Prologue
空を見上げた。
先程から流れ星が滝のように流れ落ちている。彼は周りが気にならなくなるほど高い塔の上にいるため、手を伸ばせば届きそうな程に星がみえる。
塔の上から見下ろせる街ではいつもと何一つ変わることのない夜が更けていく。
彼は傍らに置いていた本を開いた。パラパラとめくり、あるところで手を止める。幾度も見直し、指を這わせたページの文字は少しかすれていた。
この本はある遺跡で見つかった。今では使われていない言語で記されているため塔に持ち込まれた。本に書かれていた伝説はいままで読んだことがないもので、彼の興味をそそった。空を流れ落ちる星々についての伝説もこの本には幾つかある。
彼は虫食いで読めなくなっているところをそっと触れた。このページは虫食いがひどく本がほとんど読めない状態だ。読める単語をつなぎあわせても、その意味を汲みとることはできない。
この空白には何が書かれていたのだろうか。遠い、遠い過去に思いをはせる。おそらく、この不思議な現象と関係あることに間違いないだろう。
塔の下から声が聞こえた。と同時にドアをどんどんと叩く音がする。
「博士、博士。いるんでしょう。でてきてください。塔主があなたのことをよんでいます」
一生懸命大声をだす少年に、彼はふぅとため息をつく。
パタンと本を閉じ、博士は塔の下に続く階段に向かった。
星が消えたと旅人たちの間に知れ渡ったのは流れ星が大量に流れ落ちた3日後のことであった。消えた星の数は全部で8つ。どれも旅をするには欠かすことのできない道標となる星であった。星のみを頼りにしてきた旅人は旅をやめざるをえなくなり、1人、また1人と町に腰を落ち着けるものが増えた。
旅人には問題であったこの事件は国々にはなにも影響はなく、わずか数冊の本にのみに記されることとなった。
それから3年、何事もなく時は流れた。