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チョコレイトの魔法。〜イヴside〜

作者: Maria

【チョコレイトの魔法】








寒いけど暖かい恋する季節。

本屋さんで偶然に出逢った一冊の古い本。

チョコレート色の表紙に金色の文字で記されている。





【チョコレイトの魔法】





────────────


用意するもの


・チョコレイト

・甘い秘密のシロップを小スプーンひとすくい

・ほろ苦スパイス、少々

・とろ〜りホットジャム大さじ一杯

・幸せの白い粉砂糖


────────────






「……?」





不思議な言葉が並んでいる。

何かに導かれるように1ページめをめくって、記されている文字をなぞっていく。






【Ⅰ.甘い秘密のシロップを小スプーンひとすくい】





「甘い秘密のシロップ…って?」





------------------------

お気に入りの便せんで、

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大切な人へ大切な想いを、

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心いっぱい綴る。

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仕上げに甘~い秘密の

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チョコレイトシロップを

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ひとすくい垂らす。

-----------------------





「チョコレイトのシロップ…?そんなもの…あっ!」






そういえばこの間ノエルからプレゼントされた小さな香水の瓶。

確かあの香りって…





可愛らしく包まれた箱から小さな瓶を取りだして、筆記体の文字をなぞってみる。





「Chocolatier…?ショコラティエ…これってきっとチョコだよね?」





不思議なチョコレイトの本の仰せのとおり、お気に入りの便せんとチョコレイトの香水の瓶を机の上に用意して、ペンを取った。





────────────





片想い。

それでもいい。





ずっとず〜っとそう言い聞かせて、想い続けてきた。





だけどこの不思議な本に出逢ってしまって、何故だかどうしようもなく…





"想いを伝えたい。"





そんな想いが溢れておさまらなくなってしまったの。

だから今年こそ…





────────────





(ひじり)先ぱいへ。

------------------------

初めまして。

------------------------

私の名前は神崎(かんざき)

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イヴといいます。

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突然でごめんなさい。

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聖先ぱいのことがずっと前

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から大好きでした。

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もしよかったらバレンタイ

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ンの日に会ってもらえます

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か?

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返事待っています。

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1-C 神崎イヴ

------------------------






「はぁ〜…よし!これでⅠ.は出来た。」





ドキドキする。

まだ文字だけなのに、先ぱいのことを大好きという想いが、便せんの上でドクドクと脈を打っている。





とにかくこの手紙を聖先ぱいに渡さなくては。





そう想いながら眠りについた。






─次の日。





毎朝8時50分ぴったりに先ぱいは靴を履きかえる。

一時間目が始まるギリギリの登校だ。





「先ぱいっ!あの…えっと…」





緊張する…っ!!!





「うん?」





先ぱいは物腰やわらかで、微笑みも声も髪の毛までぜんぶぜんぶもう…っ。





「え…っと、その…」





もう少しで授業が始まっちゃうのに…っ。





「ゆっくりで大丈夫だよ?待ってる♪」





「ありがとうございます。あの…つまり…っ!」





「うん。つまり…?」





持ってきた手紙を先ぱいの目の前に差しだした。





「これ、読んで下さい…っ!!!」





ぎゅっと握りしめていたせいで便せんが曲がってしまってる。





「ありがとう。」





─キーンコーンカーンコーン♪

授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。





「それじゃあ…っ!」





「うん。またね♪」





私は逃げ去るように教室へと走った。






─その日の夜。





「イヴ〜?聞いて聞いて〜!」





双子の妹のノエルが部屋に入ってくる。





私たちは双子。

イヴとノエル。





24日の23時59分に私が生まれて、25日になった0時ちょうどにノエルが生まれたの。





「どうしたの〜?」





「はい、ホワイトココア♪」





ノエルはカップを差しだして、隣りに腰をおろした。





私は読んでいた本を閉じてココアを両手でつつんだ。





「ありがとう〜♪」





おそろいのカップに温かいココアを入れて語りあう。

私たち双子のお決まりなのだ。





ノエルが興奮ぎみに話しはじめる。





「今日の帰りにね、図書室で聖先輩がね…っ」






嫌な予感がする。

聞きたくないことが待っているような、そんな気がした。





私の不安をさえぎるようにノエルは続けた。





「キスしてたの!」





「……っ、キス…?」





「そう。まぁキスっていうよりも、それ以上っていうか何ていうか…それでねっ」





「もうそれ以上聞きたくないよっ!出て行って…っ!」





バカみたい!

