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ナツキトリコ  作者:
第一部
13/41

第12話 GW大作戦(1) 夏樹の憂鬱

 第12話 GW大作戦(1) 夏樹の憂鬱


「えー……コホン……本日は急なお誘いにもかかわらず皆様お集まり頂き……」

「名倉君ーそんな堅苦しい挨拶はいいから〜とりあえず自己紹介しよ!」


 出発の日の朝、俺達は市内で一番大きな駅のホームに集合していた。

 ここから普段通学に使うのとは別の路線に乗り換え、目的地へと向かう。

 そして俺は全く得意ともしない進行役を梨子に任された。まあアイツに勤まるはずも無いので仕方ないといえば仕方ないのだが。

 そんなこんなで参加者も一通り揃った事だし、一応挨拶でもしようかと思っていたところをあの福田未来にあっさりと遮られた訳だ。


「そ、そうだな。まだお互い面識の無い人同士もいるわけだし、その……あれだ、今後の交流の助けになるよう、各人簡単な自己紹介を頼む」


 ……なんてことを俺の口から言う事になるなんて、全くキャラ違いもいいとこだ。

 まあそれでも隣でさもつまらなさそうにそっぽを向いているこの女よりは、俺もまだ上手くやっていこうという気はあるのだが……


 ってか本当になんでコイツは来たんだ?


「とりあえず5組からで」


 そう言って俺は梨子に目で合図をする。


「あ、み、皆さんおはようございます! 私、5組の柊梨子って言います! 一応その……今回の旅の計画者というか……ほとんど名倉君に任せっきりだったんだけど……えと……よ、よろしくお願いします!」


 ……まあ仕込み無しにしては良く喋れた方か。


「よっ、梨子!」という福田の合いの手が入る。ここをどこと勘違いしてるのか知らないが、あまり衆目を集めるような真似はしないで欲しい。


「えー次はわたし! 幸福の『福』に美しい『未来』と書いて、福田未来って言います! よろしくね!」


 パチパチと拍手が起こる。

 待て待て、福田の「田」は何処へ行った。それにその説明じゃ「未来」を「美来」と勘違いしてしまいそうだぞ。


「おはようございます、私は神宮寺穂奈美。未来と同じ5組で、二人とも梨子ちゃんの友達です。よろしくお願いします」


 福田の分もフォローしつつ自分の自己紹介もしてしまうとはこのお嬢さんさすが、と思わずにはいられない。

 こういうしっかり者がいてくれると俺としても心強い。この旅も少しは安心出来る。


「えー次は僕ですね。僕の名前は沢北春。柊さんや福田さん、神宮寺さんのクラスメイトであり、お友達です。8組の方々ともこの機会に是非親しくなれたら……と思います。よろしくお願いします」


