Baby-star
圧が収まり、顔を上げて目を開けると周りの雰囲気が騒然としていた。
神楽の手を握る力がまたしても強くなる。
「妃音様!チーフ!!!」
ものすごい勢いで如月が猛ダッシュしてきた。
「こちらです」
見たことがナイ程の如月の憔悴しきった表情に、アタシは言い知れないイヤな胸騒ぎがしていた。
アタシも神楽も無言のまま、手をつないだまま如月の後を付いて行った。
もう片方の手はストーンから離さずに。
状況が分かってないけどひたすら“お兄様を助けて!!”って祈りながら。
ただひたすら。
着いた先はプラチナムマウンテンだった。
ソコにいたのは黒く大きな光に包まれたお兄様だった。
『お兄様!!』
無意識的に叫んでいた。
遠く離れた所で10人前後のエージェントさん達が身動きが取れないでいた。
みんなこのツナギを着ている。
あれ?
もしかして、あのシルバーのツナギは、お父様??
ツナギの色と雰囲気で判断。
お父様がアタシに気付いた。
愕然としたままだ。
よし!!行くか。
大きく深呼吸して、神楽の手を離し、ゆっくり歩き出した。
ストーンに手を掛けたままでお兄様の元へ向かって。
「妃音様!」
神楽がすかさず駆け寄る。
『神楽と如月はお母様をお願い』
意を決しての芯のある発言を察してくれたのか、神楽はただ一言告げて皇邸に走っていった。
「かしこまりました!」
お兄様をジッと見据えながら毅然と(してるつもりで)歩きながらもアタマの中では神楽と如月の顔が浮かんでいた。
2人の笑顔が。
“妃音様がいてチーフがいてワタクシがいる。こんな最強な組み合わせ、他にナイと思います”
何度となく助けられてきたこのコトバがココでも浮かんでくる。
「妃音、どうして?」
アタシを見るお兄様の目が何かに取り憑かれているかのような据わった目になっていた。
あまりの恐ろしさに、軽く恐ろしさを通り越しておぞましさすら感じる。
かと言って怖じ気付いていられない。
怯むコトなく突き進む。
「妃音!!!!!」
遠くからお父様と思われる叫び声がする。
更にストーンをギュッと強く握り締める。
お兄様に近付くにつれストーンが熱っぽくなってきた。
掌の光は?
ぅぅぅおおおおお→→→→→!!!!!
大きくなってきてるぅぅぅ↑↑↑↑↑
コレでお兄様の光を吹き飛ばせってコト!?
お兄様は?
お兄様はどうなるの?
多分dead stoneをどうにかしないと終結しないのよね、きっと。
今までずっとこの幾多の現象を、結局謎も真実も分からないまま自分の思う道を信じて選んできた。
神楽達の力も借りながら。
お願い神楽、如月!!!
今回も力を貸してね。
ストーンを強く握り締めてストーンに念を込めた。
!!!!!そうだっ。
念が通じたのか、アタシはとっさに閃いた。
「妃音!!!!!」
「妃音様ぁぁぁ!!!」
アタシを呼ぶ声が何重にも重なっている。
みんなの心配をよそにアタシはお兄様の真ん前に立った。
『ただいま、お兄様』
声は辛うじて何とか冷静を保ててるけど心臓はバックバク。
気絶寸前。
「どうして帰って来たんだ」
!!!!!!!!!!
お兄様の声が、、、
完全にお兄様の声じゃ無くなっていた。
地を這うような、この世のモノとは思えないような人間味のナイ声と化していた。
完全にdead stoneに支配されてる。
そう察した。
“もう遅い”って、このコトだった?
完全に支配される前に言いに来てくれたのね。
込み上げる涙をギュッと堪え、大きく深呼吸してアタシは右手を真っ直ぐ、天高く突き上げた。
左手でストーンを握り締めて。
次第にどんどん光が大きくなっていった。
するとみるみるウチにアタシの手から光が離れ、お兄様の光をも包み始めた。
お兄様!?
