no more cry
さすがに昨夜は普通通りに眠れた。
だけど完全に覚醒しちゃったモンだから夢に出てきちゃった。
“皇女のアタシ”・・・。
しかも“今のアタシ”で。
もしいたらこうなってんだろうなって言う仮定なのか、戻ったらのアタシなのかはわからないケド。
お陰で目覚めのテンション、メチャクチャ低い。
バックテンションで準備をして、ちょっとテンションを上げて下に降りる。
お弁当作んなきゃ。
ん?ヤバいっっっ!!
匂いに反応して慌てて階段を駆け降りる。
「おはよう、妃音」
神楽サンがキッチンに立っていた。
“妃音”に思わずドキッとしてしまった。
“妃音”だって!
パパママの前だから“妃音”なんだけど、神楽サンが“妃音”だなんて何だかとっても新鮮。
「おはよう、妃音!」
盛り付けしてる如月サンも“妃音”よばわ、
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?』
思わず声に出してしまった程の衝撃。
「どうしたの?妃音」
パパとママは唖然としている。
『どうしたの?ってっ、さぁ』
つい声が裏返っちゃうよ。
アタシがココまで動揺している理由、
『何で如月サンまで修南の制服なんですか?』
如月サンの耳元で小声で訴えた。
如月が来ている制服、アタシと同じ高校のなんだもん!!!
ところが今回もまた何喰わぬ顔の如月サン。
全く悪びれた様子もなくサラリと答えた。
「だって同じ学校じゃなきゃお護り出来ないじゃないですか!」
・・・・・、そりゃそうだけどさぁ。
更にテンションが下がるわぁ。
「チーフは年齢的に高校生はキツいので、修南の大学生と言うコトで。教員も考えたのですが、いざと言うときに動けないとイケませんので」
これまた悪びれた感が全くないよ。
深いため息をつく。
どこまでも一緒なんだね、この2人と。
まぁこの前みたいに1人でいるときに何かあっても困るケドさぁ。
神楽サンの表情も怖かった。
結局男子2人(しかも兄貴のハズの)にお弁当を作らせてしまったアタシは仕方なく?朝食の準備をするコトにした。
しかし、“イントルード”ってスゴいよな。
どういうテクニックかはわかんないけど、そのテクニックで、
神崎家の養女で、しかも一人っ子だったハズが3人兄妹になっちゃうし、
誰も使ってなかった部屋が突然男子2人の部屋になったり、
今まで3人分しかなかったハズの生活用品や食器が、歯ブラシやお茶碗や箸やマグカップ、果てはお弁当箱に至るまで5人分になったり、
パパママの中では何の違和感もなく2人に打ち解けてるし・・・。
違和感大爆裂なのはアタシだけで。
まるで別の世界にいるみたい。
「行ってきまぁす!」
『行ってきま〜っす』
「行ってきます」
3人揃って家を出る。
当然今までは1人だった。
駅に着くまでは。
と言うコトは、乃亜もこの2人をフツーに受け入れるってコト?
何か分かんないけどニコニコしてる如月サンに、至ってクールな神楽サンと、アタシ。
如月サンが1人ではしゃいでる。
「何かイイなぁ、こう言うの!」
何だか嬉しそう。
そんな如月サンを見て無意識に神楽サンと目が合っちゃった。
アタシまで嬉しくなりそう!、って、何でだろう。
「あっ!神崎兄妹!!」
んんん?
ナニ、この黄色い声は。
どこからか聞こえてきた。
思わずしかめっ面になる。
「朝から神崎3兄妹見ちゃったよぉ!」
んんん???
ナニ、何だっての!?
何で地元の女子にこんな扱いされてんの???
