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ナツキトリコ  作者:
第二部
28/41

第27話 七夕祭り(1) 浴衣に屋台にりんご飴

 第27話 七夕祭り(1) 浴衣に屋台にりんご飴


「ねえ! もうすぐ7月7日だよ! 七夕だよ!」


 すっかりお馴染みとなった俺の部屋。

 目の前の梨子は今、いつのまにか自分の家から持ち込んだハート型のクッション(カラーはオレンジ、ちなみに俺の部屋に全く馴染んでない)を胸の下に敷き、フローリングの上にうつ伏せに寝転がって足をパタパタさせている。

 なんというリラックス風景であろう。


 ここは彼氏の家かっての……


 まあ実際そのくらい頻繁に梨子はやってくるわけで、来たときは大抵長居する。今ではもう俺の家族とも顔馴染みだ。


 ……妹の秋とは特に親しい。


「あ、梨子ちゃんだ!!」


 帰ってくるなり玄関に梨子の靴を見つけると、秋はすぐさま俺の部屋に駆け込んでくる。


「秋ちゃんこんにちは〜」


 梨子も梨子で変に可愛がるもんだから、すっかり秋に懐かれている。どうも姉の欲しかったらしい秋は、自分より少し年上くらいの女性が大のお気に入りのようで……


「梨子ちゃ〜ん、ハグして〜ハグ〜」

「はいはい」


 言われるがままの梨子。ってかそんな百合姉妹現実に存在するか! 姉にどんな幻想を抱いてるんだ、俺の妹は!

 そもそも年も一つしか離れてないのに、その甘えようはありえんだろ。ペットと飼い主か! と突っ込みたくなる。


「にーちゃん、梨子ちゃんと付き合えばいいのに〜」


 猫のように梨子に頬を摺り寄せる秋。

 

 やめてくれ……俺は別にそういう描写に興味は無い。

 

 梨子には沢北という彼氏がいる事も既に秋は知っている。なのにこんな事を言い出すのだ。


「ダメよ。お兄ちゃんにはね、来栖さんがいるから」


「よしよし」と秋の頭を撫でる梨子。


「絵里ちゃんも可愛いけど、秋は梨子ちゃんの方がいい! 絵里ちゃん怖いもん!」


 じゃあお前が梨子と付き合え。

 最近はそういう事にもわりと寛大な世の中になってきた。父さんや母さんは悲しむだろうが、俺はお前を許してやる。


「絵里はお前の事が嫌いだ。だから最近ウチに来なくなった」

「ほらーやっぱり絵里ちゃん怖いよー!! うえーん!!」


 秋は梨子に泣きつく。


「こら名倉君! 秋ちゃんにそんなヒドイ嘘をつかない!」


 お前も秋の姉役まんざらでもなさそうだな。やるよ、そんなバカ妹。


「付き合いきれん……」


 女二人の前では途端に無力になる夏樹であった。


 ……で、だ。


 それは一昨日の話。今日の事に話を戻そう。


「七夕が……どうした?」


 そう、そんな話をしていたのだ。

 梨子は寝っころがったまま、読んでいた雑誌の一ページをふいに俺に突きつける。


「お祭り、行こう! 七夕祭り!」


 今回は梨子からの提案だった。


 ********


「いやー感動の再会だな!」


 両手を広げ、天を仰ぎ、今にもハラハラと涙をこぼさんばかりにきつく目を閉じる加西。この男はなんでも事実をオーバーに表現したがる病に侵されている。

 早くテニス部を辞めて、演劇部へ行け。


「それにしても賑わってるね」


 対する沢北はいつでもクールだ。

 どこでもらったのだろう、「七夕祭り」と文字の入った竹うちわで軽く顔を扇いでいる。クールだ。


「僕、友達とお祭りなんか来るの初めてです!」


 いつになく浮かれるボン。目はキラキラと星のように輝き、さっきからキョロキョロと周囲を窺ってはどこか落ち着かない様子。


 そして、俺。


 7月7日、七夕の日曜日。

 俺達は学校近くの神社で開かれる七夕祭りの会場へと来ていた。

 この近所ではわりに人気のある恒例行事だそうで、年に一回のその日が近づくと、街をあげての広報活動に乗り出す。周辺の駅構内や商店街、至る所にポスターが貼り出され、わが西高の学内掲示板にも一月ほど前から七夕祭りの文字が目につくようになった。俺達はその掲示を見てこの祭りの存在を知ったのだ。

