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神のゲームに参加する事になった件  作者: 沙綾
1章 新人時代
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1-9 パーティ募集②

 


 隣村で1泊し、翌日はブロンセ村へと出発する。行きと同じ編成で馬車を囲むように陣取り進んで行く。積み荷は幾分か軽くなったようだが、進むスピードに大きな変わりはない。特に魔獣の襲撃もなく野営地へ到着する。

 2班に分かれて薪集めと野営の設営を行う。今回は設営班に入る予定だったのだが、何故か薪集めに連れ出された。これはまた獲物を取ってこいということだろうか? 何度か薪を持って往復した後、野草やハーブを摘み、ホーンラビットを狩って解体する。途中野鳥の巣を見つけたので、卵をいくつか拝借する。



「……なぜ食事の準備をしていない?」


「いやぁ、あっはっはっは! ……ミズキ君なら狩って来てくれると思って待ってたよ。何か手伝おうか?」


「……はぁ。とりあえず、食材をよこせ。」



 戻った俺を待っていたのは、焚火を囲み笑顔を浮かべているメンバーだった。飯をたかる気満々だなぁ、おい。ロンドさんに至っては隠しもせずに手伝いを申し出てきた。そんな奴らから食材を回収し、スープと串焼きを作る。今回は卵も入った豪華版だ。



「ふあぁ~……! もうもうミズキさんとパーティ組みたいですっ!! 野営なのにこんなにおいしいご飯が食べられるなんてっ!! はうぅ~……モグモグ。」



 食いしん坊のミルキィはそんなことを口走りながら食べている。こんなことでパーティを決めてもいいのか?? 他の面々も満足気だ。……これが族に言う胃袋を掴むというやつなんだろうか。普通こういうのは女子が担当するんじゃないのか??

 前回とは逆の順で見張り番をこなす。他の面々が眠りについた頃を見計らってタクトに声をかける。



「今回パーティを組んだ子たちはどう思う?」


『そうでございますねぇ。いい子達だと思います。良くも悪くも素直で擦れていない。ミルキィさんは少々自分というものを出しすぎかと思いますが……。ミズキ様はどう思われておいででしょうか?』


「そうだな…。今後も組みたいと思う位には信頼し始めている。実際の戦闘でも不都合はなさそうだしな。まぁ、連携なんかはこれから培っていく所だろうし。」


『左様でございますか。……このまま組めるとよろしいですね?』


「ん。まぁ、組んだところでしばらくは特訓だがな!」



 あいつら接近戦がてんで駄目らしいからな。自衛くらい出来るようになってもらわないと困る。……たった数日共に過ごしただけなのだが、何故か手のかかる妹、弟のように感じてしまっているのだ。そんな俺の感情を見抜いているのか、タクトは微笑ましく見守っていた。

 そんな思いと共に、夜は静かに過ぎて行った。



 ■■■



 今日もブロンセ村へと進む。予定通りなら夕方には村につくはずだ。幌馬車はのんびりと街道を進んで行く。目的地が近付くにつれ、少し弛緩したムードが漂い始めたころに、ミルキィの鋭い警告が響いた。



「森側から魔獣の反応がありました。大きめです……これはフォレストスタッグ??」



 フォレストスタッグだと!? グレイウルフともやりあう中層でも強者に入る魔獣が辺縁部に来るなんて、何があったんだ?? ……ってそうか、繁殖期!! 雌に追いやられたか、他の雄にはじき出されたか。どちらにせよ気が立っているだろう事は確かだ。



「ふふん、フォレストスタッグか……。丁度いいわね。あんた達! 今回あたし達は手出ししないからね! 連携を見るためにも自由にやって!!」


「はぁっ!? 何考えて……!」


「あらぁ? あんたグレイウルフをソロで倒したんでしょう? 今回は魔術のバックアップがあるんだし、フォレストスタッグなんて余裕よ、よ・ゆ・う! ほら、早く指示出して!!」


「ちっ! ……ミルキィはその場で待機、探知魔法で周囲の索敵を継続! アルスは初撃にでかいのを頼む! その後は目標の妨害を優先。タクトはいつも通り牽制……いや、ミルキィの護衛を頼む。」


『かしこまりました。』


「「了解です!」」



 ローラにせかされる形で皆に指示を出す。シミターを構えて迎撃の態勢を取る。ローラとロンドさんは馬車の護衛に付くようだ。

 準備が整った所で、森からフォレストスタッグが姿を現す。立派な角を振りかざしてこちらを威嚇しているが、よく見れば身体のあちこちに傷が見受けられる。どうやら雄同士の争いに破れた個体のようだ。ダメージが残っているようだが、気が立っているので攻撃性も増している。



「ツイン=ファイアアロー!」



 アルスが火矢を頭部目掛けて放つが、角によってかき消されてしまう。そのことに驚いた顔をしていたがすぐに立て直して、2度3度と火矢を打ちこむ。

 何度も飛んでくる火矢に煩わしさを感じたのか、頭を低くして角を前にこちらへと突っ込んできた。突進攻撃か!まだ距離があるうちに俺も魔術で応戦する。



「フォース=ウィンドアロー!」



 前脚に立て続けに衝撃を受けたせいか、バランスを崩して転倒する。その隙を見逃さずに、火矢が突き刺さる。短く悲鳴が上がるが、こちらを見る目にはまだ闘志が宿っている。迂闊に近づくと、頭を振り乱して威嚇する。フォレストスタッグの角は鉄鎧も貫く威力があるため中々近寄れない。これじゃ剣で傷を付けるのは無理だな。

