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moon and the memories

真っ白な砂漠。


空は紺碧。


どこまでも続いている。


【妃音】


日中、生徒会室で聞こえたのと同じ声だ。


コレって、夢・・・だよねぇ。



【妃音】


まただ!!


えっっっ???


視界の隅でストーンが光ってる。


黄色だっっっ↑↑↑


さっきと同じだっっっ↑↑↑↑↑


でも、すぐ消えた。


痛っっっっっ!!!!!↓↓↓↓↓


一瞬、0.何秒ってレベルのホントの一瞬の激しい頭痛があった。


何で夢の中でまで頭痛が襲ってくんのよ!!!


【妃音】


まただ。


すかさずストーンに目を向ける。


やっぱり光ってる。


黄色に。


無意識的に構えてしまう。


“あの”激痛に対して。


幸い、今度は痛みは無かった。


痛みが無いウチに、少しずつゆっくりと歩き続ける。


空は星も何もなく、辺り一面紺碧。


地面はどこまでも続く真っ白な砂漠。


それ以外何もない。


しばらく歩き続ける。


【妃音】


!!!!!!!!!!!!


立ち止まらずにいられなかった。


今度は声と同時に痛みが来た。


痛みが収まり閉じていた目をゆっくり開けると、目の前の景色が変わっていた。


夢で見て、如月サンも神楽サンも教えてくれた“皇邸の庭”が目の前にあった。


幼い子供が2人。


何人かの大人が2人を見守っている。


・・・まさか、、、


お兄、、、様???


と、アタシ...?????


幼い頃の、


アタシとお兄様・・・。





思い出した。


アタシには“ホンモノの”お兄様がいたコトを。


2つ年上の。


今の今まで思い出せなかったのに。


いつも優しくて、怒られた記憶が無かった。

(って言っても3歳になったその日までの記憶だけどね)


まさか“あの声”、お兄様の声!?


お兄様なの!?!?!?


目の前のお兄様とアタシは周りを囲むエージェント達の中で無邪気に遊んでいる。


エージェント達も2人を微笑ましく見つめている。


お兄様が突然アタシの手を掴んで走り出した。


琉雅(りゅうが)様!?」


エージェントが慌てて呼び止める声も聞かずに走り続けるお兄様。


アタシはただつられて走り続ける。


アレって、、、プラチナムマウンテン・・・?


クリスタルに耀き悠然と、また毅然とそして燦然とそびえる山。


琉按星の守護山、


プラチナムマウンテン


そのすぐ側に皇邸がある。


お兄様はマウンテンの方向に向かって走っていた。


「お待ち下さい琉雅様!!」


わずか2歳と4歳の子供の走るスピードに、何故か大人であるエージェント達が追い付けないでいる。


何度も呼び止めるエージェントの声に耳を貸さずひたすら走るお兄様とアタシ。


さすがに足がもつれてきて、アタシが先に転んでしまった。


手を繋いだままのお兄様もつられてバランスを崩し、そのまま倒れ込んでしまう。


2人ともヒザを痛そうに抱えている。


泣きたいのを我慢しているアタシ。






えっ!?


何で???






エージェント達は全員幼いアタシに駆け寄っていた。


お兄様付のエージェントだっているハズなのに。


今、この状況を冷静に、客観的に見ているアタシは、


見てしまった。


そこにいる全てのエージェントに心配そうに介抱されている幼いアタシを見つめる、


何とも表現しようのない、複雑な表情のお兄様を。












目が覚めるといつもの見慣れた自分の部屋の風景があった。


アタシはしばらく放心状態で目の前の天井をただ眺めていた。


あのお兄様の表情。


絶望


落胆


悲哀


悲壮


失望


諦め


呆然


憂愁


愕然


怒り


驚愕


とてもコトバで言い表せられるようなモノではなかった。


あのお兄様の表情はアタシの脳裏に焼き付いて離れなくなってしまっていた。




目覚めたのはまだ夜明け前で、星がまだ見えていた。


アタシはベランダへ出た。


「お体の具合が優れませんか?」


えっっっ!?


