトレントって案外社交的なんだな! これで依頼も達成したし、あとは帰るだけだぁー!!」


「まぁ、これでひと段落だが、気は抜くなよ? まだ帰り道があるんだからな。」



 依頼達成にはしゃいでいるアスタを諌めつつ、泉のそばで小休止を取ることにした。帰りの英気を養うためにドライフルーツをかじりつつ、泉のほとりに腰をおろして休憩する。もちろん索敵は欠かさず行ってもらうが。



『アスタさんはだいぶ魔術の腕をあげましたね。これも毎日の訓練の成果でしょうか。』


「へへっ。だろ? これでも毎晩真面目にやってるんだぜ! 最近やっとアロー系でトライの制御が出来るようになったんだ。」


「アスタはすごいなぁ……。私はなかなか成長した実感できないし……もしかして成長してないのかなぁ??」


『ミルキィさんも回復魔法の発動が早くなっていますよ? それに探索魔法の維持もうまくなっています。少し実感はしにくいかもしれませんが、しっかりと成長していますから、そんなに落ち込まないでください。』


「さっきもミルキィの回復魔法で助かった。努力は報われるさ。」



 以前に行った特訓の事や、自身の成長など他愛もない話をしながら休憩を終えた俺たちは、来た道をなぞるように最短距離で入り口を目指して出発した。来た道を戻っているせいか、来るときとは違ってほとんど魔獣とは会わずに入口へと戻ることが出来た。

 ダンジョンの入り口から出ると空は黄昏色に染まっており、かなりの時間中にいたことになる。日の光が見えないからか、時間の感覚が狂っていたようだ。次回に潜るときは何か対策をしないとまずいな……。

 なんにせよ、無事に依頼は達成できそうだ。今日はまっすぐに宿へと戻り、明日王都で報告しよう。


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