1-12 護衛任務→旅立ち
あれから何度か近くの村への護衛任務をパーティで受けた。最初はぎこちなかった野営もだいぶ板に付いてきたので、そろそろ王都方面への護衛任務を受けようと思う。未だ夜盗の類とは遭遇していないから、対人戦に関しては少し不安だな。
『ミズキ様、王都方面への護衛依頼がございますが、いかがいたしますか?』
「あ、本当だ! 王都までの護衛で結構大きい商隊だねぇ。いくつかのパーティ合同で護衛する見たいだよ?」
「ふーん……。まぁ、うちはまだ対人戦が未経験だから、他のパーティと合同って言うのはありがたいが……。」
「なにか問題があるんですかぁ??」
「それ、結構大きい商隊なんだろう?Dランクになりたての俺たちを簡単に雇ってくれるのかと思ってな。」
それに、そんなに大きな商隊なら専属の護衛がいるはずだ。にもかかわらず追加で護衛を雇うということは、来るときに何かあって解雇もしくは離脱したか、もしくは王都までの道に何かあって人員が必要になったか。何かって言うのは……夜盗か? 魔獣か?
夜盗ならまだいい。これからの事を考えると対人戦の経験を積むのは必要なことだ。だが魔獣だったなら? Dランクなりたての俺たちに出来ることなんて、ほとんどないだろうな。
「悩んでても仕方ないですよー? とりあえず受付に持って行ってみましょー?」
「ん、そうするか。」
ミルキィの言うとおり、とりあえず駄目元で受けてみるか。依頼書を持って受付へと向かう。他の2人も一緒に付いてきた。
「にゃ! ミズキのパーティかにゃ? 依頼書を見せるにゃ。」
「これを。」
「にゃー。王都までの護衛かにゃ?? 人数が足りてないから大歓迎にゃ! ミズキのパーティは索敵要員が多いから護衛依頼を受けてくれると喜ばれるにゃ~。」
意外とあっさり受理された。考えすぎかと思っていたら、これから依頼人との顔合わせがあるとのこと。合同パーティになる冒険者たちともそこで顔合わせが出来るらしい。ギルド奥の個室へと案内された俺たちはそのままミケットの後をついていく。
「みんな揃ってるかにゃ?? 最後のパーティを連れてきたにゃ!」
「あぁ、ミケットさん! ありがとうございます。あとはこちらで説明しますね?」
「よろしく頼むにゃ!」
中にいた男性に声をかけ、ミケットは受付へと戻って行った。とりあえずその男性に会釈して辺りを見回す。俺たち以外にも3パーティがそこに集まっていた。どれも3~4人の少人数のパーティだ。
「集まってくれて感謝するよ。わたしは今回の依頼人の代表であるウェズリーだ。何かあったら私を通して欲しい。よろしく頼むよ。とりあえずパーティ名とランクを教えてくれるかな?」
「『ウルフファング』Cランク2名とDランク2名だ。」
「『アルラウネ』Cランク1名とDランク2名よ。」
「『黒き剣』Bランク1名とDランク3名だ。」
「まだ駆け出しだからパーティ名は無い。Dランク2名とEランク1名だ。」
「ありがとう。今回は王都までの護衛任務なんだけどね? ……まぁ、おそらく何もないと思うんだけど、少し気になる噂が耳に入って来てね? 念のため護衛依頼を出したんだ。大きい商隊を率いていると、少しの可能性も見過ごせなくてね。」
「気になる噂ってのは??」
ウェズリーさんの説明に『ウルフファング』のおそらくリーダーが問いかける。俺もそれは気になる。これだけの冒険者を募ったという事は、かなり信憑性のある話なんだろう。
「あぁ、隣の国から国境を越えて盗賊団がこちらにやって来ているという噂だよ。ここは国境近くの村だし、隣の国との交易で必ず通る村だろう? おそらく奴らの狙いは交易の商隊だろうから、こっちの王都に行く分には大丈夫だとは思うけど、念には念をってね?」
「盗賊団……。」
「そう! それに、うちの専属護衛は交易隊の方に付くことになっててね。人数が足りないんだよ、本当。だから王都までよろしく頼むよ?」
そう言ってウェズリーさんは笑った。なるほど、専属の護衛をより危険度の高い方に回したからこっちが人手不足ってわけか。俺たちを入れて全部で14人、上がBランク下はEランクか……臨時のパーティとしてはいいほうなのか?