ベランダにアタシが出て間もなく神楽サンが部屋から出てきた。


『神楽サン、、、どうして?』


驚くしかなかった。


「妃音様の状態はセキュリティの関係上、離れていてもある程度は把握出来るようになっております」


何だかモーレツに泣けてきたよ。


「妃音様!?」


さすがの神楽サンもうろたえる。


『ごめんなさい』


安心してなのか、泣けてきちゃって。


「何か温かいお飲み物でもお持ち致しますか?」


こんな時だから尚更神楽サンの優しい表情と声がたまらない。


アタシはゆっくり頷いた。


「かしこまりました。只今お持ち致します」


すぐにいなくなった。


アタシはストーンをジッと見始めた。


このストーンを持つ者が皇位継承者。


男女、出生順関係なく。


だからって、あんな明白過ぎる差別。


そりゃアタシは引っ張られた側だし、先に転んだし、妹だし、年下だし。


でも。


って言ったって、何も全員アタシに来なくても


お兄様付のエージェントくらいお兄様に駆け寄るべきなんじゃないの!?


しかもまだ2人とも幼いコドモだよ???


お兄様はずっとあんな孤独を抱えていたの?


また泣けてきた。


今の今まで思い出せなかったけど、思い出したお兄様の記憶は、“優しい”と“笑顔”しか無かった。


あんな表情、記憶にないよ。


「お待たせ致しました」


速っっっ!!!


しかもこの香りは!!


神楽サンの十八番♪


“神楽珈琲”(アタシが勝手にそう呼んでいるダケだけど)だっ!!


カフェオレだからなのかちょっといつもよりは香りに反応しなかったケド。


『ありがとう、ございます』


ゆっくり口にする。


・・・、美味しい↑♪やっぱり。


落ち着くな。


ただひたすら、星空を眺めながらぼんやりしていた。


神楽サンは何も言わずそっと側にいてくれた。


『ごめんなさい!!立ってないで座って下さい!』


ついつい星空に集中しちゃってて、神楽サンがずっと立っていたコトに全然気付かなかったよ。


慌てて促す。


・・・、ぃや、待てよ?


ってか違うだろ!!


『ぃや、もし何なら寝て下さい。具合は大丈夫ですから』


先にこっちを言うべきだった。


「ご配慮大変感謝致します。どうかお気遣いなさらずに」


ひゃあっっっ!!!


ヤメて!この“キラースマイル”。


また勘違いしちゃうじゃないのよ!!


直視出来ないよ。


カフェオレを飲んでごまかす。


「失礼致します」


ん?、あっ!


『どうぞ』


神楽サンが隣に座った。


ベンチの幅のせいもあって、ビミョーな間隔。


ん・・・・・・・・・・?


あ、、、れ?????


こんな精神状態の時に何だけど、


ふと気付いた。


こういうの(隣に座られる)とかはドキドキしないんだな、アタシ。


じゃぁやっぱり勘違いなんだね。


乃亜はいっつも、


“「目が合っちゃった」”


とか、


“「スレ違ったダケでドキドキしちゃう!」”


とか、そりゃあもうとにかくコーフン気味に話してるもんな。


・・・乃亜が極端なダケかも知れないケドさ。


アタシは・・・・・・・、


違うな、やっぱり。


きっと“ドキドキ”慣れしてないから勘違いしてるダケなんだな。


「お加減はいかがですか?妃音様」


ドキッ!!


ビックリしたぁ。


単純に、急に話し掛けられたって驚き。


『ハイ。お陰様で』


精神状態はちっとも宜しく無いケドね。


「偽りは、ナイですか?」


ドキドキドキドキドキ→→→→→ン!!!!!


ゆっくり諭すように言われたモンだから動揺せずにはいられず。


『は、いぃぃぃ』


今アタシ、ウソ発見器に掛けられたら間違いなくアウトだな。


神楽サンの目を見れない。


「くれぐれもご無理はなさらないで下さいませ」


ダメだ、


この声にして、ウソはつけない。


涙が込み上げてきた。


あのお兄様の表情が離れなくて。


「妃音様??」


神楽サンの声が慌ててる。


首を横に振る。


何なんだろ、このモーレツな安心感は。


アタシの“癒しのツボ”は、神楽サンの声に激弱なようだ。


「いかがなさいましたか?」


優しく肩に手を掛けてくれる。


そっとさりげなくハンドタオルまで差し出してくれて。


どこから出てきたってのよこのタオル!!