「カッチョイー!!」と福田の声。恥ずかしいから少し静かにしといてくれ。頼む。


 しかしまあ「クラスメイト」をわざわざ「友達」と言い直すあたりから、沢北の人格の良さが滲み出ている。コイツはどこに行っても上手くやっていけそうなタイプだな。


「あー次は8組の側で。まず俺から、名倉夏樹だ。柊梨子とは……まあ若干の知り合いで、福田と神宮寺も顔くらいは覚えてくれてるだろう。宜しく」

「僕とも友達ですよ」


 そう言って沢北が俺に微笑みかける。

 そうだった……すっかり忘れていたが、俺はあの自転車の一件以来沢北とは友達という設定だったのだ。

 なぜか梨子の俺に対する視線が急にキツくなったように感じられたのだが、気のせいだという事にしておこう……


「あ、みなさん初めまして。僕は名倉君たちと仲良くさせてもらっている種村優作といいます。えーと……」

「ボン」


 それまで一言も発しなかった絵里が突然口を挟んだ。


「え? あ、はい! クラスでは、その……ボンと呼ばれてますので、そう呼んでもらっても構いません……」


 誠に不本意ながら……という感じだった。ボンはあだ名を伏せておこうとしたのに、絵里もえげつない事をする。


「ボン君か〜カワイイー!」


 まあ女子受けは良いみたいだぞ。


 そして、次が……


「…………」


 みんなの視線が集中しても口を開こうとしない絵里。


 うわ……予想通りの展開。


「おい、絵里お前の番だ……!」


 せっかく和やかなムードで来たんだからそれを崩すようなことだけはするなよ……


「……来栖だ。来栖絵里。もし私を気安く下の名前で呼んでみろ。躊躇わず殺す」


 殺気をみなぎらせた目で威嚇するように全員の顔を端から睨めつける絵里。


 あれ、なんでだろう。

 今はもう5月だというのに、寒い、寒いよ。なんだか背筋がゾクゾクするよ。


 一同文字通り凍りついていた。


「ま、まあ、ってことはあれだよな? 『みんな来栖って苗字で呼んでくれ』っていう意味のジョークだよな? ……ハハ、いやーお前は今日も一味違うぜ……」


 どうして俺はこんなに必死に絵里のフォローをしなきゃならないんだ……頼むからあまり面倒を増やさないでくれ……。


 そして、


「はーい! じゃあ最後は俺ね!」


 なぜかそこに俺の予定にない人物がもう一人。


「俺の名前は加西秀明(かさいひであき)! 名倉のなっちゃんたちと同じクラスで8組の中心人物的存在? なんかなっちゃん達がコソコソ裏で企んでるのに先日気づいちゃって、噂によると男女混ぜ混ぜの小旅行っていうじゃん!? これはクラスの風紀を司る俺の立場として黙っちゃいられないわけよ! それでみんながいかがわしい行為に走らないか監視するため? あわよくば自分も混ぜてもらえないかな? なんて思ったりして、こっそりなっちゃんの後を追ってついてきちゃいました! よろしくねーん♪」


 ……どうりで今朝はいつも以上に人の視線が気になったわけだ。

 てか噂の真偽も確認しないでついて来ようとするコイツの無鉄砲さには呆れ返ったが、ついて来てしまったものは仕方ない。後から宿泊先に連絡して、一人追加を伝えておこう。

 まあ元々四人部屋だし、変更自体はさして問題無いはずだ。

 そして何より、


「加西君、よろしくねー!」


 絵里がぶち壊してしまった雰囲気をなんとか取り持ってくれたという意味では、今回はコイツに感謝せざるを得ない。

 というかこれから何度となく加西のこの空気の読めなさに逆に救われる事になりそうな気がするのは、単に俺が神経質になっているからだけであろうか。


 お、そういやこれで男女四対四の八人か……


 ********


「うわ〜田舎だよ! 田舎になってきたよ!」

「こら、そんな事言っちゃ住んでる人に失礼だよ、未来」

「福田さんはあまり田舎に馴染みが無いんですか?」

「沢北クン! 口調が硬い! もっとフランキージェットシティに!」


 なんかよく似た名前のバンドを昔聞いた事がある気がする。


「あ、あの! 神宮寺さんはやっぱり、その、お嬢様なんですか!?」

「あら? そんな事ないわよ、ボン君。私は普通よ、普通」


 ボン、お前は何というかその……やっぱり変だ。


 説明しよう。

 俺達は今回の目的地であり、かつ宿泊先でもある郊外のキャンプ場へと電車で向かっていた。

 こんな時期にキャンプ? と思われるかもしれないのだが、あんな急な思いつきで大型連休に団体の宿泊先を観光地に見つけるというのが無理な話だ。

 課外活動にはまだ少々寒い時期であるが、泊まるのはコテージということで皆にはなんとか納得してもらった。

 というか実際はそんな事などほとんど気にもとめていない様子で、ただ「旅行」というイベント、それだけでもう僕達私達高校生少年少女には十二分に満足のいく内容だった。

 そんな訳で人の流れとは完全に逆行する形で、郊外へと向かう電車に揺られてはや小一時間。

 俺達以外の乗客もほとんどおらず、この車両はほぼ貸切状態。

 窓からの景色にビルが消え、家が消え、道が消え、代わりに現れ始めた田んぼと木々の面積に比例するように高まりつつある福田、神宮寺、沢北、ボンの興奮の様子を傍目で眺めつつ、俺はふと疑問を抱く。


「で、何でお前はこっちにいる」


 通路を挟んだ向かいのボックス席に座るのは俺、絵里、加西、そして梨子の四人。

 どう考えてもお前は向こうにいるべき存在だろ! そう、今ボンが座ってるあの沢北の隣の席に!


「だ、だって! そんな指示無いし……」


 おいおい……初めからそんな調子でこの二日間どう乗り切るつもりだ? この旅の主役はお前なんだぞ、柊梨子。

 俺もさすがに二日分の一挙一動まで事細かに小説を書いてやることは出来ない。シナリオに無い分はちょっとくらい自分で努力してくれよ……

 といってもまあ梨子には無理な話か。


「いーじゃんいーじゃん! 俺梨子ちゃんと話したかったし♪ね?」

「え? あ、うん、加西君、よろしく……」

「加西。少し静かにしろ、殺すぞ」

「わお! 絵里ちゃんは相変わらず今日もツンデレだねぇ〜」


 コイツの一体どこにデレの要素がある。


「おい、お前その名で私を呼ぶなと言ったのを聞いてなかったのか? その舌を引き千切って乾燥椎茸がごとく日干しにしてやってもいいんだぞ?」

「あれ〜? なっちゃんが名前で呼ぶのは怒らないくせに?」

「……うるさい、アイツはもう既に私の手にかかって100回以上死んでいる」


 俺どんな設定だよ!?

 ……まあそれでもこいつらはこいつらで上手くやれてるみたいだな。


「ちょっ……二人とも、喧嘩は……」


 ここにマジで引いてる梨子を除けば。


 ああ幸先不安だ。不安しかない。


「線路は続く〜よ、ど〜こまでも〜♪」


 向こうの席からはとうとう合唱が始まった。


 頼むから早く着いてくれ……



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