6.いざ! 宮出し
6.いざ! 宮出し
8時に神社に集合し、9時に神輿が出る予定になっている。
良介たちは集合時間まで少しでも仮眠を取ろうと会社で椅子を並べて横になった。
念のために、全員の携帯電話で7時45分に目覚ましをセットした。
小暮は子供たちを連れてくることになっていたので、カラオケ店から駅に直行し、始発で一旦自宅に戻った。
神輿の出発時間までには何とか間に合うはずだ。
携帯のアラームが一斉に鳴り響き、良介たちは重い瞼を開いて起き上った。
三人で祭り袢纏を羽織って、まだ起きない井川を揺り起こした。
「井川さん、時間ですよ」
井川は眠そうに体を起こした。
「もう集合時間か? 俺は付添だからもうちょっと寝て行くから、お前ら頑張れよ」
井川はそう言うと再びソファに横になった。
「小暮君の子供たちの面倒を見てもらわなくちゃいけないんですから、9時までには来て下さいよ」
良介はそう念を押してから、小暮の袢纏を持ち、青田、名取と神社に向かった。
「井川さん、ちゃんと来ますかねぇ?」
名取が尋ねた。
「さあな」
良介がそう答えると、名取は心配そうに聞き返した。
「井川さんが来なかったら、小暮さんのお子さんどうするんですか?」
「ああ、それならちゃんと手を打ってあるから大丈夫」
「どういうことですか?」
「柳さんと笠原さんも来るから」
「そうなんですか?」
神社に着くと、さっそく青田が福本と一通り打ち合わせをして良介たちのところへ戻って来た。
良介たちは、後ろの左手を交代で担ぐことになったらしい。
「なんだ、交代で担ぐんですか? じゃあ、楽勝ですね」
神輿の大変さを知らない名取は気楽に構えていた。
「それにしても、この袢纏、結構カッコいいですね」
名取は青田の話もろくに聞かずに、辺りをキョロキョロ見渡している。
誰かを探しているようだった。
「誰か探しているのか?」
良介が聞くと、開き直って答えた。
「カナエちゃんとミユキちゃん… あっ! そう言えば、日下部さん、カラオケの後どこ行ったんですか?」
「どこって… 朝飯食ってたんだ」
「一人で? ですか?」
「カナエちゃんと」
「やっぱりなあ! でも、本当に飯だけですか?」
「あたりまえだよ。 たったの30分で他に何するっていうんだ?」
「まあ、いいや。そういうことにしておきますよ」
そうこうしているうちに、福本が号令をかけた。
担ぎ屋を含めた町会の猛者たちが一斉に神輿の下に入った。
太鼓の音とともに神輿が上がる。
こうやって、担がれた神輿はステージに置いてあったものより何倍も大きく見えた。
太鼓が連打されると、担ぎ手たちは“そいや”と気合を入れ、神社の出口に向かって方向転換を始めた。
何とも勇壮な姿だ。
「日下部さん、僕達も担がなくていいんですか?」
「宮出しは、宮入と同じくらい注目されるんだ。 そういうおいしいところは町会の重鎮や担ぎ屋と呼ばれるプロの担ぎ手が持って行くんだ」
「プロの担ぎ手ですか?」
「ああ、東京にあって、こういうオフィス街では居住者が少なくて人手が足りないからああいう連中を雇って担いでもらうのさ」
「へ~え! じゃあ、僕達も担ぎ屋ですか?」
「バカか! 俺たちはこの町会の会員だろうが」
「でも、住んでないですよ」
「住んでなくても、そこに会社があって町会日も納めてるんだからな」
「ふ~ん…」
そうして、良介、青田、名取は神輿の後ろを歩いて付いて行った。
神社を出るころ、純と優子がやって来た。
「良ちゃ~ん!」
そう叫んで手を振る二人は華やかな浴衣姿だった。