よりによって“神崎3兄妹”って。
しかめっ面が直せないよ。
間違いなく犯人であろう本人はメチャクチャご機嫌な様子。
「兄妹全員神だよね。3人全員修南だし、兄2人は文武両道で妹は生徒会副会長だし、何てったって音楽一家だし」
ぉいぉい・・・。
朝からドッと疲れるよ。
隣の神楽サンの顔が怖くて見れないよ。
如月サンはちょっと前をご機嫌に歩いてる。
こっちを見てる女子に手を振ったりして。
「今度こそリゲートだな」
小声だけど神楽サンの迫力はハンパ無かった。
『下らな過ぎてコトバも出ません。リゲートの理由にするにはアホくさ過ぎます』
アタシは呆れるしかなかった。
「おはよう♪」
乃亜の姿が見えた。
今までとあまり変わらない様子。
『おはっ』
アタシもいつも通りに挨拶しようと思った矢先、乃亜が駆け寄ったのは如月サンだった。
「おはよう♪」
「おはよう、乃亜!」
またしても唖然。
しかも乃亜、如月サンと腕なんか組んじゃって。
全力で全身でため息が出るよ。
「いかがなさいますか?」
神楽サンの声が心なしか震えてる気がする。
アタシは神楽サンを見ずにただ首を横に振った。
電車の中でもウチラの“噂話”は続いた。
ダメだ、音楽聴こ。
下らなすぎだろ。
今までは何事もなくフツーに乃亜と話しながら通ってたのに。
今じゃその乃亜は、如月サンにベッタリ。
アタシ、(神楽サンもだけど)家を出てから何回ため息ついてるんだろう。
見た目は冷静を装ってるけど、神楽サン、内心は相当怒ってるっぽいよ。
校門を抜けた所でちょっと先を歩いていた如月サンと乃亜が立ち止まり振り向いた。
「じゃあね、アニキ!」
「神楽サン、また♪」
2人ともなかなかのハイテンション。
そっか、校舎が別だから神楽サンとはココでバイバイなのか。
モーレツなまでの不安感がアタシを襲う。
急に背中が重くなる。
「何かあったらすぐにお呼び下さいね!」
別れ際、神楽サンが耳元で言った。
アタシはただ頷いて。
昨夜、簡単にリングの使い方を教わったんだ。
神楽サン達が持っているペンダントバージョンとはちょっと使い方が異なるらしい。
ちなみにこのアイテムの名前は、“PP”。
“ポータブルパートナー”
だそう。
確かに性能や機能を考えると十分“パートナー”だよ。
何てったって、コレ一台(?)で何役もこなしてくれるんだから。
今で言えばタブレットの超進化系ってトコかな。
テレビもケータイもパソコンも出来ちゃうようなモノで。
しかもテレビ電話的な機能に至っては立体でなおかつ動くしね…。
ただただ驚くばかりです。
2人のちょっと後ろを歩いて教室に向かうと、またしても衝撃的な光景が。
途中からイヤな予感はしていたよ。
如月サンがいなくなる気配が全然無かったから。
それどころか、いなくなったのは違うクラスの乃亜だった。
だからって言ったって。
「じゃね妃音♪」
何の屈託もない笑顔で自分の教室に向かう乃亜に、アタシはひきつり気味の笑顔でしか返せなかった。
如月サンが入って行ったのはアタシと同じ教室だった。
やっぱりかぁ・・・。
またしてもため息が出た。
「おっす!!」
「おはよう如月!」
・・・フツーに溶け込んでるよ。。。
アタシは遅れて教室に入った後、またまたイントルードの凄さを目の当たりにした。
如月サンの席が増えていたのだ。
そこ、別の男子が座ってなかったっけ?
ぃや、1個ズレてるよ・・・。
ただただ唖然。
ってか、ってコトは、アタシと如月サンは双子設定!?
ムチャクチャだろ。
しかもフツー、双子とかだったら同じクラスになんないんじゃないの?
って言ってもウチの特進科は完全成績順でクラス分けされるから関係ないか。
席に着き、また大きなため息。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
まぁココでまで乃亜とイチャつかれないダケいっか。
・・・・・、
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
やっぱりため息。
覚醒したからこそ思うコトが、ある。
改めて、アタシは“狙われてる身”なんだなって。
四六時中如月サンや神楽サンに付きっきりになられるのは、確かにウザいよ?
だけど、“あの時”のコトを考えたら、しょうがないのかなって思うしかなくて・・・。
アタシ1人じゃどうしようもない事態が今、現実に起きている。
ソレも、どうしようもない事実。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
今日、何回ため息ついてんだろう。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
思わず窓の外を眺めてしまう。
「行くよ!」
昼休み、乃亜が猛ダッシュでウチらの教室にやって来た。
『えっっっ???』
如月サンもカバンを持ってアタシのトコロにやって来た。
“行くよ”って、??