 梨子に頼まれとりあえずGWの旅行のメンバーに声をかけてみたところ、運良く全員都合がつき、晴れてここに再び名倉夏樹と柊梨子の愉快な仲間達は集う事になったというわけ。それが加西の言う感動の再会。


「やった! またみんなに会える!」


 俺の連絡を受け、はしゃぐ梨子は、


「せっかくだから浴衣着よう! 男子もみんな!」


 と、なんとも面倒な注文までつけてくれたのである。


 そんなわけで浴衣の持ち合わせなどもちろんない俺は、急遽買いに行く羽目に。


「なあ秋、浴衣ってどんなのがいいんだ?」

「男物なんてなんでもいいんじゃない? 私のイメージでは紺か黒〜」


 随分とアバウトだな……おい。


 親に金をもらって、秋と二人で久々の買い物に行ったのが今朝。秋は今度の花火大会のときに着る浴衣を買うらしい。

 まあ当然秋の浴衣の方が時間かかるわけで……

 クタクタになって家に帰った頃には既に2時を回っていた。


「しかし、お前らちゃんと着て来たんだな……」


 加西も、沢北も、ボンも、梨子の指示通りしっかり浴衣に身を包んでいた。

 よくこんな面倒を聞いたもんだ……と思ったところで俺は気づく。


 沢北が梨子の頼みを聞かないはずがない。

 ボンが他人の頼みを聞かないはずがない。

 加西は頼まれなくても浴衣を着て来る。


 ……結局反乱分子予備軍は俺だけだったのか。

 孤軍奮闘したところで多勢に無勢。議会制民主主義の発達した今日の日本では、多数決の原理の前に少数意見は淘汰される。つまり俺がいくら不満を抱いていようと、そんなことどこ吹く風で物事は進んで行く。

