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4月8日

 月曜日。

 宣言通り俺は土日を怠惰なままに過ごし、惰眠をむさぼるだけむさぼり、飯食って寝て飯食って寝て休日の大切な二日を消費した。

 もはや携帯すらいじっていない。パソコンすらも見ていないし本棚に並べられている週刊漫画雑誌を読み返したりもしなかったし、ほとんどをベッドの中で過ごしていた気がする。


 なんだかんだと言って新学期一週間、疲れていたのかもしれない。入学式に新入生オリエンテーションからのレクリエーション授業などなど、まぁそれも今週の月曜日に入ってからは普通の授業に変わってしまったのだが。


 そんなわけでというほどでもないが、俺はいつもの通り山道を登っていつもの絶景スポットへと足を運んでいた。

 案の定俺より先に見える影がある。ベンチの先、そこにいるのは制服姿の女子生徒。最早見慣れたその姿に驚くことはなく、今日はポニーテールにしているななどと思いながら無遠慮に隣へ座る。


「よ」


「よっ」


 ふと隣を見やればキラキラした目で見つめてくるので、仕方なく挨拶。

 軽快な返事。


「――って、ムツヤくんから声掛けてくれるなんて珍しい! 地球滅ぶ?」


「ぶん殴るぞ」


 俺は憎たらしい横顔とぴょこぴょこ揺れるポニーテールを収めながら、こいつには二度と挨拶してやらないと決めるのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……で、お前は昨日も一昨日も来てたわけか」


「うん。別に私はムツヤ君が休日でも来てくれるのかな、だなんて全然期待なんかしてなかったんだからね」


「うん」


「うん……うんってなに!? 普通はさーもっと反応とかあってもいいんじゃないの? ねぇ、こんなこと女の子に言われてるんだよ?」


「そうだね」


「そうですかーそうですよねー……しね」


「おい。というか俺が来るのなんざ一ミリも期待してなかったろお前。大体なんで休日の日にまでこんなとこ来て景色見なきゃいけないんだよ、お前本当に友達いるの? もしかして話す相手俺しかいなくて困ったりしてない? そこまで精神状態追いやられてるなら相談相手にはなってあげるけど?」


「ばーか、だから別に期待してないって言ったじゃん馬鹿。別に私は一人で景色を見に来ただけですー別にムツヤくんとかしらないですー」


「じゃ、帰ろうかな」


「ああああ待って待って嘘ですちょっとはお話したかったってのは本当にこれっぽっちはあるから一回待とう?」


 俺が鞄を持った瞬間、横から強引にひったくられて彼女の両腕の内に収まってしまった。

 まるで猿の如き神業だった。早く返せ殺すぞ。


「……なんだよ今日のお前いつもよりまして面倒臭いぞ、どうしたそんな痴漢被害に遭ったって駅員に怒鳴り散らかしてる自意識過剰な女みたいな顔して」


「その表現の仕方はちょっと意味わかんないけど今日の私ってそんなに面倒臭い?」


「それはもう死ぬほど面倒臭いから早くスクバ返せ」


「えへへー、ダメです。むかつくから」


 俺が鞄を取り返そうと手を伸ばした瞬間、素早い動きでベンチの奥へと退避する景色。


「え……? 嘘、私リアルタイムで痴漢されそうになってる……? そ、そんな! こんな人気のない山奥の閑古鳥でも鳴きそうな外界とは隔絶された空間で、私の身体めちゃくちゃにされちゃう! エロ同人みたいにする気なんでしょ、エロ同人みたいに!」


「うるせぇいいからスクバ返せってお前には一ミリも触れないし興味もないから」


「ダメです」


「触って欲しいのかよ!」


「嫌です」


 む、と顔をしかめた景色は立ち上がり、俺の鞄を肩に構え――ちょっと待って洒落にならな「えいっ」放物線を描いて俺の鞄は崖の下へと落ちていった。


 え?


「……え? いや冗談でも流石にそれはない。え?」


「……だってむかついたんだもん」


「いや意味分かんねぇって取りに行け」


「むかついたの! ごめん! そして謝って!」


「どっちなんだよ! てか俺なんか悪いこと言ったかよ!」


「言いました。心無い言葉を何回もぶつけられて私本当に傷付きました。笑って流そうって……そう、グス、思ってたけど……冗談でもひどいよ、ムツヤくん」


「あ、おい……分かったよ俺も悪かったよ。お前が友達いないだなんて断言しちゃって」


「そこじゃなーい!」


 叫ぶなりドロップキックをかまされ、俺は真横に吹っ飛ばされた。

 ぐるんと一回転して俺はベンチから弾き飛ばされる。


「……てめぇやっぱ嘘泣きかよ!」


「悲しいのは本当だよ。だってムツヤくんデリカシーないし空気も全然読まないし。私だって女の子なんだから傷付くんだよ。謝って」


「……悪かったよ」


「いいよ。ごめんね、取りに行ってくる」


 そう言うと景色は崖の方に歩いていく。そのまま行くと普通に崖から落ち――。


「あ! おい、馬鹿野郎そっからどうやって降りるんだよ!」


 彼女の手を後ろに引き、今正に崖から飛び降りようとするのを寸でのところで防いだ。反動で俺の肩に寄り掛かってきた彼女は「はぁ」とため息混じりに呟くと、何も言わずに一方向を指さす。


「そっち傾斜緩いから降りられるし。飛び降りるわけないでしょ、私そんなメンヘラじゃないつもりなんだけど」


「……あ、いや。ごめん」


「ううん、でも心配してくれたんでしょ。ならよかったかも」


 手を放す。すると景色は俺の手首を掴み返して、小さな力で前に引っ張った。


「一緒にさがそ」


「いや何言ってんのお前。投げ込んだのお前なんだから取りに行くのはお前だろ」


「せい!」


 俺が当然の事を言うと割といい感じの正拳突きをもろに鳩尾に貰っ……息が……うそ、こいつ絶対なんか習ってるだろ……ぐふっ。


「お前……悪気とか……全くないだろ……」


「正直全くないよ。だってこうなる原因作ったのムツヤくんじゃん。探してあげるだけありがたく思って。降りたらそのまま鞄取って私帰るから、別に待っててもいいよ私戻らないけど」


「お前それついてこなきゃスクバ返ってこねぇじゃん!」


 結局俺も鞄を探す羽目になり。

 ちなみに鞄は割と近い場所にあったが、チャックが開いていて中身が外にぶちまけられているという悲惨な状態で発見されたため、俺が白い目で隣を見ると――景色は凄い綺麗なフォームを作って既に土下座をしていた。


「本当にごめんなさい」


 帰り道に文房具屋に寄ってノート数冊と筆記用具を買ってもらう、今日はそんな一日だった。

睦人「教科書もぐっしゃぐしゃなんだけど」

景色「やりすぎました、それだけは本当にお金が足りないので許して下さい……ごめんなさい……」

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