我が家の事情
アルとセシリーは村から少し離れた丘の上にある家に住んでいる。父が母と結婚した時に立てたそうだ。
家は4人が暮らすのにちょうどいい大きさで、屋根は海色の色をしている。畑に向かう道沿いには色とりどりの花が咲き乱れている。
父が立てたであろう畑を囲う柵には、不思議な文字が彫られているが、2人にはなんと書いてあるかはわかったためしがない。けれど、どうやらこれが、畑に魔獣が入るのを防いでいるようだ。
家から、30分ほど歩いたところに、母が父に出会うまで暮らしていた村がある。
この村は、どこにでもあるようなこじんまりとした村だ。野菜や果物などがよく育ち、時折訪れる商人たちにそれを売ることで村を維持している。
2人はそこで育てた野菜を村人たちと売ったり、狩ってきた魔物を売ったりして暮らしている。
2人は村長の家に立ち寄る前に立ち寄った我が家で旅の準備を整えた。
支度を終えた2人は机を挟んで椅子に座った。2人が支度をしているあいだ、いつものように机の上でくつろいでいたファルナに話しかける。
「ファルナ、おねがいがあるんだけど」
セシリー申し訳無さそうな声で切り出した。
「いったいなんじゃい」
「私達が旅にでている間、留守番をしていて欲しいのよ」
「それがいいんじゃないかってさっき話したんだ」
その言葉にファルナは毛を逆立たせてうなった。
「妾は好きなときに好きなところにゆくぞ?そなたら2人では妾の行動を制限する権利はないんじゃよ」
2人は困って顔を見合わせた。
「それじゃあ、留守の間どうしましょう。家は人が住まなかったらあれるというのに」
「だめもとで、村長に頼んでみるか?」
「そんなことをせんでも、この家は荒れたりなぞせぬわ」
「「え?」」
2人はファルナに視線をもどした。
「「どういうこと(だ)?」」
アルはそういいヒゲを少し引っ張り、セシリーは揺れ動いている尻尾を抑えた。
「ヒゲをひっぱるな、尻尾に触るな、年長者を敬え。昔からこの家は精霊の加護があるからの。勝手に荒れたりはせぬよ」
2人は感心して頷く。
「そうだったのね」
「だから、いつの間にか瓶の中の水が増えていたりしたのか」
「だから妾がどこにおろうが妾の勝手じゃろう?」
「わかったわ」
「止めはしないよ」
アルは立ち上がり用意した荷物を出入り口の近くにまとめて置いた。セシリーは手紙を持ち、扉を開けた。
「さあ、村長に会いに行くわよ」
アルは頷いて、一足先に歩き出したセシリーのあとに続いた。