私ってきっと、世界で一番の愚か者だ。





押しだすようにノエルを部屋の外へとやって、思いっきりドアを閉めた。





─バタンっ!





その時机の上に置かれていたあの本が床に落ちてしまった。





たまたま開かれたページには…





【Ⅱ.ほろ苦スパイス、少々】






------------------------

甘すぎず、苦くもなりすぎ

------------------------

ぬよう、ほんの少々が秘訣

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------------------------





「苦すぎだよ…っ。」





─次の日。





お昼休みの教室がざわつく。





「神崎さんているかな?」





聖先ぱいだ…っ!





聖先ぱいがドアの所に寄りかかって、こちらに瞳をやっている。





慌てて席から立ち上がった私に気がついて、先ぱいはやさしく微笑んでくれた。




「イヴちゃん。ちょっと話さない?」





「は、はい…っ!」





そうして先ぱいと2人教室をあとにした。






【Ⅲ.とろ〜りホットジャムを大さじ一杯】






------------------------

温かいジャムが、あと味の

------------------------

要となる。

------------------------






聖先ぱいの後にくっついて中庭へとやって来た。





「あのさ、イヴちゃんてもしかして姉妹いたりする?」





「え…?あ、双子の妹が一人います。」





先ぱいはまるで謎が解けたかのような表情をしている。





「そっか。やっぱり!のあちゃんね。」





「のあのこと知ってるんですか!?」





「うん、まぁちょっとね。ノエルにイヴか。君たちって何だか…正反対な感じなんだね?」





「…よく言われます。」






昔からみんなに言われ続けてきた。

引っ込み思案で恥ずかしがりやなイヴ。

積極的で天真爛漫なノエル。





「実はまぁ、それだけなんだよね。ごめんね?せっかくのお昼休みに呼びだしちゃったりして。」






先ぱいはとても申し訳なさそうに頭をポリポリしている。





「そんなことないです…っ!先ぱいの傍に一秒でもいられたら幸せだもん!あ…っ、えっと…」





何言ってるのだろう…。

顔が熱い。





「…真っ直ぐなところはやっぱり双子ちゃんなのかな(笑)」





「え…?」





「い〜や♪あ、14日のことだけど、予定はまだ未定なんだ。また連絡するから…待っててくれる?」





信じられない…っ!!!

絶対に断られてしまうと思っていたのに…!





「はい!ずっと待ってます!」





「ありがとう。イヴちゃんは何か健気だね♪可愛いな。」





─ポンポン♪





先ぱいは優しく前髪をポンポンと撫でてくれた。





「……っ!!!」





「じゃあまたね♪」





そう言って去って行ってしまった。





「……先ぱい…っ。」





今度は顔だけじゃなくて、体中が熱い。






まるで瓶にいれたばかりのホットベリージャムみたいに。








─バレンタインイヴ。





とうとう明日はバレンタインデー。

先ぱいがキスをしていたことをノエルから聞かされて以来、何だか少し気まずくって、言葉を交わしていない。





のあは何かきっと話したいことがあるのだろうけど、今は何も聞きたくない。





のあには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、今はこの恋に全力を捧げたい!!!





私は本棚から"チョコレイトの魔法"を取りだして開いた。





何だかこの本を手にしてから私の、見ているだけだった臆病な恋愛が、急速に動きだした気がする。






自分でもとっても驚いている。





想い出すだけでも、胸が熱くて苦しくて、とろけてしまうほど…





Ⅰ.甘い秘密のシロップを小スプーンひとすくい

Ⅱ.ほろ苦スパイス、少々

Ⅲ.とろ〜りホットジャムを一杯





最後は一体どんなものなのだろう…?





【Ⅳ.幸せの白い粉砂糖】





「幸せの白い粉砂糖…?」





------------------------

まるで白い雪のごとき、

------------------------

やわらかな粉砂糖がふる

------------------------

瞬間(とき)

------------------------

仕上げにそっとふるえば

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出来上がり。

------------------------






「白い雪のような粉砂糖?…うぅ〜、寒い〜!」





今夜は特に冷えこむなぁ。

雪が降りだしそうなくらい。





窓の外をそっと見上げると空気が澄んでいて、星がとってもきれい。





もしかしたら明日はホワイトバレンタインデーになったりして…♪





「…幸せの白い粉砂糖…ってこと!!?」





何だか胸が高まる。





ピロリロリ〜♪





「誰だろ…?」






件名:こんばんは

本文:イヴちゃん。

明日学校が終わったら、ガーデンプレイスで待ち合わせない?