きょとんとしてしまっているアタシ。
『ドコに?』
アタシ的には100万%、ホンキの質問だった。
アタシの質問に、乃亜まで違う意味できょとんとしてしまった。
「何言ってんの?妃音。正気!?」
だから100万%正気だってば、嘘偽りなく。
と、ココロの中で言いながら頷く。
「毎日お昼は神楽サンとセンターホールで一緒にランチしてるじゃない!」
あぁぁぁぁぁ↑??????????
思いっきり顔をひきつらせた。(ココロの中で)
毎日ってアンタ!!、そもそも今日初めて神楽サンと如月サンは修南に来たのよ?
イントルードのスゴさはこんなところにまで及んでるっての!?
「行くよ!」
また腕なんか組んじゃって、ご機嫌でセンターホール(校内の中央にある、全校共通の多目的ホール)に向かう2人の後ろでまたため息。
はぁぁぁぁぁ。
!!!!!!!!!!
ペンダントが、光ってる!!
濃い黄色。
思わず立ち止まってしまった。
あ、、、れ???
気の・・・、せい?
今、確かに光った気がしたのに。
何ともなくなっちゃった。
「どうかした?妃音」
気付いた乃亜が立ち止まり振り返って声を掛けてきてくれた。
ペンダントを見つめたままフリーズしていたアタシは、慌てて何事も無かったかのように2人のトコロに駆け寄った。
『何でもナイよ、大丈夫。ごめん、行こ行こ』
あえて何も無かったかのように笑顔で。
不審そうな如月サン。
笑顔を見せて右手で“OKサイン”を作った。
でもその後またペンダントに目が行っちゃったケドね。
何だろう、黄色って。
しかもホンの一瞬。
センターホールに着くと神楽サンが席を取って待ってくれていた。
爽やか過ぎる笑顔にちょっとダケやられそうになりかけた。
ぃやぃや、あり得ないっしょ。
建前的には“お兄ちゃん”だし・・・。
4人でテーブルを囲んで食事しててもやっぱり乃亜は如月サンとイチャついてる。
またしてもため息。
自由だな、この2人は。
なんて思いながら。
「妃音様、どうかなさいましたか?」
如月サンと乃亜が2人で盛り上がってるのをイイコトに、神楽サンは耳元で小声でとは言え、妃音“様”呼ばわりで声を掛けてきた。
『えっ!?』
きょとんとしてしまうアタシ。
「先程からストーンを気になさってるようですが」
!!!!!!!!!!
目が飛び出そうになった。
完全に無意識だったから。
ぅわぁぁぁぁぁ。
ひたすら後悔の念。
『何でもないデス』
うつ向き気味に答えた。
自分の分かりやすさにちょっと恥ずかしくなってみたりして。
気を付けよっと。
「今日は放課後は何かございますか?」
サラッと話題変更。
またしても小声で。
『ハイ。生徒会が』
アタシも小声で。
「では、終わりましたらご連絡下さいませ」
穏やかだよなぁ、神楽サンて。
雰囲気も物腰も。
『ハイ』
こんな調子で言われたら否応なしにおとなしく言うコト聞いちゃうもんな。
ヤバいヤバい。
気を付けなきゃ。
放課後。
如月サンの存在を忘れてたワケではなかったんだけど、ついついいつものクセで何の気なしに如月サンを完全スルーで教室を出てしまった。
「妃音!」
呼び止められて気が付いたよ。
『あっ!ごめんな、、、さい。そう言えばそうで、だったね』
気を抜くとすぐつい敬語になっちゃうよ。
たどたどしい日本語みたいになってるよ。
『でも、生徒会で、だよ?』
ぉいぉいぉい・・・。
学習能力無さすぎだろ。
我ながら呆れる。
「大丈夫!」
そう言ってハイテンションな状態でアタシの前を颯爽と歩いて生徒会室に向かっていった。
ぃやぃや、だいじょばないよアタシが。
はぁぁぁぁぁ。
もうどうにでもなってくれ!!