どうしよう!!!!!
ストーンを両手で握り締める。
!!!!!またしても閃きが。
両手で持っていたストーンを目の前の大きな光に触れさせた。
っっっっっ!!!!!
入った↑↑↑↑↑
アタシも光の中に入っちゃったぁぁぁ。
よし!!直接対決ね。
となると思いつく手はただ一つ。
自分の身の危険なんか何一つ考えていなかった。
アタマの中は“お兄様を助けたい”ただそれだけだった。
アタシが取ろうとしている行動、
多分常軌を逸してると思う。
だけど、コレしか思い付かなかった。
お兄様の手元を見ながらタイミングを見計らう。
「あれほど地球にいていいと言ったのに帰ってくるなんてどうかしてるよ」
軽く地響きが起き始めている。
dead stoneに支配はされていても支配されているのは怒りや怨念ダケ?
お兄様そのものの感情は生きてる?
『確かにどうにかしてる。でも、お兄様を助けたいの』
アタシは精一杯の反論をした。
「面白いコトを言うね、妃音」
ぅわっっっっっヤバい↑激しい揺れになってきている。
しょうがない!もう少し余裕を見てからにしたかったけど、強行突破だ↑↑↑
行けっっっ、アタシ!!
自分を鼓舞して勢いよくお兄様の手からあの塊、“dead stone”を奪い取ってすかさず自分のストーンとくっつけた。
常軌を逸してる、と言うかもはや馬鹿げてると言った方が正しいかも知れない。
プラチナムマウンテンとdead stoneは相反するモノ。
むしろ敵対関係ともいうべき存在。
そんなん同士をくっつけるなんて。
でも、だからこその化学反応みたいな現象が起きたりしないかななんて。
根拠のない完全なまでの期待。
案の定、くっつけた途端、ものすごい揺れが起きた。
ところがそれはどうもアタシだけにしか起きてないみたいで、dead stoneを取り返したいお兄様が近寄れないでいる。
「返せ!!!!!」
揺れの衝撃でお兄様の悲鳴がどんどん薄れて聞こえていく。
意識までもが薄れていく気がする。
でもストーン同士は離せない。
多分離したら揺れは収まる気がする。
すなわち裏を返せば、この揺れは何かしらの反応が確実に起きる証拠ってコトよね。
そう信じて離さない。
コレでお兄様が助かるかは分からないけど、助かると信じて。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
何か視界が回り出した。
どうなっちゃうの?アタシ。
音も歪んで聞こえるし意識が朦朧としてるし視界は揺れてるし。
ああああああああああ。
神楽ぁぁぁぁぁ。
ん?あれ??
皇邸の庭?
おや???
あのさっきまでの揺れは?
収まってるし居た場所が変わってるし、意識はっきりしてるし。
まさか気を失ったか何かで夢でも見てるの?
神楽?如月?boss?お父様?お兄様?お母様?
一通り呼んでみても反応ナシ。
だぁれかぁぁぁぁぁ。
・・・無反応。。。
ぽつ→→→ん。
あっ!!お兄様?
え゛っっっっっ!!!!!またしてもチビッコお兄様だ。
あ゛ぁぁぁ↑↑↑アタシ登場→→→→→
2人とも幼いぞ?
アタシがいなくなる前のお兄様とアタシだ、コレ。
ってコトは夢?
やっぱり気を失った?
ありゃぁ・・・、やっちまったかぁ。
どうなってんだろ、今頃。
とりあえずこの2人を見守るか。
ヘンに冷静。
アタシがお兄様を追い掛けて走っている。
もちろん追いつくワケもなく。
あっ!!転んじゃった。
あの悪夢が蘇るけど、、、
周りにはオトナが誰もいない。
あちゃ、泣いてるよアタシ。
泣き虫だなぁ。
おっ↑お兄様がすぐさま駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫?泣いちゃダメだよ!」
アタシのアタマを優しく撫でてくれて。
お兄様・・・。
ホントのお兄様がそこにいた。
優しいお兄様が。
じんわり涙が。
「妃音はこの星の後継者なんだから。妃音は僕が護るから大丈夫だからね」
!!!!!!!!!!