 まあ実際俺は反旗を翻すでも無く、こうして大人しく浴衣を着ているのだが。

 絵里に言わせれば俺はまだ子供だそうなので、子供しく。


 絵里……そう言えば女性陣はまだなのだろうか……


 このまま男だけで祭りを見て回るというのはなんともむさ苦しい……さすがの俺も帰るぞ。


「お待たせーっ!」


 そこに福田の声がした。あいつの声は本当によく通る。


「うおおーっ! やっぱ女の子は浴衣だね! 憎い! エロい! もういっちょ!」


 興奮する余り訳のわからない文句と共に、くるくると踊り出す加西。まあこれだけ喜んでくれる男子がいれば、彼女達もそんなに悪い気はしないだろう。

 福田を先頭に、同じく浴衣姿の梨子、神宮寺、絵里が続く。


「ちょっと待たせちゃったかな……? ごめんね」


 浴衣姿の神宮寺はなんとも様になってる。堂に入っているとさえ言って良いレベルだ。

 そりゃ名前からして「神」に「宮」に「寺」だもんな。

 俺の勝手なイメージだけど、巫女の衣装とか着させるときっとコアなファンがつくと思う。


「……ってか男女の集合場所を分ける必要あったのか?」


 考えてみればなんか無駄に待たされたような気がして、どうも納得がいかない。


「だってそっちの方がお披露目会みたいでワクワクするじゃん! ……うん、みんなも浴衣似合ってるよ!」


 お前の「みんな」の内訳は90%が沢北で占められているだろうが。


 とりあえず今度こそ八人全員が揃った。

 こうして見るとやはり……

 なんというか……

 ある程度予想はしていたのだが……


「来栖さんっ! 凄く綺麗です!!」


 ボンが恥じらいもなくそう口にしてしまうくらいに、絵里は群を抜いて綺麗だった。


「お前洋装だけじゃなくて、和装も着こなせるのかよ……」


 もちろん洋装とは先日の誕生日企画で着たウェディングドレスの事を指している。


「当たり前だ。私に不可能は無い」


 胸を張る絵里。


 駄目だ……この小説の中で絵里が日に日に神格化されていく。

 このままでは幼馴染としての俺の立場が無くなってしまうじゃないか!

 いや、そんなもの初めから無かったか……そういや俺自分の事「ガチキモオタク」とか言ってたもんな……

 これは梨子と書店で遭遇した際の事である。


「絵里ちゃん! 是非写メ撮らせて下さい!!」


 加西が我先にと携帯を構え絵里に懇願する。


 いや、別に誰も撮らねえって。


 実はこいつの今の待ち受けは絵里のウェディングドレス姿だ。写真は梨子に送ってもらったらしいが、加西が自慢気にそれを俺に見せつけて来た時はさすがに引いた。


「はっ、撮るなら美しく撮れよ。この下衆犬が」

「うおおーっ!! 今日から俺の携帯には絵里ちゃん浴衣ver.が降臨するぜーっ!!」


 鬼のようにシャッターを切りまくる加西。


 なあ……お前は気づいていないだろうが、実はさっきからもの凄い訝しげな目を向けながら周りの人が通り過ぎて行くんだ。


「どおりゃー!! ぬおーっ!!」


 しかしそんな事一切意に介さない様子で加西の手元からはフラッシュの嵐。


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ……


 尚も続くシャッター音は途切れる事を知らない。

 このままでは拉致があかない。誰もがそんな事を思い始めた時、


「じゃあ行こうか」


 絶妙なタイミングで沢北の合図がかかった。

 名残惜しそうに携帯を構える加西の襟首を引っ掴み、引きずるようにして俺達は歩き出した。


 ********


「わお! 射的でも金魚すくいでもなんでもあるよ!」

「私金魚すくいやってみたいな……一度もやった事ないから……」

「じゃあ穂奈美ちゃんやろう! 来栖さんもやらない?」

「ふっ……私に不可能は無い」


 絵里……よっぽど気持ちよかったのかは知らんが、響きの良さに釣られて何でも出来るって言うのはやめとけ。

 少なくともお前、金魚掬いだけは昔から得意だったためしがない。


「あ〜あぁ結局女子は固まっちまったな……」


 キャッキャッとはしゃぎながら金魚掬いに向かう女子の後姿を、恨めしそうに眺めながらぼやく加西。


「じゃあ僕達は射的でもしようか」

「賛成です!」


 沢北の提案にすかさず飛びつくボン。こいつは早く遊びたくて遊びたくて仕方が無いのだろう。

 ちょうど射的をしていた客が店から離れて行った。今なら待たずに済みそうだ。


「はあ……やるしかないよな。なっちゃんも行くだろ?」


 諦めにも似た表情を浮かべながら、加西は一つ俺の肩を叩いた。


 ……まあ一人とり残されるのも暇だしな。


「よし、誰が一番先に景品を落とせるか勝負するか!」


 ここまで来たらとことん楽しんでやるっ! 

 散々な目にあった旅行の鬱憤を今、ここで晴らす!


 ********


「いっけえー! ツインサ○ライトキャノン!!」


 両脇に抱えられた加西の二丁の銃から、目にも留まらぬ速さで弾が飛び出す。


 パン! パン!


「くそっ! 当たらねえな……!」


 悔しそうに顔を歪める加西。


 馬鹿かコイツは?