勝手にしてくれ!!
結局如月サンはただの“居候”的なカンジで、何をするでもなく、生徒会室の隅っこで黙って雑誌を読むダケで、特に誰も何も突っ込むコトもなく、終わるまでずっといた。
如月サンに気付かれないようにちょいちょい如月サンの目を気にしながら、やっぱり何度となくストーンに目をやっていた。
やっぱり“アレ”が気になっちゃって。
今のところ、あれっきり立ったケドね。
「じゃ、次は」
【妃音】
!!!!!?????
思わずカラダが動いてしまった。
また誰か呼んだ?
『ハイ?』
アタシのリアクションに、みんなホンキのドン引き。
ヤバ・・・。
みんなの視線が痛かった。
『・・・ごめん、、、なさい』
思いっきりひきつり笑い。
背後の如月サンが怖くて振り向けなかった。
ほっとこうっと。
もぉぉぉぉぉ!!!!!
軽くノイローゼになるょ。
そう言えば・・・、
あまりの驚きに確認出来なかったケド、ストーンってどうなってたんだろう。
何色かに光ったのかなぁ。
それにしても・・・。
誰の声?
男の人の声っぽかったけど。
その後の打ち合わせは、イマイチ集中出来ないでしまった。
「じゃあな、如月!」
「ぉう!!」
やっぱりフツーに溶け込んでるよこの人。
ってか今までは終了後は流動的にみんなで帰ってたのに、みんな先に帰り始めてる。
「じゃあね、神崎!」
えぇぇぇ!?!?!?
貴重な女子仲間の先輩まで?????
はぁぁぁぁぁ・・・。
またまたまたしてもため息出ちゃったよ。
今日ダケでアタシ、人生でつくであろうため息の何割を消費したんだろうか。
相当いってるよ?
どんだけアタシ如月サンの“イントルード”に振り回されてんのよ!!!!!
今更とは言えやっぱりリゲートさせときゃ良かったかも・・・。
「妃音、様?」
周りを気にしてなのか、“様”を小さく言ったのがおかしくて笑っちゃった。
『ハイ?』
軽く笑いながら。
「さっき、何かあった?」
ドキッ!
軽く動揺。
『何が?』
何事も無かったかのように見せてる(つもり)。
「何でもないならイイ。です」
ぷぅぅぅ。
如月サン、可笑しすぎる!!
語尾だけメチャクチャ小声なんだもん。
「笑わないで下さい」
うつ向きながら、小声で呟いた。
『ごめんなさい』
コレが笑わずにいられるかっての。
だけど、そりゃワケわかんなくもなるワな。
アタシだってとてもじゃないけど人のコトを言えたギリじゃない。
だけどまぁ、如月サンの場合は自分が蒔いたタネなんだからアタシは1人で楽しもうっと♪
生真面目な神楽サンはきっとカンペキに使いこなすだろうから。
外に出ると、神楽サンが直立で待っていた。
まさか!
『ずっと立って待ってたの?』
まさかとは思うモノの神楽サンのコトだから有り得なくもない。
「今来たトコ」
さらりと笑顔で。
良かった。
しかも、やっぱり自然にタメ口。
この人のスゴいのが、
「ご安心下さいませ」
昼休みもそうだったケド、
タメ口→周りに人がいて、普通の声量で。
敬語→ウチらダケの時もしくは、周りに人がいても小声で。
コレを見事に器用に使い分けてる。
感心するよ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
『いっ!、たぁ・・・』
思わずアタマを抱えてしまうほどの頭痛が一瞬ダケ襲った。
「妃音?」
すかさず神楽サンが呼び掛ける。
「大丈夫?」
如月サンも。
『大丈夫。最近いろいろあったから』
この理由、まんざらでも無いと思うよ。
それにしても
何なのよ。
あっ、ストーンは??
・・・光ってない、かぁ。
見えなかったダケかも知れないケドね。
でも、何も脳裏には浮かばなかったよ?