お兄様ぁぁぁぁぁ。
号泣しちゃうよ。
ホントはこんなに優しいのにやり切れない想いがdead stoneを呼んじゃったんだね、きっと。
ダメだ、涙が止まらない。
・・・、でもコレ夢だよね?
夢で泣くって、アリ?
「妃音様!」
この声は、
神楽だ。
如月も!!
目の前に2人の姿があった。
どうやらアタシはベッドで寝ていたようだ。
神楽の声でお父様とお母様も視界に入ってきた。
「おかえり、妃音」
みんなの目に泣いた後があるのは気のせい?
お母様に至ってはまだ泣いてる。
アタシの目には涙はなかった。
夢で泣いてたダケだったのね。
『ただいま。お兄様は?』
何よりも気になること。
アタシの問い掛けにみんなの視線がアタシの右隣に向いた。
みんなの視線の先に目を向けると、ソコにはアタシ同様、ベッドに横たわるお兄様の姿があった。
お兄様↑↑↑↑↑
何にも取り憑かれていない、さっきの夢でみた幼いころみたいな無垢なお兄様の表情に声が出なかった。
「あの後、妃音が、完全に気を失う寸前に、突然、妃音から、まばゆい光が放たれて、その光が、マウンテンとシンクロして、オレに、向かってきた」
ゆっくりと、少しずつお兄様が話してくれた。
「オレも、吹き飛ばされても、おかしく、なかったのにな。妃音のお陰だな」
お兄様・・・・・。
弱々しい笑顔。
何度となく見て来た、狂気に満ちた表情のお兄様はもうどこにもなかった。
「妃音様の強いお気持ちが通じたのですね」
神楽がまるで諭すような優しい口調で言ってくれた。
良かった・・・・・。
安堵の涙が止まらなかった。
みんなもうっすら涙を浮かべる中、お母様ダケはずっと泣きっぱなしで。
神楽に支えられゆっくり起き上がると、すかさずお母様が抱き寄せてくれた。
「お帰り」
涙声で何度も繰り返し言いながら。
『ただいま。今までずっと心配させててごめんなさい、でした』
自分の正体が分かってすぐの自分の身勝手な言動を悔やみつつ、お母様に謝った。
お父様も抱き寄ってきてくれてようやく親子の再会を果たせた。
隣のお兄様も、エージェントさんに抱き抱えられてゆっくりとアタシに寄ってきてくれて。
そこには十数年の空白をまるで感じさせない、見えない“強い親子の絆”があった。
アタシの不安や憂いは、一瞬にして全て吹き飛んでいた。
翌朝-
「おはようございます、妃音様」
琉按星での生活が始まった。
ドタバタした状態でこっちに来たから、何だか軽い“時差ボケ”的な感覚に陥っている。
環境はまるっきり違うのにやっぱり神楽はいつものようにそばにいる。
『おはよう』
部屋の壁のモニターに現れている神楽に向かって挨拶。
この琉按星の建物は基本的にモノが置いてないのがベーシックなタイプらしく、この部屋にも通常は何もない。
昨夜転送してくれていた今までの部屋の荷物はどこにあるかって、壁に収納してある。
空間収納の技術がかなり発達していて、何でもかんでも壁に入っている。
常識的に考えて不可能な空間にもモノが収まってしまうらしく。
恐らく、学校のトイレで空間的に不可能な人数のレジスタニアが現れたのも、そのからくりだったんだと思う。
何の変哲もないただの壁なのに手を触れるとモノが現れる仕組み。
部屋も然りで、建物自体は外から見ると薄っぺらなのに、中には人が普通に入れてしっかり生活も出来ている。
SMPやブレスレットとかの箱もそうだけど、この時代の基本動作は“触れる”コトみたいだ。
今までの感覚でいると、空間認識がおかしくなりそうで。
時代も惑星も違うから常識が違くても当然なんだけどね。
移動なんかも常に神楽とかに付いててもらわないとすぐパニくってしまう何とも情けない状況。
「ご準備が整いましたら、お食事の前に皇王様がお呼びですので皇王様の執務室にお願い致します」
『はぁい』
今までの神楽よりも“仕えてる”感が強く感じて、ソコに何となくの違和感を感じる。
きっと服装のせいかな。
神楽達エージェントも、アタシ達皇家の人間も、みんな基本スタイルはあのツナギ。
みんな役職ごとに色分けされている。
ソレにもまた違和感と言うか無言の緊張感を感じてしまう。
アタシとかお母様女性皇家の人間は、チャイナドレスみたいなカラダにフィットした、裾の長い両サイドスリットの入ったワンピースのような服装にパンツスタイル。
アタシやお父様はシルバーで、お母様やお兄様は白。
何だか慣れないだけとは言え、色分けにも格段の抵抗感。
神楽達エージェントは分かり易くてイイのだろうけど。
否が応でも“後継者”意識をせずにはいられず。
早く慣れないと!!