 銃を二本に増やして照準が絞りきれるわけないだろう……

 見た目の斬新さのためだけに、通常の二倍の値段を支払ったこいつの射的に対する意気込みだけは評価するが。


 そのすぐ隣で、


 パン!


「う〜ん……やっぱり当たりませんね」


 ボンも射的は苦手なようだ。まあ銃の構え方からして、もうなんとなく想像はつくが。見るからに銃身がぶれまくっている。


 そしてそのまた隣りでは、


 パン! ……コン


「うおっ! 沢北当たった!?」


 見事に的を撃ち抜いて見せた沢北。

 しかし景品は揺れるだけで倒れはしない。


「うーん……惜しかったんだけどね」

「兄ちゃん、パワーだよパワー! パワーが足りないよ!」


 店主のヤジが飛ぶ。


 いや、それなら問題は扱う人間じゃなくて、むしろこの銃の方だろ。詐欺じゃないか? この店。


「俺に任せろ」


 そこまで言うならやってやるぜ、オヤジ!

 俺の全身全霊を込めた魂の一発で、あのサービスシーンてんこ盛りのPC用恋愛シミュレーションゲーム「トゥルーハート3」を撃ち落としてやるぜ!


 ……って、沢北あれが何かわかってて狙ったのか?


「古の大地より生まれし生命の大樹よ! 天空を貫き、尚も高きを臨むユグドラシルの落とし子よ! 今、汝が為に禁断の扉は開かれん!」

「あ、あれは……禁忌とされる究極魔法! や、やめろ!! それを使えばお前の命は……!」


 加西のノリの良さに感謝する事もごくごくまれにある。


「万物の流転は輪廻転生するが如く! 気高き神々の息吹は我の風となり翼となり! 集え、この手に! 生きとし生けるもの全ての魂を今解き放たん! ゆくぞっ、名倉真眼流最終奥義! 超時空間力夏樹砲、発射!!」


