last memory
イントルードってのはその時代に潜入する上で都合のイイ様に一時的に歴史を新たな事実を加える技術のコトらしい。
一時的にだから一種の催眠術のようなモノだとは言うケド。
『じゃぁ神楽サン達がこの時代からいなくなる時は、アタシがこの時代にいたコトも消えちゃうってコトなんですか?』
アタシ、何てディープな質問してんだろ。
一歩間違えば、ブラックネタだよねぇ。
ってか、自虐的?
神楽サンは黙ってしまった。
ちなみに如月サンは、朱雀サンのお説教とエージェントの規則のやり直しの為、しばらくの間夜間はRCSに戻るハメになった。
沈黙が続く。
日中はアタシの警護で夜は研修なんて、かなりハードだけど、
“「オマエが自分でそうしたんだろ?」”
って、皮肉全開で朱雀サンに言われちゃって何も言い返せず…。
さすがにかわいそうだけどコレも処分の一環だと思うと仕方ないんだろうなって気になってしまう。
神楽サンは黙ったまま。
ん??????????・・・・・
あ、、、、、
れ、、、、、れ?????
アタシ、気付いちゃったかも。
とてつもなく、果てしなく、限りなく自爆的なコトに。
『神楽サン達じゃなく、、、』
アタシは、その先が言えなかった。
言いたくなかった。
コトバにしたくなかった。
ココにいるコトで“歴史の歪み”を作っているのは神楽サン達なワケでは無く、
アタシ
なんじゃないだろうか・・・・・・・・・・。
今さら気付いたってもう手遅れだよ?
アタシだって自分のコトながらどうしてココにいるのか全然わかんないし覚えてすらいないし。
ヤバい、辛すぎる。
だけどさっきのバイトの時と同じで何故か涙が出ない。
ワケが分からなさ過ぎるからかなぁ。
気を落ち着かせる為にもベランダに出よう。
「何かお飲み物、お持ち致しますか?」
優しさに溢れた神楽サンのコトバに癒されて素直に頷いた。
「かしこまりました」
すぐさまドアが閉まる音がした。
相変わらず機敏だなぁ。
振り返り、閉まっているドアを見つめた。
あっ・・・
視界の隅に“あの”ワンピースが入った。
クローゼットから出して部屋の隅に置いておいたんだった。
しまうのも堂々と出しておくのも忍びなくて。
アタシはワンピースを手にして再びベランダに戻った。
何か思い出せないかなぁ。
何でもイイんだけどぉ。
じぃ〜っとワンピースを見いる。
ダメだっ、全然思い出せない。
痛っっっっっ!!
えっ??
またの頭痛の後に浮かんだ光景は、多くの人がアタシの周りにいる光景だった。
かなりの広間みたいで、遠くまで人がいる。
!!!!!いったぁぁぁい。
まだ痛みが続く。
浮かんでる光景も、消えない。
またしてもアタマを抱えちゃうよ。
痛過ぎて脈を打つのが分かる。
心拍数も早くなってるし。
あっ、景色が変わった。
ピアノ?
横には男の人。
神楽サンと同じ格好をしてる人。
だから痛いってばぁぁぁぁぁ!!
何なのよ一体!!
フォールインじゃないんだよね。
ドアがノックされたけど、痛くて弱々しくしか返事出来ないよ。
「お待たせ致しました妃あ!いかがなさいましたか?」
神楽サンの声が緊迫している。
背中を向けたまま、手を上げて指先で“OKサイン”を出す。
それでも神楽サンは駆け寄ってきてくれた。
『大丈夫で、す』
精一杯の返事。
声もあまり出せない。
フォールインされた時よりは痛くないケド。
ん?イイ匂いがする。
コーヒーだ。
痛みを堪えてアタマを上げる。
「どうぞ」
すかさずコーヒーを差し出してくれた。
『あっ、アタシのマグカップ』
「お父様とお母様にも淹れて参りました」
『ありがとうございます』
ふと顔を上げると神楽サンは自分の分も見たコトがないマグカップに入れて持ってきていた。
そう言えばさっきの夕食の時も如月サンも神楽サンも見たコトないお茶碗とお箸を使ってたっけ。
それにしてもスゴくイイ香り。
香りだけでも堪能出来ちゃうな。
ウチにこんなイイ香りのコーヒーなんかあったっけ!?
