2-2 初ダンジョン
翌日、ギルド本部に来た俺たちは、周囲のダンジョンの情報を探していた。王都周辺には『塔』の他にもダンジョンが存在している。特に王国で管理などはされておらず、所謂野良ダンジョンというやつだ。ほとんどは発見され次第すぐに討伐されてしまうが、中には良い素材が取れるため、ギルドが管理しているダンジョンもある。育ちすぎると手に負えないため、5年をめどに討伐しているそうだ。
ギルドが管理しているダンジョンの依頼がないか色々と板を探していると、いくつか良さそうな依頼を見つけることが出来た。
『ミズキ様、どの依頼になさるおつもりですか?』
「んー……、まだ決めてない。いくつか良さそうなものはあるんだけど、決定打がないんだよな……。」
「ミズキさん、この依頼なんてどうですかぁ??」
一緒に依頼板を物色していたミルキィが一つの依頼を持ってきた。……新規ダンジョンの討伐依頼か。発生して10日程度、2階層のダンジョンで報酬は銀貨35枚か。王都からそんなに距離もないし、良さそうなんだが、初めてのダンジョンが討伐って言うのもな。出来れば別のダンジョンでどんな感じかを確かめてから受けたいところだ。期限もまだあるし、保留にするか。
「初めてダンジョンに潜るのに討伐はちょっとな。別のダンジョンで経験を積んでからやってみるのは良いんじゃないか? これは保留にしとこう。」
「むむむ。そうですかぁ?? 仕方ないですぅ……。」
「ミズキミズキ! これはどうだ!?」
ミルキィの依頼を保留にすると話していると、アスタも1枚の依頼書を持ってやって来た。……ギルド管理のダンジョンからの採取依頼か。6階層にいるプチトレントが落とす実の採取、期限は3日間だな。ダンジョンの発生している街まで1日、採取に1日、帰りに1日でギリギリ……か。少し時間的な余裕はないが、採取量も少ないし初めてのダンジョンでも依頼としては丁度よさそうだな。
「ギルド管理のダンジョンか。少し時間の余裕はないが、まぁこんなもんだろうな。これにするか??」
「よしっ! じゃぁ早速出発だっ!」
「あっ、待ってアスタ! プチトレントの生態とかどうやって実を採取するのか? とか知ってるの??」
「それにダンジョンの他の階に出る魔獣の事も調べないと駄目だぞ。とりあえず受注してくるから、2人は先に図書コーナーで調べておいてくれ。」
先走りそうになったアスタをミルキィが諌め、渋々戻って来た。受注の間に調べ物をするように2人に頼んで受付カウンターへと向かう。アスタはもう少し落ち着きを持ってほしい所だ。
朝の混雑時なのでしばらく列に並び、やっと順番が回って来た。長い耳が特徴的な兎人族の受付嬢だ。豊満な胸がカウンターに乗っかっていて正直目のやり場に困る。なんとか目をそらしながら受注処理を完了した。終わってからよく観察すると、例のうさ耳受付嬢に並んでいる列は他の列の倍以上あった。……今度からは受付嬢をよく見てから列に並ぼう。
少し時間がかかってしまったため、気持ち急ぎ目で図書コーナーへと向かうと、小さなテーブルで本とにらめっこをしている2人がいた。
「あ、ミズキさん! こっちですよ、こっちぃ。」
ミルキィに促されるままに席に着き、積まれている本の1冊を手に取り中身を確認する。どうやらこれから行くダンジョンの魔獣について書かれているらしい。パラパラと見た感じでは、どうも植物系の魔獣が多く出現するようだ。
「ミズキぃ……。5階層にボスが出現するんだって。どうしよう??」
「まだ浅い階層のボスだろう? 何が出るんだ??」
「それが、どうやらマンイーターみたいなんですぅ。4階層にはニードルカクタスも出るみたいですよぉ??」
「マンイーターか。まぁ、植物系の魔獣はアスタの魔術と相性がいいからな。そんなに問題にはならないだろう?」
そう諭すとアスタはみるみる元気になっていった。全く現金な奴め。他にもプチトレントの実は2種類あることや、階層ごとの魔獣の弱点、階層の簡易地図等を調べていった。ダンジョンの簡単な地図はあるが、一応マッピングもしてみようと思っている。これから必要になってくるからな。
必要なことはすべえ調べ上げ、ダンジョンのある街へと出発した。途中で雑貨屋により、マッピング用具を購入しておいた。とりあえず今回は俺がマッピングしてみよう。いずれは後衛のアスタかミルキィにやってもらいたいな。
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ダンジョンのある街までは街道も整備されており、たまにではあるが王国の騎士団による巡回もあるせいか、特に魔獣に襲われることなく到着出来た。王都から付近の街までの街道は、王国騎士団の訓練も兼ねて魔獣討伐が定期的に行われているらしい。道理でギルドで魔獣討伐の依頼が少なかったわけだ。
予定よりも少し早めについたが、明日はダンジョンに潜るため早々に宿へとむかう。食事も宿で摂り、明日へと備えることにした。
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翌朝、早めの朝食を終えた俺たちはこの街のギルド管理のダンジョンにやって来ていた。