って、ムダに冷静に思いながらも思わず受け取る。


『ありがとう、ございます』


皇家のエンブレムの刺繍入りのハンドタオル。


今さらどうってコトないハズなのに今日は特別に反応してしまう。


エンブレムを食い入るように見てしまって。


「妃音様?」


素直に不思議そうな雰囲気の神楽サンの声。


だけど、


すぐに反応出来なかった。


また今の声で泣けてきちゃってるから。


何も答えられないままでアタシは空を仰いだ。


空はうっすら夜が明け始めていた。


アタシはしばらくそのままでいた。


ただぼんやり空を眺めて。


神楽サンも黙ったままで何を聞いてくるワケでも話してくるワケでもなく、ずっと隣にいてくれて。


穏やかな時間だけが流れていた。






「えっ?あっ!おはようございます妃音様、チーフ。遅くなって申し訳ありません」


あの後寝れなかったから、2人でいつもよりは早めに朝食&お弁当準備を始めたんだ。


そしたら如月サンが慌てちゃって。


「気にするな如月。遅くなどない」


ハナで笑いながらただ一言神楽サンがそう言うから、アタシも笑顔で頷く。


『早く目が覚めちゃって、その後眠れなくてソレに神楽サンが付き合ってくれてたダケだから。』


神楽サンに続いたアタシのコトバに神楽サンも優しく頷いていた。


「申し訳ありません」


そうは言ってもどことなくバツが悪そうな如月サンだった。


「おはよう」

「おはよう、みんな」


パパとママが登場。


あ、れ?・・・


めまいが。


寝不足かな。


今、ちょっと揺れた気がした。


ふぅ…。


軽くため息。


「どうかした?」


とママがすかさず。


『大丈夫』


笑顔で返す。


「頭痛ですか?」


小声で神楽サン。


『めまいなんで寝てないせいだと思う』


あまりひそひそ話も怪しいから、アタシは普通のトーンで。


『だから後でSMP下さい』


コレは小声で神楽サンに言った。


神楽サンはただ笑顔で頷いてくれた。


出たよ、キラースマイル。


寝不足には尚更堪えますわぁ。


このキラースマイルでもめまい起こしそうだよ。




「妃音様、よろしいでしょうか」


部屋で準備していると、廊下の方から神楽サンの声がした。


『ハイ、どうぞ』


神楽サンと如月サンが準備を終えて中に入ってきた。


「SMPをお持ち致しました。念のため寝不足用に処方して頂きました」


『ありがとうございます』


“寝不足用”って。


そんなんもあるんだ。


ノーマルなので良かったのに。


SMPって何にでも対応出来ちゃうんだね。


受け取ろうと立ち上がる。


あれっ?


まただ。


立ち上がった拍子に軽くふらついちゃった。


立ち上がって左足が床についた時に力が入らなくて。


「妃音様!」


2人同時に手を掛けてくれた。


『大丈夫です。やっぱり寝不足ですね』


照れ笑い。


神楽サンはしかめっ面、如月サンはアタシにつられてなのかどうしていいのかわからずになのか苦笑いで。


「失礼致します」


しかめっ面のまま神楽サンはアタシの手首に自分のPPをあてた。


思わず動揺してしまう。


「異常はございませんね。申し訳ありません、思い過ごしでございました。お顔の色も優れないように感じましたので」


安心したような表情で言った。


アタシも思わずひと安心。


やっぱりただの寝不足よ。


自分自身にそう言い聞かせて。






おかしいなぁ。


めまいが治らない。


頭痛はすっかり良くなったのに。


通学途中にも、度々ふらついちゃって。


その都度神楽サンに心配させちゃって。


「もう一度お調べ致しますか?」


なんて心配まで。


“「一応念のためこちらをお持ち下さい」”


そう言って別れ際にケースに入ったサプリのようなモノをくれた。


「あまりにも続くようでしたらお飲み下さい」


って。


神楽サンが言うには、SMPはあくまでもドリンクで即効性はあるモノの錠剤程ピンポイント的に効果はないんだって。


だから一応って、錠剤をよこされたの。


休み時間に飲んでみたんだけど。


ダメだ。


寝不足が原因じゃないのかなぁ。


「大丈夫?」


昼休み。


如月サンが心配してくれてる。


『うん』


ゆっくり、しっかり机に手をついて立ち上がる。


「どうかしたの?」


乃亜がやって来た。


『なんか今日は朝からめまいがひどくて』


アタシのコトバに乃亜は男子もいるってのにあっけらかんと言い放った。


「妃音、そろそろじゃなかったっけ?」


「えっ!?」


戸惑う如月サン。


その如月サンの様子を見て動揺するアタシ。


いくら何でも男子の前で言わなくても。


「行こっ!」


悪びれた感、皆無の乃亜。


ま、いっか。


『行こ行こ』


この勢いに委せてさりげなく流そう。


移動中も揺れてる感覚は消えなかった。


まっすぐは歩けてるんだけど。


「錠剤はお飲みになりましたか?」


こっそり神楽サンが耳元で。


小さく頷く。


「今日、放課後は?」


『今日は何もない』


“です”って危なく言いそうになっちゃうよ。


「じゃあ終わったら工学部棟の機械工学科第2倉庫に来てね」


えっ!?


