3. ゼウス
「ゼウスが何かはご存知かと思います。えぇ、この世界を創り出した全知全能の神。我々人類もまた数々の知恵とチカラを与えられました。だが、人類はそのゼウス様に与えられたチカラをフルに扱えていなかったのです。私もある日、それに気がつきました。ゼウス様が与えたそのチカラの正式名称はわかりませんが、我々、こころの大樹一同は神の名をとり、ゼウスと呼んでいます。この空間も私のゼウスによって創り出されたものです。あなた方にもその特別な力、ゼウスを扱う事が出来る、いや、もうゼウスに目覚めているものもいますね……」
八尾は囚人たちの顔を見渡してからそう言った。そこで、ひとりのメガネを掛けた青年が問う。
「ゼウスってどうすりゃ使えんだよ? ゼウスを使う時にリスクなどは存在するのか? また、ゼウスは人それぞれなのか、それとも共通するものなのか?」
まだ何か聞こうとする男の言葉を塞ぐ様にして八尾は、
「そんなにいっぺんに聞いてくるな! 黙れウンコ野郎!!!!」
突然の怒声に一瞬で空気が凍りついた。怯えた様子を見せる女の囚人もいたが、八尾はすぐに元の口調に戻り、淡々と話す。
「簡単に話しますと、ゼウスと言うのは人間の体内に生成される魔素と言うチカラの源が必要となります。その魔素は“選ばれた人間”だけが絶え間なく生成しています。が、基本的に生成される量は微々たるものです。逆にゼウスを使う際の魔素の消費量は非常に多く、乱発すると命を落としかねないので、お気をつけください。ちなみに、ゼウスは人それぞれ違います、各々の個性が表れますのでどの様な能力かは自分で判断してください」
八尾はそこまで話し終えると、疲れたとアピールせんばかりに大きなため息をついた。……それから少しの間の沈黙が訪れた。その沈黙を破ったのは先ほどのメガネの男だった。
「で、能力の使い方は……?」
「んなもん知るか自分で見つけ出せウンコ野郎! こやし玉投げつけるぞこの野郎!」
そう叫ぶと八尾は怒りに満ちた表情でドアを蹴り開け、部屋を出て行った。警備の人間もそれに続くように出て行く。
残された囚人たちは、牢から出されたまま置いていかれ、どうすれば良いのか困惑した。牢を出されたと言う事は、自由に行動してイイのだろうか。いや、しかし行動するにもこの部屋の四方の壁全てに一つずつ扉があり、どの扉がどこに繋がっているのかも分からない。下手に出てあの八尾と言う看守に捕まる可能性だって否定しきれない現状、下手に動き出す事は出来なかった。その時、館内アナウンスが流れた。
『館内放送、館内放送。三十分後に、“ゼウスウォーズ”を行います。選手の皆さんは控え室へ移動、観客の皆さんはスタジアムへの入場が可能になりましたので、どうぞご入場ください』
プツッとマイクの音が切られ、館内放送は終了する。囚人たちは理解できず、何が起ころうとしているのか全くわからなかった。その時、牢獄の天井が開き、中から大きなモニターが降りてきた。そのモニターには八尾が……。顔には少し不気味な笑みを浮かべており、先ほどから十分と経っていないが機嫌は直ったようだった。
『えー皆さん、初のゼウスウォーズで緊張している事でしょう。今回は初めてと言う事でチーム戦でやってもらおうと思います。ちょうど十名いらっしゃいますので、一番から五番と六番から十番で分かれてください。一番から五番チームをAチーム、六番から十番チームをBチームと呼ぶ事にします。では、Aチームは赤コーナーと言うか左手の扉、Bチームは青コーナーと言うか右手の扉へ移動してください。ゼウスウォーズ、直訳するとゼウスの戦争という事です。まぁ相手チームを戦闘不能にすれば勝利という簡単なルールですので頑張ってください。ちなみに、勝利しますとBPが貰えますからね』
そこでモニターの映像は途切れ、また天井へと登っていった。
一度に説明されて理解出来た者は一人も居なかった。だが、確実に何かが起ころうとしている。左右の扉が錆びれた音と同時にゆっくりと開かれた。