2.前夜祭(その1)
2.前夜祭(その1)
祭りの前日、良介と青田は社務所の蔵から神輿を出す手伝いで神社を訪れた。
二人が訪れた時には、既に神輿は出されて担ぎ棒を取り付けているところだった。
「なんか小さくねえか? ここの神輿」
神輿を見た良介はちょっと拍子抜けした。
「あれは子供みこしだよ。 あの奥にあるやつが本神輿」
青田が指した方を見ると、立派な神輿が蔵から出されていた。
「うわ~あ! うちの地元の神輿といい勝負だな」
「そうか、日下部のとこは深川だったな」
良介と青田はしばらく神輿を眺めながら神社内を見て回った。
「やあ、青ちゃん。 毎年、世話になって悪いねぇ」
声を掛けてきたのは福本だった。
良介は福本に挨拶をして神輿のそばへ近づいて行った。
「とんでもありませんよ。 それより、さすがに段取り早いですね」
「そりゃあそうさ。 人数は少なくなったけど、毎年やってるベテランばかりだからね。 それより、今年は小林さんとこは4人出てくれるんだったよね」
「ええ」
「それじゃあ、祭り袢纏を用意しておいたから持って行きな。 明日は会社で着替えてから来るだろう?」
「ありがとうございます」
青田は、3人分の祭り袢纏を受け取ると良介のもとへやって来た。
良介は町会の人たちが手際よく担ぎ棒にさらしをまいていく様子を眺めていた。
「あれ、そば屋のおやじだよな」
「ああ。 ああやってる姿を見ると、店にいるときとは全然違うだろう」
「大したもんだよな。 ところで俺たちは何を手伝えばいいんだ?」
「今夜、神輿を飾る舞台のライトアップ用の照明を取り付けるんだ」
「よしっ! じゃあ、とっととやっちまおうぜ」
良介と青田は脚立に上って、すずらん灯と呼ばれるケーブルに電球が連なった照明を舞台の梁に取り付けていった。
それから、スポット用の投光器を取り付けた。
照明の取り付けが終わるのとほぼ同時に神輿の準備も整った。
「お~い! 神輿を移動するから手伝ってくれ」
そば屋のおやじに声をかけられたので、良介と青田は神輿の移動を手伝った。
神輿が舞台に収まるころには、町会の婦人部の人たちが、差し入れを持ってやって来た。
「青ちゃん、これはもしかして・・・」
「お察しのとおり! これから前夜祭だよ」
良介たちの後ろから、そう答えたのは井川だった。
「井川さん!」
「なにびっくりしてるんだ? 神輿は担がねえけど、こういうのは顔出さなきゃ失礼だろう」
明るいうちから始まった前夜祭は、日が暮れるころになると、だんだん人が集まってきて神社の境内は、さながら季節外れの花見会場のようなにぎわいになった。
「井川さん、これって、何時ころまでやってるんですか?」
「夜中までだよ。 俺らは、毎年、このあと会社に泊って祭りに出るんだよ」
「じゃあ、まだまだ宵の口ですね。 名取と小暮に声を掛けてみますよ」
「おう、呼べ呼べ! あいつらも明日、神輿担ぐんだろう? ガソリンくれてやらなきゃ力も出ないぞ」
名取と小暮は休日出勤で会社に出ていた。
月曜日に客先に届ける企画書をまとめていたのだ。
何とかまとめ終えて、取り急ぎメールを送り終えると名取の携帯が鳴った。
「もしもし・・・」
電話は良介からだった。
良介は二人が会社にいることを知っていて、作業の様子を聞いてきたのだ。
「・・・今終わったところです。 ・・・飯ですか? いいですね。 ・・・神社? わかりました。 ・・・はい、小暮さんも一緒です。 すぐ行きます」
名取は電話を切ると、小暮の方を見た。
「日下部さんから?」
「はい、飯おごってくれるから神社に来いって」
「神社? なんか怪しくねえか?」
「でも、結構楽しそうでしたよ」
「そりゃあ、余計やばいんじゃないの? まあ、いいや。 腹減ったから、取り合えず、顔出そうか」
「はい!」
小暮は嫌な予感がしていたが、名取がソワソワして行きたくて仕方がないようだったのでちょっと顔出して、先に帰るつもりで神社へ向かった。