ちょっと驚いた。


誇らしげに、かつ含み笑い気味に言う神楽サンになワケではなく、


昨日放課後どこで待ち合わせるかって話をした時に血相を変えて


“妃音様をお待たせするなど言語道断!!ワタクシが高等部にお迎えに参ります!!!”


って言って高等部玄関で待っててくれたのに、


“工学部棟に来て”


って言ってきたのが驚き。


『わかった』


戸惑いながらもとりあえず返事した。


何だろ、何か言いたげなあの神楽サンの表情。


ま、放課後を楽しみにするか。




6限目、


アタシはモーレツな睡魔と闘っていた。


やっぱり乃亜の言う通り、“そろそろ”なせいかな。


食後だし。


って言っても、こんなコト今まで無かったのにな…。


それにしても眠ぅ。


あくびをこらえるのに精一杯だよ。


最近の不規則な睡眠不足がたたってる?


ダメだ、堕ちそう。


気が付くとトリップしてる。


ヤバい。


限界だ・・・。






えっ?ドコ?ココ・・・。


アレはお父様とお兄様?もしかしてベッドの上にいるのはお母様?


抱かれているのはアタシ?


あ゛っっっ↑↑↑


首元にペンダントがある。


ってコトはやっぱりアタシ?なんだね。


産まれた時のアタシってコトなの?


コレ、どうなってんの?


「後継者が産まれてくれて良かったな。コレでひと安心だ」


満面の笑みでお父様が言った。


「琉雅、お前はこの子を妹として、また後継者としてしっかり護ってくれよ。いずれはこの子がこの星の皇になるんだからな」


えっ・・・。


こんな小さい子にそんなコト言われても。


「ハイ、お父様!」


元気よくお父様の目をしっかりと見据えてお兄様は大きな声で返事した。


この時って、お兄様、わずか2歳だよねぇ。


そんなコにんなコト言われても。



きゃっっっ!!!


突然閃光が走った。


風景が変わった。


お兄様の部屋?


お兄様がエージェントの人と何やら話している。


見たところさっきよりは少し時が経ったっぽいなぁ。


「ねぇ、どうして妹なのに妃音様って呼ばなきゃいけないの?」


お兄様がエージェントに言った。


え゛っっっ!?!?!?


お兄様が、アタシを“様”呼ばわり???


一瞬ダケ血の気が引いた気がした。


「妃音様は琉按星の次期皇位継承者様だからです」


淡々と答えるエージェントさんにお兄様は何とも物憂げな表情で


「ふ〜ん」


とダケ答えていた。


アタシは胸がモノ凄い勢いで締め付けられた。


昨夜の夢で見たお兄様の表情と同じ様な気がして。


まさかお兄様はこんな時から“孤独”を感じてたっての???


「どうして妃音様が後継者なの?」


ドキ→→→→→→→→→→ン↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓


胸が“締め付けられる”と言うよりは、


“握り潰される”と言った方が正しいかも知れない状態に今、アタシはいるかも知れない。


見るに堪えない。


「ソレは、プラチナムマウンテンが妃音様を後継者としてお選びになったからです」


エージェントサンはゆっくり優しく話しているけど、2~3歳のコドモにんなコト言ったって。


ひゃっっっ↑↑↑


また閃光が。






えっ??????????


教室に戻ってる。


「この方程式は、・・・」


えっ?・・・


えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??????????


コレ、アタシが堕ちる前にやってた内容じゃない?


絶対そうだよ!!!


左右の人のノートと教科書を覗きこむ。


・・・変わってない。






イッツ ア アンビリーバブル!!!!!!!!!!







「どうした神崎妹」


キョドるアタシに気づいた先生が、声を掛けてきた。


『すみません!何でもないです』


ってコトはアタシは寝てないの!?


ホントの意味の“トリップ”しちゃってたっての??????


どういうコト??????????