 そうこうしている間にフォレストスタッグは体制を立て直していた。こちらを爛々と燃える目で見つめ、今にも飛びかかってきそうだ。



「マッド=ピットホール!」



 フォレストスタッグが1歩踏み出したその場所へ、アスタが泥の落とし穴を作った。そんなに深くはないが、足を取られて再び転倒する。これはナイスタイミングとしか言いようがない。



「ピアッシング=ウィンドアロー!!」



 突然の事に対応できていないフォレストスタッグの頭部目掛けて風の矢を放つ。貫通力を高めてあるこの魔術は、今の俺の切り札だ。

 パシュンと小気味い音がして、フォレストスタッグの頭が後方へと流れる。数秒の後、力無く胴体も地に伏す。うまく命中してくれたようだ。張りつめていた息を短く吐き出す。正直、あれが当たらなかったらどうしようかと思ったぞ。



「やりましたね、ミズキさん!」


「ん、助かった。」



 アスタが嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。それに頷き返してポンポンと頭をたたいて労う。正直アスタの補助はとても助かった。最後のピアッシングが決まったのも落とし穴のおかげだろうしな。

 時間も掛けていられないので、その場でフォレストスタッグを解体してしまう。毛皮は傷が多くて値引きされるだろうが、他にも立派な角や淡白で飽きの来ない上質な肉など取引対象の素材は多い。いい臨時収入になるだろう。



「やるじゃないかミズキ君! 3人でのフォレストスタッグ討伐おめでとう。なかなか相性もよさそうだね?」



 解体が終わり、馬車へと戻るとロンドさんがそう声をかけてきた。確かに一昨日に初めて組んだとは思えないほどよくフォローし合えているように感じる。これは相性が良いという事なんだろうか。他のメンバーもそう思ってくれているといいのだが……。

 そこからは特に襲撃を受けることなくブロンセ村へとたどり着いた。行商人から依頼完了のサインをもらってギルドへと報告に行く。



「さて、これで完了報告をしたら今回の依頼は完了だ。ここで最後のアドバイス、報酬についてだよ。基本、パーティで受けた依頼はパーティ全員で完了報告をする。カードの更新もあるしね。ここで問題になるのは報酬だよね?」


「あたし達のパーティは人数+1で均等割りにしているわ。割れない分は皆で飲み食いして消費しちゃうわね。」


「どうして人数分で割るんじゃないんですか??」




 ミルキィが気になった様子でたずねる。何故+1をする必要があるのか俺も知りたかった。



「僕のパーティは固定パーティだからね。その分を貯めて色々とパーティでの消耗品購入や、皆での食事代なんかに充てているよ。そのほうが色々と揉めなくていいからね。他の人と臨時のパーティを組んだ時なんかはもちろん人数割りが基本かな? 今回は人数割りでいいよね?」



 皆が問題ないと告げると受付嬢へ完了報告をし、報酬を人数分にわけてもらった。道中で倒した魔獣の素材も全て買い取ってもらい、分割する。フォレストスタッグの素材が結構高かったのか割と良い金額が手に入った。

 皆も予想外の収入に顔を綻ばせている。そんな様子を微笑ましそうに眺めながらロンドさんは今回の依頼終了を告げてパーティは解散となった。

 去っていくロンドさん達を見送りながら、ミルキィが呟く。



「あたし……ミズキさん達とパーティ組みたいです。」


「僕も……ミズキさんと、ミルキィさんとパーティが組めたらなって…。」


「……正直、道中も全然役立たずでした。……けど、けどっ!! どうかよろしくお願いしますっ!」


「僕も! よろしくお願いします!」



 ミルキィの呟きにアスタが便乗し、最後は二人して俺に頭を下げている。改善してほしい所は多々あるが、役立たずなんて事は全くない。むしろこっちがお願いしたいくらいだ。

 タクトにちらっと視線をやると、笑顔でミズキ様の御好きにどうぞ。と丸投げされた。



「はぁっ。……お前らな、場所考えろよ、場所を。」



 ギルド内の、しかも依頼完了報告等で他の冒険者たちで賑わっているロビーで頭を下げられている俺……。ちょっとした見世物だ。パーティ結成の件だとわかると野次を飛ばして来る者もいる。

 そんな状況に気が付いたのか、顔を真っ赤にして俯く2人。



「まぁ、元々パーティに誘おうと思ってたんだ。むしろ俺の方こそよろしく頼む。」



 俺のそんな言葉に、ポカンと口を開けこちらを凝視したまま固まる2人。……そんなに意外だったか? 俺だって必要があれば頭だって下げるさ。

 暫くしてフリーズから立ち直った2人は、飛び上がって喜んでいる。そんな2人をなだめながら、パーティ申請へと向かうのだった。


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