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4月3日

4月3日


 今日も俺は景色を見にこの場所へとやってきていた。

 昨日の惨事に真正面から出遭ってしまった手前、今日はどうしようか悩んだのだが、結局今日も足を運ぶ形となったのである。


 流石に三日連続はないだろうという目論みも持っていたのもあるけれど。


 そんな俺の視界は真っ暗だった。

 いや前が見えないとか、夜だからとかそういうことではなく。

 物理的に見えない。そう、何者かに後ろから両手で視界を塞がれているからだ。


「……だーれだ!」


 これほどまでに人間を殺してやりたいと思ったのは、初めてだった。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「俺が何をしにここに来ているか分かってるよね?」


「うん、分かっててやっているんだよねそれが」


「分かったお前ちょっと今すぐその手を離して俺の前に跪け、両手を根本から切り落としてやる」


「やだよ、そんなことされたら私もうお嫁にいけないじゃん!」


「そういう話か!?」


「手が使えなかったらあんっっ! なことやこん――んっ……なこともできないでしょ?」


「――いいからその手を退けやがれーーーーーーーーー!」


 ようやく視界が開けると、彼女はちょこんと俺の横に座ってきた。なんだか昨日より距離が近い。

 死ねばいいのに。


「というか今日も来んのかよお前……嘘だろ? なんで新学期から毎日来る余裕あんの? 友達作れよどっか遊びに行けよ……お前今日制服着てるんだし学生なんだろ?」


「いや、だからそれ全部私にも言えることなんだけど……」


「俺は昨日も一昨日も満足に景色を見れなかったから今日も来てるんだよな。主に右隣に座っている誰かのせいで」


「えーだれだれー?」


 彼女は右へ顔を向けてそんなことを言う。

 俺は当たり前のようにスルーした。


「あぁ……なんか、今日雲行き怪しくなって来ちゃったな……今日はお前に邪魔されるだけじゃなくて天候にも邪魔されてるよ」


「そうだねー。ちょっと曇ってきたから、そろそろ雨も降っちゃうかも」


「ねぇ罪悪感とかそういうの感じたりしないの? 俺の目を直接塞いだことに関する謝罪をしてくれてもいいんだぜ」


「うんごめんね。悪かったよ」


「やけに素直なんだな」


「まぁだって、友達も作らないで三日連続で景色見に来るようなぼっちガチ勢の邪魔をしちゃったら謝るしかないよねー――暴力反対! そう拳作って待機しなさんなってー牛乳飲め?」


「……殺す」


 そんなこんなで、景色は今日も見れそうにない。






「ふぅん。西鈴せいりん高校に通ってるんだね、ムツヤ君」


「まだ何も言ってねぇしムツヤ君って呼ぶなって言ったしちょっと黙って欲しい」


「私は東光とうこう女子の一年だよ。どう? 女子高の華の一年生女子と話す気持ちは、どう?」


「とりあえず死ね」


「とりあえず死ね!?」


 今日から授業が始まったため、今日の俺の格好は制服だ。多分彼女も同じような理由で学校帰りにここに寄ったってことなのだろう。

 というか制服見て一発で人の高校当てるって、なんなのこいつ。時間なくても私服で来ればよかった。


「んじゃ、今日はもう良い景色見れなさそうだし帰るわ。雨降りそうだしな、じゃな」


「えーもうちょっとお話しようよー折角なんだしさ。ここで会ったのも何かの縁ってやつだよ」


「ここで会ったが百年目の間違いだろ」


「そんなに殺したいの!?」


「いや別に警察に捕まるから俺は手出ししないけど。できることならそこの崖から転落して遭難して欲しいかな」


「それで死んでもいいけど、そんなことになったら一生取り憑いてやる」


「頼むからワンクッション挟まずに直接地獄へ堕ちろ」


「背後から睦言交わし続けるからね。彼女が出来ても後ろから念送り続けて嫌がらせもするし、学校で消しゴム顔に投げ続ける。一生ぼっちの呪い」


「すげぇムカつく幽霊」


 立ち上がった俺はスクバ(スクールバッグの略)を肩に掛ける。


「雨降るからお前もそろそろ帰れ。俺傘持ってないんだよ」


「え? 私は持ってるよ」


「きょとんとした顔で何言ってんの? お前じゃなくて俺は持ってねぇんだよ!」


 そんなことを言っていると、ぽつりと一滴額に冷たい感触が張り付いた。

 あ、と思うのも束の間で、いつの間にか灰色の雲が空を覆っている。ぽつりぽつりと雨は降り始め、それらはすぐに強まった。


「あーだから言っただろ! 帰――」


 にわか雨、土砂降りの如く降り注ぐ雨。

 一気に制服を叩く雨は、彼女に差し出された傘に遮られる。


「はい、ほら。傘忘れちゃったんでしょ? この中帰ったら風邪引いちゃうよ。一緒に帰ろ」


「あ、ああ……ありがとう……ってか、帰り道違うだろ」


「それもそうだね。だから途中までだけど」


「ぐ……すごい不本意だけどこの雨じゃ頷かざるを得ない。仕方ないその案乗ってやる」


「そんなこと言ってると入れてあげないから」


「出来ればその傘俺に渡して一人で帰ってくれ」


「えいっ」


 腹部に肘打ちが直撃した。

 普通に痛かった。






 こうして俺たちは下山する。


 三日目にして、俺と彼女は不幸なことに初めて一緒に行動を共にしてしまった。

 それもこれもにわか雨が悪い。


 途中で足場の悪さに転けそうになりながら、無事下山。

 やっぱり途中で彼女の下らない話に付き合わされながら、土砂降りの雨を帰っていった。


 その中で、とうとう名前交換をした。


 俺の名前は細波さざなみ睦人りくと

 彼女の名前は上代かみしろ景色けしき


 彼女は俺の名前に睦が入っていることに笑い、俺は彼女のいかにもたった今作りましたみたいな偽名を鼻で笑った。

 そうして帰り道の途中で別れ、俺はスクバで頭を覆い隠して走り出す。


 今日は、そんな日であった。

睦人「お前のそのいかにもな名前はなんなの?」

景色「そんなの私の両親に聞いたらいいと思いまーす」

睦人「じゃあこれからお前の名前はケシ子だな。消しゴム子でケシ子、一文字違いだ」

景色「絶対いやだ」

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