「大丈夫?妃音」


休み時間、如月サンがすかさずアタシのトコロに来た。


『何でもないよ。ちょっと寝ちゃってた!』


ごまかし笑い。


「そっ!」


呆気なくその一言で交わされた。


7限目、


茫然自失状態のままでそれでも何とか出来る限り授業をこなした。


当然アタマの中はさっきのコトでいっぱいだったけど。


あの夢の内容、


あの出来事の謎、


昨夜の夢のコト、


どれも考えれば考える程おかしくなりそうで。


あのお兄様の表情と昨日聞こえてたアタシを呼ぶ声が焼き付いて離れなくて。


ホームルーム中も茫然自失状態は全く収まらなくて。


「妃音?まだ眠いの?顔色、悪いよ?」


気が付くと如月サンが目の前に立っていた。


『えっ・・・、あっっっ』


「大丈夫?」


めちゃくちゃ眉間にシワ寄せてるよ如月サン。


『大丈夫』


精一杯の笑顔で返事しゆっくり立ち上がった。


工学部棟に移動中もアタシのアタマの中は“あの事”だらけで。


「妃音、ホントに大丈夫?ウソついてない?」


如月サンがアタシの顔を覗きこむ。


『えっ???』


「何か隠してるでしょ」


ドキ→→→→→→→→→→ン。


『してないよ!大丈夫。眠いだけだってば』


精一杯作り笑い。


如月サンの表情はどうみても納得してなさそうだった。


---工学部棟


学祭の時以外では初上陸。


挙動不審になってしまう。


「ぉう、神崎兄妹!!」


えっ!?ココでも!!??


工学部生サンに声を掛けられる。


如月サンは何のためらいもなく挨拶を返している一方、アタシは躊躇いまくり。


とりあえずアタマは下げて。


「あっ!神崎弟と妹よ」


工学部の少ない女子サンからも言われる始末。


まぁ、如月サンは当然手なんか振っちゃって返してる。


アタシはやっぱりひきつりながらペコリ。


そんなこんなで指定された倉庫に到着。


いないよ?


「神崎なら外にいるよ」


外?


「ありがとうございます」


何も言わずに気づいてくれた工学部生サンに挨拶し、倉庫を素通りし外に向かった。


「チ!・・・アニキ!!」


ぷっっっ!!


今、間違いなく“チーフ”って言い掛けたな。


神楽サンは、工学部機械工学科。


周りはみんな機械いじりをしてる。


神楽サンは車をいじっていた。


「ぉう!お疲れ!!」


ドキ→→→→→ン


これまたたまらない“キラースマイル”


「オマエはアレ。ちょっと動かしてみろ」


とびきりの笑顔で後方のバイクを指差した。


「えっ?」


嬉しそうにバイクに駆け寄る如月サン。


作業の手を止めて如月サンの方に向かいながら話し始めた。


「廃車同然のを教授が下さってカスタマイズした。すぐにでも乗れるぞ」


「イイんスか!!!!!」


かなりコーフンしてるよこの人。


「もちろん高校生なんだから原付だからな」


・・・ぷぷぅぅぅ。


吹き出し笑いしちゃった。


“「高校生なんだから」”


って言い方が、いかにもわざとらしくて。


「やっと妃音が楽しそうに笑ってくれた」


えっ・・・。


そんなコト言われたら如月サンにまでドキッとしちゃうじゃないのよ!


不覚にも程があるワ、アタシ。


しかもこんな時に。


でも、少なくとも今のこの数分は“あの事”を忘れられたよ。


2人に感謝しなきゃねっ。


“誰よりも人の気持ちに敏感なんです”


ふと神楽サンが前に言ってたコトバを思い出した。


ちょっとドキッとしてみたりして。


最近、この2人と出逢ってからなのか、気持ちが敏感になってんのかなぁ。


自分の素性が解ったせい?


この2人がアタシのエージェントだから動揺しちゃってるダケ?






・・・だな、きっと。


だから神楽サンに対するドキドキもソレだな。


そもそも“様”呼ばわりされてる時点でドキドキしちゃうし、緊張もしちゃうもんな。


そうだ!!そうだよきっと!!!


「そう言えばめまいは治まったの?」


ドキ→→→→→ン↓↓↓↓↓


「何かずっと様子がおかしかったよ。何言っても“大丈夫、寝不足だから”しか言わなくて」


ぉい如月ぃぃぃ!!!