『コレも出したんですか?SMPみたいに』
アタシの質問に、フッと笑みを見せた。
「とんでもございません。キッチンにあったモノだけで淹れたダケです」
えぇぇぇ????!?
思わず目を大きく見開く。
信じられないよ。
じ〜っとコーヒーを見つめた。
「嘘ではございません」
苦笑いの神楽サン。
アタシは驚きのあまり、神楽サンのコトまでじ〜っと見てしまっていた。
『200年以上も未来の人なのにこんなコトができるんですか?』
アタシの勝手なイメージは“何でもオートマチック・デジタル”だから。
「コレはワタクシの趣味でございます」
趣味・・・って言ったって、、、
唖然とするしかなかった。
「ご気分はいかがですか?先程も頭を押さえておられませんでしたか?」
立ったままの神楽サンにアタシは座るよう促した。
アタシだけベランダに置いてある縁台に座ってるのも何だか申し訳ないからね。
ちょっと横にズレる。
「失礼致します」
遠慮しすぎなのか、キョドり気味の神楽サン。
2人の間に不自然な距離が。
ま、いっか。
何となく笑っちゃう。
『昨日から度々あります。その痛みの後に、見慣れない光景が浮かぶんです』
「痛みの後の見慣れない光景?で、ございますか?」
神楽サン、眉間にシワが寄ってる。
『如月サンに話した光景は、きっと皇邸だって言われました』
神楽サンの眉間のシワが倍増した。
「如月にお話になったんですか?」
ヤバっっっ!!
マズった。
神楽サンの顔を見て瞬時に察した。
“また如月サン、怒られる。きっと如月さんは報告していない。アタシ、言っちゃダメだった”
って。
『いゃっ、あの、アタシが言うなって言ったんです、そう言えば!!ごめんなさい!!如月サンは悪くないです!!!!!』
下手だな、アタシ。
いくら咄嗟に出たとは言えコレは無いよなぁ。
「妃音様は如月をかばいすぎです。如月の為にもなりません」
はぁぁぁ怒ってるぅぅぅ。
肩を落とす。
「もし仮にいくら本当に妃音様が言うなと仰ったにしても、如月の立場上、妃音様のご安否や身辺に関わるコトは逐一報告しなければならないのが鉄則です。如月はまだ研修中の身なんですから。いくら妃音様の厳命と言えどもコレは例外です」
はぁぁぁぁぁ。
ため息。
神楽サンは、ホントに生真面目なんだな。
仕方無い、話をそらそう。
『でも、どのみちそれだけじゃないんです。南山サン達の格好を見てから、あの服装の人達の光景が何度か浮かんだり、さっきはアタシの周りにたくさんの大人がいました。部屋らしき光景も浮かびました』
「恐らくストーンのパワーが発動し始めたのがきっかけで、少しずつ妃音様のご記憶が甦り始めているのではないでしょうか」
記憶が?・・・
神楽サンはまたブレスレットに手をかざした。
今度は風景が現れた。
「こちらは現在の皇邸でございます」
心臓が何かに貫かれた気がした。
パッと映った庭の映像。
そっくりそのまま、あの浮かんだ光景だったから。
絶句。
「こちらはセレモニーホールでございます」
・・・コレって。。。
またしても絶句。
大勢の大人達がアタシを囲んでいたホールだ。
痛っっっっっ!!
また一瞬の激痛。
アタマを押さえる。
「大丈夫ですか?」
焦る神楽サン。
『続けて下さい』
でも、神楽サンは完全にフリーズしていた。
『神楽サン?』
神楽サンは一点を見つめたままだ。
「妃音様、」
表情が、
怖い。
『ハイ』
返事が弱くなる。
「レジスタニアにも反応なさって頭痛が起きたんですか?」
神楽サン?????
