5.5話 エマの心境
カミーラが寝た後の、エマの心境です。
2026/5/25 加筆しました。
(今日は、カミーラお嬢様のお誕生日だった。なのに、お嬢様のお誕生日をお祝いする人が私1人しかいないなんて......)
まだ5歳の幼い公爵令嬢の誕生日をたった1人の侍女しか祝わない。ご家族にも他の使用人にも祝ってもらえない。私は、そんな現実が嫌だった。
◇ ◇ ◇
私は、幼い頃から帝国の勇者と英雄の話が大好きだった。人々を守るために戦った強い勇者様と英雄様たちにあこがれていた。
幼い頃の私は、失敗ばかりだった。もっと言えば、何もできなかった。しかし、両親はそんな私を責めたりせず、暖かい愛情で包み込んで私を育ててくれた。「何もできないからって焦る必要はないからな」「エマは自分の好きなことをやればいいの」「どんなことだって応援する」「あなたは私たちの大事な娘なんだから」と。だから、私はここまで大きく元気に育つことができた。
そんな私が、英雄の家系であるクラウディア家の使用人になれたことは、とても嬉しいことだった。だから、一生懸命、公爵家のために働こうと思った。
公爵家には、公爵様と現聖女の公爵夫人、そして2人のご息女がいる。クラウディア公爵家の血を引いているのは公爵夫人だけど、聖女様は神殿での業務もあるから、旦那様(旦那様は公爵家の傍系から婿入りした)が公爵という立場にいる。だから、実際は公爵である旦那様よりも聖女の奥様の方がこの家門での権力はある。
長女のカタリナお嬢様は、わずか1歳半で聖力を発現させ、大きな期待を寄せられていた。明るく親しみやすい性格もあり、公爵家の皆から愛されていた。
一方で、次女のカミーラお嬢様は3歳のお誕生日を過ぎても、聖力を発現させることができなかった。そのせいで、屋敷の全員から虐げられてきた。その結果、カミーラお嬢様は、元の明るい性格ではなくなり、自分の気持ちを押し殺すようになってしまった。そして、お部屋からほとんど出なくなってしまった......
(聖力が発現できないからって、なんなの?子供を虐げていい理由にはならないじゃない)
英雄の家門である、クラウディア家で子供を虐げるなんて信じられなかった。しかも、まだとても幼く可愛い子供を......
何もできなくても愛されてきた私と、聖力が発現しないからと虐げられてきたお嬢様。
(私が両親からもらってきた愛情を、今度は私がお嬢様にあげる番よ!)
だから、私は、カミーラお嬢様の侍女になった。たとえ私が他の使用人の仲間になれなくても......お嬢様と一緒にいることを私が選んだ。
◇ ◇ ◇
ある日、カミーラお嬢様がこんなことを訊いてきた。
「エマ、なんで私の侍女になってくれたの?」
「カミーラお嬢様が可愛いからです」
これは本心だった。実際、カミーラお嬢様は、光り輝く金髪に、アメジストのような美しい紫色の瞳をしている。
しかし、次に放たれた言葉は、幼い子供がとても考えないような、言葉に出さないようなことだった。
「でも、私、いらない子だよ......聖力も発現しない無能な子......」
私は、その言葉を聞いて、悲しくなった。ああ、この屋敷の人たちが、まだ幼く純粋な子供を追い詰めているのだと。
「ご自分をそんな風に言わないでください。聖力が発現しないのは、お嬢様のせいではありません。それに、聖力が発現できないからって、お嬢様が虐げられていい理由になりません」
そう、聖力が発現しないのは、決してお嬢様のせいではない。誰のせいでもないのだ。(もし本当に誰かが悪いというならば、それはカミーラお嬢様に聖力を与えなかった女神様だろう。)それを責めるということが間違っているということに、なぜ誰も気付かないのだろうか。いや、気付いているのかもしれない。しかし、それに気付かないふりをして、カミーラお嬢様への仕打ちを見て見ぬふりをしているのかもしれない。
「でも、私の侍女になったせいで、エマはみんなから無視されてる......」
自分のことよりも、ただの侍女に過ぎない私のことも心配してくれている。なんて心優しいのだろう。しかし、両親の愛を受け取って育つべき歳の子が、大人の顔色を窺う言葉に、胸が痛んだ。
「そんなことどうでもいいんです。私はかわいいお嬢様のお世話をできるだけで幸せなんです。何たって、私はカミーラお嬢様のことが大好きですから」
泣いてはダメだ。泣いてしまえば、お嬢様を傷付けてしまうかもしれない。笑うのよエマ。
「!私もエマのこと大好き!!」
幸い、お嬢様は笑顔になって、私に抱き着いてくれた。
その日から、お嬢様は私に以前よりも、親しく接してくれるようになった。
◇ ◇ ◇
あの日、私は、この尊い小さな生命を守ると再び心に誓ったのだった。
「私が大好きなお嬢様にたくさんの愛情を注いで、しっかり育てあげます。そして、守ってみせます。」
私は、そう小さく呟いた。