心の中で絶叫。


顔は思いっきりひきつり顔で。


『大丈夫だってば。もう何ともないもん』


思いっきり作り笑い。


「妃音様!!」


ドキ--------------------イン


神楽サン、迫力有りすぎぃ。


しかも“様”だしぃぃぃ。


『ないですよ』


迫力に押されて思わず敬語になっちゃってる。


めまいはないよ。


だからあながちウソじゃないよ?


外が薄暗くなってきても神楽サンは夢中で車いじりを続けた。


出逢ってから一度も見たコトのない、


“ココロの底からの、ウソ偽りのない無邪気な笑顔”


だった。


「チーフが上に行かない理由が解った気がします」


エッ?


神楽サンに言われて缶コーヒーを買いに行っていた如月サンが、微笑ましい笑顔で神楽サンを見ながら戻ってくるなり切り出した。


言いながら見ている如月サンの表情も、ウソ偽りのない嬉しそうな表情で。


「ハイ妃音様」


いつの間にか如月サンも遣い分けてる?


『ありがとうございます』


日々の補習のせいで進化したのか?(偉そうなアタシ)


「チーフは、“伝説のエージェント”なんです」


伝説のエージェント?


「エージェントになるにはハンパない程のハイレベルな試験をハイレベルな点数で一度も落とすコトなくクリアし続けなければなりません」


『神楽サンから聞きました。アカデミアに入る時からエージェントになってからも試験があって1回でも点数が8割以下だとイチからやり直しで、つまりリゲートだって』


思い出すだけでも仰々しい表情になっちゃうよ。


「ハイ、そうなんです。チーフは、その超難関の試験をアカデミアに入る時から未だにオールパーフェクトで取り続けているんです。ソレが“伝説のエージェント”たる所以でございます」


コトバが出なかった。


“オールパーフェクト”・・・。


「後にも先にもチーフだけだそうです。」


でしょう・・・、ねぇぇぇ。


ぃやぃや、そんなんがいるダケでも恐ろしいよ。


「そんなんですから、入庁2年目にはもう幹部候補にオファーが来たそうなんです」


でしょうねぇ。


何もコトバがない。


「でも、“現場がイイ”と、頑として拒否し続けているらしく、bossや他の幹部を悩ませているらしいのですが、今のあのチーフの姿を見てたら解った気がします」


確かに。


でも、如月サン、


そう言うアナタも十分嬉しそうだよ。


この2人にはきっと、アタシには分からない2人だけの“何か”があるんだろうな。


如月サンの表情を見てるアタシまで笑顔になっちゃうよ。


「エージェントはそれぞれ1人1つ、人より秀でた得意分野を持ちます。当然チーフは1つどころじゃないのですが、 中でも一番の得意分野が、エンジニアなんです。だから機械工学科にしてみたんですけどね。」


話してる如月サンも、聞いてるアタシも自然と笑顔になる。


「初めはチーフがワタクシの担当ってコトが、正直イヤで仕方ありませんでした。“伝説のエージェント”ですから」


失笑しながら続ける。


「ついてみて実際、クールだしあまり多くを語らないしあり得ないくらいクソ真面目だし」


ん?グチ!?


でも笑顔だ。


「だけど、ワタクシの得意分野がプログラミングだと知っていてなのか、プログラミングに関しては全権を委せてくれて」


如月サンはずっと神楽サンの方を見たまま。


「妃音様の居場所を、プラチナムマウンテンと妃音様のストーンのシンクロから起きる波動で突き止められるようにプログラミングしたのはワタクシなんですが、ワタクシはチーフがデザインしてくれたシステムを元にプログラム化したダケなんです」


はぁぁぁぁぁ。


ちょっとパラレルチックだワ。


若干意味不明。


「その時も、“オマエが行ってこい”って言ってくれたんです。“オレはまだやるコトがあるから”と。驚きのあまり、“実験台ですか?”って聞いちゃいました」


如月サンは照れ笑いしていた。


「チーフがワタクシの為にと、自分が行きたかったトコロをワタクシに行かせて下さったってのに、ワタクシはチーフの気持ちも知らずに暴走しちゃいましたケドね。今ワタクシがまだエージェントでいられるのはチーフと何より妃音様のお陰です。ワタクシは、ココロのソコからお2人が大好きです。なんておこがましいにも程がありますね。でも、妃音様がいてチーフがいてワタクシがいる。こんな最強な組み合わせは他に無いと思います」


えっ!?・・・


アタシの目をジッと見据えて言うもんだから、


いくらなんでもさすがにドキッとしちゃったよ。


「如月ぃぃぃ!!」


ぅおっっっ!!


