ep0 出会い
今日もいつものように詰まらない仕事が終わり、帰る道中で煙草と酒をコンビニで買い、思いですら風化してしまった家へと向かっていた。
毎日同じ道を通るのにも飽きていた為、久しぶりに少し遠回りになる道を歩いていた。迷ってしまったのだろうか、だが迷うはずが無い、何年間も住んでいる町なのに俺はこの景色を知らない。夢かと思ったが俺の眼は寒さの影響かとても冴えている。冴えているからこそ普段とは違う景色だとはっきり認識できた。俺が居た場所は住宅街、だがそこには、家らしき建物が無かった。それに月
夜だったはずなのに空は灰色で、黒い太陽が昇っている。周りは白と黒でキレイに統一されていて気味が悪い。ついに俺は狂ってしまったのだろうか、変な薬なんかやっていないのにおかしくなってしまったのだろうか。そんな事を考えつつ見知らない景色の中を誰かいないかと探し彷徨っていると、少し遠くに人影が見えた。
遠かったため男か女か判別できないが、今のわからない現状を打破する為には、誰かにどうなっているか確認する必要があった。その際、危険な奴でもいいと思い、人影の方向へ歩いて向かった。
少し歩くと遠くに居たはずの人影が俺に気付いたのか、こちらへ向かってくるのがわかった。でも何かおかしい、人影が近づくにつれ、俺は恐怖を感じていた。なぜなら、それは人ではなく人の形をした黒い何かだった。気付いた時にはもう遅いなんてよく言ったものだ。体が恐怖に支配され思う様に動かない。それは、まるで金縛りになった時ととても似ていた。
黒い何かが、だんだんと距離が近づくにつれ、わかったことと言えば、黒い奴は顔もないただの真っ黒い人の形をしているだけなのに危険な香りがそいつを覆い尽くしている。この世の、悪を詰め込んだ様な感じだ。触れられただけでもやばそうなのは俺の第六感が完全告知していた。体が全く動かないから逃げる事も諦め、瞼を閉じて自身の最期を覚悟した。
瞼を閉じて少し経つと黒い何かが、俺の眼前で止まったことがわかった。そしてそいつは黒い手を伸ばし俺に触れようとしている事を直感だがわかった。俺はこんな意味不明な場所で意味の分からない死に方をするのだろうかと自問自答しながら死の瞬間を待った。どのくらい目を閉じていたのかわからないが何も起こらないので、不思議に思い、恐る恐る重い瞼を開けると黒い何かは消滅していた。
何が起こったのかまったく理解できないがとりあえず助かったのだとわかり、溜め込んだ酸素を放出し安堵した。ただ今度はさっきまで黒い何かが居た場所に人らしき奴らが二人並んで立っていた。さっきの変なのとは違いはっきりと人間とわかる容姿をしていた。一人は男で一人は少女、どちらもとても儚げでこの世の絶望を全て見てきた様な瞳をしていた。
彼らと出会い助かったが、この時、俺は何を失ったのかまだ理解していなかった。