怖いままだ。
『ハイ』
また弱く返事。
「その後の頭痛はどのような光景が?」
どんどん表情が怖くなっていく。
『さっき、ベランダで何か思い出せないかなと思ってたら、セレモニーホールと、後はピアノとエージェントの方が浮かびました』
「ソレはもしやこちらのお部屋でございますか?」
神楽サンが見せてくれた映像を見た途端、アタシの脳裏にまるでフラッシュバックかのようにいろんな映像がランダムに浮かび出した。
心拍数が急に速くなり、手が震え、涙が流れ始めた。
頭痛もして。
「妃音様??」
取り乱す神楽サン。
脅えるアタシ。
今のアタシのアタマの中、
完全に、
覚醒
しちゃった、よ。
だんだん息苦しくなってくる。
涙もボタボタと床に落ちる。
『セレモニーホールはアタシのバースデーパーティーが行われたホールです』
呼吸が乱れたままで、可能な限り、ゆっくりと話し始める。
「妃音様、無理をなさらないで下さい」
そっとアタシの肩に手を掛けてくれる。
『アタシを囲んでいた大勢の大人達は、その時来て下さっていた方々で、』
ダメだ、コトバが続かない。
肩で息をし出してる。
「もう結構です。おヤメ下さい」
必死に止めようとしてくれてる神楽サン。
だけど、アタシは口に出したかった。
そうじゃないと余計堪えきれない気がして。
次から次へと甦ってくる記憶に。
『その後、部屋に戻ってピアノを弾いてたら、突然レジスタニアが現れて、』
心拍数が更に上昇する。
ますます息が荒くなる。
たった一言二言で、はぁはぁしちゃう。
『周りにいたエージェントがアタシを護ってくれたんですけど、1人2人と次から次へと消えていって』
「消えた?」
神楽サンの眉間のシワ、マックス。
アタシの心拍数も、恐らくマックス。
!!!!!!!!!!
か…、ぐら・・・、・・・、サン?????
神楽サンのカラダが、アタシに覆い被さるかのように上半身全体がアタシを包んだ。
「もう大丈夫です、どうかご安心下さいませ。もう何も仰らないで下さい」
摩訶不思議。
嘘みたいにスーッとココロが落ち着いた。
光が降り注ぐかのように気持ちが晴れた。
心拍数もゆっくりだけど落ち着いてきて。
間違いなく科学的根拠は皆無だろうケド、やっぱり神楽サンの“ご安心下さい”には言い知れない力があるな。
もしかしたら、α波辺りを刺激されてんのかなぁ。
アタシ、、、こんなに余裕出来てるよ、あんなに苦しかったのに。
恐るべし!
神楽サンの“ご安心下さい”パワー・・・。
何て強大なパワーだってのよ!!
神楽サンの方がよっぽど何か力でも持ってんじゃないの!?
神通力的なモノを。
ぅわっ!!
ストーンも反応してるよ。
水色っぽいのに、言い様の無い温かみを感じる。
ぼんやりとゆっくり光ってる。
『その後は憶えていません。と言うか、気が付いたらこの時代にいました』
「その時御召しになっていたのがそちらのワンピースでございますか?」
アタシがずっと握り締めていたワンピースにそっと触れた。
『ハイ。ずっと棄てられずに取ってました。そのお陰で、如月サンと逢った時、このエンブレムに反応出来ました』
ワンピースをジッと見つめて。
「そうでございましたか。実を申しますと、妃音様の捜索にここまで長い年月がかかってしまった理由が、誰も証言者がいなかったからなんです。そういうコトだったんですね」
小さく頷く。
またちょっと胸が痛み出す。
コーヒーを一口。
「その時に何らかの時空間の歪みが出来て、この時代にタイムワープなさったんですね。恐らくストーンのパワーでしょうね」
ストーンのパワー・・・。
『そう言えば、白い光に包まれた気がします。眩しくて、目を閉じちゃって、開けたらこの時代にいました』
どんどん甦ってくる。
この十数年、一度足りとも思い出さなかったのに。
摩訶不思議だわぁ・・・。
「貴重なお話、ありがとうございました。心痛を伴わせてしまったコトを申し訳なく思います」
そう言うと神楽サンは深々とアタマを下げた。
『ヤメて下さい!!アタシが次々出てくる記憶に堪えられなかったダケなんですから。口に出さないと潰されちゃいそうで』
「もう大丈夫です、ご安心下さいませ」
ぅわっっっ!!出たよ!!!!!