何とも絶妙なタイミングでの神楽サン。


「ハイぃぃぃ!!」


大きく返事して神楽サンのトコロに駆け出した。


「ソコのタオル、濡らしてきてくれないか」


「ハイ!」


汗だくで、顔や手は油汚れでところどころ黒く汚れている。


でもモノ凄くキラキラした表情をしていた。


如月サンも。


「ありがとう」


うわっっっ!!


ま・・・、眩しい。


ソレにしても


“「妃音様がいて、チーフがいて、ワタクシがいる。こんな最強な組み合わせ他に無いと思います」”



なんて、しっかり自分を入れてるトコロがいかにも如月サンだね。






んっっっ???






今一瞬、夢で見たお兄様の姿が見えた気がした。


過敏になりすぎて幻覚見ちゃってる?


ヤバイよアタシ。


でもアタシ的には確かに“あの夢”は衝撃的だった。


今2人のお陰でだいぶ気が紛れてたのに。


「妃音・・・様?」


『えっ!?』


目の前にいた2人の表情は、どちらも眉間にシワが寄っていた。


「お顔の色が優れないようですが、どうかなさいましたか?」


と神楽サン。


『えっ?』


顔に手を当てる。


手を当てたってどうしようもないんだけどね。


「いい加減、仰っていただけませんか?」


またしても神楽サンが迫力のある怖い表情になっている。


『何でもないですって』


と笑ったが、、、


神楽サンどころか、如月サンまで表情が怖くなっていた。


「もうそろそろ限界ですよ?」


如月サンまで・・・。


『家で話します』


観念するしか、


ないようだ。






アタシと神楽サンは神楽サンの運転する車で、


如月サンは原チャで、それぞれ帰ってきた。


夕飯の準備をしながら話すコトにした。


パパもママもいない、3人での準備だったから。


『アタシがいなくなった後って、後継者問題はどうなってたの?』


いつの間にか、気が付けば自然とタメ語に変わっていた。


「とにかく妃音様を見つけ出すコトに必死でした」


と如月サン。


少し沈黙。


『お兄様は?』


「えっ!?」

「えっ!?」


2人同時だった。


『アタシがいなくなったからって、お兄様に継承権が移るってコトはないの?』


「妃音様?」


神妙な面持ちの神楽サン。


「ですから、継承権はプラチナムマウン・・・」


如月サンのコトバの途中で、


『アタシとお兄様みたいに・・・、』


言われなくても分かる説明を、アタシは無意識で遮っていた。


『下のコが継承権を継いだケースって、あるの?』


如月サンは唖然としていたが、神楽サンはいつの間にか淹れてくれていたコーヒーを差し出しながら、優しく話し始めてくれた。


「我々がアカデミアで受けた講義の中では数人おられるようです」


そりゃそうだよね。


「琉雅様を、思い出されたんですか?」


神楽サンの問い掛けに、ゆっくり頷いた。


「如月が琉雅様とアカデミアでご一緒してるよな」


え゛っっっ!!!


お兄様もアカデミアに?????


顔がひきつる。


「皇家の方々も皇家教育の一貫と致しまして、聴講生として講義は一緒に受けて頂くコトになっております。ですので妃音様もお戻りになられましたらアカデミアで講義を受けて頂きます」


と神楽サン。


ホッ。


ひと安心。


お兄様に継承権がないからアカデミアに行かなきゃいけないのかって勘ぐっちゃったから。


「なにぶん“皇家の人間として産まれた”のが大前提としての条件ですから、後継者様が必ずしも皇王様のご子息様とは限りません。皇王様のご兄弟のご子息様が後継者様になられたと言うケースも、過去にはあったようです」


今度は如月サンが説明してくれた。


心臓を、深く強くえぐられたような気がした。


『そんなにこのストーンは絶対なの?』


思わずストーンを見入ってしまう。


「ハイ」


神楽サンは物々しく。


「過去に何度となくストーンのお導きに反しストーンを授かった方以外が皇王様になったケースがございましたが、その度に解明不可能な天災等が発生したそうでございます」


如月サンは淡々と。


“解明不可能な天災”。


ストーンに対して、今まで一度も感じたコトのない威圧感を今、


アタシは初めて肌で感じていた。























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