 すまん、流れで究極魔法→最終奥義にしてしまった。


 パン! ……コン


「…………」

「……当たったけど」

「……倒れませんね」

「やっぱこれ詐欺だろ!!」


 ********


「見て見てー! 金魚こんなにたくさん!」


 結局俺達は誰も景品を落とすことのないまま、全弾打ち切って終了。


 あのオヤジ、子供相手にあくどい商売しやがる……


 俺達がブツブツ文句を言いながら店を離れたところへ、ちょうど金魚すくいを終えた女性陣が駆け寄ってきた。

 福田は金魚でいっぱいになったビニール袋を、俺達の目の前で振ってみせる。


「すごいっ!! 福田さん上手なんですね!」


 尊敬の眼差しで福田を仰ぐボン。

 こらこら、金魚を掬えるくらいで簡単に敬意の対象にするな。


「違うよボン君。これ、みんなでとった分」


 ひい、ふう、みい、よお……

 梨子がその数をかぞえあげようとするが、袋の中を気ままに泳ぎ回る金魚を相手にするのは至難の技。


「結局お前も掬えたのか?」


 俺は少し離れたところでぼうっと突っ立っている絵里に尋ねた。


「う……」


 あからさまに口ごもる絵里。


 あ、コイツ一匹も取れなかったんだ。あれだけ大口叩いてたのに。


 そして見苦しい言い訳を開始。


「掬いはした。だがこの卑小な生命のあまりに無様な姿を見て、私は自分の行いが馬鹿らしくなって網を破かせてやった」


 ええ……翻訳すると、水面から上げたところですぐに網が破け、結局一匹も取れなかったって事だな。


 俺は何も言わず、ただ慰めるように絵里の肩に手を添えてやった。


「私も二匹取ったのよ!」


 そして神宮寺はさっきからずっと満面の笑みをたたえている。初めての挑戦で金魚を上手く掬う事が出来たのが、きっと相当に嬉しかったのだろう。


「よし、じゃあ次は食べるか!」


 それから俺達は手分けして屋台を回り、焼きそば、はしまき、串焼き、とうもろこし、りんご飴など目に付く限りの食料をありったけかき集めて来た。

 それらを持って、少し静かでくつろげる場所へと移動し、みんなで適当に分けながら食べる。

 こんな風にひんやりと気持ちのいい石畳みの上に直接腰を下ろし、輪を作って歓談するのも祭りの醍醐味だ。


「あーおいひかった!」


 福田はデザート代わりのりんご飴を舐めながら言う。


「福田さん、まだ進行形で食べてるよね?」


 沢北の的確なツッコミ。


「お祭りも楽しかったですね!」

「うん、本当に!」


 メンバーの中で今回の七夕祭りを一番楽しんでいたのは、間違い無くボンと神宮寺の二人だろう。見る物、聞く物、全てに興奮して騒ぎ立て、福田と加西がまたそれを煽るもんだから、テンションの上昇はとどまるところを知らない。

 食事に移り、一時は少し落ち着いたかと思われた彼らのはしゃぎようも、


「まだまだ祭りは終わってないぞ〜!」

「よしっ! もう一巡りするべ!」


 加西に応じ立ち上がった福田につられ、


「ボン君も、行こう!」

「はい!」


 結局四人はまた祭りの喧騒の中に飛び込んで行くのだった。


 そして、


 あれ……何だこの流れ?


「ええと……」


 その場に取り残されるは名倉夏樹をはじめ四名。


「……」


 騒がしい連中が去ってしまい、急に辺りは静かになる。


「ああ〜じゃあ俺達もちょっと見て回るか! ほら、絵里行くぞ」

「ぬうっ……まだ食事終わっとらんのに……」


 きっと気利かせろってことだろな、これは。


「えっ、二人も行っちゃうの!?」


 梨子が慌てて俺達を引き止めようとするが、


「絵里、また食い過ぎて気持ち悪くなるぞ! ほら歩いて消化だ!」


 そんな事気づかなかったふりをして、俺は勢いよく立ち上がった。


 梨子、後は頑張れよ!


 ********


「ほーらっ、絵里!」

「むうっ……」


 名倉君が来栖さんの手を取って無理矢理身体を引き上げる。

 そしてまだ名残惜しいのか片手に焼きそばを抱えたまま、来栖さんは会場の中へと引っ張って行かれた。

 つまづきそうになる来栖さんを馬鹿にして、それでもちゃんと足を止めて待ってあげる名倉君。

 繋いだ手はそのままに。


 なんか、いいな……


 お互いに文句をぶつけながら、やいやい言い合いをしながら、だけど楽しそうに笑い合っている二人の横顔を、私は後ろからずっと目で追っていた。

 彼らの姿が人混みに紛れて完全に見えなくなってしまうまで。


「みんな行ってしまったね」


 ちょっと淋しかった。

 彼らの姿を見て、なぜかちょっとだけ胸が傷んだ。

 あまりにも二人の姿が眩しくて、私は筋違いな嫉妬を覚えたのかもしれない。


 彼は私の前では一度も見せた事のない顔をしていた。

 なんの衒いも無い、無防備な笑顔。

 来栖さんだけに向けられた、優し過ぎる名倉君の表情を見て、私はちょっと淋しい気持ちになった。


 来栖さん、笑ってたな……

 凄く嬉しそうにして笑ってた。

 なんだかちょっと羨ましい。

 なんかずるくて……

 なんかいいな……


「柊さん?」

「……え!? あ、ごめん! なになに?」


 沢北君に呼びかけられて、私は慌ててさっきまでの思考を掻き消した。


 こんなときに私は一体何考えてんだろう!?

 馬鹿じゃないの……柊梨子、正気?


「その……僕らも行こうか?」

「うん、行こう!」


 私の返事にいつもみたく笑みで返してくれた沢北君だったが、どうしてだろう。今日はそれが少し哀しく見えたのだった。



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