村長と父
村長は長椅子に戻り、手紙を読み始めた。
最初は面白がって読んでいた村長は、読み進めるにつれて真面目な顔になっていった。
2人は、そんな村長から何かを読み取ろうとじっと見つめる。
手紙をひと通り読み終わり、村長はそっと封筒を折りたたむ。
「生きているうちにいえよ……」
と、2人に聞こえぬよう小声でつぶやいた。内容を思い返し、切なそうにくしゃりと顔を歪ませた。
忘れかけていた2人の存在を思い出し、言った。
「いってきなさい。それが君たちの父さんの願いだ。そして、いつでももどってきてもいい。ここは君たちの故郷なのだから」
「「ありがとうございます」」
「ところで、何が書いてあったのですか?」
とセシリーが聞く。
「いやなに、君たちをよろしく頼む、と、少しばかり懐かしい話が書いてあっただけだ」
これ以上聞くなという無言の圧力にセシリーは問い返そうとした口を閉ざす。
それをみてふっと笑う。
「それでは私たちはそろそろ……」
「ああ、ちょっとまて、渡したいものができた」
そういうと村長は立ち上がり、奥の部屋に入っていった。
すぐに戻ってきた村長は、先ほど座っていたところに座り直した。セシリーとアルを交互に見比べたあと、口を開いた。
「アル、手をだせ」
アルは横目でセシリーをちらりと見たあと、恐る恐ると手を出す。
その手に、村長が手に包み込んでた羅針盤が置かれた。村長の息子、レノと、この家でかくれんぼをして遊んでいた頃、大きな船の模型の横に置かれていたことを思い出す。村長は側面に彫られている模様をなぞり言った。
「これは、私が彼に、君たちの父に貰ったもの、だ。これはふたりに譲る。道に迷わず進めるように」
「本当にもらっても?」
勝手に船の模型と羅針盤を触りひどく怒られたことを思い出したセシリーは、信じられないというようにつぶやく。
「ああ、もちろん」
「でも、なぜセシリーでなく俺に?」
「誰がセシリーの暴走をとめるんだ?ん?アルしかいないだろう?」
「どういうことよ!」
と間髪入れずに言い返したセシリーをみて、村長に頷く。
「ありがとうございます、村長」
アルは大切に服の内側のポケットにしまい込む。
その様子をひと通りみていたセシリーは言った。
「そろそろ行きます。明日は朝早いので」
セシリーとアルは同時に立ち上がり扉に向かった。
「2人が来たことをルノに伝えとくぞ」
「「ありがとうございます」」
2人は扉を開ける。先程まであたりを照らしていた太陽はすでに沈み、地の月と水の月に空に上る黄色の月があたりを柔らかく照らしていた。 村長を振り返った2人は、軽く頭をさげ笑顔で言った。
「「いってきます」」
村長は2人に深く頷いた。
普段より早足で歩く2人が闇に紛れて見えなくなることを確認し、2人と話していた部屋の椅子まで戻った
そのまま椅子に深く腰掛け、むかし共に旅をした友人に思いを馳せる。
「ふたりはもうあんなに大きくなったんだな。我が友よ」
ぽつりと誰も居ない部屋につぶやきが溢れた。