単純に頭痛ダケ。
何なんだろ。
意味もなく、ず〜っとストーンをただただ見つめていた。
別に答えが出るワケでもなくかといって出ると思ってもなく、ただ眺めていた。
「神崎兄妹だよ!」
帰り道でもやっぱり。
聞こえてると思って言ってんのか聞こえないと思って言ってんのかはわからないけど、 ウザいわぁぁぁ。
帰り道に近くのスーパーに寄った。
今までもバイトがある無いに関わらず、アタシが買い出しをしていた。
と言ってもバイトしていた店ダケに、どこか辛い。
足取りが心なしか重くなっていた。
「妃音はアニキと先に帰ってて。オレ買い出ししてくるから」
えっ!?
如月サンはアタシが持っていた買い物用マイバックを奪い、爽やかに颯爽と中に入っていった。
思わずぽか〜ん。
「如月なりの気配りでしょう。アイツはああ見えて実は誰よりも人の気持ちに敏感なんです。妃音様の動揺を見抜いたのでしょう」
き、さらぎ・・・サン。
ちょっと胸が熱くなった。
「アイツは表向きはお気楽でお調子者ですが、実は誰よりも孤独で、寂しがり屋なんです」
如月サンに“先に帰ってて”と言われたモノの、近くの公園で待つコトにした。
2人で缶ジュースを飲みながら。
「アイツはワタクシと全く正反対に見えますが、どこか似ているような気がして」
『えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?神楽サンと如月サンがぁ??』
意外、
と言うしか無かった。
「上手くは言えませんが、何と言うか。完全にインスピレーションですが」
ちょっと照れ臭そうに言う神楽サンもまた、意外だった。
「アレ?待っててくれてたの!?ありがとう!!」
気付いた如月サンが駆け寄ってきた。
「持つよ」
神楽サンがスッと手を差し出した。
ためらい戸惑う如月サンの片方の荷物を神楽サンはゴーインに奪い取って、
「帰るぞ!」
と歩き出した。
「は、ハイ!!」
ぷっっっ!
思わず本音で敬語になっていた如月サン。
また笑っちゃった。
3人で夕食準備。
何となくだけど、イイな、こう言うのも。
いつの間にか用意された三者三様のエプロンが一層、ほのぼのさを醸し出していて。
今まで無かったコトだからね。
それにしても、ホントに未来人なのか?この2人。
「段取り等はやはり未来の方が格段に便利で進歩しておりますが、基本的に手料理は致します」
はぁぁぁぁぁ。
アタシが2人の手際の良さに見とれていたのに気付いたのか、如月サンが自ら説明してくれた。
「アカデミアでもやらされますから」
と続けて。
そう言えば昨日、神楽サンが話してくれたっけ。
アカデミアでどんなコトをするのか。
聞いてるダケでもアタマが締め付けられそうになるようなお堅い内容の講義ばかりで。
琉按星の歴史や地球の歴史、宇宙の歴史、琉按星の国内情勢、他に人が住む数々の惑星の情勢、皇家のしきたり・マナー、皇家についてはもちろん、
皇家に仕えるに値するべく、身辺のお世話をするにあたって、
果てはこの時代にいるアタシには到底理解不能な、いかにも2世紀も未来だなって思わざるを得ないようなパラレルな内容まで。
聞いてる最中から重〜いため息が出てたよ。
にしてもスゴいワ、この2人。
この2人みたいな人達がわんさかいるのかと思うとどことなく気が重い。
“こんな人達が仕えるくらいなんだから、仕えられる方はよっぽど格式が高くないといけないんだよなぁぁぁ”
なんて考えちゃって。
!!!!!!!!!!!!!!!
痛→→→→→→→→→→い!!!!!!!!!!
また激痛。
思わず持っていた皿を手放してしまった。
皿は幸いスリッパに当たったお陰で割れずには済んだんだけど。
「妃音様!?」
「大丈夫ですか??」
2人の反応は驚異的な早さだった。
しかもほぼ同時に。
今回は“大丈夫”って、嘘にも言えなかった。
返事すら出来ない。
完全に、割れ“そう”な痛みじゃなく、割れ“た”ような痛みで。
しばらくうずくまってしまった。
「お休みになりますか?」
痛みの余り、声がボヤけて聞こえる。
多分、神楽サンの声だと思う。
でも、やっぱり反応出来ない。
「失礼致します」
えっ!?