17時くらいでどうかな?





「聖先ぱい…っ!!!」





信じられない…っ!

ど、どうしよう…っ!!

ノエルに報告しなくっちゃ…っ!!!






いや…





とにかく何よりもその前に、とっておきのレシピで腕によりをかけて作らなきゃ…っ!!!






慌ててキッチンへと向かった私は、用意しておいた材料やらボールたちを並べた。





本当はのあとキャッ、キャッ♪言いながら作ろうって思ってたのになぁ…





「だめだめ…!集中、集中…っ!」





私の中で聖先ぱいのイメージは甘くて大人の人。

そんな先ぱいにぴったりの"ガトーショコラ"を作るって、ずっと前から決めていたのだ。





ほんの少しだけベリーリキュールの風味を効かせた、大人なガトーショコラ。





「先ぱいへ想いが伝わりますよ〜に…♪」






先ぱいへの想いもこめて、仕上げにシュガーパウダーをふるう。





「…よしっ!できた♪」





ふと時計に瞳をやるともうすぐ7時になる頃だった。





「もう7時かぁ。」





ノエル遅いなぁ…♪

早く帰って来ないかなぁ♪






─カチャ♪





ドアの開く音…!!!

きっとノエルだ!





「ただいま〜」





「おかえりのあ〜♪」





ノエルは可愛らしくラッピングされた袋を取りだすと顔の横にくっつけて、





「見てイヴ♪これ、私が作ったんだよ〜。自分で言うのもなんだけどなかなか…」





嫌な予感がする。

ううん。

本当は最初(はじめ)からきっとそんな気がしていた。





だけどきっとずっと気づかないふりをしていたのだ。





私は黙ってリビングへと向かった。

その後ろにのあもついて歩いてくる。





「イヴ〜?どうかした…それ…っ!」





「…私も作ったんだ。」





カウンターキッチンの上に並ぶガトーショコラを見つめていると…思わず泣きそうになってしまう。





するとノエルはラッピングのリボンをほどいて、カウンターの上にちょこんと置いた。





「…っ!!!」





これって…っ!!!