「一応、例の盗賊団らしきものに襲われて撃退したら追加で報奨金は出す予定だよ。あとは冒険者さんで色々と話すこともあるだろうから、わたしはこれで失礼するね? 何か質問があったら、今日は黄金亭に泊っているからそこに来てくれるかな? 出発は明日の朝を予定しているから、早めにね?」
そういうとウェズリーさんは個室を後にした。俺達は臨時のパーティを組むことになるから、色々と話し合いが必要となってくるので、先に退室したんだろう。参加しなくてもいいのかと思ったが、ちゃんと護衛さえしていればその辺はどうでもいいのかもしれない。
「さて。依頼主がああいってくれたんだ、ここで話を詰めようじゃないか。4パーティが参加だから代表同士の話し合いでいいな?」
『黒き剣』のリーダーらしき男が口火を切り、代表を集める。特に異存はないので近くへと集まる。基本報酬はパーティの数割り、追加報酬は人数割りってところか? 野営時の見張り順とかも決めてしまいたいな…。
「まぁ、まずは自己紹介だな。俺は『黒き剣』リーダーのスコット、Bランクだ。」
「『アルラウネ』リーダーのベル、Cランクよ。」
「『ウルフファング』リーダーのリット、Cランクだ。」
「ミズキ、Cランクだ。」
「王都までよろしくな! ……それじゃあ基本報酬はパーティで割って分配でいいな?次に配置だが……メンバーに索敵が出来るやつは何人いる? あと簡易結界が張れるやつは? あとは……。」
自己紹介が終わると、スコットを中心に護衛時の配置や夜間の見張り順、魔獣と出くわした時の討伐順、素材の分け方、臨時報酬の割り方等、細かく話し合っていく。特に大きく揉めることなく話し合いは終了した。割と人数の少ないパーティでも不利になることなく、うまくまとまったと思う。
明日の朝出発となるため、今日中に準備を整えておく必要がある。それに王都へ行ったらしばらくはここに帰ってくることもないだろうから、アスタやミルキィは家族とお別れの時間を作ってあげないと……。
アスタとミルキィとは明日の朝南門集合と告げてギルド前で別れ、とりあえず野営の準備を整えるべく雑貨屋へ行くことにした。王都までは1週間ほどかかるため、保存食や香草等を追加しなければならないだろう。それに、俺も世話になったテオドラさんたちに挨拶しておかなくては。
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昨晩はポーラさんに引きとめられ少し遅くまで起きていたので、いささか頭が重い気がする。寝不足ってわけではないから護衛に支障はないと思うが、体調管理にもう少し気をつけなくてはいけないな。色々と世話になった人たちに挨拶も出来たし、結局は良かったのだけれども。
アスタやミルキィも昨晩は家族とゆっくり過ごせたようだ。しばらく帰れない事も伝えたようだし、気兼ねなく王都へ出発出来そうだな。
そんなことを考えながら南門で待っていると、旅装束に身を包んだ人たちが集まって来ていた。荷馬車なども増えてきているようだ。あれ? ……思っていた以上に人数が多いような気がするんだが…? 荷馬車が多く集まっている付近にウェズリーさんを見かけたので、近寄って聞いてみる。
「おはようございます。」
「あぁ、ミズキ君か! おはよう、よろしくね?」
「ん、よろしく。…それで、聞いていた人数より多いと思うんだが。」
「ん? あぁ、彼らの事かい? 大方護衛を雇う余裕のない旅商人たちだろう。たまにいるんだよね、大きな商隊について護衛費用を浮かそうとする奴らが。」
いかにも迷惑しているといった顔で旅商人を見ながら教えてくれた。人数が多くなるとそれだけ魔獣は襲ってこなくなるし、商隊が雇った護衛がいるから野盗も手を出しにくいし比較的安全……か。旅商人の知恵なんだろうけど、護衛費を出しているウェズリーさんとしては面白くないんだろうな。
「万が一の場合は商隊を優先しても……?」
「いや、優先というか勝手についてきているだけだから、護衛対象に含めなくていいよ?護衛費をケチったのは自分たち。万が一の場合も自業自得ってね。」
念のため確認したが、護衛対象に含めなくていいとは…。まぁ、見捨てるのも寝ざめが悪そうだし、余裕があったら声をかけるだけでもいいか。念のためアスタ達にも声をかけておく。
「さて、そろそろ出発するよ!」
ウェズリーさんの掛け声で商隊が動き出した。いよいよこの村ともお別れだな……。
こうして俺たちは王都へと旅立った。