神々しさすら感じる。
思わずストーンを見る。
『神楽サンて、神通力的なモノでも持ってますか?』
たまらず聞いちゃった。
「えっ?????」
苦笑いしてる。
『神楽サンに“ご安心下さい”って言われると、神憑り的な癒しを感じるんです。そのせいなのか、ストーンが光るんです』
「何かの偶然ではないでしょうか。そのようなモノは自覚しておりませんし、言われたコトもございません。妃音様にそう仰って頂けるのは大変光栄極まりありませんが」
失笑気味に答えた。
ふぅ〜ん。
何とも不思議なコトもあるモンだね。
「あいにくワタクシには何の力もございませんが、ワタクシのコトバが妃音様のお役に立てるのでしたら、ワタクシは本望でございます」
・・・・・・・・・・
な、に?
この胸騒ぎ・・・。
ドキッとしちゃった。
!!!!!またストーンが光った。
一瞬だけ、ぼやぁ〜っと。
「いかがなさいましたか?妃音様」
ストーンに目をやったままで固まってしまっていた。
『えっ?』
“いかがなさいましたか?”って、見えなかったのかなぁ。
『あっ、いゃ、今また光ったんで』
「えっ?????」
急に慌ただしくなる神楽サン。
『あっ、えっと、一瞬です』
アタシがキョドっちゃうじゃないのよ!
『ストーンが放つ光の色の意味って、何かあるんですか?』
思い切って聞いてみよう。
「大変申し訳ありませんが、ストーンは認められた御方しか所持出来ない上に所持なさってる皇王様各々様によっても効力や力が異なる為、簡単には解析出来ていないのが現状でございます」
何と!!!!!
またしてもストーンに目を向けてしまう。
「現に、妃音様ほどに様々な現象が起きると言う事例はあまり伺ったコトがございません。妃音様はよっぽどプラチナムマウンテンとシンクロする何かをお持ちなのだと思います」
そうなのぉぉぉ?????
またまたストーンをじーっっっと見入ってしまうよ。
あんびりーばぼぉ。
つくづくスゴいのね、このコは。
アタシはしばらくストーンから目を離せないでいた。
ソレにしても今日1日いろんなコトがありすぎて、1日が1日じゃないみたいに過ぎたなぁ。
ちょっとしか寝てない上にこの慌ただしさで、本当ならモーレツに眠いハズなのにちっとも眠くないよ。
もう夜中の3時を回っている。
ベランダで1人、星空を眺めて。
神楽サンは隣の部屋でしっかりアタシの姿を確認出来る場所で報告書を作成中。
アタシの部屋とベランダづたいで繋がっている、誰の部屋でもなかったハズの部屋は、
今は男子2人の部屋に変わっていた。
“いつの間に??”
“どうやって!?”