「仲良しすぎだね。…ガトーショコラも、それから聖先輩も。」





ノエルはぽつりとつぶやいた。





「ノエル…気づいてたの?」





「まぁ…何となく、ね。」




「…そっか。」





それから私たちは泣きながら、微笑いながら、聖先ぱいへの想いや出来ごとなんかをたくさん話した。





いままで話を出来ていなかった分が溢れて溢れて止まらない。





三杯目のココアを飲み終えてノエルが言った。





「明日…精一杯伝えようね。もうどっちがどう、とかじゃなくてさ。聖先輩に大好きだって思いっ切り伝えようっ!」





「ノエル…うん!精一杯先ぱいに想いを伝えようっ!!!」








─ガーデンプレイス17時。





「先ぱい、遅いね。何かあったのかな?」





先ぱいもしかして来ないのかな…。





「まだ17時になったばかりだよ。イヴ、焦りすぎっ。」






「そ、そうだよね。ごめん…」





「…寒いね。先輩、早く来るといいよね…」





「うん…」







私たちは仲良しだけど、正反対の双子。

好きなものも性格も、まるで両極端。

だけど大切な想いだけはいつもぴったり同なじ。





先ぱいへの想いをたっぷりとこめて作った、ベリーリキュール入りのガトーショコラ。

それに合わせてお気に入りのベリー色のコートを羽織ってきたんだ。





聖先ぱい…早く先ぱいに逢いたいです。





ちょうど真下に長い針がきて、空から真っ白な雪が舞う。





「ねぇ、見て!イヴ、雪〜!雪だよ〜♪」





ノエルが上を見上げてはしゃいでいる。





「幸せの白い粉砂糖…か。」





「うん?どっかで聞いたことあるような…」





─コトン。





「ごめんね。お待たせ。イヴちゃん、ノエルちゃん。」





「先ぱい…っ!!!」

「先輩…っ!」





「息ぴったりだね!」






聖先ぱいだ…

よかった。

本当によかった。





「……♪」





やさしくやわらかく微笑む先ぱいにノエルが尋ねた。





「どうして微笑ってるの?聖先輩?」





「何か髪の毛や肩に雪がくっついてて何ていうか…」





「…?」





「ケーキみたいだなって、2人とも。ほら、仕上げに白い砂糖?振りかけるじゃない♪とっても可愛いよ。」





「…先輩?」

「聖先ぱい…?」





「…ありがとう。俺のことなんか好きになってくれて、本当にありがとね。イヴちゃんもノエルちゃんも。」





聖先ぱい…?





「……っ!!!」





生まれて初めて男の人の涙を見つめた。





すごく綺麗で、温かい涙の色。

冬空を舞う白い雪とやさしく溶けあって…





「……っ。」





ノエルも先ぱいと一緒に泣いていて、思わず私の瞳からも涙が流れて…





ノエルと先ぱいと手をつないで時計台の下、たくさんの時間が流れたような気がした。







長くて静かな沈黙を溶くように先ぱいは話し始めた。





「綾子…海外に行って暮らすらしい。」





「海外?!」

「海外!!?」





思わずまたノエルと声が重なってしまう。





「本当に双子ちゃんて2人同時に重なるんだね♪?」






聖先ぱいはいつもみたいにやさしく、だけどどこか淋しそうに微笑みながら、白鳥先生の話を聞かせてくれた。





「綾子とは幼なじみなんだ。だけど俺は小さい頃からずっと綾子のことが好きだった。でもあいつはいつも俺の少し先を行くんだ。だからいつまでたっても俺はあいつに追いつけなくて…」





粉砂糖のような真っ白な雪が、私たちにやさしくふりかかる。





「聖先ぱい…っ」





「2人の気持ちは本当に嬉しいけど、ごめんね。君たちの想いには応えられない。」





「……っ。」





どうしよう…っ。

わかっていてもやっぱり涙が溢れてしまう。





するとノエルが





「先輩は追いかけないんですか?白鳥先生のことを。」





「え…?そんなこと…」





「もったいないよ!こんなに素敵な先輩と離れちゃうなんて、白鳥先生きっと後悔しちゃうもん!先輩だってきっと後悔するはず…っ!」





何だか先ぱいのためにとっても必死なノエルを見ていたら、つい微笑ましくなってくる。






先ぱいは少し困ったようなやさしい表情(かお)をして、だけど何か決心したような強い瞳でわたしたちを見つめる。





「大学蹴って海外まで追いかけに行け、と?相変わらずのあちゃんは大胆だね。」





「聖先ぱいならきっと大丈夫です。だって先ぱいは世界一、白鳥先生のことを大好き、なんでしょ?」





私も強い瞳で先ぱいを見つめかえした。

私…いつの間にかこんな風に自分の想いや考えていることを伝えられるようになっていたんだ。

何だかすごく嬉しい。





ノエルは先ぱいの肩にバシッと手をやって





「先輩!男の子でしょ!さっさと追いかけて追いついてきなさい。」





何だかノエル大人になったなぁ。

…って感心している場合じゃないけどね。





「…わかった。追いかけるよ。」





「よし!」

「よし!!!」





よかった。

これで先ぱいも幸せになれる。





私はコートのポケットから香水をとりだして先ぱいの前に差しだした。





前にノエルからプレゼントされたショコラティエ。





「先ぱい?恋に必要なのは甘~い秘密のシロップですよ♪」





するとノエルがかばんの中から一冊の本を取りだして差しだした。

それは【チョコレイトの魔法】だった。





「他にもいろいろあるんだよ。ほろ苦スパイスとかとろ~りホットジャムとか、ね♪」





ノエルはちらっとウィンクをした。

ノエルもあの本読んでたんだ…!!!





「幸せの白い粉砂糖も降ったことだし、次は先ぱいの番ですね!」





「そうだよ!きっとうまくいくよ。だってノエルとイブの大好きな先輩だもん!」





幸せが降り注ぎますように…





「聖先ぱい…行ってらっしゃいっ。」








【チョコレイトの魔法】






寒いけど暖かい恋する季節。





本屋さんで偶然に出逢ったチョコレイト色の奇蹟の本。






「…ありがとう。行って来ます。」






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