5.前夜祭(その4)
5.前夜祭(その4)
良介は振動しながらずれ動く携帯電話をしばらく眺めながら考え込んでいたが、結局、電話を手に取った。
しかし、電話には出ずにポケットに押し込んだ。
その様子を見ていた青田が良介に声をかけた。
「日下部さん、電話でなくていいんですか?」
「お前、ここに井川さんを呼びたいのか?」
「い、井川さんからだったんですか?」
青田は、遠慮願いたいという意味で手を振った。
何度電話しても良介が出ないので井川はあきらめざるを得なかった。
「おかしいなぁ・・・ みんな帰ったのか? いや、絶対どっかで飲んでるなあ」
もう一度かけようと携帯電話のアドレス帳を開いた。
「おっ!」
井川は、表示された番号をプッシュした。
今度は青田の携帯電話が鳴った。
青田は携帯電話を取り出すと、おもむろに電話に出た。
「この野郎! 俺を置いてどこで遊んでんだ?」
電話の相手は井川だった。
青田は一瞬、「しまった」と思ったが、出てしまった以上、切るわけにも行かず、とうとうカラオケボックスにいることを白状してしまった。
青田は携帯電話をたたんでポケットにしまうと、申し訳なさそうに良介を見た。
「すいません。つい出ちゃいました」
すると、名取が「井川さん、来るんですか?」と尋ね、井川が来ると分かると注文用の内線電話に向かい、「一番高い酒をボトルで入れてください・・・ ええ、もちろん時間も延長です」と店員に告げてニンマリ笑った。
「お前正気か?」
小暮は呆れた顔で良介たちを見た。
「スポンサーが来るんですからいいじゃないですか」
「そういう問題じゃないだろう!」
青田が反論すると、名取は半ばキレ気味に言い返した。
「青田さんはいいですよね。 ミユキちゃんといい感じで。 ボクはもう、飲むしかないですから!」
どうやら、名取はミユキに気があったらしい。
「何を言ってんだか。 お前には女房、子供がいるだろう」
負けじと青田も言い返す。
「へ~! 名取君って結婚してるんだ?」
ミユキとカナエは驚いたように名取を見た。
そんな言いあいをしているうちに、部屋のドアが開いた。
「お前たち、楽しそうだな!」
部屋の中には、『銀座の恋の物語』や『居酒屋』といったオヤジデュエットの定番曲が次々に流れては、井川が二人の女の子を交代で歌わせている。
青田と名取は互いに高級シャンパンをグラスに注ぎながら、ふてくされていた。
良介と小暮は「やれやれ」といった感じで二人の愚痴を聞いては苦笑いするしかなかった。
時計を見ると、既に朝の5時を回っていた。
「そろそろ、お開きにしよう」
そう言って良介は伝票を手にした。
「払っとくから先に帰ってていいよ」
良介はカウンターで清算しながら、みんなを見送った。
「ご馳走様でした」
そう言って、次々とみんな店を出て行った。
最後にカナエが良介の後ろを通り過ぎようとした時、良介はカナエの手を取って引っ張った。
「朝メシ食っていこう!」