思い出、気持ち
「……私は、いきたいわ」
沈黙を破ったその言葉に、アルはセシリーをみた。
「アル、覚えてる?昔、母さんの誕生日のプレゼントにって花を取りに行ったことあったじゃない?あのとき、初めて見る村の外は少しこわかったけどとてもわくわくしたわ。私、もっと世界をみてみたいの。この手紙に書いてあることは関係なしに。だから、これはいい機会だと思うの。どう?」
交わした視線が、思い出して、と言っているようにみえた。
そっと、目を閉じる。
アルがまだ、小さかった頃の記憶がよみがえってきた。
母さんに喜んで欲しくて二人で村を飛び出したことを。
魔物はとても怖かった。道に迷ったときもどうしようもなく不安だった。
でも、あの時初めて見た花畑を思い出す。
とても。
とても、嬉しかった。
わくわくした。
綺麗だった。
そして、何か足りないと感じていた日常に思いを馳せた。
足りなかった物はこれかもしれない。
もっと、もっと、知りたい。
アルは握りしめていた手をゆっくりと解いた。
「そうだね」
ゆっくりと瞬きをして、セシリーに微笑んだ。
「俺も行く」
「ほんと!やっぱりいかないなんて聞かないからね」
セシリーはアルの手をとり、満面の笑みを浮かべた。その顔をみて、アルは少しためらいつつもうなずいた。
そんな2人をみてファルナはそうっとつぶやいた。
「……ぬしの言っていたとおりになったの」
遠い昔を思い出すようにいったその言葉が聞こえた2人は、はっとファルナのいる方を振り返った。
「「父さんをしっているの(か)?」」
ファルナは頷く。
「彼は古い友人よ。おぬしら2人のことも頼まれていての。どうにか旅立たせてくれというておった」
意地の悪い声でそういったファルナはとん、と地面に着地した。
「最初から言ってくればいいのに」
「なんで黙っていたのよ」
「もし、話していたらおぬしらはそれを信じたかの?」
そういってファルナは家に続くあぜ道を歩き出す。
信じなかっただろうな。とこころの中でつぶやいた2人は顔を見合わせる。
「善は急げ、じゃ明日には出発するのがいいとおもうのじゃが?」
振り向いたファルナはそう告げて駆け出した。
それを聞いた2人は頷いた。
「そうだな」
「村長さんにも話さなきゃ」
「決意したことは即実行」
「いくわよ、アル」
2人は元気よく立ち上がった。