と疑わざるを得ない程、前からあったかのような違和感の無さにアタシは唖然とするしかなかった。
あれ?神楽サンがいない。
ふと隣の部屋に目を向けたケドさっきまでいたハズの神楽サンがいなくなっていた。
トイレにでも行ってんのかな。
しかし真面目だよなぁ、神楽サンて。
如月サンとは正反対だよな。
堅物とも言っちゃうよね。
でも、
何故だろう。
言い様のない絶対的な安心感がある。
パパとは違うんだけど、でも何となく“父親的”な包容力みたいなのもあって。
何てったってあの“ご安心下さい”には恐らく科学的には解明出来ないであろう力があるモンね。
んっ??この香りは。
「いかがですか?」
神楽サンはコーヒーを淹れに行ってくれてたのか。
『ありがとうございます。あっ!?』
もしかしてこの色って。
「時間も時間ですので、カフェオレでございます」
くぅぅぅぅぅ。
何て泣かせる心遣い。
あっ。
『お帰りなさい』
後ろに如月サンもいた。
「ただいま戻りました」
真摯な表情で挨拶。
大変だったんだね。
『お疲れ様です』
笑顔で返した。
「妃音様、大変遅くなりました。妃音様仕様にご用意致しましたので、お取替致します」
あっ、そっか。
このブレスレットは如月サンのだったね。
アタシ用を用意出来るまでの暫定処置だったっけ。
「失礼致します」
如月サンがアタシの腕から外してくれた。
やっぱり軽く触れたダケ。
神楽サンがアタシに差し出したのは、翡翠のようなキレイな青の箱だった。
切れ目も分かれ目も凹凸も何もない全くのただの箱。
まさか。
「お手を」
と神楽サン。
やっぱりかぁぁぁ。
言われるがまま手をかざすと上の部分が消えて中のモノが現れた。
ぅわぁぁぁ。
まるでイリュージョンだよ。
入っていたのはブレスレットだった。
手に取った途端、スーッと手首に入っていって手首でピタッと止まった。
またまた唖然。
コトバも出ない。
「そのブレスレットは時空間移動の際の衝撃防止の為と、同時にレジスタニアの“気”を感知する機能があります。妃音様の場合は、ストーンとブレスレットの“波”がシンクロしますので、我々なんかよりも遥かに強大なパワーを発揮すると思われます」
神楽サンのコトバを聞きながらも、ジーッとブレスレットに見入っていた。
「ちなみにそのブレスレットも琉按星にしかございませんので、ここの方々にはお見えになれませんのでご注意下さいませ」
『は・・・い』
じろじろ眺めながら。
「それと、本来コレは我々エージェントのアイテムなのですが、今回妃音様が御一人になってしまう状況が我々の不手際により生じてしまう可能性がございますので、bossの朱雀を通して皇王様の許可を頂きまして、妃音様仕様にリングタイプでご用意致しました」
ん?
“我々エージェントのアイテム”?
アタシ仕様にリング?
『そのペンダントのコトですか?』
神楽サンや如月サンの胸元のペンダント。
2人ともあのペンダントで話してたっけ。
「ハイ。妃音様はペンダントですと2つになってしまいますので、あえてリングに致しました」
またさっきと同様につるんつるんの四角い箱を差し出してきた。
まさかコレも?
と言わんばかりに上目遣いで神楽サンを見る。
笑顔で頷く神楽サン。
やっぱりか。
もうさすがにさっきほどは驚かないよ?
むしろワクワク♪
スッと手をかざす。
ぉう!出たっっっ♪
上部が消えて、リングが現れた。
んで、コレも?
また上目遣いで確認。
また頷く神楽サン。
アタシはふとした疑問をぶつけてみた。
『もしかしてこういうシステムなら、好きな人につけてあげるとかは出来ないんですか?』
って。
触れたダケで装着出来ちゃうんだもん、そんな疑問もそりゃ浮かぶよね。
すると神楽サンはスッと指輪を掴んだ。
あれっっっ?????
普通に持ててる。
無言のままキョドる。
「失礼致しました。」
神楽サンはそう言って箱に戻した。
「普通に取れば取れますし、かざすと装着します」
ひぇぇぇぇぇ。
またまた絶句。
でも、試したがるアタシ。
言われてみれば確かにそうだ。
SMPも、箱を開ける時も、ブレスレットをつけるときも、“かざして下さい”って言われた。
普通に取ってみる。
うぉっっっっっ!!!!!
ホントだ、取れた。
へぇぇぇ。
あんびりーばぼぉ。
「で、そのままつけて差し上げたい方の指に触れると入ります」
はぁぁぁぁぁ。
さっきからずっと指輪に釘付け。
「チーフ、着けて差し上げたらいかがですか?」
思わぬ如月サンからの提案に神楽サンは分かりやすく動揺した。
「何をたわけたコトを言い出すんだ如月!!そんな恐れ多いコト、オレごときが妃音様に出来るか!!」
ドキッ。
神楽サンの分かりやすい動揺と、アタシには絶対言わない“オレ”に何故かドキッとした。
『イヤですか?』
ちょっとからかってみた。
!!!!!