そう言って神楽サンは自分のPPをアタシの手首にかざした。
何?
「脈が不安定ですね。心拍数は問題なく。ちょっと熱がおありのようで。如月、bossにNV3821を依頼してくれ。」
「かしこまりました。行って参ります。」
えぇぇぇぇぇ!!!???
そんなコトがわかっちゃうの?PPをかざしたダケで!?
「只今お薬をお持ち致しますので少しお休みになって下さい。準備の方はワタクシにお任せ下さいませ」
神楽サンの神通力ですら今回ばかりは通用しなさそうだよ。
何なんだよ、この痛み。
今回の痛みも、ただの痛みだけ。
その痛みが尋常じゃないけど。
『かぐ・・・ら、、、サン?』
神楽サンに抱き起こされながらたどたどしいながらも聞いてみた。
「ご無理なさらないで下さいませ」
神楽サンの声が、どことなく痛みを和らげる。
コレもちょっとは“神通力”なのかな??
『ストーン、どうかなってましたか?』
またチェックするの忘れちゃってたから。
「ワタクシには何の変化も無いように見えました」
そっかぁ・・・。
一瞬しか光らないんだとしたら見えてなくても仕方無いよな。
「無理にお答えにならないで頂きたいのでハンドサインでお答え頂きたいのですが、先程から頭痛が連発なさっておられませんか?」
やっぱりこの人の声には癒しの効果があるみたいだ。
少しずつだけど、ラクになってきてる。
指で○を作る。
頷くのもツラいから。
「頭痛ダケじゃなく今日はずっとしきりにストーンを気になさってます」
如月サンが戻ってきた。
あちゃぁ・・・。
言われちゃったよ。
「とりあえずこちらをお飲み下さい」
えっ!?薬って?コレは・・・。
神楽サンが差し出してくれたのは見るからにSMPだった。
受け取るのをためらってしまう。
「妃音様の現在の体調に合わせたSMPにございます。ラクになるハズです」
はぁぁぁぁぁ。
感嘆?
驚愕?
呆然?
痛みのせいでワケわかんない感情になってる。
そんなんまで出来ちゃうの?このドリンクは。
とりあえず飲んでみよう。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
リビングのソファーで寝ていたアタシは、キッチンからしてくる、とてつもなくイイ匂いにつられて目が覚めた。
「大丈夫?妃音」
『あっ、ママ!おかえり。ゴメンね気付かなくて』
キッチンにママの姿が増えていた。
ゆっくり起き上がる。
「如月に聞いたわよ、今日ずっと調子が悪かったって。大丈夫?」
メチャクチャ心配そうな顔をしてくれてる。
『うん。大丈夫!!寝たら少しはラクになってきたから』
立ち上がりキッチンに向かった。
「イイよ妃音。もう少し休んでなよ。今日はオレらに任せて」
おっ!!如月サンがスルッとタメ語で言えてる。
『大丈夫だよ!このくらい』
笑顔で答えて食器の準備を始めた。
「無理しないでね」
優しすぎる笑顔と声の神楽サンにドキドキしそうになっていた。
何してんのよアタシ!!!
よりによって神楽サン相手にドキドキなんて。
でも、
珍しいよ?
アタシが男の人にこんなにドキドキするなんて。
アタシ、乃亜に天然記念物扱いされるくらいに異性を恋愛対象として見ていないの。
未だかつて。
男性恐怖症、
とか、
男性には興味がない、
とか、
一途に想い続けている人がいる、
とかではない。
“ドキドキ”とか、
“トキメキ”が、ないの。
だから、
正直、
この“ドキドキ”が、
何の“ドキドキ”なのかは、わからない。
ただ、
乃亜がしょっちゅう言ってる“ドキドキ”って、
こういうコトを言ってるから、
あくまでも、アタシの勝手な勘違いだと思うけど。
勘違いだと思おう。
記念すべき人生初の“ドキドキ”の相手が、
よりにもよって、
自分に仕えるエージェントだなんて、
笑うに笑えないから。