『失礼致します』
壁に手を触れると部屋が現れる。
ザ・イリュージョン。
「おはよう妃音」
中に入るとお父様とbossがいた。
「おはようございます、妃音様。お目覚めはいかがですか?」
『おはようございますお父様、boss。お陰様でスッキリ眠れました』
お父様とbossって言う無言の威圧感に、ちょっと緊張。
「ソレは良かった。慣れるまで大変だとは思うが何とか頑張れ」
お父様は、星を背負ってるダケあって、言い様のないオーラと言うか寛大さが溢れ出ている。
2人の対面に座る。
「食事前に呼び出したのは他でもない。妃音のマネージャーになるエージェントの件について話があってな」
マネージャー???
ポカンとする。
「皇家の方々それぞれに就くエージェントは複数人いるのですが、その中でも責任者のマネジャーが各1名ずつおりまして、妃音様付のエージェントのマネージャーを任命するに当たりまして、妃音様のご意向をと思いまして」
アタシのマネージャー、か。
イマイチピンと来ないケド。
まだ分かってない。
てか、神楽とか如月じゃないの?
「ワタシも皇妃も皇大王様も朱雀も神楽をと思っているのだが、どうかな?」
↑↓↑↓???!!!
心臓がぎゅぅいんってものすごいスピードで動いた気がした。
神楽がマネージャー???
だよね、普通に考えて。
でも、アタシは思わず黙り込んでしまった。
アタシのまさかの反応に困惑するお父様とboss。
「すぐに返事は求めないよ。その為にわざわざ食事前に呼び出した。ゆっくり考えて構わない」
ちょっと動揺させちゃってる。
「妃音様がこちらの生活に慣れました頃に御披露目を予定しております。ソレまでにで結構で御座います」
bossにも若干の戸惑い。
『分かりました』
ただそれだけ答えて部屋を出た。
部屋を出ると神楽が直立で待ってくれていた。
思わず過剰反射。
「お疲れ様で御座いました」
神楽の顔が見れない。
深くアタマを下げる神楽の前を黙ってスルーし、すれ違いざまにボソッと呟いた。
『食事要らない。少し寝かせて』
1人になりたかったダケなんだけどね。
「かしこまりました」
神楽は至ってフツーの反応だった。
さしずめ“疲れてるから寝たい”とでも思ってるんだろう。
「お飲物はいかがですか?」
後ろから声がする。
飲み物か・・・・・。
『コーヒー』
背中を向けたままで。
「かしこまりました。お持ち致します」
神楽の足音が遠くなっていった。
こんな時でも神楽のコーヒーは求めちゃうのね。
ホント、単純なアタシ。
部屋に戻るとモニターにbossがいた。
「御加減が優れませんか?お食事なさらないとか」
心配してくれてんのね。
ソファーに座り、大きくため息をついて。
『大丈夫。さっきはあぁ言っちゃったケド急に疲れちゃった。ちょっと休みたいだけ。ありがとう』
笑顔もどことなく引きつってしまっている。
「かしこまりました」
「失礼致します」
神楽だ。
ん?bossが消えない。
『ありがとう』
相変わらずのイイ匂い。
「お目覚めになりましたらお呼び下さいませ。失礼致しました」
コーヒーを置いて神楽は出て行った。
そうだよね、ココではもう視界にはいなくてもいいんだもんね。
もう誰に狙われるコトもないんだもんね。
そっかぁぁぁ。
ちょっとした解放感。
あっ、boss!!