如月サンがにやけて、神楽サンは動揺が顔に出始めてきた。
「よろしいの、です・・・か?」
ドッキ→→→→→ン!!!
何だろ、このドキドキ。
モヤモヤ?
分かんないなぁ。
アタシは分かんないままゆっくり頷いた。
「失礼致します」
あんなに動揺してたクセにそんな素振りを微塵も見せずに、毅然とした態度でつけてくれた。
ホントだぁ・・・。
神楽サンが持っていたハズの指輪がアタシの薬指に触れた途端、スッと薬指に入った。
「失礼致しました」
ぽか〜んとしているアタシに向かって深々とアタマを下げて。
『凄ぉぉぉい』
指輪からしばらく目が離せなかった。
「その指輪もブレスレットもこの時代の方々にはお見えになりませんのでご注意下さい」
神楽サンの説明も半分流し気味に。
またしてもいつの間にか夜が明けていた。
2日連続オールナイト。
いい加減眠くなってきたな。
夜明けの光がヤケに眠気を誘っていた。
アタシはその日、昼過ぎまで寝てしまっていた。
目覚めて時計を見ると、間もなく14時になるところだった。
アタシはイッキに全身の血の気が引いた。
バイト遅刻じゃないのよ!!!!!
何で?????
何でアラームがならないの???
何で誰も起こしてくれないの?????
ヤバイよぉぉぉ。
慌ててケータイを確認。
店から着信も来てない、
・・・・・・・・・・んっっっ?????
違った・・・。
バイトしてたってコト、消えちゃったんだっけ。
自爆・・・。
そのままケータイを見つめたままボーッとして、次第にじんわりと泣けてきた。
1年ちょっとの間とは言え、土日はほとんどバイトだったから。
バイトのない日曜なんて、学校行事とか模試の時くらいで。
そっかぁ。
ぅわっ!何しよう。
とりあえず下に降りよう。
下に降りると、みんながリビングで寛いでいた。
今日は珍しくみんなそろっている。
“みんな”っていっても、2人多いけど。
おっっっ!!コーヒーのいい香り。
「今日はずいぶんとゆっくりね」
ママが片付けをしながら声を掛けてきた。
「神楽が明け方まで起きてたから寝かせといてって言うから」
ママと2人で片付けをしながら軽く微笑む神楽サン。
『ありがとう』
神楽サンにじゃなくみんなに対して。
「何か食べる?」
そう言えばおなかが空いたかも。
『うん。何でもイイよ、用意しやすいモノで』
「じゃトーストとコーヒーでイイですか、妃音様?」
えっ!?みんなの前なのに?????
と一瞬ドキッとしちゃったケド、わざとなのか言っちゃった的な感じなのか、含み笑いで神楽サンが言った。
即座にアタシも対応。
『十分です。恐れ入ります神楽様』
ちょっと気取ってみたり。
アタシは100%わざとだけどね。
みんな笑ってくれた。
「ヘンなの」
如月さんは素で言ってるっぽかった。
「申し訳ありません妃音様」
こっそり耳元で小声で言ってきた。
『イイエ』
まだ気取ったままで。
軽く食事したトコロで地下へ。
音楽一家の我が家には地下に防音室があるの。
ちょっとしたスタジオにもなっていて。
神楽サンが一緒に降りてきた。
如月さんは補習へ。
パパママは上で仕事。
「妃音様は琉按星におられた頃からピアノがお上手と伺っておりました。いまだにその腕はご健在だったんですね」
アタシのピアノを聴きながらふと神楽サンが言った。
『ありがとうございます。ピアノのお陰で神崎家に養子に入れたんです。ピアノには凄く感謝してます』
心からそう思うよ。
何も楽器が出来てなかったらきっと神崎家にはいなかったんだろうなって。
「キレイなメロディですね」
弾いてたのはアタシが好きなミュージシャンの一番好きな曲。
『アタシの大好きな曲です。神楽サンは何か楽器出来ますか?』
「妃音様にお聴かせ出来る程の腕はあいにく」
とか言いながら、明らかに照れてるよ。
解り易っっっ!!
