手紙
丘の斜面にポツンと存在している小さな畑に、やわらかな光が降り注ぐ。
畑にそって柵が並び、近くには大きな木が、青く透き通った空に向かい枝を伸ばしている。
木の根元には少年。枝の間から降り注ぐ光から顔を守りながら、ぐっすりと寝入っていた。日に照らされ、金色に見える茶色の髪が、不意に吹いた風に揺れる。
突如感じた衝撃に、アルは驚いて飛び起きた。腹の上には標準より体重のありそうな猫がこちらを見上げている。
「起きなさい! アル」
「なにするんだよ、セシリー。人がせっかくいい気持ちで寝てたのに」
姉であるセシリアを睨み、腹の上にのった猫、ファルナを脇に除けながら言った。
「なによ、どこにいるかと必死で探して、見つけたと思ったらこんなところでぐーすか寝ているなんて。探すほうの身にもなってみなさい」
セシリーは腰に手をあて、追い打ちをかけた。
「いいだろう、別に。ここなら魔物だって襲ってこないし」
「そういう問題じゃないの」
高いところが好きなファルナがアルによじ登り、二人が睨み合う中、お前が悪いとでも言うようにしっぽで顔をパシリとはたいた。
アルは無言でファルナを持ち上げもう一度脇に避け、ふう、と溜息をつきながら言った。
「わかった、わかった。俺が悪かった。それよりも、なんで急いでいたんだ? その手に持っているものが関係しているのか?」
セシリーが手に握り締めているものを指でさす。
そう言われて、セシリーは手に視線を戻す。手には、書かれてからしばらくたっているのか、少し黄ばんでいる封筒が力いっぱい握りしめられていた。
封筒の惨状に一瞬硬直したが、素早く元の形に整えアルの顔の前に突きつけた。
「そうよ。さっきポストをみてビックリしたの。これ、父さんから手紙よ!」
アルは驚きで目を見張った。が、すぐ訝しげに手紙を睨みつけた。父はすでに死んで知るのだ。
「なにいってるんだ? そんなはずないだろう」
「でも、これは父さんの字よ」
そういって手紙をアルに手渡した。
「まだ、開けてないんだな」
「一緒に読もうと思って探していたのよ」
責めるような視線に、アルは気まずげに目を逸らした。
「それは、わるかった」
「ほんとよ、もう」
そう言うとセシリーは、アルの隣に腰掛けた。
「さあ、読みましょ。レスカの木の下なら魔物は襲ってこないでしょ。なんたってアルが寝こけていたぐらいなんだから」
嫌味の混じった言葉に頷きながら、しわくちゃになってしまった封筒から手紙を取り出した。
瞬間、封筒から湧き出る不思議な光が二人を包み込んだ。直視するのをためらうような青い光が辺りを満たす。
2人はその眩しさに思わず目を閉じた。すると温かい何かがまぶたに触れるのを感じた。
その、温かい何かが頭から体の中心にかけて浸透していくのに身をこわばらせ、隣にあった互いの手を握りしめた。
頭のてっぺんからつま先まで温かい何かが通り抜けたと感じてすぐに光がおさまり、2人は顔を見合わせた。
「いったいなにが起こったんだ?」
「わ、わからないわ。なんなのよこの光は?」
アルは投げ出してしまった封筒をつまみあげた。どうやら光はもう、でないようだ。中を覗いてみると手紙が2枚入っていた。取り出そうとしたが、セシリーが服の端を引っ張っているのに気がつき、首をかしげた。
「ア………ア、アル」
めったに見ない姉の動揺に、おそるおそるセシリーの指差す方向に視線を向けた。