モニターにまだbossがいたのを忘れてた。
「差し出がましいかとは存じますが」
言い出しにくそうな話しぶりのboss。
『ん?』
コーヒーを口にしながら反応。
「ワタクシの勘違いでしたら大変不敬なお話なのですが」
ヤケに言い渋るなぁ。
「もしかしたら妃音様は神楽に、エージェントとしてではない個人的な好意がおありですか?」
!?↑←↓→???
はぃ?????
飲みかけていたコーヒーで軽くむせた。
吹き出さないだけ良かったけど。
「妃音様!?」
モニター越しにうろたえている。
咳き込みながらも右手を軽く上げて大丈夫アピール。
「失礼致しました!!」
うぅおっ!bossが現れた!
緊急時はbossとかならモニターからその会話先の相手の元に移動出来るらしいのだ。
昨夜部屋に入った時に軽く説明を受けた。
『ごめんなさい。ちょっと驚いちゃったダケ。まさかbossがそんなコトを言うなんて思わなくて』
息を調えながら。
「以前の妃音様の御様子や先程の反応から推察申し上げたダケの、言わば勘に過ぎないのですが、いささか気になりまして」
以前の様子???
何にしても少なくとも今のアタシは動揺しまくり。
『わかんない』
うつむいて答えた。
何故かアタシはbossに打ち明けていた。
今までまともに人を好きになったコトがないコト、そんな中で四六時中親以外の異性と生活を共にして何度か勘違いしてしまったコト、如月にではなく神楽に対しての勘違いの方が多かったコトを。
何でアタシbossにこんなコトを話してんだろう。
そう思いながらも話し続けていた。
「ワタクシ如きにお話し頂きまして誠に畏れ多いコトに御座います」
bossは微笑みながら言った。
「何に致しましてもワタクシ共が一様に神楽を推しておりますのは、何より神楽が誰の目にも適任だからに御座います」
適任・・・・・、ねぇ。
そりゃあその為にパーフェクトを維持し続けてきたくらいですからねぇ。
「僭越ながらRCSの最高責任者のワタクシのすぐ下は、皇王様のマネージャーになります」
ん?
いきなり何の話??
「マネージャーはどなた様のマネージャーであろうとも実際は同等にワタクシのすぐ下の扱いなのですが、国民やRCS内の注目度はどうしても後継者様のマネージャーが一番になってしまいます」
ほぉ。
黙って聞きながらもコーヒーをちょくちょく飲む。
「その注目度の1つに、後継者様に仕えると言うコトはいずれ来る、将来のパートナーを見極める役目も発生してくると言うモノがあります」
ぶぅぅぅ→→→→→
今度こそハデに吹き出した。
しかも華麗に。
その様子にbossは含み笑いをしながら対応してくれた。
『ごめんなさい!』
アタシがうろたえる。
「やはり妃音様は神楽がお好きなんですね」
『なっっっっっ!!!』
顔から火が出そう。
「通常、一度マネージャーになりますと以前も申しましたが、月に一度の試験に落ちてしまうか自ら退官を申し出るか、仕えている御方から解官を下されない限りは一生同じ御方にお仕え致します」
一生・・・・・。
一生エージェントって。
ヤバい泣きそうだ。
「妃音様?」
またしても含み笑いのboss。
『神楽は?』
声がかすれてる。
『神楽がソレが本望なら』
ソレしか言えなかった。
みんなが神楽を推していて、神楽もソレを望んでいるのならアタシはソレに従うよ。
悲壮感爆裂。
「妃音様は恐らく何かを勘違いなされておられます」
ん???