『ココにあるモノだったら聴かせて下さい』
期待爆裂で。
立ち上がり、ピアノを離れた。
「全く以て大した腕前ではございませんが」
と謙遜しながら持ったのはパパのアコースティックギターだった。
慣れた手付きであっという間にチューニングを済ませ、スローテンポな曲を弾き始めた。
何だか切なく、だけど温かい感じのするメロディ。
何だか今のアタシには子守唄に聴こえるくらいに安らぐ。
アタシはただただ聴き惚れていた。
“うっとり”って、こういうのを言うんだろうなって思う。
『かなりお上手じゃないですか!!』
「失礼致しました」
淡々と、冷静にアタマを下げて言った。
しかし
200年も未来にもアコギとかってあるんだねぇ。
って言うかこの人、オールマイティー過ぎ。
何者なんだよ一体。
ちょっと未来のコトが知りたくなっちゃった。
って言っても、神楽サン達のいるRCSのコトをね。
『部屋に移動しませんか?色々聞きたいです』
アタシが立ち上がり言うと神楽サンは柔らかい笑顔で言った。
「かしこまりました。では何か準備してから参りますので」
えっ!?
いくら何でもさっきから男の人、しかも建前的にはお兄ちゃんってコトになってる神楽サンに色々やってもらっちゃってイイのかなぁ。
・・・いっか、末っ子だし!!
強引だなぁ、アタシ。
じゃ、洗濯物でも片付けるか。
さすがにコレは女子の仕事でしょ。
神楽サンのコーヒーはホントに美味しいよ。
『お店出来ますよ!』
100%本音で言うアタシに神楽サンは100%本気で照れていた。
「おヤメ下さいませ」
意外と照れ屋サンなんだね、神楽サンて。
たった2日そこいらだけど冷静沈着ってイメージがあるから、凄くギャップを感じる。
何となく微笑ましく見えちゃうよ。
2人でベランダでコーヒーを飲みながらアタシは色々質問した。
まずは如月サンの様子を見てからずっと気になっていた、RCSについて。
「分かりやすくこちらの時代風に置き換えてご説明致しますと、皇家が天皇家に相当し、皇王様は天皇と総理大臣を合わせた存在に相当致します」
ほぅ。
「差し詰め我々RCSは警視庁から宮内庁、総務省など、全中央省庁を総轄したセクションと言う立場に値します」
・・・説明は凄く分かりやすいんだけど、
スケールがデカ過ぎ。
「それだけの重要なセクションですからRCSはもちろん、アカデミアも全国民の代表とも言うべき立場にございます。それ故、アカデミアから規則やシステムやカリキュラムが大変厳しくなっておりまして、まずアカデミアに入る試験が5次試験くらいまでございます」
・・・5次!!!
唖然。
「ちなみに4次までは全て筆記試験でございます」
はぁぁぁぁぁ?????
“呆れ”に近かった。
何をそんなに。
今で言うキャリア官僚?ウルトラスーパーエリートの。
「最後の面接と筆記試験をクリアした者がアカデミアに入学出来まして、アカデミアに入った後は毎月試験がございます」
聞いてるダケでもクラクラしちゃうワ。
「その試験の成績が8割以下ですと不合格扱いになってしまい、一度でも不合格になるとイチからやり直しになります。それはアカデミアを卒業し、RCSに入庁してからも同様でございます。コレが例の“リゲート”でございます」
出たっっっ!!リゲート!!!
イチからやり直し・・・。
そりゃあんだけ嫌がるのも納得だよ。
要は留年でしょ?
しかも“イチから”なんて。
厳し過ぎでしょ。
鳥肌立っちゃうよ。
しかもそんなエリートの中のエリートに仕えてもらうなんて、どんだけの存在なのよ、
“皇家”って。
恐ろし過ぎて身構えちゃうじゃない。
“アタシ、そんなトコに戻らなきゃイケナイの!?”って。
今からじゃ、まるで嫁ぐようなモンだし。
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
大きくて、深いため息が出ちゃうよ。
聞かなきゃ良かったかも。
途方に暮れるワ。
アタシはしばらくの間、遠くを見つめていた。
何を想うでもなく。
ただひたすら。