発生して3年になるこのダンジョンは植物系の魔獣が多く出現することで知られ、それらから取れる野菜系の素材がこの町の名物になっている。今朝宿で食べたサラダにも使われており、みずみずしくておいしかった記憶がある。
「うぅ~、初ダンジョンですねぇ! 緊張しますぅ。」
「今日中に6階層に行くからな。寄り道せずにまっすぐ進むぞ?」
「うっし、頑張るぞー!」
ダンジョンの入り口で簡単な手続きを済ませて、初めてのダンジョンへ足を踏み入れる。入口付近は洞窟のようになっており、まっすぐと1本道が続いている。奥にぼんやりと光が見えているため、そこへ向かって進んで行く。
「ミルキィ、索敵を頼む。アスタは簡易地図で進む方向の指示を。タクトは皆のフォローを頼む。俺はマッピングだな。」
「はーい。」
「とりあえずこのまままっすぐかな?」
『了解しました。』
洞窟のような通路をしばらく進むと、広間のような場所に出た。ここが所謂小部屋というやつか。少し薄暗いが、自然にできた洞窟とは違い充分周囲を見渡せる。これもダンジョンの特徴だろうな。もちろんダンジョンによっては1寸先も見通せないほどの暗闇が支配するところもあるのだとか。
まだ1階層ということと割と人気のダンジョンという事で、しばらく魔獣とも会わずに進むことが出来た。数人の冒険者とはすれ違ったが、特に戦闘もなく来たことで良い感じに緊張も取れてきた。そろそろ次の階層へと進む階段があるころなんだが……。
「前方に反応! 2体ですぅ!」
ミルキィから注意が飛ぶ。前方の岩の陰からマッドオニオンとマッドトマトが1体ずつ歩いて来るのが見えた。巨大な野菜に顔と手足が付いたようにしか見えないな……。
「よーし、先手必勝ですぅ!」
ミルキィが短弓に矢をつがえて次々と打ち出す。巧みに俺達を射線から外しているところに成長を感じる。矢はマッドオニオンとマッドトマトの胴体に突き刺さっている。それによって歩く速度はだいぶ遅くなっているが、まだまだ致命傷には至らないようだ。
キシャキシャキシャッ!
マッドトマト達が立ち止り、反撃とばかりにアクアボールを打ち出してきた。結構な速度で迫るそれは、しかしアスタの放ったマッドボールにて相殺されてしまう。あれから毎晩魔力制御の訓練をしているせいか、速度も威力も以前より上がっているようだ。
アクアボールが相殺されると思わなかったのかマッドトマト達が一瞬怯む。その隙をついて接近し、新調したカットラスで袈裟がけに切りかかる。返す刃でマッドオニオンにも一太刀いれて離脱する。だいぶダメージを負ったのか、その場から動ごけずにいるマッドトマト達へ、止めとばかりにアスタのロックアローが突き刺さる。
ギシャァー!!
断末魔を上げてマッドトマト達は光へと帰っていく。残されたのは新鮮なトマトと玉ねぎが1つずつ。ダンジョンに出現する魔獣の不思議なところは、倒されると魔素と呼ばれる光に還元されることである。その際、なぜかいくつかの素材がその場に残される。ダンジョンコアが死体を分解吸収していると言われているが、詳細は全くの不明だ。解体スキルが無くても素材だけが手に入るため冒険者としてはいいことのようだが。
魔獣が落とした素材をバックへ入れ、先へと進んで行く。しばらく道なりに進むと階段のある広場へとついた。さぁ、次は2階層だな。
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その後も魔獣との戦闘はあるものの、危なげなく進むことが出来た。マッピングも階段から階段までの最短距離ではあるものの問題なく行えている。2階層と3階層ではマッドトマトとマッドオニオンの他に野菜系の素材を落とす魔獣が出た。手に入れた素材だけでもおいしいサラダが作れそうだ。
4階層ではニードルカクタスやファイアカクタスなどサボテンの魔獣が出てきた。針を飛ばしてくる攻撃が厄介で、はじめの頃はとげが刺さって大変だったが風の魔術で散らすことで対応した。ミルキィの回復魔術が活躍したのもここだ。
そう言えば、カクタス系の魔獣を倒している時に初めて魔石を手に入れた。親指の爪程の大きさの魔石なため、そんなに高い値段では買い取ってもらえないだろうけれど、いくつか手に入れたのでそれなりの収入にはなるはずだ。
「このまま道なりにしばらく進むと階段があるはず!」
「次は5階層……ボス部屋ですぅ。」
「次の階段前の広場で少し休憩するか。ボス前だしな。」
「結構魔石も溜まったし、後はボスを倒してプチトレントの実を採取するだけだなっ!」
「……アスタぁ? それほとんど終わってないよぅ。」
「……本当だ!?」
他愛無い話をしながら5階層へと続く広間へとやって来た。階段前の広場は魔獣が寄りつかないため、比較的安全に休憩をすることが出来る。携帯食料とドライフルーツで食事を取り、しばし休憩する。
さぁ、一休みしたら5階層のボス戦だ!
誤字脱字を修正する時間が取れなくなってきました。お気づきの方、こっそり教えていただけると嬉しいです。




