手紙と、頼み事
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親愛なるアーノルド、セシリア
この手紙が届いた、ということは
私が死んで3年の月日が流れた、ということだろう。
母さんが死んだということは風の噂で聞いたよ。
死に目に合うことができなかったのは残念だ。
2人も元気でいることを願っている。
この手紙を2人に送った理由だが、頼みたいことがあるからだ。
こういうことを手紙で伝えてもいいのだろうかと迷ったが、私には時間がない。
各大陸には願いの込められた〈欠片〉が存在している。
見た目は丸く、それぞれの大陸に合わせた色をしている。
その〈欠片〉を探し出し、ある人に届けてほしい。
その人には〈時の神殿〉に行けばであえる。ある事情で名前を教えることはできない。
私は彼にいろいろと約束をしていたん。この手紙が届いている、ということは、その約束の1つが果たせなかったのだろう。
どうかその人に〈欠片〉を届けてくれないだろうか。
無理強いはしない。やるかやらないかは2人で決めてくれ。
それと、もうひとつ。
この手紙を開いた時2人にかけてある封印が解けるようにしておいた。
2人にはもう〈精霊〉が見えていることだろう。
彼らは自然に存在する力そのもの。見える人間もいるが、見えない人間のほうが圧倒的に多い。
私達一族と妖精であるエルフ族、ノルフ族は昔から彼ら一族と付き合ってきた。
もし、こまったことがあったとき、精霊たちが助けてくれることだろう。
私はその現象を〈魔法〉と呼んでいる。
彼らの話に耳傾け、学べるものを学ぶといい。
それはきっと旅の助けになる。
アル、そしてセシリア
2人に風の加護と星の導きを
スウェント・C・レリベルト
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セシリーはわずかに震える手で手紙を閉じた。
「これは……」
読み間違いではないかと手紙を凝視しているセシリーの手から、閉じた手紙を奪い取った。二度、三度手紙に視線を走らす。
「……これは、旅にでろ、ということなのか?」
セシリーに問いかける。
「そうよ、絶対そう。なんて勝手なひとなの!私達がどれだけ心配してどれだけ死んだことを悲しんだと思っているのよ。人の気もしらないで。まったく勝手なんだから。しかも一族ってなんなのよ、そんな歴史ある家系だったのかしら」
「まったく、本当に……、ところでファルナ、あんたは〈精霊〉か?それとも別の生物か?」
「おぬしにはどう見える」
「どういうことだ」
「なにか関係があるの?」
「妾が何であるかは人の心が決めるものじゃからな」
ファルナはふふんと鼻で笑った。
「どういうことだ?」
「なんで心が関係してるのかしら」
「それに、なぜ封印が解けた途端に言葉が聞こえるようになったんだ?」
ファルナは答えず前足をなめた。
これ以上なにもいうことはないと尻尾をゆらりとし、木の上によじ登った。
そして、2人に問いかけた。
「セシリー、アル、おぬしらはこの手紙にあったように旅にでるのか?」
2人は、自分たちを見下ろす琥珀色の目から底知れぬ威圧感とそこに潜む何かに恐怖を感じ目を逸らした。
「旅にでろ……か……、旅なんて商人か腕に自身のある人じゃないかぎり、村の、結界の外になんてでないじゃないか…………」
アルは震える声でつぶやいた。
「怖いんじゃな?」
「あたりまえだっ…………」
アルは震える手を握りしめる。
アルは、いまだに尻尾をゆらしているファルナが何を考えているのかわからなかった。