何と!?
「御自身のお気持ちがわからないまま承認したくないと仰せであれば、お気持ちがわかるまでお待ち申し上げます」
bossが神憑って見えた。
『神楽がイイならイイよ。神楽に確認して』
悲壮感と、喪失感のダブルパンチだった。
「かしこまりました」
何かもう、ヤケだった。
どうにでもしてくれって。
bossがいなくなったと思ったら今度は如月が現れた。
「おはようございます妃音様」
『おはよう。ゆっくりさせてよ、1人になりたいんだから』
かなりやる気なく。
「申し訳ありません。お食事を摂られていないと伺いまして」
さすがの如月も困惑。
『ありがとう、ゴメンね。大丈夫』
でも笑顔にはなれなかった。
グダグダで答えた。
「かしこまりました。何か御座いましたらすぐにお申し付け下さいませ」
如月が消え、ようやく1人きりになれた。
・・・・・、
ふぅぅぅぅぅ。
“妃音様がいてチーフがいてワタクシがいる。こんな最強な組み合わせ、他にないと思います”
あの頃が無性に懐かしく思えてくる。
右手のリングに目を向けた。
パパママがくれたリング。
同じ手の手首には乃亜とパパママとお揃いのブレスレット。
乃亜、気付いてくれたかなぁ。
気に入ってくれてるかなぁ。
思えば、乃亜とパパママにブレスレットを提案してくれたのも神楽なんだよね。
かゆいところに手が届くオトコ-
アタシだって何日か前までは何の気なくただ漠然と、このまま神楽と如月が仕えてくれるんだろうなって、何も疑わずにいたよ?
神楽に対しての想いが抑えられてるって言うか特に気にしてなかったウチはね。
はぁぁぁぁぁ・・・・・
考えれば考える程ため息が深くなってしまう。
ダメだ、何か弾いて気を紛らわそう。
壁に触れてピアノを出した。
bossとかがPPやモニターから出て来れるのと、この壁からモノが出て来たりするイリュージョンは原理が同じらしい。
何にしても圧巻でしかナイのだけれど。
ピアノを弾いているとお母様がモニターに現れた。
『おはようございますお母様。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした』
朝の挨拶、すっかり忘れてた。
「お疲れなのですから気にせずに。お部屋に伺っても宜しいですか?ピアノを聴かせて下さい」
『ハイどうぞ』
お母様はメチャクチャおしとやかで品が溢れ出るくらいに漂っていて、かつ凛としていて強さもにじみ出ている、尊敬に値する女性。
特に言われてないのに自然と敬語を使わなきゃって、身内なのに気が引き締まる。
皇家の女性はこうできゃいけないんだろなって、素直に思ってしまわざるを得ない女性。
しばらくお母様は何も言わずただアタシのピアノに耳を傾けてくれていた。
「ピアノ、続けていたのですね」
穏やかな雰囲気。
その空間全てが穏やかになる。
『はい。ピアノのお陰で音楽家のご夫婦の家に養女に入るコトが出来ました』
アタシまでつられてお母様の話し方になる。
「朱雀から伺って安心しておりました。とても良くして下さったそうですね」
お母様の表情に安堵感が炸裂していた。
『はい』
ママとはまた違った、母の姿がそこにあった。
お母様がいなくなると今度はお父様がモニターに現れた。
みんな心配してくれてるのね。
精神的なモノなダケに、非常に気まずい。
「ゆっくり休みたいトコロすまないが、ちょっとイイか?」
何だかお父様も含み笑い。
何なんだ???
『はいどうぞ』
お母様との時間のお陰でだいぶ落ち着いては来たけど…。
「失礼するよ。神楽、妃音の部屋にコーヒーを頼む。3つな」
3つ???
しかもこんな時に神楽なんて。
せっかく落ち着いたのにぃぃぃ!!!
んっ?
何かお父様、企んでない?????
お父様の表情がどこかしら不敵な気がした---