表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【超短編小説】積ん独

掲載日:2025/12/29

 腹が減ったのでナッツでも摘もうと思っていたが、気づけば川原で石を積んでいた。

 ひとつ積んでは明日の為。

 腹が減っている。

 だがおれは何が食べたいのか分からなかった。


「これから、何を食べよう」

 口に出した自分への問いは靄になって消えた。

 何を食べたいか分からない、それはあまりにも自由だからだ。

 無限にある食事の選択肢。

 天気。気分。予算。

 手間。腹具合。

 その組み合わせで決める?そんなのは無理だ。


「晩ごはんは何が食べた?」

 妻(或は母、若しくは自身)の問いに四苦八苦しながら答える。

 生きているだけで苦しみが積み上がる。

 ひとつ積んでは明日の為。

 選択肢をくれ。おれにはメニューが必要だ。

 世界は広過ぎる。

 自由は恐ろし過ぎる。


 ひとりキッチンに立ち、プロテインを溶かした牛乳を振りながらブロッコリーと鶏肉を蒸す。

 ひとつ積んでは明日の為。

 またひとつ積み上がる苦しみ。

 ふたつ積んでは誰の為?


 明日の晩は何を食べようかな。

「寿司?ステーキ?」

 予算オーバーだよ。

「仏跳牆?ビリヤニ?」

 手間が過ぎる。

「鍋?素麺?カレー?うどん?何がいいの?何が食べたいの?どうしたいの?どう生きたいの?」

 知るかよ、そんなこと。

 


 目を覚ます。

 自分の声で起きたのか、自分の歯軋りで起きたのかも分からない。

 おれは川原で石を積んでいた訳でもないし、キッチンでプロテインを飲みながらブロッコリーを蒸していた訳でもない。

 背中をシーツから引き剥がす。

 部屋に溶ける影を引き摺って便器に流し込むビタミンカラー。

 消えない泡。

 夢幻泡影。

 またひとつ苦しみを積む。糖尿ならそれで構わない。

 結局、昨晩なにを食べたのかも思い出せない。

 鍋に架けたザルには腐ったブロッコリー。朽ち果てた鶏胸肉。コンロの周りに散らばる小石


 蓋をする。

 息を吸う。

 蓋を開ける。

 息を吐く。

 そこには何も無い。洗って乾かしたザルが架けられている。

 金網恢恢疎にして虚無也。


「それは苦痛か?」

 おれの声。

「何でもいい、積んでおけ」

 それもおれ。


 煙草に火をつける。

「セブンスターズ?ショートホープ?」

 咳き込むピース。

 口端にチェリー、それは廃盤。

「何が食べたいの?」

 何が食べたかったのか、それすら分からない。

 何故ならおれには食べる理由が無かったからだ。


 食べたいものが食べられない程に貧しかった訳でも無く、食べたいものが食べられる程に富んでいた訳でも無い。

 そこには絶望や希望が無かった。

 ただ疲労や孤独と言う名前の現実だけがあった。

 鍋の中でおれが訊く。

「何しに産まれたの?」

 理由なんて無いよ。


 あれからずっと探している。

 おれは、どこだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