3.前夜祭(その2)
3.前夜祭(その2)
会社から神社へ向かう間中、どこもかしこも祭り一色といった雰囲気で、商店会では小さな縁日のような催しものを行っている。
出店も結構な数が立ち並んでいる。
神輿が出る明日の本番はこの辺りは歩行者天国になるということもあって、地元以外からでも多くの商売人が集まっているようだ。
名取は、歩く間中、キョロキョロとあちこち眺めては、ナニが旨そうだの、これを食ってみたいだのひっきりなしに足を止めようとする。
小暮は、とっとと顔だけ出して早く帰るつもりだったので、「日下部さんが待ってるから早く行くぞ」とせき立てる。
神社に着くと、早くも祭り袢纏を着た地元の人たちが酒を酌み交わして盛り上がっている。
「小暮さん、あそこにいるのって喫茶店のアルバイトの子じゃないですか?」
名取が指す方には確かに見覚えのある若い女の子が親父たちに混じって缶ビールを飲んでいた。
「日下部さんはどこにいるんですかねぇ」
「ちょっと電話してみるか・・・」
小暮が携帯電話を開いた途端、どこからか良介の声がした。
「お~い、こっちだよ~」
神輿を飾っている舞台の方で良介が手を振っていた。
小暮と名取が日下部のそばに行くと、青田と井川も一緒に飲んでいた。
小暮は、一瞬「まいったなあ」と思ったものの、この時点で家に帰るのはあきらめた方がいいと覚悟を決めた。
名取はいつもの調子で、缶ビールを受け取ると、一気に飲み干し、焼酎の一升瓶に手を伸ばした。
そして、焼酎を飲んでいた井川にかなり濃い水割りを作って手渡し、自分はもう1本缶ビールに手を伸ばした。
「おまえ、これ、濃すぎだよ」
「いいじゃないですか。 どうせ一升くらい飲んじゃうんでしょう? 濃くても薄くてもアルコールの量は一緒じゃないですか?」
「まあ、確かにそうだが・・・ こいつにはいつも騙されたような気がするんだよな」
「それより、日下部さん、食べ物はないんですか? 腹が減って・・・」
言ってるそばから、名取と小暮の腹の虫が同時になった。
「向こうに握り飯とか、おでんがあるから行ってみな」
そう言って井川が指した方を見ると、さっきの喫茶店のアルバイトがそば屋の女将と一緒に酒や食事を振舞っていた。
「やった!」
そう言うと名取はさっと立ちあがり、駆けていった。
「よっぽど腹が減ってるんだな」
良介が言うと、小暮が笑いながら、否定した。
「確かに腹は減ってますが、あいつの目当ては握り飯じゃなくてあの女の子たちでしょう」
「ああ、なるほど」
小暮も、ある程度、先に腹ごしらえをしたので、本格的に座りこんだ。
覚悟を決めると、朝まででも平気なのは、小林商事ではこの小暮と、良介、青田、若い名取くらいだ。
元々帰るつもりのない井川は、名取に濃い焼酎を飲まされて半ば意識が飛んでいるようだった。
日付が変わるころ、ようやくお開きになったが、井川はすでに泥酔して寝転がっていた。
「じゃあ、井川さんを会社まで運んでもう一杯いくか?」
良介がそう言うと、名取がうれしそうに手を挙げた。
宴会の途中で、良介が女の子たちと、カラオケに行く約束をしていたのを知っていたからだ。
「よし、じゃあ、明日の予行演習だ。 おまえ、井川さんを担いで行け」
「任せて下さい」
名取は、良介の横にいる女の子たちにアピールするように井川を担いで歩きだした。
とりあえず、良介たちと喫茶店のアルバイトの女の子二人は小林商事まで井川を連れていくことにした。
井川を会社の応接室でソファに寝かせると、冷房を入れて部屋を出た。
「さて、カラオケでも行くか」
「待ってました」
良介、名取、小暮、青田の4人と、二人の女の子は駅前のカラオケボックスへ向かって歩き始めた。