ヴァンパイアのハロウィーン観測記録
自作「理系少女のヴァンパイア観測記録」のハロウィーン掌編です。小説家になろうサイトにて掲載中です。
「今日はハロウィーンだね」
今、私の目の前で何かを企むような怪しい笑みを称えているのは正真正銘の吸血鬼、うちの高校の夜間部二年の闇原雷知だ。彼が何故華の女子高生の私の家に押し掛けて来るようになったか、もとい彼との衝撃の出会いについても話せば長くなるのでここでは割愛させてもらう。
私はハッとしてとっさに口にした。
「トリック・オア・トリート!」
昨日、部活の実験で有機化合物を朝方まで煮詰めていたこともあって、完全に忘れていた。それで街が騒がしかったのか。闇原のことだ、どんないたずらを仕掛けてくるか分かったものじゃない。こうなれば先手必勝!ということで、私はお決まりの文言を考えるより先に口にしたのだ。
「お菓子だよね、はい、これ」
闇原がポケットから取り出したものを見てみれば、ピンク色のハート型をした可愛らしい飴だった。
「や、やられた……」
考えてみればハロウィーンの事を口にしたのは闇原なのだから準備をしているに決まっているけれど。飴を受け取って、私は尋ねた。
「可愛い飴ね。何味?」
「えっ? い、苺味、かなあ……」
急にしどろもどろになった闇原を問い詰めると、とんでもないことを白状した。
「この飴は僕が実家に帰ったとき、サキュバスのエレナに貰ったんだ。元気が出るからあげてみてって言われて」
満面の笑みで口にした闇原だったが、私は固まった。
「サキュバス……? それって」
「ああ、君は知らないかな? サキュバスっていうのはね、人間の男の夢に現れて」
「ちょっと、ストップ! 皆まで言わないで、知ってるから!」
「君、最近寝不足で疲れてたでしょ? これを食べたらきっと栄養ドリンクなんかよりずっと元気になれるよ」
しかしここでほだされてはいけない。彼の笑みがいくら美しくて優しさに満ち溢れているように見えたとしても、だ。
「そんな顔してもだめ、食べないわよ!」
「要らないなら、いたずら、してくれるの?」
「えっ?」
「僕らに宣言したってことは、契約したってことだからね。守ってくれないと何するか分からないよ?」
闇原は楽しげにニヤニヤとこちらを見つめている。私は腹を決めた。
「じゃあ、目を閉じてよ」
闇原の頬に軽く音を立てて口付けると、私は言った。
「い、いたずら完了! これでいいでしょ? じゃあコーヒー入れてくるから!」
しかし立ち上がろうとした私の手を闇原は引っ張った。体勢が崩れて、私は闇原の
「Treat or treat! 今度は僕の番だよね?」
まずい。これは非常にまずいことになった。
「どうせ忘れてたんだろ? いたずらしなきゃね」
「ちょっと待って! コンビニで買ってくるから!」
「隙あり」
闇原のしたり顔とともに、私の口に何かが入ってきた。甘い苺の味が広がる。
「ふふ、君は相変わらず脇が甘いね」
「これ、さっきの? 何てこと、して、くれるの……」
闇原を睨み付けようと思ったけれど力が入らず、私は自然と上目遣いになった。それに、体がどうしようもなく熱く、息が上がる。……やっぱりさっきの飴、完全にアウトだ。
「僕はお菓子なんかより血がいいな。君も元気になったみたいだし」
そして満足げな顔をした吸血鬼は私を抱え上げた、もう抵抗する気力もなかった私は大人しくベッドに連行されたのでした。