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7.満を持して

7.満を持して



 神社を出ると、そのまま大通りの一本脇の道を進み、オフィス街を練り歩いた。

オフィス街とはいえ、個人事業主が経営している小さな会社や飲食店も多く、そこの従業員はもちろん、祭り目当てでやって来た客が道の両側に連なっている。

いつもなら、営業していない飲食店も、この日は稼ぎ時とばかりに、宮出しに合わせて朝の9時前には店を開けていた。


 神輿が出発して間もなく、小暮が二人の子供を連れてやって来た。

青田から祭り袢纏を受け取ると、Tシャツの上から羽織った。

良介は純に身振り手振りで、小暮の子供たちを連れて歩くように頼んだ。

純と優子は、二人の男の子を一人ずつ手をつないで一緒に歩いた。

「お父さんカッコいいね」

純が子供に言うと、子供は恥ずかしそうに頷いた。

「君がお兄ちゃんかな? 名前を教えて」

「拓哉」

「拓哉君か。 弟は?」

「優哉」

「じゃあ、拓哉君に優哉君、今日はお姉ちゃんたちがずっと一緒だかよろしくネ!」


 1時間ほど練り歩くと、運送会社の駐車場で休憩に入った。

お茶やキュウリの一本漬けが振舞われた。

朝から、天気に恵まれたというか、この時間ですでに、30度を超えていた。

名取は、キュウリを両手に持ち、ほおばった。

「キュウリがこんなにうまいと思ったことはないですよ」

「ああ、こういう暑い日はキュウリに限るな」

純と優子も良介たちのそばに来て一緒に振舞いを受けた。

「なんだか、みんな汗臭いというより酒臭いですよ。 また遅くまで飲んでいたんでしょう?」

優子が鼻をつまみながら言うと、純も手を顔の前で仰いで一歩引いた。

「いやあ、遅くまでなんてもんじゃないさ。 2時間くらいしか寝てないよ」

良介は汗を拭いたタオルの臭いを嗅ぎながら答えた。

「大丈夫なの? そんなんで」

「いや、既に1名大丈夫じゃない人がいる」

「そう言えば、井川さんがいないわね」

「そのとおり! まだ会社で転がっているよ」

「あらあら」


 昼前には小林商事の前までやって来た。

会社の前で井川がみんなを出迎えた。

ちょうど、良介たちが神輿を担いでいた。

毎年担いでいる青田と家研がある良介は、神輿のリズムに合わせて上下に体を動かしている。

小暮もまだぎこちないがなんと浅間になっている。

問題は名取だ。

散々大口をたたいた割には泣きそうな顔になっていた。

なまじ背が高いのに加えて、リズム感がないので何度も担ぎ棒に肩を強打されているのだ。

「ほら、名取! ちゃんと頑張れよ。 ミユキちゃんが見てるぞ。」

「えっ! ミユキちゃんですか?」

名取が井川の方を見ると、ミユキとカナエが井川の両側で手を振っていた。

二人とも祭り袢纏を着こんで颯爽としている。

「なんで?」

名取は急にやる気をなくしたが、二人が神輿に近づいてきて名取の前後にいた良介と小暮に代わって名取の前後に付いた。

名取はがぜんやる気を取り戻した。


12時を回ったところで、福本酒店の脇にある公園で2度目の休憩に入った。

純は福本から湿布をもらい、名取の右肩に貼ると、ポ~ンと背中を叩いた。

「最後までしっかりやるんだよ」

「イテテ! 肩より叩かれた背中の方が痛いよ」

「あら、それはごめんあそばせ」

担ぎ手の4人には仕出し弁当が支給されたが、純と優子が作って来た弁当もかなり気合が入っていた。

あらかじめ、小暮の子供たちが来ることを聞いていたので、運動会の時のような豪華な弁当だった。

「よしっ! 日下部、ちょっと袢纏脱げ!」

井川が両手でほっぺたをはたき気合を入れながら言った。

「おっ! 井川さん、やりますか?」

「あたぼうよ! 目の前で神輿を見たら、江戸っ子の血が騒ぐってもんよ」

「江戸っ子って、井川さん横浜生まれですよね」

「そんなことは気にしない!」



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